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ランナー

 皇居。

 観光で訪れる人もいれば、健康のため周りをランニングをしている人も多い。

 皇居周辺は、一周五キロ程度で、信号もなく心地よく走れる空間だ。

 勤務場所が皇居に近ければ、会社支給の定期券などを利用して行き来できることを利用し、近辺に住む人だけではなく、勤務地が近い人も走るらしい。

 彼も仕事を終え、一旦家に戻ると着替えてから皇居にやってきた。

 軽くストレッチを終えると、いつものように走り出した。

 ただ、普段と違ったのは時間が遅かったことだった。

 一時間ちょっとかけて、二周ほど走るのだが、一周目こそ人がいたが、二周目に入ってきたらぱったり人がいなくなった。

 これはこれで静かでいい、彼はそう思っていた。

 並走している道路を走る車も、やけに少ない。

 遅い時間帯といっても深夜ではない。

 走っているうちに少し、焦りと不安を感じ始めていた。

 皇居側で何かが光った。

 気のせいかもしれないが……

 今日は何か違う。

 その違和感が、彼を一層注意深くさせ、普段と違う事に気づかせてしまう。

 普段は注意もしない、皇居側の森を見つめていると、何か大型の動物が動いた。

「!」

 まさか熊?

 ここは東京、それもど真ん中だぞ。

 彼は目を見開いて立ち止まる。

 森の中で蠢くもの。

 恐怖で飛び去る鳥たち。

 いる。それは間違いない。

 広い範囲が見えるよう、彼は少し場所を変える。

 ここならお堀があるから襲われはしまい。

 そんな考えからスマホを取り出し、動画撮影を始めた。

 画面を見つめる限り、暗く何も映っていないように見える。

 彼は見ている方向にスマホを向けながらも肉眼で、森を見つめる。

「あれか……」

 熊ではない。

 人だ、人なら別に不審なことは……

 いや、こんな時間に、作業でもないのにあんなところに人がいるのは『まとも』な話なのだろうか。明かりも持っていない。

 暗闇の中、なんの装備もなく彷徨く人間。

 皇居で何者かが徘徊しているなら、通報するべきでは?

 スマホで動画を撮るのを止め、慌てて電話をかけた。

 目で見えているのだ、何かスマホにも映像として残っているはずだ。

 彼は警察に不審なものが皇居を彷徨っていることを通報した。




柴田(しばた)さん、部長がお呼びです」

「えっ、部長どこにいるの?」

「なんか最近会議室にいるの知りません?」

 柴田は首を傾げながら、部長がこもっている会議室へ向かった。

 ノックをして名前を告げると、大きな声で『入れ入れ』と聞こえてきた。

 柴田が入ると、部長はすぐに話し始めた。

「最近、深夜、皇居で徘徊者がいるとの通報が相次いでいる」

「皇居…… ですか?」

「宮内庁にいくら言っても調べは進まないから、お前が数名連れて行って現場で指揮をとれ」

「はぁ?」

 簡単なメモ書き一枚を渡され、柴田は会議室を出た。

 これだけの情報でなんとかなるのだろうか。

 宮内庁の担当に連絡すると、直接来てくれという。

 柴田はそのまま皇居まで連れて行かれた。

 宮内庁の担当と、皇居の中の建物に入る。

 小さな会議室で、宮内庁側の担当が口を開いた。

「動画、見てます?」

「なんの動画ですか?」

「SNSで噂になってる『皇居で怪人徘徊』ってやつですよ」

 宮内庁の担当は素早くタブレットを操作して、その場で動画を再生した。

 暗くてはっきりとは動いていないが、お堀越しに見える皇居の木々の中を人型のものが動いているのが見える。

「この当時は怪人ってことになってましたが、最近は塹壕ゾンビとか言われてて」

「『塹壕ゾンビ』ですか」

 皇居ゾンビならストレートでわかりやすいのに、なぜ『塹壕』なんだろうか。

「なんか、この映像に堀のようなものが見えるというんですね。皇居で防空壕を作っていた記録はありますが、実際の戦闘があったわけではないので、塹壕を掘る必要はなかったかと思います。それと本当に空爆が激しかった時、陛下は赤坂御所に作った防空壕にいらっしゃったんですから……」

 柴田はタブレットを操作して繰り返し映像を見ている。

「ただ、この映像からするとはっきりと窪みのようなところから這い上がってきてますからね。塹壕という表現もあながち嘘ではないかと」

「まあ、呼び方はどうでもいいですが」

「そうですね。我々としては、これが本当に『ゾンビ』なのか、確認していただきたいのです」

 急に紙の地図を広げた。

 そこにはいくつか、赤いペンでマークが書かれていた。

「この丸がその目撃映像のあたりという訳ですか」

「ええ。複数人で確認しましたから場所は間違いないです」

「宮内庁では確認しないのですか?」

 急に手を振って否定した。

「いえ確認してますよ。いくつか監視カメラがありますから映っていないか確認しています」

 柴田は地図上のマークを指さすと言った。

「この近辺にもあるのですか?」

「カメラはこの記号で示しています」

「……」

 柴田は思った。

 話にならない。

 カメラと出現が確認された場所は大きく離れている。流石にこの位置のカメラで捉えることはできないだろう。

 皇居の外側から取っているカメラもあったようだが、お堀を中心にしてしまっている為、そちらの方も映っていなかったそうだ。

「で、現場には?」

「万一、遭遇してしまった場合、宮内庁のものでは応対ができません」

 いや、そうかもしれないが、現場を見ていないというのは、警察からすれば何もしていないのと同じだ。

「そこから警視庁(こっち)にやれと」

「やれなどと言ってません。ご協力いただきたいと申し上げているのです」

 同じことだ。

 柴田はそう思ったが口にはしなかった。

「わかりました。皇居(ここ)、すぐに入れるのですか?」

「明日から陛下が被災地のご訪問を始めますので、明日から三日間は入れます」

 柴田は立ち上がると、都内の警察官から選りすぐった三名を集めた。

 さらに宮内庁と話を進めていくと、どうやらこの三日三晩は連続して見張れということのようだった。

 現状、昼間の目撃情報はないため、昼は皇居ないの施設を借りて仮眠をとり、夜の探査を主として行う計画を立てた。




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