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メカナイズド・ハート 9話

※本作ではたびたび人種、宗教に対して侮辱的な表現や内容が含まれますが作者はその一切を非難します。

※本作にはたびたび様々な固有名詞がでできますが、それらは全て架空のものです。


トタン板か何かでできた安物ドア越しに声が聞こえて来る。

やたら音が小さく、もし工廠内でフォークリフトや燃料車、クレーンが稼働していたらドアに耳をつけても聞こえなかっただろう。


ボソボソ


ボソボソ


あまりにも不自然なため右手を伸ばしエミーに合図を送る。

一瞬不思議そうな顔をしたが、同じく声を聞きつけて目元が鋭くなり閉じていた口元がうっすらと緩む。


数ヶ月ぶりに見たあの微笑みだが、今はその妖艶さに気を取られてはいけない。


「ええ、何卒よろしくお願いします。特に第一工廠の躍進が凄まじくて、元軍人の雑な仕事と馬鹿にすることもできません。」


どうやら競争関係にある他工廠について話しているようだ。

話相手はわからないが、少なくとも立場は上の相手のようだ。


「それに第二工廠の黒人共もかなりビジネスが上手いようで、ええ。ハイ、そのように便宜を測っていただきたく、ええ。お願いします、お礼はもちろんさせていただきます。」


随分とかしこまっている。

エミーと顔をくっつけて小さい声で話す。


「あまりクリーンな話では無さそうね。」

「ね、賄賂でも送って商談をまとめようとしてるのかな?」

あまりにも小さい声で話し合うため、エミーが何と言っているのか半分程度しか聞こえない。

残りは音の切れ端からの予測だ。


天井からぶら下がり、壁面の隅にひっついている小部屋からまだ音が漏れ出る。


「ええ、そのようにしていただけると幸いです。お礼についてですが・・・。ええっ!!いつもの2倍ですか?困りますよ、こちらだってインフレで厳しんです。」

工廠長は驚き甲高い声をあげてしまう。


「インフレ率は2倍も行っていないじゃないですか。えっ!?リスクは最初から折り込み済みでしょう!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ。途中で切るだなんてっ


ツー ツー ツー


ハア!?まったく。」

工廠長は抑えていた声を通常のボリュームに戻して取引相手の事をブツクサと非難する。


「そもそもアイツら軍人がウチを軍需工場にさせたんだ、まともに船を守れずインフレと飢餓を起こすのならせめて黒字を出させてくれよ。」


ブツブツ


「作業員と俺に兵隊の階級だけ寄越しやがって、民間時代よりやりにくくなっているじゃないか。」


そんな声もだんだん聞こえなくなっていく。

グランドフロアの機械たちが騒音を立て始めたのだ。

作業員の交代時間が終わったのだろう。


そっとエミーを見る。

彼女も入り込むタイミングを見失ったようでこちらを微妙な顔で見ている。


「どうする?」

「なんとかするしかないよね。」

ヒソヒソと小さな声で相談しているとエミーが何かに気づいたようだ。


「マジで言ってる?」

「これしかないから。」

「いや、絶対何かあるって。」

彼女はドア枠の右下にある小さな通風口のネジにナイフを当て、緩ませる。

彼女は通風口を固定する四隅のネジを外す際に緩ませすぎないようにする。


通風口の蓋が落ちてしまうと大きな音が出るからだ。


「本当にやる気?工廠長が書類を持っているとは限らないのに。」

「他作業員が誰も知らないんだから工廠長以外有り得ないじゃない。大丈夫、見つからなければ良いだけなんだから。」

そういう時に限って失敗する物だと思うのだけど。


「ふっ!!」

掛け声と共に彼女は一気に腕上半身を手すりの下から伸ばし右手を通気口があった空間に伸ばす。


ほぼ無音で彼女の右手はその空間を掴む。

次に左手、そして肩と頭を突っ込む。


彼女の体は肩甲骨から上は既に空間の向かい側だ。

しかしお尻はこちら側にあった。

彼女の命令どうりに足を掴み押し込むことで手伝う。


するとどうだ?

彼女のお尻は窮屈穴を通り抜けることに四苦八苦し、彼女の魅力的な尻は淫靡な形に変形する。


端的に言ってエロい。

だが気にせず、いや気にした素振りを見せずエミーのケツをむんずと掴み押し込む。


ムニュ〜


エミーはお尻と足を押し込まれると匍匐前進をする。

小さな部屋の中央にはデスクと、そのデスクの影に工廠長の体が隠れているが、ハゲ頭は隠れていない。

一瞬見つかったと思ったが、頭は下を向きペンが紙にカリカリと書き続ける音が続くだけ。

冷や汗をかきながらデスクと床の境界線に体をそわせる、工廠長の死角にはまり始めてホッと息をつきたくなる。


だけどまだミッションは完遂されていない。

再び頬に力を入れて気を引き締めて右からデスクに回り込み引き出しを開けて書類を探そうとする。


そんなエミーの姿をドア枠と壁の隙間から見る。


心配だ。


すると工場長が立ち上がる。

慌てて隠れるものの、エミーは間に合わない。

危機一発だ。


コンコン


「む?」

工廠長は予期していない来客に驚く。

「なんだね?」

工廠長の注意が正面のドアに注がれている間にエミーは工廠長のデスク側面下にある小さな空間に隠れる。


「ルーカス・マクワイヤー少尉です。グランドフロアで整備中の機体に問題が発生したため通達しに来ました。ご同行願えますか?」

その言葉を聞いた後工廠長は少し固まる。


チッ

小さく舌打ちをした工廠長はドアに近づき開ける。


「そんな問題だ?少尉。」

「グランドフロアのポッド搬入口でポッド用重量パーツが転倒して負傷者が出てます。」

「くそ!!この忙しい時に。」


ルーカスは適当な嘘を並べて工廠長を連れ出そうとする。


「ご同行願えますか?」

「もちろんだ。」

そうしてエミーと来た道を禿頭のオッサンと一緒に戻る。

最悪のデート相手だ。


「最悪だよ、素人どもめ。」

「工廠長殿は相当ベテランに見えますが?」

「そう見えるか?それは間違いだ、下っ端だった頃が長いだけだ。」

「そうでしたか。ああ、あれを使って現場に向かいましょう。」

そう言って小走りでカートに乗り込み偽の現場に出発する。


「飛ばしますね。」

返事を待たずにカートを最大速度で爆走させる。

なぜか?

それはルーカスの嘘に真実味を持たせるためだ。

緊急事態にチンタラ安全運転では怪しまれてしまう。


しかし、そんな工夫をしても限界がある。

そもそも現場が存在しないのだから。


「ここですね。」

搬入口の少し先の角までカートでくる。

停車させ、工廠長と共に降りる。


「危険ですのでご注意を。」

「わかっている。」

そして搬入口に入る。


「んん?転倒した現場はどこだ?」

工廠長が聞いていた現場は見当たらない。

凄惨な破壊の後の代わりに整備兵たちが汗水垂らして爆音の機械と共に作業をしているだけだ。


「おい少尉どこだ?」

周りを見渡すが彼はいない。


「クソ、騙されたか?」

「工廠長どうしましたか?」

何も知らない整備兵があたりを見回す工廠長に声をかける。


「うるせえ!!」

バシッ


不運な整備兵は顔面に拳をストレートでもらう。


「?」

その様子を見ていた他整備兵は疑問符以上に何も浮かび上がってこない。

「整備兵を全員集合させろ!!侵入者だ。」

「??」

それでもなお理解できない。


「敵が味方のふりをして入り込んだ!!全員集めて確認させろ!!ゲートも閉めて

「ぼやっとしてんじゃね、集合させろ。命令だ、集めろ!!」

「ハッ!!」

ようやく事態を理解した整備兵たちが方々に散って仲間たちを集結させる。


だが、轟音と巨大な敷地は簡単な命令の伝達さえ難しくさせ、全員が集結した時には既に2時間以上経過しており侵入者2人は書類を手にとっとと脱出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


書類を手に取る。

内容は惨憺たる物だ。

あまりの酷さに老人は思わず「神よ・・・。」と声を漏らす。

これほどの惨劇が許されて良いのだろうか?


そう老人は自問自答する。

だが、目を瞑る事も目を背ける事に彼には許されない。

彼は首相だからだ。


「事態を説明してもらえるかな?国防大臣、参謀総長。」

老人は自分の言葉がちゃんと言葉になっているのか確かめてつつ側にいるスーツ姿の中年男性と、壮年に差し掛かった男性に質問する。

中年のマルティン・ロドリゲス国防大臣とエルピディオ・ミニャンブレス参謀総長は共に青い顔をしている。


「敵の攻勢はまず19時45分に主戦域の一つであるグリッド11番E5°ーW10°N30°ーN65°コロニー静止軌道上高度29,131㎞から上下1500㎞の空間で発生しました。投入された戦力は200隻前後の3等戦列艦を中核とした高速戦列艦艦隊と数百隻の輸送船と補助艦艇。」

国防大臣の話を聞いて質問する。


「全面攻勢か?」

そうだろう。この戦線におけるドイツ軍の戦力ほぼ全てを投入している。


「はい。こちらの方が艦艇数で有利に立っているため艦隊を出撃させたのですが。」

「戦列艦48隻を失った上で、複数のコロニーに敵強襲部隊が乗り込む事に成功させてしまったと?」

書類を読み上げて質問する。


「はい・・・。ですが、敵戦列艦71隻を破壊した上でユヴカ1を始めとした主力の駐屯地は無事ですし敵フリゲート艦隊にも打撃を与えました。これで我が国や同盟国の輸送船が攻撃されることは減るでしょう。確かに数個のコロニーを失いましたが肉を切らせて骨を断つと言う言葉もありますし・・・。」

「これは不味いな。」

参謀総長の言葉に思わずそう漏らす。


「不味いですか?むしろ今まで温めてきた攻勢計画を発動しても問題がない程度には我々が有利ですが。」

参謀総長の質問を聞いていると腹立たしくなる。

宇宙軍から彼を採用したのは間違いだったかもしれないな。


「戦力という面で見れば有利な位置を占めれたが、政治的には不味い。」

議会にいる面倒なヤツら、後援会の大バカ者達を思い出す。

下品な言葉で吐き捨てたいがそうはいかない。


「長い間ドイツ戦線が膠着していた中で先に戦果を上げられたのが大きすぎる、しかも宇宙戦単体ではなく陸戦を含めた戦いだ。」

うーむ、と老人は考え込んでしまう。


「我々が練ってきた対ドイツ戦での攻勢、あれを少し早めて停戦を主張する有力野党PSOEを牽制しよう。最悪の場合極右政党と組んででも連中に政権は取らせない。」

「それで足りますか?」

参謀総長よりも遥かに政治に明るい国防大臣が聞く。

彼は到底次の首相再任のための下院信任投票で勝てるとは思っていないようだ。


「今は足りないだろう。だが将来は足りる、いや足りさせる。そのための攻勢計画だ。」

数日前に選挙で勝利し下院の席過半数占めたのにも関わらずこれだ。

確実に私の党から離反者が出るだろう。


「下院選挙直後、首相選出直前を狙って攻勢をかけてきたのだとすれば敵は相当面倒臭い相手だ。気を引き締めて攻勢を実行してくれ。時間制限があることを忘れるな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


統合参謀本部

旧地上軍高即応部隊司令部(スペインNATO緊急展開軍団) 在バレンシア県ベテラ


「発令だ発令だ、剣と盾計画の発令だ!!」

「急げ急げ急げ!!再編中の部隊も輸送船に乗せるんだ!!」

「おい待て、機雷突破用の掃海艇を忘れるな!!」

「サウリン大将の第23戦域司令部が主力だ。追加でブルゴスにいるサンマルシャル機甲軍団を送るぞ!!」

「いや、サンタ・ロサ率いる第8戦列艦艦隊を出すべきだ。機甲軍団は後で良い。」

「第23戦域司令部のあるレガール1にSFM(地対宙ミサイル)高射隊を5個派遣するぞ、このタイミングでコロニーごと破壊されてはかなわん。」

「おい、ポッドの生産量が足りていないぞ!!」

「基地にため込んでいた物をひねり出す。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ~、ひまだなあ~。」

「なんかいいことないかなあ~」

暇すぎてベッドから起き上がりたくない。

同室のエミーも隣でやる気がでず寝ている。


ドンドンドン


「ん~?」

「ドアをたたく時点で上官じゃなさそう。」

「なら寝ちゃおうかな・・・。」


ドンドンドン


まだドアが叩かれる。

そして薄いドアの向こう側から声が聞こえている。


「おい、何をしている軍曹。早く馬鹿どもを連れてこい。」

「それが、施錠されてます。」

「なにい?おいルーカス!!エミー!!早く来い!!!」

恐ろしい顔をしているライアンの顔が声から想像される。

余計に出たくなくなるが、仕方なく靴下を履きズボンを腰まで上げる。

エミーも視界の隅でいそいそと身だしなみを整えている。


「今出る、ちょっと待ってくれ!!」

「だめだ!!やれ、軍曹。」


バゴ バギイ ギギィ


大柄の灰色迷彩服を着たクマのような男が飛び込んでくる。

厳つい見た目だが目元は穏やかですまなそうな顔をしている。


「すいませんね中尉と少尉さん。大尉の命令ですので。」

「いや、この馬鹿どもなんて気にする必要はない。早く来い、出動命令が出ている。」

「「ハッ。」」

そろそろ10話の大台が見えてきました。

ケツが痔になった気がする。

病院に行きます。


痔会 丸ハゲ死す

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