メカナイズド・ハート 21話
眠い 眠い 眠い ここまで戦ってきた俺に視覚はない。
大きな会議室、州議会と言われても驚かないほど豪華でありながら調和が取れ、しつこくない程度に美しく清潔な部屋がある。そこには髭もじゃと顎ツルツル、髪スカスカと髪フサフサ、頭テカテカが均等な割合で500名近い男性たちと僅かな女性たちがいる。
彼らは中央の円形のテーブルに座る十数人の人間を囲むように座っている
「定刻となりましたので、会議を始めさせていただきます。」
会議全体の流れをコントロールする司会の声がクモの声のようにか細く聴こえる。そもそも話しているのだろうか?
「まず、情報局局長のーーーーーーーーーーー氏からご説明をいただきます。」
「お初の人もおりますゆえ、改めて自己紹介をさせていただきます。情報局局長のーーーーーーーーーーーーです。」
挨拶をした男性の姿は中肉中背のどこにでもいそうな雰囲気を醸し出す。マドリードの商社で働いていると言われると信じたくなる。
少なくとも悪名高く、忌み嫌われる情報局のトップとは思えない風貌をした彼はコップを口につけて水で口と喉を濡らす。
「お手元の資料8ページから22ページまでの各戦線の敵部隊配置図をご覧ください。赤色の部隊が、昨日の18時から本日の12時までの各戦線における敵部隊の配置です。その内ピンク色の部隊が情報通りの動きをしたもの、白色の部隊が注目に値する情報とは違う動きをしたものです。」
情報局局長は一気に敵部隊配置図の見方と見るべきところを捲し立てながら説明する。光り輝く頭脳と頭を持つ閣僚、軍、政府高官たちはその図をペラペラとめくり、前もって聞いていた情報と齟齬がないか比べる。
何人かの高官は背後に気配を消して立っている副官、秘書官に質問を投げかけていたりする。
「失礼、質問いいかね?」
「はい。」
「外務大臣の私からの質問なのだが、ドイツとのチャンネルで向こう側はかなり増長している。要求も高くなり、我が国ならびに諸同盟国のドイツ領内からの軍の完全撤収まで望み始めている。」
外務大臣は誰もが知っている情報をあげ、周囲の外務省からでもいた者たちも頷いている。
「戦線での変化、未来の変化があると示す情報はあるか?」
外務大臣である以上外交活動における異常は速やかに解決したいし、十分な情報がなければ助けを求める。
その質問に対して情報局局長は回答する。
「現時点では2つ、ベルリンが人事を変えたという情報。いくつかの大使館が閉鎖をやめ、大使を送るという話が上がっているという情報。どちらも現在調査中です。」
「時間がかかりそうか?」
「はい、連中無差別に片っ端から捕まえるせいでネズミたちが怖がっています。」
「そうか・・・。いんや、ありがとう。後でその2つを省の方に電子で良いから送ってくれ。」
そういうといつのまにか身を乗り出して話していた外務大臣は革製の高価な椅子に背をつけて後ろで待機する省の人間たちとヒソヒソ話す。
「続けさせていただきます。今回の調査に伴ってですが、対ゲリラ戦や市街地戦で多用されている戦術に関して新聞記者が嗅ぎ回っているようです。最も積極的なのは2社ですが、他社も流れに乗る姿勢を見せています。この件について国家保安局との連携調査を情報局は希望します。」
男性は自分から最も遠いく目線の合わない位置に座る国家保安局局長へと視線を送る。
長身で、三白眼にこけた頬を持つゲッソリと痩せた姿の国家保安局局長はみじろぎ一つせず、落ち着いて口を開く。
「その件は我々だけでお受けしましょう。国内問題の調査は昔から我々の管轄です。情報局局長は今後も軍の手綱を握りつつ戦線の動きを見張ってくだされば良いのです。」
「しかし、それでは前線で嗅ぎ回っている新聞記者の情報はどうするのですか?あれは我々の管轄ですが。」
「今まで調べ上げた情報を送ってくだされば良いのです。ただ他部署の管轄干渉は良くないので、新聞記者の拘束はそちらでお願いしますね。」
睨め付ける情報局局長をどこ吹く風でそう国家保安局局長は朗らかにのたまうと、ゆったりとシートに座る。
両部署関係者以外の高官、将校、大臣たちは両者の対立を目の前で行われて、やれ「品性が悪い。」「くだらない。」「どちらに着いたら利益が出るのか。」とヒソヒソと話す。
両部署以外にとっては「くだらない。」でも、彼らにとってはどちらが多くのリソースを国から得るかの重要な駆け引きだ。両部署は秘密の組織であるため、彼らの給与明細は書面で残せない。彼らは必ずしも公然の、安定した組織に参加しているわけではないために、自らの給料と出世のために必死だ。
官僚である以上家族が飢えることはないが、それでもリソースと権力の配分を巡って両組織は花火を散らし、威嚇する。両者を「くだらない。」「品性が悪い。」と言う両組織も自分達のリソースを取られる可能性があれば、権力闘争に加わっていただろう。
そして情報局局長が良い顔をしないのも当然だ。捜査とそれに伴うであろう成果は取られ、記者拘束という汚れ仕事だけ任される。このような条件で良い顔ができるわけがないのだ。
彼は反論し、逆に国家保安局に美味しくない条件を押し付けようとするが場の空気を察して口を閉じる。
「わかりました、その条件でいきましょう。」
彼は保安局局長との話を終わらせると、再び途切れてしまった報告の路線を引き戻す。
「報告を続けさせていただきます、先程ご紹介させていただいた自軍、同盟国軍、敵軍の部隊配置を説明させていただきました。その中でも11ページ、ドイツ軍の第13バイエルン機械化師団にご注目ください。」
第13バイエルン機械化師団は南部に展開する最精鋭機械化部隊、すなわち戦車と装甲車をふんだんに装備した部隊だ
「この部隊は南部に配置された部隊の中でも、最も練度が高く配備された兵器も最新モデルです。そのような部隊が普段駐屯しているコロニーを離れています。ほぼ確実に他戦線へと派遣するかと。」
「こちらに来ないと言える理由は?」
他の高官からそう質問が飛ぶ。
「彼らが乗船した輸送船はスペースカタパルトに接続しました。ご存知の通りスペースカタパルトは星間移動を可能にするためのものです。他惑星でドイツが抱えている戦線へと増援に送られたと考える方が妥当です。」
情報局局長は質問者へと体の向きを変え、理由を説明すると質問者が軽い会釈で感謝と理解の意を示す。その会釈に軽い会釈を返すと再び堂々と説明し始める。
「また、3週間前に従来の同盟関係を破棄してドイツ側についたイギリス軍の第1艦隊の動向は注目に値するでしょう。この艦隊はアムステルダムとロンドンを結ぶ短距離船団の護衛を行なっています。本来なら1等戦列艦で武装したこの艦隊はドイツ装甲戦列艦艦隊と合流して我が国の艦隊を破り、マドリードを強襲してもおかしくありませんが、戦列艦では不向きな船団護衛を行なっています。」
彼は今度は敵に回ったイギリスの艦隊動向について語る。イギリスのイの字が出ると外務大臣は苦々しい顔をしつつも平静を保ち、マドリードを強襲できると自国の艦隊の能力を過小評価された国防大臣も嫌そうな顔をする。
「第1艦隊が船団護衛を行っている理由として最も考えられるのは、軽快なフリゲートや3等戦列艦と4等戦列艦で構成された第4艦隊が極東に派遣されたからでしょう。ヨーロッパに残るのは第1艦隊、損傷して休憩中の艦と訓練中の艦で構成されるA艦隊、コロニー郡内を航行する艦の護衛を行うコルベットとスループ、スキフで構成された小艦隊が3つだけです。」
「そんな馬鹿な、以前私が哨戒に出た時はモロッコに向かう第3艦隊のあったぞ。」
局長野報告に対する疑問を思わず漏らしてしまった将校がいた。室内があまりにも静かで空調の音も紙の擦れる音も聞こえるため、呟きはよく聞こえる。
「そんな馬鹿な、熱源は?レーダー反射は?軌道の計算は行いましたか?」
「もちろんだよ、私は軍人だ。何の根拠もなしに妄言を吐いたりはしない。データも送ろう。」
その少将は局長に自信たっぷりで話す。局長は国防大臣と少将より上位の在席者に疑念の目を向ける。
「わかりました。調査を進めましょう、協力していただけますね?」
「もちろんだよ。」
彼らも同意している様子を示すため、情報局局長は国防大臣に調査協力の依頼をし、受け取られる。
さしもの局長と言えどなかなかの驚きであったが、話は終わってはいない。彼は再び口を開き、報告を続けた。次は同盟国軍、ポーランド軍の部隊配置についてだ。
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灰色の世界を純白で何者にも囚われずに飛ぶものがいる。彼の瞳にはくすんだ灰色、いくつかの焦げ跡と真っ白と真っ黒の煙が映る。風が弱いが故に、煙は低くいつまでも漂っていて数ブロックを完璧に隠している。どこが煙の発生元か、わかったものではない。
その鳥は地上を走る車たちの2、3倍のスピードで飛ぶ。何十秒も眼下に広がる地上をじっくりと見ては、旋回してまた数十秒目を凝らして地上のかすかな動きを探す。
一つ柱が折れてしまえば跡形もなく崩れるであろう銀行、全ての窓ガラスが十時にガムテープで補強されたアパート。品物がひとつもなく棚をめちゃめちゃに荒らされた、ビルの1階に入っている売店。全ての電柱はショートして火花を散らしているか、根本からへし折れているか、半ばまで焦げ跡がある。
いくつかのケーブルは地上に垂れて漏電している。あたりに響くのは鳥の羽音だけ。プラスチックの袋が西部劇のダンプルウィードのようにくるくると回転しながら飛んでいく。
車の誘導用に置かれていたのであろうカラーコーンは逆さまになっていたり、不幸にも銃弾が当たったのか風穴ができているものがある。
建物の上半分が崩れ落ち、後ろにあった背の低い建物を押し潰しているマンションの一室が鳥にはよく見える。僅かに椅子の一部や、ソファなどの家具が残り、壁には半分以上が燃えてしまったタペストリーも見える。
しかし、どれだけ生活感のある空間が広がっていても、誰もいない。人っ子一人いない。
「どこにいるんだあ〜?」
機械仕掛けの鳥を飛ばすドローンオペレーターは送られてくる視覚情報を使って、散々にこちらを攻撃してきた敵のドローンオペレーターを探す。もちろん血祭りに上げるためだが、オペレーターは至極丁寧に、淑女をダンスに誘うような口調でブツブツ話す。
「出てきましょうよ〜、こちらは楽しいですよ〜〜。そうビビらないで出ておいだなさい〜。」
その様子に焦れた美形の小隊長が口を挟む。
「見つかるか?」
彼の言葉にオペレーターは反応しない。オペレーターは相当神経を使っている。
「見つかりそうなら言え。無理そうなら早く言ってくれ、対策を打つ。」
小隊長もまた、自分の小隊長を危険に晒さないよう必死だ。もしこのまま敵を見つけることができないままここに座りこみ続けると、いつドローンがまた頭上を横切りながら下にぶら下げた手榴弾を落とすかわからない。もしかしたら数時間前に友軍の陣地を襲った迫撃砲がこちらを叩くかもしれない。
「見つかりそうか?見つからなさそうか?」
小隊長の事態には玉のような汗が湧き、首筋、ワキ、鼠蹊部にも汗が湧き始める。沸いていく汗に今度はホコリが付着して気分を余計悪くする。普段は払えば落ちる埃も落ちない、逆に払おうとした指がベットリと汗で濡れてホコリも着く。
同じ不快な体験をポッドや装甲車内にいるパイロットと操縦士以外の全ての兵士が等しく、クソッタレを楽しむ。
どうしようもないほどの疲れと諦めが隊全体を包む。その疲れは兵士たちの肩に重くのしかかり、銃口を下げさせ、ヘルメットを外させ、建物の影に隠れて壁に寄りかかり無防備にも数十秒にもわたって目を閉じる。
「ふう。」
その誰かのため息ひとつが隊全体の空気を代弁するものだった。その空気が隊全体を曲がりなりにも軍人で固められた部隊から、田舎過疎地域にあるコロニーの死にかけのバーにたむろするオッサンの集団に変える。
その直前にオペレーターは待ちに待った方向を上げる。その報告で皆は兵士に戻る。何かできることが見つかったのだ。
「敵を発見!!敵のドローンオペレーターと護衛です!!」
「どこだ!!」
即座になんとか倒れかかるのを堪えていた小隊長が文字通り飛んできて唾を飛ばしまくりながら座標を聞く。その勢いに負けないくらいの勢いで、ドローンオペレーターの醜男が怒鳴り散らすように座標を読み上げる。
その情報は即座に装甲車とエミー機、ルーカス機に共有される。隊員たちの口角を一つの事実が押し上げる。
反撃開始だ。
読者の皆様、そして俺、いつもお疲れ様です。筆者(?)も非常にキツい中で戦っていますが下には下がいることを知っています。
より戦場のような地獄で戦っているサラリーマンの皆様もいらっしゃるでしょう。改めていつもお疲れ様ですと言わせてください。苦しいですが、これからも頑張っていきましょう。
そして本作をこれからもよろしくお願いします。お体も大切にしてくださね。




