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メカナイズド・ハート 24話

大変申し訳ございません、少将体調を崩していました。体の調子が良くなったので、再び週一投稿を続けていきます。ご心配おかけしました。


「んんんんんんッ。」


ルーカスはデンマーク宙域を経由してポーランドへ向かう宇宙船の中で、エミーの謎の唸り声によって起こされる。


目を見開けば大きな山が目の前に二つ。二つの山の持ち主を見れば、どうも彼女は体を伸ばしていることがわかる。彼女は腰を曲げ、腹を伸ばしてシャチホコのようにのけぞって折り曲げた両足を両手で掴んで、さらに伸ばしている。


彼女は無重力空間の中でコマのようにくるくる回っている。そして言う。


「おはよう。」

「んあ、おはよう。」


彼女は胸部をほとんど露出した状態のまま乗組員区画を離れて後ろの倉庫区画へと向かった。そういえば寝る前にウェットティッシュが足りないと言っていた。後ろから補充してくるのだろう。


彼女がその場を去ると、失った絶景を悲しみつつも、めんどくさくて着替えるのを忘れた服から別の服へと着替え始める。


彼は服を脱ぎながら自分の体を見る。どこも失ってはいない。指は全てついたままで、足も2つついたまま、腹の調子は微妙だが生きている証拠だ。


彼は手を背後に回して背中の無事を確かめる。肩甲骨と鍛えられた背筋に、尻まで無駄な贅肉のない自分の体を両手の中で感じて初めて安心する。


自分はまだ生きてる。


彼がそうしている間に彼女は戻ってきて、彼の奇妙な体勢を見る。


「その体勢はどうしたの?新しいストレッチ?かなりユニークだね。」


その言葉でエミーの帰還に気づき、気恥ずかしく思い腕を戻す。彼女におかしな人だと思われていないだろうか?そう不安に思いながらも、平常を装いつつ彼女の方へと振り向く。


「今日はこのままワッチ入る感じかい?」

「いや、私のワッチはもう終わったよ。」


彼女はそう言いながらあくびをしつつ、さっきまでルーカスが入っていた寝袋に中に入る。寝袋の暖かさと疲れから彼女はすぐにウトウトし始める。


「おやすみ。」


その様子を見つつ、作業服に着替えたルーカスは彼女の額に軽いキスをして船の先頭へと進んでいく。


「おはようございま〜す、ワッチ入りま〜す。」

「ああ、おそようございます、早く着替えて入れ。」


ライアンは時計を指差して2時間遅刻していることを示す。そしてその時初めてルーカスは遅刻していたことに気がつく。


「すまんすまん、すぐ入るよ。」


申し訳なさそうに謝罪をすると、コックピットブロックの側にあるパイロットスーツに着替える。


誰かが設定した生ぬるい船内温度も、冷たい水が流れるチューブが装着されたパイロットスーツを着れば気持ち悪く感じない。


ヘルメットを被って気楽な気分でライアンの隣のシートに座る。シートに備え付けられた強度の高いベルトを締めると、すぐに仕事に取り掛かる。


前にこの場を受け持っていたエミーが、引き継ぎが楽にできるように用意された「楽々お仕事ボード」にメッセージを残している。


「ルーカスへ、交代時間になっても起きなかったので、ここまでやっておきました。」

矢印が伸びている。さらにその下に「忙しくてスペインでは、シーフドを食べることができなかったけど、ワルシャワにも良い店があるから、そこに行こうね。」と書かれ、ハートマークで締められている。


その愛のこもったメッセージを読むと、ルーカスはすぐに仕事に取り掛かった。


どうやら彼女が既に航路のチェックと計器のチェックは済ませてくれているらしい。念のためサッとやってくれた範囲にもう一度目を通しておくと、酸素残量のチェックを始めた。


「酸素チェック行ってくる。」

「了解。」


ライアンは変わらずレーダースクリーンを覗き込みつつ、両手は左右の操縦桿の上に乗せている。


彼にその場を任せると、席を離れて艦の後ろまで行く。ルーカスが乗船するタイプの小型輸送船は、最大25人分の酸素を供給できるようになっている。


それを可能にする巨大な酸素タンク2つと、その後ろにくっついた大型の白い機械はこの船の生命線だ。ルーカスは白い機械に優しく手をつける。二酸化炭素を酸素に変換する強力で高価な機械だ。宇宙船に必要不可欠な機械だが、繊細な部分も多い。


わずか数日で終わる航路でもチェックは欠かせない。


彼は、軽自動車サイズの2つの機械のメーターでを覗き、表示されている数値をチェックし、ボードに書き込む。小数点以下も細かく書き込む。


全て規定数値内、問題なしだ。


チェックした時間とルーカスの名前を書き込むと、機械室を後にして来た道を戻る。途中、ハンガーで片付けられていない宇宙服を見つけて、壁面にある宇宙服入れに押し込む。


この船には乗員の倍以上の宇宙服が装備されているので、誰もが扱いを杜撰にしがちだ。しかし、軍で鬼上官に厳しく躾けられたルーカスは絶対に宇宙服を放置しない。


「そういえば、あのおっさんは元気にしてるかな。」ルーカスは、自分に戦争のなんたるかを教えてくれた上官の顔を思い出す。あれだけ殺したかった上官も、離れてしまえば懐かしいものだ。そうぼんやりと過去のこと、ほんの数ヶ月前のことを思い出す。


ふと気づき、過去への郷愁から目を覚ましてコックピットへと向かう。


シートに再び身を預けて、終わりのない計器との睨めっこを始める。もし、何か癒しがあればよかったのだが。


「俺が計器見ておくから、お前はくつろいでて良いぞ。仮眠以外は何をしても良い、耳も塞ぐなよ。」


ライアンの言葉ですでに船が注意航路を通り抜け、むこう数日はのんびりできることを思い出した。


「わかった、4時間後に交代で良いか?」

「良いぞ、それと飯も頼む。」

「あいよ、カレーで良い?」

「おう。」


ルーカスはライアンと飯の話をすると、再びシートを離れて乗組員の私物入れを漁り、出航前に買った雑誌を数個と小型電子端末を取り出してコックピットへと持っていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なにもない暗黒に包まれた宇宙空間を数百キロ分挟み、ゆっくりと微弱な光を放つ船が移動を続ける。盛大に光を放つ灰色の巨艦たちが動く。艦隊を構成する大小さまざまな艦たちはどれも、2秒おきだったり、1秒おきだったりと、リズムよくパチパチと光る。


両方の戦力はそれぞれが最大限、競い合うように発光する。目が慣れてくると、双方の艦隊の規模が見えてくる。さらに目が良く、艦の識別ができる程度の能力を持つ人であれば、艦全体に白と赤の線が塗り付けられている。全身から自らの国籍をアピールするポーランド宇宙軍の4等戦列艦たち18隻。第一線ではもはや通用しないが、60門の大小さまざま大きいもので480mm、小さいもので120mmの砲を1秒間に何十発も叩き込める。その勇壮な姿は、このような強烈な塗装がかけられていなければ、より強く美しく見えただろう。


片方が今までの塗装業界にアッパーを食らわせ、常識を変えるような塗装をしている事実から目を逸らし、もう片方に目を向けても救われない。


空間を挟んだ対岸にはドイツ連邦共和国宇宙軍の艦隊が、これまた壮麗な艦隊と、その壮麗さを台無しにする3色の塗装で自らを彩っている。黄色、赤色、黒色の三本線が、艦の中ほどに塗りこまれている。


宇宙での戦闘は地上戦のように、平面なものではない。相手側が同高度で侵入してくるわけでも、推進方向がそろっていることも少ない。そういう面では、この戦場のように、両軍が向い合せで、推進方向を合わせている状況は非常に珍しい。


両軍ともに、珍しい戦場においても動揺せずに少しずつ接近していく。


カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ 


両軍の船の中には、荒野のガンマンが自分の自慢のリボルバーの弾倉を回転させるような音がする。


心臓に悪い音を艦内に響かせながら、ポーランド軍は短く強くスラスターを吹かして速度を殺す。作戦はシンプル。ドイツ軍の先を飛び、高度的な優位を持つポーランド軍は敵の頭を押さえているメリットを最大限に生かすため、スラスターを吹かしたのだろう。


どんどん距離が縮み、レーダースクリーンにうつりこむ敵影の数もじんわりと増え続けている。敵は魔法で増えているわけではない。このレーザーでは敵艦隊が発砲した大小さまざまな徹甲弾、ミサイルだろう。両軍が短時間で大量の鉛を敵艦隊に送り込むために、両軍の攻撃が交差する地点ではレーダースクリーンが点ではなく、雲のように表示されてぶぼやけてしまう。


次の瞬間、ドイツ艦隊から無数の光の束が見当違いな方に飛んでいく。その光の束が一点に向けて収束していくと、一瞬だけドイツ艦隊が何に向けて撃ち込んでいたのか見える。あれはポーランド艦隊のミサイルだ。艦隊が速度を大きく落としてドイツ人の頭の上に降っていく直前にばらまいたものだろうか?


なんにせよ、間違いなく切り札であったことは間違いない。


「4等ノイシュタット被弾!!後方の艦にも破片で損傷!!」

「ボクサー艦ビューラウ被弾!!衝撃で制御不能なスピンに陥っています!!」

「4等ラーデブルク被弾!!推進剤タンクから流出確認!!」


「まだまだ、いけますね。」

「そのようだな。」


光で激しく反射する丸眼鏡を付けた若者が、隣に漂う老年の男性にていねいに話す。彼が話しかけたことに対して鷹揚な返しをする老人は、そのしわだらけの顔と手に根元まで真っ白な髪、穏やかな目元に鋭い眼光で彩られている。


普段であれば狭い部屋を埋め尽くす、より多くのデータを短時間で頭に叩き込み、判断を下す必要があるドイツ軍艦隊司令は穏やかな雰囲気をたたえている。艦の足元揺らし、壁に取り付けられた副指令は穏やかな雰囲気を見せている。主力艦の隻数で3隻負けているこの遭遇戦でドイツ艦隊は厳しい物を覚悟していたようだ。彼ら将軍クラスの軍人も宇宙船ではしっかりと宇宙服を着こんでいる。


「敵4等ノヴァソルの弾薬庫誘爆確認!!」

「敵4等ヴィトニツァに有効弾!!戦闘能力喪失確認!!」

「敵フリゲート艦ビエジュホボに有効弾!!全砲塔沈黙!!」

「敵4等ウォベシュの撃沈を確認!!」


「想定以上にうまくいっていますね、信じがたい。」

「まったくだ、数的不利でミサイルによる不意打ちまで受けてなお、なぜかこちらが優位だ。」


老艦隊司令は目を光らせる、若い副指令は脳をフル回転させる。データファイルの切れ端から、脳の片隅まで探すが見つからない。何かあるはずなのに、見つからない時ほどむずがゆく感じることはない。血眼になって探していると、老提督は一つのデータファイルに書かれていた一文を思い出した。


「敵の方が多くの戦列艦を連れていてなお、我々が優位を取っているのは彼我の兵装の差か?」

「しかし、今までの砲戦ではそのような事実は報告されて・・・・。」


「「そうか。」」


両者はほぼ同時に答えに到達する。

この戦闘でポーランド軍が示す攻撃力の貧弱さの原因はシンプルだ。彼らは今までそれで問題なかったのだ。本来、艦隊同士の戦闘は1分もないほど短い間に数百発を叩き込むのが常識であり、たかだか数百キロの距離をちんたらと時間をかけて撃ちあうことはなかった。


互いに重力と推進剤によって高速で飛びながらすれ違いつつ砲火を浴びせあうのが普通だったのだ。ポーランド軍の砲の威力が低くても驚きはしない。敵に向けて軽くばらまいておけば、巨大な相対速度差が相手をバラバラにするほど砲弾を作ってくれた。


「これ以上時間を無駄にするわけにはいかないな、艦隊を下げる。勝ち逃げさせてもらおう。」

「了解です。」


丸眼鏡をかけた若い副司令官は、了解の意を示すとその場にいる士官たちにてきぱきと指示を出す。まず、自分の倍の年齢ほどの艦長に後退の命令を伝える。次に、艦隊を構成する大小さまざまなコルベット、フリゲート、戦列艦に対して通信を送る。


数秒後には他の艦全てが了解を示し、スラスターの噴射を始める。最初は推進剤の消費がほとんどないイオンスラスターで、艦首を持ちあげる。突如腹を見せるように、あるいはコブラが敵に牽制をするかのような体勢になったドイツ艦隊に向けて砲弾を叩き込もうとする。そしてその砲弾は全て空を切る。


イオンスラスタで首をもたげた艦隊は自分たちの倍以上の長さのしっぽをぶら下げる。たとえどれほどおいしそうに見えても、ポーランド軍が追いかけることはない。艦隊司令達は何度も希望してきたことだが、あの艦隊司令相手にそれほどリスクのあることはできない。


それがポーランド軍上層部の見解だった。


「ハックション!!」


老司令官は冷え切ったせいでカゼを引いてしまった自分の体を、もみほぐして温めつつ艦の通路を泳いで移動する。彼の艦でのお気に入りの場所につくと、肩の力を抜く。


老艦隊司令はすでに3隻の船を失った自分の艦隊を、艦の側縁に備え付けられたカメラから眺める。彼はすでにこの艦隊に60年も閉じ込められている。しかし、彼は中央に行かずに艦隊にとどまることが好きだ。彼にとって、この小艦隊は家に帰って気難しい女とやかましい姉、頭の悪い娘と親に歯向かうだけの息子を相手にするよりはるかに良い環境だ。


彼にとっての家族とはここのことだ。だからこそ家族を失ったことは重い。仲間が一人宇宙の闇に溶けて消えていくたびに、彼は仲間たちに置いて行かれるように感じる。


緩んできた目元を手で押さえ、前を向く。


彼の艦隊がゼーロウに戻れば、ベルリンから新しい家族が送られてくるだろう。

ポーランド編第一話になってます。スペイン編に登場したモブキャラたちも再登場予定です。


改めて、投稿遅れ申し訳ございません。皆さまも体調にお気を付けください。

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