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メカナイズド・ハート 30話

ギリギリ木曜日登校完了です。


ビーッ ビーッ ビーッ


「各機発進準備、遅れは許さん!!」


セルゲイの怒鳴り声が放送で流れる。ほんの1時間前にはグッタリしていた彼は今、耳栓をつけていない者の耳を破壊する活動に勤しんでいる。


パイロットスーツを着込んだルーカスは早足で自分の機体へと向かう。今回の出撃で初めて自分は部下たちを引き連れて飛ぶことになる。訓練できた期間は短かった。


「まあ、とりあえず前線で実地試験と行くしかないさ。死んじまったら補充が来る。」


ルーカスが訓練不足について意見した際、セルゲイはそう答えた。そうは言っても熟練したパイロットたちでも、編隊訓練や相互援助支援を充分な回数おこなわなくては実力を発揮することは難しいだろう。


気楽に彼は実地試験というが、前線で頼り甲斐のない味方がいるのは怖い。自分の隙をカバーしてはくれないだろう。互いに射線の邪魔をするかもしれない。


「そう上手くいくかね。」

「なんとかするだけだよ。」


背後から女性の声が聞こえる。エミーの声だ。


「中隊長がクヨクヨしちゃダメ。ただでさえ中尉で中隊長なんて異常なんだから舐められたら終わりだよ。」


真横に並んできて、両腕を上げ腕に綺麗についた筋肉をアピールする。その姿で少しはやる気を取り戻す。


「わかった、頑張るよ。」

「その調子。それじゃあ、また会おうね。愛してるよ。」

「おう、愛してるよ。」


そう言うと彼女は、軽く手を振ってハンガーの奥へと、小走りで駆けて行った。その姿が小さくなり、他の整備兵やパイロットたちの背中で隠れて見えなくなっても、ルーカスはその方向を見続けた。


「中尉殿、機体の準備は完了しています。」


真っ黒のサングラスをかけた背の高いマッチョが敬礼をし、話しかけてくる。側にはルーカス専属の、ウルシュラ・ノワク整備兵が立っている。彼女もまたオイルとホコリと何かよくわからない汚れで爪の隙間まで真っ黒になっている。


「ありがとう。」


ルーカスは2人に敬礼を返すと感謝の言葉と共にコックピットに乗り込む。タラップとコックピットの間には若干の隙間があり、若干タラップがフラフラと揺れて距離が縮まったり開いたりする。


ここを超えたら生きるか死ぬかの世界だ。


ルーカスは胸に軽く指で十字を切ると勢いよく飛び移った。飛び移ると即座にコックピットシートにケツを乗せて、背中の位置を調整。コックピット内の消耗品、たとえば嘔吐した際に吐瀉物を入れるエチケット袋や、緊急医薬品、麻酔、パイロット用栄養チューブ、飲料水チューブから流れるかも確認する。


次に尿や糞を吸い取ってくれるチューブをセットする。どうやら以前のものとは違うタイプのようで随分余裕ができている。変な異物感もない。


「発進前チェックリスト。」


「計器ガード解除。」

彼は自分のふともも右横下、操縦レバーに手をかけた際にはちょうど右肘の下に位置する黄色のスイッチを下にパチっと下げる。


これで他の計器も作動するようになる。


「チェック。」


「計器、ライトオン。」


パッ パッ パッ パパッ


計器類に光が入る。


「チェック。」


「バッテリー電源、オン。」


機体機動用のバッテリーの電源を入れる。

これで機体全身の駆動機に電力が供給される。


「チェック。」


「メインジェネレーターアイドリング解除。」

主発動機であるCPR -1000がエネルギーを艦に送らなくなる。


そにエネルギーは全て機体のバッテリーに送り込まれていく。


「チェック。」


「主推進機ロック、解除。」

これで主推進機はいつでも彼が入力した通りに動くようになる。


「チェック。」


「サブスラスターロック、解除。」

これでサブスラスターも彼に追従する。


「チェック。」


「リコイルコントロールスタビライザー、オン。」

これで彼の機体は射撃時の精度向上が見込める。


「チェック。」


続けて彼はコックピット前面にある二つのレーダースクリーンの上にある赤色のボタンを3秒間押した。


「レーダー、オン。」


うっすらとレーダー画面に光が入りレーダースクリーンに左右90度のレーダー情報が表示される。


「チェック。」


「赤外線監視装置、オン。」


コックピットブロック上部に位置する人の頭部にも似たセンサーブロックから赤外線情報が送られてくる。


「チェック。」


「ウェポンコントロール、オン。」


これで彼の機体は武装に必要な情報をセンサーブロックから得るようになる。


「チェック。」


「システムオールチェック。」


ルーカスは全てのチェックをつけた項目に再度ペンを当て、指差し確認をする。


「全部ヨシ!!」


「こちらルーカス機、準備完了。中隊各機、状況を知らせろ。オーバー。」


ルーカスは通信機で同じ中隊の部下たちに状況を知らせるように要求する。すると、素早く各小隊長から報告が上がってくる。


「A小隊準備完了です。オーバー。」

「B小隊準備完了しました。オーバー。」

「C小隊準備完了。オーバー。」


その声を聞くと、通信機を切り替える。


「セルゲイ大隊長殿、ルーカス中隊は全機準備完了です。オーバー。」

「了解、他中隊も発進準備は完了している。同行する艦隊主力と足を合わせるため17:15まで待機。オーバー。」

「了解。オーバー。」


ルーカスは通信を終えると、通信のために被っていたヘルメットを脱いで、首元を緩める。


「ふう、慣れないなぁ。」


ルーカスは12人の部下を持つ、全員の名前も未だしっかり覚えることができていないのに、どうして全員を柔軟に使うことができるのか。


「今のうちに暗記するか。」


カチッ


通信機をスピーカーに設定しつつ、自分の下についている部下の名前と機体を把握していく。


流石に東欧の出身者が多く、名前が紛らわしい。しかも下手に長年の紛争が相互不信と軋轢を部隊の中に蔓延させているようだ。各隊員について書かれた書類には必ず、どこの国出身であるか、相性が悪い国家はどこか書かれている。


この資料を書き上げた人物は相当頭が切れる有能な人物だったのだろう。それぞれの出身地を番地レベルで絞り込んでいる。


「まあ、戦闘で生き残ったやつだけ覚えれば良いか。」


戦闘の前の緊張から、一切集中できず隊員全体の名前を覚え切ることはできなかった。

戦闘が始まる前から疲弊していたら、生きてエミーに会えないだろう。そう考えることで、名前も知らない部下たちを死地に送る罪の意識を誤魔化す。


「各機、発進カウントダウンを始める。眠ってる奴は置いていくぞ。」


突然、スピーカーからセルゲイの声が流れ始める。どういうことだ?慌てて時間を見るが、まだ17:08だ。予定が変更されたのだろう。


「中隊各機、話は聞いていたな。俺から出る後ろからついてこい。」


既に整備兵たちは退避済みだったため、各機は速やかに移動を開始してハンガーから艦外の宇宙空間へと、出発する。


プシュッ


ほんの数秒、姿勢制御スラスターが噴射される。その力は如何なる抵抗も受けずに、ルーカス機はゆっくりと宇宙空間を進んでいく。続いてもう2機、3機と工場のベルトコンベアのように、ポッドたちが艦から這い出てくる。


さながら蜘蛛の産卵と言ったところだろうか?


ほんの数分で全ての子蜘蛛たちが展開し終える。子蜘蛛たるポッドたちは母蜘蛛であるフリゲートを見守り、まとわりつくように周辺を漂い、速度を合わせる。


無垢な子蜘蛛たるポッドたちは、さらには庇護する母蜘蛛たる艦隊たちも知らないことだが、地図の上では作戦開始数分で大きく事態は変化していた。


主力となるA軍集団は3個軍団を配下に入れ艦隊を浮かべてシュチェチンから前進していく。補助戦力として2個軍団でできたB軍集団がジェローナグラからベルリン手前まで前進する動きを見せる。

また、ジェローナグラからD軍集団も出発、南下してドイツ占領下ヴロツワフとドイツ本土を結ぶ補給線を叩きに向かう。

さらには、ウッチとオポーレから各2個軍団で構成されるC軍集団、E軍集団が前進してヴロツワフへと圧力をかけていく。


ポーランド軍の綿密な計画、諜報、連絡は南部各地域ドイツ連邦軍が散発的に繰り出す快速な小艦隊による奇襲攻撃を、完全に無効化させた。


各軍集団は順調に前進、ウクライナ地域での抵抗勢力も減少したため予備戦力は増加、補給も安定しており護衛艦隊が常に流れの機雷や、長射程巡航ロケットを処理するだけの数時間が続く。


兵士も将校も、皆微笑みを絶やさず常に陽気な雰囲気に包まれる。各軍団が数時間で無人地域を乗り越えると、そこにはドイツ人たちによってくびきに繋がれた、ポーランド人たちが助けを待っている。


長年の戦争からの解放、カトリックの同胞たちの支援、民族の統一、失地回復。全ての要素が目の前にある。


兵士たちは確実な勝利へ胸を躍らせる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


南部で将兵たちが、楽しく勝利に向かって宇宙旅行をしている間、北部では兵士たちが血と汗を流していた。


ドイツ連邦軍の反応は激烈なものだった。首都ベルリンの危機を察知すると即座に南部カトリック勢力との内戦から第三主力艦隊を引き剥がす。1時間以内にベルリン南部の玄関口、シューネフェルトまで移動していた。


国境部に存在する小コロニー郡であるリンケンは、要塞化された。もはや1人も住んでいない住民を包んでいたコロニーの外殻は、1等戦列艦の主砲を受けても砕けない無敵の装甲となり、戦列艦の数十倍の砲とミサイルを備える。


10基ほどしか、コロニーがない片田舎の小都市は、国家規模の大戦略に抗っていた。


「撃て、撃て、撃てば当たるぞ!!もっと撃つんだ!!」


各コロニーの砲座とミサイル発射基の操作員たちは上官にそう怒鳴られる。確かに有効だ。ポーランド軍の艦隊は通常のコロニー攻略戦と違い、真っ直ぐ突っ込んでくるのだ。真っ直ぐ射線に入ってくるのはバカのそれだろう。


敵のポッドも次から次へと120mm近接防御火器から2秒に1回発射される120mm砲弾が致命傷を与えていく。真正面から460mmAPFSDSの直撃を受けて、カラーコーンのような円錐形の船体がバラのようにひしゃげている戦列艦が、コロニーの真横を掠めていく。空中分解を起こした航空機のように、破片は等速直線運動を続けてコロニーの外殻に突き刺さる。


ズン ズズン ズズン ズズン ズン


巨大な物体がコロニーの外壁に衝突するたびに大きくコロニー全体と内部を揺らす。


「撃って撃って撃ちまくるんだ!!弾はまだあるんだろうな!?なければレーザー撃つぞ!!!」


10個のコロニーを任された少将は腕をぶん回して、仲間を鼓舞しつつ冷静に考えを巡らせる。果たしてどれだけ、時間を稼げるのだろうか?


あと3時間ほど持たせられるか?

無理だ。


他のコロニーからの増援はあり得るか?

ないだろう。リンケンよりも後ろにいる予備戦力は要衝のコロニーに予備師団が少しづつ配置されているだけだ。予備艦隊も、こんな小さなコロニーと閑職に回された少将を助けに来やしない。


限界は近いか?


「勝てるな。」


少将は呟く。彼の顔には確かにその確信が存在する。


「この戦争は勝てる。」


一度目の呟きを幻聴だと思って気にも留めなかった司令部要員たちは、2度目の呟きで耳を疑う。戦果はでつつも、次々とダメージが蓄積している。


ビビッ


「第3番460mm自動対艦近接砲脱落!!戦闘不能です!!」

「第22消化班急行!!28番隔壁と26番隔壁、206番隔壁は閉じろ!!誘爆したら全ての砲門に火が回るぞ!!」


次から次へと砲門が破壊され、対応策を将校たちが打っていく。破滅へのカウントダウンは少しずつ少しずつ近づいてくる。


「この戦争は勝てる。」


もう一度呟く、自らに言い聞かせることで灰色の鉄筋コンクリート剥き出しの臨時司令室は、彩りを取り戻す。この無機質な空間は、銃後の子供達を守るものだ。


「少将!!」

「わかっておる!!第3ブロックと第4ブロックは放棄しろ!!」

「しかし火力の半分を失います!!」

「人の手が足りん!!残りのブロックを最大限活用させろ!!人員と砲弾をモノレールで第1ブロックと第2ブロックへ回せ!!」


少将は失っていたエネルギーを取り戻す。


魚群のようにまとわりついていたポーランド艦隊の艦たちは、次々とボディブローのように体に響くパンチを繰り返してくる。


「敵の火力は低いんじゃなかったのか?報告書は信頼しすぎると良くないな。艦隊の嘘つきどもめ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ハリネズミのように砲とミサイルで武装したコロニーが眼前に10基も浮かんでいる。


「これは骨が折れるな。」

無事30話投稿完遂しました。

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