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聖女じゃなくても、やる事を選ぶ仕事

 天樹が在った空間から出て、バイクに乗り、一度ドラクロワ帝国の離宮に戻った。今後の方針決めも有るが、邪魔な用事が発生していないかも確認しておかないといけない。離宮内を探し回って、昨夜の司祭の小父さんを捕まえて、色々と尋ねた。

 今後の予定は無し。教皇も『聖女の名を騙った汚職事件』で頭が一杯らしく、こっちにまで気が回らない状況だそうだ。

 一番面倒な教皇がこちらを気に掛けられる状況じゃない。ならば、今動くのが良いだろう。

 小父さんと別れて臨時自室に戻る。昨日と同じく、カートに軽食が置いて在った。有り難く頂きつつ、今後の予定を立てる。

 教皇の目がこちらに向く前に片付けるのが良いよね? 面倒だし。色々と言われても、『御告げの夢を見て行動しました』で押し切ろう。教皇は話せば解る爺さんだから、事実を話せば納得はするだろう。小言は貰うだろうが。

「う~ん。……書き置きだけ残して行けばいいか」

 唸って少し考えた結果、室内を漁って紙とペンとインクを探し出し、

『数百年前に魔王を封じた聖女からの夢の御告げで、魔王が自分を狙っている。理由は自分を聖女として認識しているから』

 こんな風に簡単なでっち上げ話を紙に書き連ねて行く。

 そして最後に、

『御告げで目覚めかけの魔王がいる場所も教えて貰った。どうやら自分を殺しに来る模様。大人しく殺される気は無いので単身で倒しに行く。終わったら教皇に直接報告に出向く』

 と、書き加える。

 風の魔法でインクを乾かし、カートの上に目立つように乗せる。

「……行くか」

 ここで他にやる事は無い。再びこっそりと離宮を出て、再びバイクで空に舞い上がった。



 結果から言うと、ルーノのお蔭でそれらしい奴は簡単に見つかった。辺鄙な岩だらけの荒野にいたよ。半死半生状態で見つかったので正直に驚いた。

 ……見つかったが、当然のように戦闘になった(襲い掛かって来た)。ジャコポから受け取った剣を持っていたのが原因だ。何故その剣を持っているみたいな事を言ったし。

 この半死半生の白髪の壮年の男が、前管理化身で選定の儀を行おうとしている奴だった。だが、本当に半死半生状態なのかと疑う程に、意外と強い。

 思い出したくも無いが、長年探しているあの男――『ヴェーダ』との戦闘を嫌でも思い出してしまう。それ程に強い。ここまで強い奴は魔族の王か、神々以外には滅多にいない。

 でも、やっぱり死に掛けだからか、防戦にはならない。

 最初こそ、強力な魔法攻撃を放って来たが時間が経つに従い、その威力は落ちて行く。余裕が出て来ると、試したい事が頭に浮かんで来る。

 攻撃魔法で撃ち落としつつ、宝物庫から別の剣を手元に召喚する。手元に召喚したのは万刃五剣だ。障壁を展開して身を守りつつ、五組の剣の内の一振りの剣の柄を握り、目の前の男を見据えて、剣の機能を使う為に起動させる。

「魂魄構成情報、解析開始」

 障壁を解除、剣の柄を両手で握り、正眼に構えて斬り掛かる。

「ぎぃあっ!?」

 魔法を剣の腹で弾いて逆袈裟に斬り掛かれば、切っ先が後ろに跳び退った男の肩先を掠めた。傷は浅い筈なのに、重傷を負ったかのような声が男の口から漏れる。手首を返してそのまま追い縋るように斬り掛かる。

 魔力切れが原因か?

 連続攻撃を続けると、男の回避の足が徐々に覚束無くなって来た。刺突で右肩を抉れば、男は肩を抑えて尻餅を着いた。動けないように首から下を氷漬けにして拘束する。

「へぇ、半死半生どころか、体の殆どを生体ゴーレムに置き換えていたのね。あんたの名前は、ノーランね」

 剣の切っ先に付着した男の血を眺めながら、解析して得られた情報の一部を口にする。すると男――ノーランは驚愕で目を見開いた。拘束から抜け出そうと藻掻いていた動きも止まる。

「何故……俺の名を知っている!?」

 ノーランはお決まりの台詞を言ったが、解析結果を吟味していた自分はスルーした。

 無視されたと気づいたノーランはギャンギャンと騒ぎ始めた。余りにも煩かったので雷撃を浴びせて黙らせる。

 一度息を深く吐き、再び解析結果の吟味に戻る。

 万刃五剣の機能の一つに『斬った対象の情報の読み取り』と言うものが有る。この機能を使って、今回はノーランの情報の読み取りを行った。

 読み取りの結果得られた事は次の通り。


・名前。

 これは、ノーランである。

・肉体状態。

 生体ゴーレムを使い、肉体の欠損部位を補っていた。欠損部位が肉体の七割にも及んでいる。どうやってこの状態に持って行ったのか気になるが、そこから先は記憶を見る必要が有るので、今回はここまで。

・肉体に掛かっていた術式。

 現状最も分からないのがコレ。文字にも模様のようにも見える謎の術式。霊視を用いてもしても解析不可能。


 万刃五剣で最も利用する機能は、二つ目の『肉体に関わる状態の解析』だ。ドラゴンを始めとした大型で強大な魔物の急所を知る為に万刃五剣を使用する事は多かった。また、急所以外にも、外見の変化から能力変化の詳細を知る事も出来る。

 今回、得られた情報から注視するものは三つ目。

 以前にも一度だけ、霊視を使っても読み取れない術式と遭遇した。あの男の術式と似ている訳では無いが、何故か連想させた。

「……ヴェーダ」

 探しているあの男。全ての始まり。旅を続ける唯一の目的。

「貴様、何故、あいつらの事を知っている?」

 無意識に零れた単語に、何故かノーランが反応した。

「? あいつらってどう言う事? ヴェーダって個人名じゃないの?」

 気になる文言が有ったので視線をノーランに向けて尋ねる。するとノーランは心底怪訝そうな顔をした。

「ヴェーダは個人名では無い。審判者で構成される、五大派閥が一つ『緑のヴェーダ』だ」

 ノーランの言葉を聞き、ヴェーダの名を知ったあの時の記憶を探る。

『やはり、我がヴェーダの術理は読み解けなかったか』

「あの金髪赤目の男が『我が』って言っていたから、個人名だと思っていた」

「金髪赤目。同情してやる。愉快犯共の中でも、三指に入る『至高の神』を自称した男に会ったのか」

 運が無いなと、憐憫に満ちた視線を貰う。

「お前、あの男を知っているの?」

「これ以上教えてやる義理は無い。知りたくば、俺の問いにも答えろ。何故、あいつらの事を知っている?」

 少々殺気立ちながら、ノーランの首を掴む。しかし、首を掴まれているノーランは『己を殺せない』と確信を得たのか、飄々とした態度を取り始めた。

 少しの間、目を閉じて考える。

 こいつは貴重な情報源だ。今殺すのは不味い。教えるべきか。知る対価ならば釣り合うか。

「あの男に、終わりの見えない転生の術を掛けられた。転生の旅が続く中で霊力にも目覚めた」

「……そいつはとんだ災難だったな。彼方此方で奇天烈奇妙な実験を繰り返しているとは聞いていたが、よりにもよって転生と霊力絡みか」

「答えなさい。何を知っているの?」

「話すと長いが、結論から言ってやる。転生の術は俺も知らん。霊力もな。解除の術式は存在するだろうが、回数制限が無いのなら、魂が擦り切れるまで続く筈だ。だが、見たところお前はその様子が見られんな」

「昔に女神にも聞いたけど、本当に解除方法が無いのね」

「曲がりなりにも複数の審判者が知恵を出し合って創り出した術式だ。一介の神に分かる訳が無かろう」

 にべも無い回答に思わず舌打ちをするが、他にも聞く事が山のように有る。

「何でお前は色々と知っているの?」

「はっ、教えて貰えると思ったのか?」

 問えば予想通りの返答が返って来た。鼻で笑われたので、躊躇いは無くなった。

「そう。……なら、強制的に搾り取っても問題は無いわね」

「あ? どう言う意味だ」

 ノーランの首を掴んでいた手を放してやれやれと肩を竦める。一方、首を解放されたノーランは飄々とした態度を崩して訝しむ。

 元よりジャコポからこいつの抹殺を頼まれていた。そのついでに、ちょっとばかし拷問紛いな事をやっても問題は無いだろう。元々殺す気で来たからね。

 心の中で言い訳をつらつらと並べ、宝物庫からこれから行使する魔法に必要な道具一式を取り出す。まぁ、道具と言っても、紙とペンと黒インク、十センチ四方の特殊加工した数個の半透明な立方体の鉱石だけど。

 この鉱石は技術を注ぎ込んで創り上げた『記録石』と言う特殊な鉱石で、その名の通りの性質を持つ。

 地球のパソコンで例えるのならば、外付けハードディスクか、USBメモリーなどの外付けの外部記録装置だろうか。

 ただし、この記録石で記録可能なものは『記憶や映像』の二種だ。

 ……ここまで上げれば、これから何を行うか解るだろうか。

 記録石の中で容量が空っぽのものを一つ選び、耳栓をしてからノーランの頭を鷲掴みにする。

「さて、喋るのを嫌がったんだから、相応に覚悟して貰いましょうか」

「っ!? ま、待て――」

 ノーランは何かに気づいたようだが、もう遅い。

 魔法を発動させた直後、ノーランの断末魔の絶叫が木霊した。



 魔法を使って、ノーランの頭と魂に直接干渉し、ノーランが持つ全ての記憶のコピーを記録石に移した。

 元々半死半生だったからか、コピーが完了すると、ノーランは呆気無く廃人と化した。首から下を氷漬けのままにして置かなければ、変な言動を取る不審者としてうろつく事になっただろう。

 ジャコポから受け取った剣でノーランの首を斬り落とし、氷結を解除してから、全身を炎の魔法で焼き、灰にする。

 雲散霧消と言う塵にする魔法も在るが、『魔王を排除した証拠』が欲しかったので、骨が残らないように徹底的に燃やして灰にした。

 聖女に斃された魔王の遺灰。

 文言にするとちょっと邪悪なものに見えるが、鑑定しても完全に無害と表示されている。水気の無い適当な蓋付きの容器(陶器)に燃え残りの少量の灰を入れる。風の魔法を使って手で掬えなかった分も回収する。紙に『魔王の遺灰』と書いて蓋で挟む。

「よし。帰るか」

 周囲を見回す。戦闘の痕跡は残っているが、ここを通る人間はいないので問題は無い。魔物はいるけど巣穴からは遠い。

 問題が無い事を確認してから、ここへ来た時と同じようにバイクに乗って帰路に着いた。

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