メカナイズド・ハート 23話
いつも通り遅れました。対戦よろしくお願いします。
コロニーでの戦闘は終わった。兵士たちは休む間も無く警察と民兵、そして工兵たちに遺体の回収、地雷や不発弾の除去を任せて移動を始める。
「お世話になりました。小隊全員感謝していますよ、あなた方なしでは小隊は全滅していたでしょう。」
「いや、君たちはよくやってくれた。こちらも助けられたよ。お疲れ様でした。」
イケメンな歩兵小隊の隊長さんはエミーにお礼の言葉を述べて彼女と握手をする。その後彼女は他の歩兵小隊の隊員たちとも握手を交わす。
しかし、ルーカスはのんびりと足を伸ばして、ドラム缶を横倒しに数個並べた簡易ベッドの上で休んでいた。彼は戦友たちのところにはいかない。彼はなによりもエミーとベタベタする歩兵小隊のことが気に入らなかった。
ルーカスにとってエミーと髭もじゃのおっさん兵士たちがハグを交わすことは構わないかった。しかし、自分より少し年上程度の男性で、しかもルーカスの目にすら魅力的に映る男との握手には、嫉妬を抱いてしまう。
その感情を隠すためにもルーカスはもう一つの理由を持ってくる。
俺がアイツらと関わりたくないのは罪の意識からだ。俺はこの24時間だけで数万人を負傷させ、数千人を殺すような無差別攻撃に参加した。しかも彼らはただの民間人だ。彼らがどうやってその痛みを乗り越えたのか理解できない。
そうルーカスは考えることで罪の精算と嫉妬の隠蔽を行おうとするが、上手くいかない。彼には1人間としての善の心が残る。善の心は自らの悪行によって痛みを生む。
彼はなんともいえない居心地の悪さから、少し散歩に出かける。
彼はその場を少しでも早く離れるために早歩きで離れる。彼は特に向かう先もなく戦闘のカオスが残ったままの街を進む。まだ復興は始まっていない。車の往来はまばらで、2つに1つは軍のトラックか警察車両だ。数人の警官と民兵がライフルを持ちながら街角に立ち、来る人行く人に身分証明書提示を要求していくのが見える。
上に羽織っている灰色と黒のジャケットの胸ポケットを上から触って、軍生活でついた厚い胸板の上に軍人手帳があることを確認する。
「失礼、お兄さん身分証明書をお持ちですか?」
どこかで見たことがある民兵が話しかけてくる。そうだ、あの時イスラム街で店主とその息子と掴み合いの喧嘩をしていた民兵だ。歯の一本が抜けていることを見るに喧嘩はかなり派手にいったらしい。
それでもライフルが使われなかったことを評価するべきだろうか?もし使われていたら彼は刑務所だ。
「あいよ。これでいいか?」
「へい、ありがとうございます。良い1日を。」
アラブな顔立ちの民兵に身分証を見せて道路を突っ切る。停電のため、街のいくつかのブロックは暗闇に包まれている。しかし、家々の窓から光が漏れ、建物の近くでは微かな笑い声も聞こえる。
確かに人々が戻ってきたのだ。そしてこのコロニーでの戦争は終わった、それも勝利で。
その実感がルーカスの心を一杯にする。
次に彼は広場に出る。未だ静寂が多くを支配する中で聞こえてきた騒々しさ、広場には今まで見なかったほどの人がいる。何千人だろうか?何万人だろうか?
焼け出されて代わりの家を探す人々、不足した日用品を買いに来た人々、家族との再会を喜ぶ人々、この戦闘をチャンスにリッチになろうと企む人々が押し合いながらも広場のうちへうちへと進んでいく。
「石鹸がそんなに!?家が建つぜ。」
「嫌ならシャンプーで体洗うんだね。はい、お兄さんコッチが商品ね。」
価格交渉を続ける店主の老女と中年に差し掛かったところの男性客を横に、片手で店主から渡された商品を受け取って先へ進む。
多くの幸せそうな人々と悲しみに沈む人々が混ざり合い、嬉しい悲鳴と遺族の嗚咽が混ざる広場はルーカスに罪の意識と勝利の達成感の両方を見せつけて、彼の口の中にはほろ苦いビターな味が広がる。
「ああクソ、砂糖の足りないチョコレートか。」
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「ほおん、新しい新人を早速エースに推薦?」
「ええ、敵ポッドを共同単独含めて4機以上撃破していますし、心身共に健康です。」
「だめだ。」
綺麗なオフィスビルの一角、四方を囲む美しいビルたちに負けず劣らず豪華なホテルで男二人が周辺に数人を侍らせつつ会話を交わしている。
二人の男はどちらも高価なイタリア製のスーツを身につけている。ネクタイ一本で家が建つほどのものだ。しかし、二人の立場は同格には映らない。
片方はこれまた高価なシートが貼られた椅子にどっかりと座り込み、背を背もたれにつけている。もう一方は身を乗り出して、手を膝の上に乗せている。明らかに片方には余裕があり、片方にはそれがない。
「なぜです?」
「惚けても無駄だよ、彼はロシア人でもロシア軍、警察にも務めたことがない。ポッドパイロットのような士官クラスの人材をエース認定するには、そのどちらか、あるいは両方が必要だ。」
椅子にどっかりと腰を下ろした男は目の前の男に作らせたお茶を飲みながら決定事項であるかのように告げる。
「しかし、特例事項はあります。現在も我々のビジネスが拡大している中で、エースパイロット認定しないとライバル企業に攻撃材料を与えるのでは?」
頼み込む男性はまだ粘る。彼は低姿勢ながらもハッキリと自分の考えを伝え、なんとか自分の部下のパイロットにエース認定を与えようとする。
「君の父上は優れた政治家だが、その才能は受け継がれなかったようだな。ねじ込むにしてももっと良い方法があるだろうに。」
その男性はため息と共に頼み込んでくる男性を見下ろす。彼はまだ若い、軍人ごっこなどやめて父親の元で教育を受ければ良いものを。そう、思いながら男性はスプーンでお茶をかき混ぜる。かき混ぜてできた水面の模様をじっくりと彼は見る。
2人の男性の間に静寂が訪れる。
「この話は終わりだ。いいな?」
そうお茶の水面から目を離すと男性は話題を終わらせる。彼の前の若い男性はその言葉に嫌々納得した様子で頷く。
「お前たちの次の行き先も決まっている。」
「どちらです?」
「ポーランドだ。スペイン政府はフランスと組んでドイツ西部を攻めるよりも、ポーランドと組んでベルリンに殴り込む方が良いと判断したようだ。」
ポーランド。その言葉に苦虫を噛み潰したような顔を両者はする。お互いにポーランドという言葉になるべく触れないように話を続ける。
「え〜、彼らと協力するにしてもスペイン軍が主力部隊を送るべきでは?わざわざ戦闘の損失から回復しきっていない、うちの大隊を送る理由がわかりません。」
「その、なんだ、彼らはスペイン政府と友好的関係を維持してきたわけではない。むしろ仲が良いのはフランスだ。」
片方はそこで一度言葉を切り、椅子に座り直すことで居心地の悪さを帳消しにしようとする。仕事のために、時にアメリカ人、時にフランス人、時にドイツ人になる彼らも、共にロシア人だ。決してポーランドに良い思い出などない。
「とりあえず、君たちにはポーランド人と協力してもらう。ベルリンへの殴り込みが任される。栄誉なことだぞ。」
男性、斡旋者は目の前の実働部隊にもう一度ハッキリと仕事を伝えると、自分が今発した「ポーランド人」という言葉に不快感を示す。
「ポーランドの旗の下でなければさぞ、栄誉なことだったでしょう。」
実働部隊の男はさらにとびっきりの不愉快顔を作りながらそう言って、立ち上がり敬礼をしてその場を後にしようと、扉へと向かった。
「おい待て、傘を忘れているぞ。」
「はっ。」
「それとお父上によろしくな。」
斡旋者は傘を忘れないようにと注意を促すと、再び椅子にどっかりと腰を下ろす。彼はテーブルにのったままのお茶を見る。水面にできていた渦巻き模様は既に消えて、澱んでいた。
両者の心は澱んでいたが、仕事である。ポーランド嫌いはほどほどに、ちゃんと働くべきだろう。そう頭では分かっていても、簡単なことではない。どちらの言葉か?あるいは両者の言葉か?
「冗談キツいぜ。」
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「冗談キツいぜ。」
30代半ばにさしかかったところであろう男性は、広く白い部屋の真ん中にデスクを構え、それに突っ伏すことで最大限利用している。
彼、ラドミット・グーラー大佐は体を起こすと一枚の書類を見て頭を抱える。自分の旅団を増強するために師団司令部から割り振られた部隊はロシア人とスペイン人を中核とした傭兵部隊だ。
「ロシア人など、これでは足手まといだな。」
彼はそう言葉を発する。ロシア人を毛嫌いしながらも彼は最大限、数少ない本部からの増援を利用しようとする。ただでさえ彼の旅団は西ウクライナでの戦闘で損耗していて、1機でも多くのポッド、1隻でも多くの艦艇が必要なのだ。増援を受けるに越したことはないだろう。
それ思考と整えると、彼は自分の旅団の中のどの部隊と組ませるか思考を巡らせる。まさか、もと極右民兵組織が源流の第3歩兵連隊につけさせるわけにはいかない。
かといって傭兵部隊のような練度、装備の質が怪しい舞台を最精鋭で固めた第1歩兵連隊につけるわけにもいかない。とすれば答えは自ずと出てくる。
消去法的に彼は面倒な部隊を第2連隊に任せることにした。ロシア人を預けられた彼らの苦労と怒りは想像だにできないが、彼らには諦めてもらうしかないだろう。
そう思いつつ、彼は次の紙を取り出した。新しい情報を目に入れつつ、嫌なことはすぐに忘れることができるように切り替える。
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膨大な量の瓦礫が移動され、そのたびにこれまた膨大な量のホコリが舞い上がり、その度に住民に避難警報が出る。それを繰り返して数日。
既に多くの逃走したドイツ人たちが発見されて、拘束される。彼らは一列に並ばせられて、徒歩で何キロも目隠しをつけて歩かせられる。道路の真ん中に何百人の哀れな捕虜たちは左右からゴミや糞尿を投げつけられ、彼らの顔に撒き散らされる。
捕虜たちは1列に鎖で足を繋がれ、最後尾と最前列はスペイン兵の銃剣で背中を突かれて「さっさと行けよグズども!!」と前に前にと急かされて移動していく。
しかし、何十キロメートルにも感じられるような移動が行われた後、彼らはようやく輪になって地面に座ることを許された。何人かが恐る恐る、見張りにバレないようにゆっくりと目隠しをずらすと彼らの足元には石畳が広がっていることがわかる。
彼らは自分達がコロニーの中央広場にいることを知る。それを取り巻く見張りの兵士たちは住民が彼らを攻撃し、口撃することを止めない。
次第に場がヒートアップしてきたタイミングで、将校が現れ、大きなコンテナが持ち込まれる。2台のフォークリフトが前後から支えるように持ってきたそのコンテナに住民は熱狂する。
彼らは何が行われるか知っている。捕虜たちは1列に再びならばされ、一人一人宗教を聞かれる。特にキリスト教と答えたものに執拗にだ。ムスリムにはムスリムであることがわかると追及もそこそこに、足枷を外され、背中を蹴飛ばされて列から放り出された。
そこにすぐに数人のトルコ人数人が駆け寄って見ず知らずの相手に抱きつく。彼らもここでこれから何が行われるか知っており、同胞がその惨禍から逃れたことを祝福したいのだ。
しかし、逃れられない人々もいる。
将校たちは名前を呼ばれて一歩踏み出すよう命じられ、先を進むように言われる。彼らは足に重りを付けられて用水路に均等に並べられる。そして間髪入れず彼らは後ろから蹴飛ばされ、水面に落とされていく。あわれな彼らはもがき叫ぶが、肺が水で埋められるのを進めるだけだ。
アーメン
それを見る同じドイツ人たちは祈り、手が自由なものは十字を切り、おそるおそる誰か一人でも溺死を免れていないかのぞき込もうと首を延ばすドイツ人もいる。すべてのドイツ人たちは猫に睨まれたネズミのような状態になっている。
彼らを周りから睨むスペイン人たちも祈る。ドイツ人たちの死によって無念な死を遂げた仲間たちの魂が休まることを祈っているのだ。収まらない溜飲を下げるために、ドイツ人たちの死に顔を見るために、何人かは用水路に飛び込もうとしして静止される。
次には何人もの士官に分けられなかった兵士たちが並べられ、20人30人40人と1つの小さなコンテナに突っ込まれる。哀れな彼らはコンテナ中で足を追って手で抱えこみ、胸につける。じきにコンパクトにたたまれた彼らでコンテナ床一面が覆いつくされる。
そして数秒後には前後の扉が厳重に、そして勢いよく閉められる。
「伍長・・・。」
「おう、ここまでだよ。」
「ですね、あなたたちと最後を共にできて光栄です。」
ドイツ人たちはそこに広がる液体を足で感じ、最後を覚悟した。
そろそろみんな大好き夏休みが来るので、更新が進むはずですね・・・。




