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メカナイズド・ハート 22話

遅れました。大変申し訳ございません。


反撃開始。現場指揮官であるエミーが命令を出さなくても、自然と兵士たちの意識はそちらへ向く。


エミーがルーカスに撃てと命ずる。

同時にルーカスは報告された通りの場所に予備武装として背部に懸架していた連装迫撃砲ランチャーを連射する。


スポンッ スポンッ


間抜けな音を立てながら砲は連射される。簡単に目視できるほど低速なダンベル形の砲弾が連射される。形状から絶大な空気抵抗を生むためにただでさえ低速な砲弾はさらに減速する。


低速で打ち上げられたダンベル型の榴弾は建物の尾根を越え、幾つものブロックを飛び越えた後、目標地点に着弾する。


30kg近い爆薬がつまった榴弾が大爆発を起こして地面を揺らす。その振動だけで地面に溜まっていたホコリは舞い上がり、何人かの兵士はまともに立てるように壁に手をつけていた。


「あれなら死んだだろ、確認を。」

「了解です。」


爆発の激しさから歩兵小隊長は敵の確実な死を確信するが、念の為にも部下のドローンオペレーターに確認するよう命令する。端正な顔と同じくらい丁寧な性格の彼は確実に敵を排除したと確認する事で生まれた顔の笑みをなんとか隠す。


「敵影なし!!バラバラです!!」


「おおっ!!」「よしきたっ。」「よしよし、仇は討ったぞ。」


オペレーターの戦果確認で敵ドローンオペレーターの確実な死亡が確認された事で、兵士たちはにわかに活気付く。思い思いに歓声をあげ大喜びだ。


その様子をスクリーン越しにエミーとルーカスは見る。彼ら二人の口元にも笑みが映る。装甲板のせいでわからないが、装甲車の乗員たちも喜んでいるだろう。


エミーは待ちに待った命令を下す。


「前進、歩兵は両隣の建物を一軒一軒調べろ!!装甲車は後からついてこい!!」

「「「了解!!」」」


彼女の命令に従って歩兵たちが半分ずつ別れて左右に建物の影を進んでいく。ブロロと装甲車も再び前進を始めて、備えられた30mm機関砲を左右の建物の2階、3階に向けて交互に向けて、不意打ちに備える。


「ハッ・・・ッ、ンンン・・・。」

ルーカスはずっと操縦レバーを握りっぱなしでくたびれた腕を曲げ伸ばしする。先頭を切って進んでいるので本来は操縦レバーから手を離すべきではないが、あまりにも腕がくたびれたため、隙を見つけて手と指を曲げ伸ばしする。同時に軽く足先をぐるぐると回すともう幸せだ。


彼はその数秒間のうちに1時間にも2時間にも感じられる至福を味わうと再び気合を入れて目を開いて機体の足元から両隣の建物の8階、10階を睨みつける。彼はわずかに見えてしまった装甲車から燃えながら転がり落ちる乗員たちの悲痛な姿を思い出し、ルーカスは彼らに誓って一切ものを見失わないと十字を切る。


ルーカスは120mm砲の照準機の機能を有効活用するべきだと考え始めた。この新しい機体なら数時間前まで使っていた機体と違ってまともに動いてくれるだろう。


「こちらエミー、ルーカス機はスピードをあと5km落として。歩兵が高層住宅を調べるのに手間取ってる。」

「こちらルーカス機、了解です。」


どうやらエミーの命令から考えて歩兵部隊は一軒一軒丁寧に時間をかけて敵影がないように捜索をおこなっているらしい。ポッドのセンサーは高性能で5km離れていてもクリアに歩いている人影を見つけることができるが、視界が届かない建物の中や大通りから左右に伸びる猫しか利用しないような小道、それに下水口の中まで調べることはできない。


彼ら歩兵の索敵活動はとても助かる。しかし、敵が建物の中から撃ってくるよりも、遠くからATGMやドローンで攻撃する可能性の方が高いだろうと思ってもみてしまう。


しかし、そんなことは歩兵小隊長もエミーも承知している。それでも、調査しておくに越したことはないので調査しているわけだ。


「どこにいるんだ・・・。なんとか姿を見せてくれ、それと先に撃たせてくれ・・・。」

彼は敵の姿を安全圏から見つけてぶちのめそうと索敵用の左右と部分的に上下に旋回するサーマルを使って敵の姿を探そうとする。


そして何かの人影を見つけてしまう、それも大型工業用排水溝、通称川の対岸に。


いくつか残る無惨な姿の遺体たちは友軍砲兵が打ち込んだナパーム弾に焼かれたのか真っ黒なったベーコンのような状態で、川に飛び込もうとフェンスを指でがっちり掴んでいる。


敵影はまるで見えないが無惨な姿の人々をあらためて見てしまうと、敵影には一切現れてほしくないと思ってしまう。もし、敵影が対岸から現れたらミンチにされた民間人の死は無駄なものになってしまう。


なんとか自分の行った残虐行為に理由をつけようとしていたルーカスは無責任で非道徳な考えを頭の中でそのような思いを巡らせる。


ズパパパンッ


パンッ パンッ パンッ


乾いた破裂音が連続して続く。機械の駆動音だけが響いていた通りは一気に再び銃撃戦の音で溢れる。次々と歩兵たちが建物の表と裏から押し入って行く。


炸裂音ばかり響いて時折兵士が絶叫しながら命令を相互に通達する。


バムッ バムッ バムッ バムッ


30mm機関砲の腹に響く発砲音がすぐ背後で聞こえてくる。直後にその建物の3階はどんどんと砲弾が着弾していき、爆風で巻き上がってはガラスの破片が噴き出す。さらにいくつかの砲弾は4階にもぶち込まれる。


建物表面のコンクリートを砕き、砲弾の信管は砲弾が少し貫通したところで砲弾を炸裂させる。途方もないほどの噴煙が数秒で生まれて、入っていた歩兵がどこ行ったかもわからない。


「射撃やめっ。射撃やめっ。射撃を止めるんだ!!」


いつまでも続く射撃と混乱を小隊長が終わらせる。そして、その数分後には3体か4体の遺体を歩兵たちは引き出してくる。そのどれもがめちゃめちゃに体があちこちで折れ曲がり、その遺体たちはバラバラになっているが故に遺体の数もよくわからない。


「ああ、5体だったのか。」


思わずルーカスは口から漏らす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


暗く鼻を捻じ切るような悪臭を放つ地下水道の中を数人分の影が走る。そのわずか数秒後には彼らが走った空間に銃弾が何発も殺到する。


パンッ パンッ パンッ パンッ


スパパパパンッ スパパンッ スパパンッ


銃撃が飛び交うたびに発砲音であたりが少し明るくなる。明るくなるたびに兵士たちの影は大きくなる。明るくなるたびに次の銃弾が発射され、空間を射抜く。


追手に銃弾を浴びせられながらも、全身全霊をかけて走る人々がいる。幾らかの人はどこかを撃たれて血を流しては脱落して行くが、大半は無事なようで素早く身をかがめながら相互に援護している。


ただ逃げるだけでなく時折逆に押し返すことで、相手のうわついた兵士たちを刈り取っていく。彼らの優秀さはその足取りからもわかる。10人程度しかおらず、それに対して追手は数えきれない。それでも彼らの足は跳ね回らず、慌てず、一歩一歩慎重かつ確実に踏み出して、重心を決してあげすぎない。


どの動きも洗練されて、背後には多量の訓練を感じさせる。その訓練のおかげか、彼らは命を散らしていない。


「行け!!恐れず進むんだ!!」

「しかし・・・。」

「負傷しても奴らにとどめを入れる余裕はない!!救護兵も背後で待機している!!前進するしかないんだよ!!」


精兵たる彼らには敵が何を言っているのかある程度わかる。追手のスペイン兵たちにはどうやら諦める様子はなさそうだ。威勢の良い言葉のわずか数秒後には遮蔽物から兵士は数人飛び出して走り抜けてくる。同時に彼らを追い越すように何十発もいくつか遮蔽物の影から発砲されて飛んでくる。


追われている側も必死に発砲して相手を負傷させるが敵の援護射撃でとどめをさせない。詰められた距離分、追われている側も全力で走って距離を取る。当然双方がお互いを援護しつつではあるが。


そしてこれが永遠に無限に繰り返される。


しかしいくつか永遠でも無限でもないものがある。それが、兵士たちの体力と銃弾だ。敵にぶつける弾を惜しめば次はない。体力を惜しんで速度を落とせば的に簡単に捉えられて、撃ちまくられて、足元の排水路に転落して行くだろう。


しかし、このような悪条件は双方に平等にのしかかっているわけではない。


ガチャガチャッ ガチャガチャッ


金具が跳ねるような音と共に縦断や重火器が入った緑色の強化プラスチック製の箱を二人がかりでもってくる。彼らは追手、つまりはスペイン軍にどんどん重火器と弾薬を渡していく。かれらはここ数十分で打ち尽くした1000発以上の銃弾の代わりに2000発以上の銃弾を提供される。担架を持った兵士も駆けてきて、倒れた兵士たちに応急処置を施しては後方に連れていく。さらには数十人の兵士と指揮官もやってくる。


「増援か、助かる。」

「いや、君たちはよくやってくれた。しばらく休んでくれ。我々が引き受けよう。」


指揮官同士が話し合い、ねぎらいを受けながら今まで追跡してきた指揮官は自分の兵士たちをまとめて少しずつ持ち場を変えていく。兵士たちは握手しあい、肩を叩きあい、抱き着きあう。


そしてそのいずれも逃げる者たち、ドイツ軍特殊部隊にはない。彼らは数で勝るスペイン軍との戦いで勝利し、コロニーを3日にわたって支配してきた。


しかし、孤立無援のなか戦い続けてきた彼らにも終わりがやってくる。救援はない、手向けとなる別れの言葉も、人々の賞賛も、勇敢さを称える言葉もない。ただ、鈍色の弾丸だけが彼らに送られた。


疲労と弾薬の不足から弾は飛び交うのではなく、一方的に片方から片方へと、送られるだけだ。そして射撃の雨の中に大きい銃弾も混じる。


ズドドドドッ ズドドドドッ ズドドドドドッ


重機関銃が持ち込まれたのだろう。兵士たちが使うアサルトライフルの倍近い太さと数倍の長さを誇り、弾頭は徹甲弾のためタングステンでできている。太さのおかげか、長さのおかげか、タングステンのおかげか、その重機関銃の銃弾の貫通力は絶大だ。


銃弾はドイツ人が遮蔽物に使っていたコンクリートの柱や粗大ゴミ置き場、そしてなぜか地下にまで流れてきた廃車を勢い良く貫通する。破片と貫通し終えた銃弾で、次々と兵士たちを負傷させる。


負傷した兵士たちの元には手榴弾が投げ込まれ、兵士たちにとどめを刺していく。いくつもの投げ込まれた手榴弾は遺体と負傷者をいくつもの破片で損壊させる。さらにそこにいくつもの銃弾が撃ち込まれる。生きたドイツ人既に死んでいたドイツ人も全てホコリまみれの死んだドイツ人になってゆく。


ドイツ人たちはさらに奥へと避難しようとする。しかし、彼らは精鋭ではあったが、誰が見ても既に限界だった。一人、また一人と倒されていく。スペイン兵たちは今まで占拠されてきたこのコロニーを解放するためにも、そして凄惨なコロニー戦を終わらせるためにも全力で弾を撃ちかける。


次々と後退していくドイツ人には統率が不足している。彼らドイツ人は疲労と弾薬の不足からスペイン兵たちの頭を抑えるために弾をばら撒くことができない。弾薬の消費を抑えるためにも相手よりも早く反応して正確に数発だけ弾を撃ち込まなければならない。


自然とドイツ兵たちは神経をスペイン兵が隠れる遮蔽物に向けられるようになり、視界は狭まり、仲間たちの動きに気を向けにくくなる。わずかなずれが隊員たちの中で生まれる。彼らが相互に後退して援護し合うことは難しくなってきた。そしてスペイン兵たちは、そうして生まれた隙を逃すほど低い練度を持ってはいない。


次々と背中に銃弾が襲いかかり、倒れていく。逃げるドイツ兵たちの指揮官には難題が降りかかる。疲労困憊に弾薬の不足で移動を続ければ少しずつ、そして確実に死人が増えていく。1人死ねば次の2人が死ぬのにはそれほどかからない。敵に向けられる銃口の数が減れば減るほど不利になっていく。かといって足を止めれば火力に勝るスペイン部隊に障害物ごと排除されていってしまう。


ドイツ兵たちの指揮官はここに来てうつ手がないことに同意せざるを得なかった。そこで彼はキリストに頼ることにした。彼は仲間達に合図を出す。仲間たちは煙幕の展開を始める。


俗に言うスモークグレネードは開けた場所では完全に覆い隠せないが、澱んだ空気に包まれた閉鎖された空間である地下水道では話が変わる。しかし、これは必ずしもドイツ人たちの姿を隠してくれると保証するものではないのだ。


スペイン兵たちはドイツ兵たちよりも重装備だ。増援もある。補給もある。そしてドイツ指揮官はスペイン兵たちがドイツ製の煙幕を無効化させるような暗視装置を装備していたとしても驚かない。もしスペイン兵たちがそのような装備を持っていた場合、軽装のドイツ兵たちは逆に良い的になってしまうだろう。その可能性はドイツ兵たちの足を止めるものだ。


しかし、彼らは足をその場で止めるわけにはいかない。グズグズすれば煙幕が薄くなるだろう。待っていても数で勝るスペイン兵たちはこれ幸いとばかりに乱戦に持ち込むために突撃を敢行してもおかしくはない。


ドイツ指揮官は兵士たちに一気に飛び出して走るように命令をする。果たして彼の賭けは上手くいくか。


いかなかった。しかし彼らは逝った。ドイツ指揮官が不安視したようにスペイン兵たちは煙幕を見通せるような暗視装置を装備していたのだ。


そしてこの日、この時間、このコロニーにおいて最後の組織的に抵抗する部隊は姿は排除された。最後のわずかな抵抗、逃走する兵士たちは住民が通報、地元警察と民兵たちによって排除された。


彼らには一切運がなかった。彼らは最優秀の成績でベルリンの学校を卒業し、軍に入り、訓練を受けた。ただ捨て駒になるために。

本話で市街地戦を強く意識した戦闘は一旦終わり、より大規模な艦隊戦に進む予定です。


なおドイツ軍特殊部隊に関しては、たとえどれだけ訓練を積んでいても彼らのような軽装歩兵では装甲車などを持つ部隊には勝てないという点を意識して書かせていただきました。


戦闘の進み方は次回から変わりますが、必ず読者の皆さんを楽しませることができるよう。精進して参りますので今後ともよろしくです。

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