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メカナイズド・ハート 29話

戦闘シーンはまだ先になりそうです。


半円形の巨大な部屋には数千の人間が詰め、半円形の机と椅子が並ぶ空間の先には、一つの演説台と、背後に巨大な白亜の石柱がある。


段々になった椅子と机に座る、スーツで身を固めた人々は皆、目を開き、演説台に視線を向けている。彼らの視線の先には一人のスーツに身を包んだ、身長180cmほどの筋肉質な男性がいる。彼は身を乗り出し、目の前に居並ぶ仲間たちに対して手を大きく動かし、アピールしながら演説を続ける。


偉大な勝利、祖国の勝利、民族の勝利。


これはそう繰り返す。彼は、刺激的な言葉を大声で叫ぶだけではない。時に鋭い洞察によって導き出された結論を述べる。


我が国の置かれた状況は決して滅びの一歩手前ではない、我々の勝利へと繋がるものである。彼はそう強調する。その言葉に数多のカメラがフラッシュを焚き、演説者に勇姿を全ての国民に見せつける。


「今日、我々の置かれた環境は千載一遇のものである。」


彼はそこで大仰な身振り手振りをやめて、ゆっくりと穏やかで、しっかりとした口ぶりで演説にフィナーレの接近を知らせる。


今ッ


「現時刻16時00分をもって、ベルリン攻略、ひいてはドイツの撃破を作戦目標とする西進作戦、その第一弾となるスベルツスキ攻勢を開始する。」


長年の政治活動の経験から、最高のタイミングでの絶頂の仕方というものを知っている。彼のフィナーレは期待以上、雷鳴のような拍手と地崩れのような足踏みで、好意的に迎えられる。


全ての議員たちが万歳を祖国万歳、ポーランド万歳と怒鳴り、メディアたちまで釣られて大声で万歳を叫ぶ。部屋全体に広がった万歳は大きなうねりとなって部屋全体を、大きな洗濯機のように無茶苦茶に揉む。


万歳 万歳 万歳


一言一言に、個人個人の耐え難い受難の日々と多くの喪失を感じさせる万歳は、最後には大きな一つの音となり、意思の集合体のようにへや全体を右へ左へと跳ね回り、いつまでも続いていった。


その様子を見ながらゆっくりと演説者、ポーランド大統領はゆっくりと自信に満ちた足取りで演説台を降りていく。彼もまた多くの犠牲を支払わされた。右ポケットに入ったロケットペンダントを強く握ると、同志議員たち、その奥には自分の党の支持者たち、さらにその奥にはポーランド民族全体が見えてくるように感じる。


「ドイツを打ち滅ぼすことで、我が国は歴史と決別できる。我々の歴史は今日から始まる。ポーランド民族は初めて民族の悲願を達成する。」


思わずポロッと、自らの考えを口にしてしまう。その考えに同意見だったのか、近くに立っていた秘書官や議員、軍人たちが首を縦に振る。


「見事な演説でした。あの演説はこの国の歴史にのこりますよ。」

秘書官が褒めてくる。軍に彼も出向いていたことがあるからか、昨今の状況にいろいろと感じていたらしい。目に喜びが見える、勝利を確信しているのだろう。


「閣下、各艦隊は作戦通りに進んでおります。無抵抗のうちにこの戦争を終えることができるやもしれませんぞ。」


近くに立つ将軍の一人がそのように話す。少し希望的な観測にも聞こえるが、全力で送り込まれるポーランド軍主力に対して、ベルリンを守れる有力なドイツ軍の戦力は少ない。


しかし、大統領には不安もあった。


「ヴロツワフ方面に居座るドイツ軍の動きはどうかね?」

「未だ動きはありません、奇襲に未だ気付けていないのか、ベルリンを取られても橋頭堡として維持したいのか、現在軍が全力を上げて捜査中です。」

「よろしい、わかり次第報告を上げること。至急を要する問題は参謀本部レベルで自由に判断してくれてかまわん。私はウクライナに向かう必要がある。」


大統領は司令官たちに通達し終えると、そのまま秘書官を連れて歩き続ける。


「コサックたちとの会談はこのままのスケジュールでよろしいですか?」

「お前に任せる。だが、ベラルーシ国境にいる師団を一個引き連れてウクライナを回る。現地の右翼勢力を炙り出す囮とする。」

「では内務省の方に警察予備部隊と対テロ部隊の派遣の打ち合わせも行います。」

「頼む。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「整備は終わったのか?」

「みたいだな、17:00には出発する。弾と燃料をたっぷり抱えてヨタヨタ飛ぶことになる。途中接敵しても低速域での旋回戦だけは避けろよ。」

「わかっているよ、一応俺もエースなんだから。」


ルーカスはセルゲイと一言二言交わすと、おしだまる。目の前で佇む鋼鉄の巨人たちは、もう準備ができているようだ。ゴクゴクと燃料の給油口はラクダのように大量の燃料の飲み込んでいく。機体たちが使用する大小さまざまな武装は出撃直前まで、機体にコロニーが回転で生み出す重力で負荷をかけないように、巨大なチェーンで支えられている。


よく知らないものが見れば、ポッドたちは全身をチェーンで拘束されているように見えるだろう。その姿は、ファンタジーものの小説で出てくる太古に封印された、強力な魔物のようにも映る。


残念ながらポッドたちは魔物ではないが、彼らは魔物も驚く強力なエネルギーをフツフツと煮えたぎらせ、パイロットがわずかにでも操縦桿を動かせば莫大なエネルギーを放出しながら命令を遂行するだろう。


その振動をルーカスは感じる。


「もうジェネレータには火を入れたのか?」

「多分そうじゃないか?」


ルーカスが振動を感じて小声で独り言を発すると、セルゲイが言葉を返す。しかし、お互いにそれ以上話さず、近づかず、離れもしない。


なぜなら二人ともとんでもなく臭いからだ。尋常じゃない匂いの元は、彼らの体にぶっかけられた尋常じゃない量の整備用のオイルが原因だ。


とんでもない匂いが、鼻腔に昇ってくる。吐きたくなるが、吐けるものも残っていないので激しくえずくだけで終わってしまう。


グルグルグルル〜〜〜〜ッ


二人の腹がほぼ同時になる。しかし、何を口の中に送り込んでも、胃が拒絶して何も腹に収まらない。腹は空腹のあまり軋むように痛く、腸の内側の皮と皮がくっついてしまいそうだ。


「クッソなんでもこの匂い落ちねんだよ。」

「不注意で漏れ出しても引火する前に気づくようにとてつもなく臭くしたらしいぞ。うええっ。」


その疑問にも先輩として答えてくれるセルゲイだが、話し終える前に嘔吐しそうになっている。吐きたくて吐きたくて仕方ないが、吐くものが込み上がってこない。かえって口を開いたせいで、破壊的な匂いが喉を直撃して気道の中へと進んでいき、肺が爆発しそうになる。


生命の危険性を感じさせるこの香り。


腐った卵と魚の臭みを融合させ、トゲをいっぱい生やしたような匂いがする。目や口、鼻、耳などの露出した器官は以上な火傷がするような痛みと痒みを感じる。


エミーによると20分ほどで香りは消えるらしいが、我慢できそうもない。セルゲイと話し、ポッドたちを見ているからこそ我慢できており、それらなしでは、5回は自らを手で自らを殺していただろう。


「クッソ、痛えよ。何か気を紛らわしてくれるものをくれえ。」

「それなら、歴史の授業でもしてやろうか?」

「好きだな、歴史。」


彼の提案で以前彼から歴史の話をされたことを思い出し、揶揄うように彼にそう話しかける。


「実家に本がいっぱいあってな。」

「お前やっぱり実家が太いんだな。」

「バレた?」


彼は微風にように受け流しつつも若干微笑む。強烈な悪臭の刺激で嘔吐と鼻水と咳は止まらないが、男同士の小突きあいは健在だ。これが残っている間は大丈夫だろう。


「まあ、軽い歴史の話で頼むよ。」

「任せな。」


エヘンエヘン


うううう、オエッ


高名な学者たちの真似をして逆に吐きそうになったセルゲイは、水の入ったペットボトルを一度煽ると、歴史について話し出した。

ポッドについての歴史だ。


「そもそも、なぜ俺たちの機体がポッドと呼ばれるか知っているか?」

「さあ。」

「それは、元々ポッドという兵器が、4000年近く前の宇宙開拓時代初期に、大量に作成された作業用ポッドが原型だからだ。最初期のものでも構造はかなり現代のものに近く、基本的な型はどれも2つかそれ以上のアーム型ハードポイントと、スラスターと推進剤を入れるタンクをひとまとめにした「足」を持っていた。これが現代のポッドという兵器の祖先だ。」


彼は若干ヨレヨレになった小さな紙を一枚見せる。今の時代にデータではないとは珍しい。見ると、何かの資料からの切り抜きだろうか?真っ白な典型的な宇宙機のような外見の物体。よく見ると、ずんぐりした円柱形の短い胴体に、四本の棒が突き出ている。手前側の二本には折りたたみ式の15m程まで伸びるロボットアーム、奥の二本は太く固定も頑丈そうで、火を吹いている。


なるほど確かに、ポッドと言われれば違和感ある見た目をしているが、ポッドの祖先と言われれば納得できる外見だ。むしろ4000年以上昔の古代人たちがこれほど精巧に、現代の水を生かした宇宙機器に近いものを作っていたと思うと驚きを隠せない。


シーラカンスでも見ている気分になり、古代の世界に想いを馳せる。


「当時も人間はすごかったんだねえ。」

「まあすごくなければここまで来れないからね。」


2人は古代文明に想いを馳せる。


「俺も一つ知っているぞ。」

「おお、なんだ?」


ルーカスはセルゲイの前で、口をすぼませ、人差し指と中指だけ伸ばして口元に持ってくる動作を見せる。


「タバコの話だよ。」

「ほう。」


「昔はどうやら紙で包まれた棒の片側にフィルターがついてて、フィルター側を口で咥えて、タバコの葉に、ライターで火をつけるのが普通だったらしい。じゃあなぜ現代は、そのタイプが主流じゃないかって言ったら、軍が関わっているらしいんだよ。普通のタバコは肺を殺しにかかる。それは多くの国で兵役がある現代では嬉しくない。」

「ほおん。確かにタバコの葉を使っているタバコはもう少ないし、あっても風味だけが基本だものなぁ。」


「でも、そんなもので古代人たちは満足したのか?」


急に女性の声が聞こえて振り返ると、喉を潤すための薬味の効いたエナジードリンクを2本持つベルの顔が映る。


スッ


彼女は2人に1本ずつエナジードリンクを渡すと、タバコをポッケから取り出す。流石に燃料を被ったばかりの2人にタバコに火をつけて近づくほどイカれていないらしい。


彼女は少し2人から1m程後ずさると、タバコに火をつける。愛煙家の彼女は今のタバコよりも相当弱いであろう昔のタバコに興味を持ったみたいだ。


それもそのはず、現代のタバコはタバコ葉などに頼らず大量の薬物を直接肺にぶち込むことで、スモーカーたちを幸せにしている。


「タバコってそんなに美味いのか?」

「?、でも吸ってるだろ?」


ベルは不思議そうにルーカスに顔を向ける。確かにルーカスはタバコも適度に吸っている。愛煙家の彼女には、味が分からず、それでも吸っているルーカスのことが、全くもって不思議らしい。


ルーカスは肩を落として首を傾けて、両手を肩の高さに上げて全身で「分からない」とアピールする。


「別になんとなく吸いたくなるから吸っているだけなんだよね。不味いんだけど、止まらないんだよ。」

「ああ。」


ベルは何か思い当たる節があったようで、軽く頷き一服する。


フーッ


「それは常日頃から吸わないのがいけないんだよ。ずっと咥えていると旨みが出てくる。それまでは煙が鼻を通る時に楽しめば良い。」

「そういうものなのか。」

「大方口から煙を吹いているんだろう?そのせいで楽しめないんだよ。」


ベルが通ぶってのんびりと手を動かしながら吸う。本人としては蝶が舞うような優雅で、洗練された動きのつもりのようだが、結構プルプル震えている。禁断症状だろう。

自分の叔父が死んだ時、彼の手はあんな風だった。若い頃仲間内で酒豪、ヘビースモーカーと呼ばれた奴らはみんな成人する前に死んだ。


「随分こたえているみたいだね。」

「やっぱり分かるか?色々あってね。」


そう彼女は言うとチラッと、手すりに寄りかかってリラックスしているセルゲイの方を見る。


「俺は何も聞いてはいないぜ。俺は女の話には興味がないからな。」

「ふふ、ありがとう。」


ベルは軽く笑い感謝を述べると、セルゲイは茶番が鬱陶しそうに手をひらひらと払って再びリラックスした深いため息を吐く。


その様子を見て安心したベルは顔を下に向けて、自分の胸を見るようにしながらゆっくりと呼吸を整えて、自分の心情を吐く。


「やっぱり心にクルよ、市街地への砲撃とかやっていると。もっと休みをいっぱい取れる仕事なら良かったんだけどね。」

「だよねえ、俺もキタよ結構。でも、ベルが悩んでいるとは思わなかった。」

「なんでさ?」

「だってまあ、元気そうだったし?」

「なら、私は結構良い役者に成れるかもね。」


そう言うと彼女は虚な顔を見せて、珍しく着ているスポーティーな服からはブラの紐が見えている。全くもって色気を感じさせない。出撃直前だというのに、こんな様で大丈夫なのだろうか?


やや更新に遅れが出ていますが一応週1ペースということでよろしいでしょうか?

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