メカナイズド・ハート 99話
今日は眠くない(ガンギマリ)
「よし、次はルーカスの番だよ。」
ベルがヨガの直後のような穏やかで落ち着いた声で、観戦に徹していたルーカスを演習へと誘う。先ほどのベルとエミーの演習を見てすでに敗北を察して戦意などはなく、戦いたくもなかったがいやいや参加する。
別に負けたところで死なずに学べるわけだからむしろ相手の胸を借りるつもりで挑むべきだろう。そうポジティブにとらえるとルーカスはベルの言葉に答える。
「わかった。」
「よし、じゃあ始めよう。」
そのベルの言葉と同時に、ルーカスのコックピット内スクリーンと計器類には大量の情報が表示され、疑似的な戦闘フィールドを形づくる。フィールドの作成には実際に現実にもあるロケーションの情報が利用され、最大限リアルさを保ったまま訓練ができるように作られている。
「とりあえず高度優位を確保するか。」
ルーカスはそう呟くと、機体各部のスラスターと関節を駆動させて機体の首位新方向を変え、自機を緩やかな上昇へと持っていく。ルーカスの機体はスペイン製の主力ポッド【ANGEL(天使)】で、平均的に高い性能と優れたレイアウトとメンテナンスコストを誇る名機だ。
国内外にとどろく高い名声に恥じない優れた機体性能により、ほとんどエネルギーを失うことなく角度を変え、足元に映る金星の重力で後ろ髪をひかれるように引かれてエネルギーを失いながらも高度を上げる。
ピッ ピッ ピッ
レーダーが宙域をスキャンする音が無音のコックピットの中に響く。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
ルーカスは実戦でも経験したことのないほどの不安に襲われ、自らの心臓の音すら聞こえそうに感じる。
ビーッ ビーッ ビーッ
レーダー受信機が警報を発するのとほぼ同時に赤外線カメラでかすかな光を感知する。ルーカス機から見て2時の方向を飛び、それなりに遠く、高度はこちらよりも低い。ルーカスはエネルギー消費を抑えるために機体をゆっくりと旋回させながら、ヘルメットのヘッドマウンテッドディスプレイに赤外線映像を表示させて下方を飛ぶベル機の動向をじっくりと観察する。
ベル機は、ルーカス機の存在を気にも留めずに堂々と直線的に飛んでいる。その飛びっぷりはまるで、ベル本人の自由気ままさと巨大な自肯定感によって支えられているように見える。
「こっちに気が付いているな。」
ルーカスはつぶやきつつも、超遠距離から120mm砲の照準を付ける。腕部に懸架された120mm砲はヘッドマウントディスプレイが提供する赤外線照準機能と合わせて、水平飛行を続けながら真下への攻撃を可能にする。
ビーーーッ ビッ
赤外線ロックが十分に確保されたことを確信すると、ルーカスは躊躇なく引き金を引く。
発砲
ルーカスが引き金を引いたことで放たれた120mm砲弾は、きれいな軌道を描きながら飛んでいきベル機の将来位置に吸い込まれるように飛んでいく。
しかし、命中の数秒前にベル機が緩い旋回を行い数度程度の飛行角度の変更だけで砲弾を全て回避する。
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