メカナイズド・ハート 20話
投稿が遅れてしまいました。大変申し訳ございません。
最近遅れてばっかりですね汗
静寂と3段ベットが大量に隙間なくみっちりと詰められた空間は突如として破壊される。
バコオオンッ フアンフアンッ
隊舎を揺らし、内で反響する爆発音に少女の脳は揺れる。頭のくらくらを抑えながらなんとか体を起こすと同じように次々と体を笛を吹かれた蛇のようにもたげる同僚たちがいる。
「一体全体?」
少女の口からそう一言漏れる。その一言に答えを持ってくるように扉をノックせずドタドタと数名のホコリっぽい人々が入ってくる。彼らは髪の毛から足先まで全てホコリに絡まれており、とても惨めで間抜けに見える。
しかし彼らの階級は決して間抜けでも惨めでもなかった。
「敵襲だバカ野郎ども!!」
ホコリまみれ集団の1人が辛そうな体勢にまで背を伸ばして、できるだけ威厳たっぷりで声を張り上げる。
「早く壕に走るんだ!!」
中隊長の二言目を待たずに次々と兵士たちはベッドの上から飛び出して両サイドに2つだけある扉に殺到する。
少女は軽く良くしなる引き締まった体でベッドの上から跳ねるように飛び出して一瞬で0から100へと加速しながら扉に疾走する。彼女は扉の目と鼻の先で急停止を行うが、真後ろから飛んできた肉塊にぶっ飛ばされて扉に頭をガンとぶつける。
ガンッ
鈍い音と共に金属でできた扉に向かって彼女の軽い体は飛んでいく。顔から扉に飛んでいく恐怖で顔を横に向けて体を捻ろうとする。
グンッ
猛烈な音が頭蓋骨の中を響く。視界は一瞬裏返ったかのように真っ暗となり、脳みそを揺らし、一瞬呼吸が乱れる。ゲホゲホと咳き込み、肺に強引に押し返された二酸化炭素を吐きつつ、その激痛に頭を押さえる。左右にプルプルと振って紛らわせようとするが、まったく上手くいかない。
バアンッ
「いっつッ・・・、マヒャカヨッ。」
背の低い小柄な少女は巨大な肉の塊たちに壁に押し付けられる。頬骨がコリコリと扉にあたり音を出す。両手は肩から扉のペタッとくっつく。
「おい!!鍵を持ってるのは誰だ!!」
「なんで閉めたんだよ馬鹿野郎!!」
「他の中隊が備品を盗むからだよ!!」
彼らは扉を開ける前から誰が扉を閉めた犯人か探し始めた。少女は仲間たちの無能さに呆れることも混乱を諫めることも出来ず、まともな言葉を発せないまま、イエス・キリストのように壁にぺったり貼り付けられる。彼と違い少女は手足を釘で止められていないだけマシだろうか?
「ひゃひゅけて!!おはびゅう!!!」
少女はなんとか助けを求め、押してくる仲間たちを静止しようとするが上手くいかない。少女は腕に力を込める。たった数ヶ月前に民間人をやめたばかりの彼女はそれほど筋肉がついておらず、精一杯力を込めても、後ろから押す野郎どもの集団はびくともしない。
「ぐへえっ。」
彼女は中途半端に肘を立てて腕立て伏せの要領で力を込めたせいで押し返された時に勢いよく肘を壁にぶつけて少しだけ浮いた胸と顔も壁に再び叩きつけられる。
力を込めたせいか?室温のせいか?おしくらまんじゅうをする中隊の仲間たちのせいか?やたら暑く感じて額や耳のそばを汗が滴る。
「おいっ、馬鹿どもどけや!!俺が開ける!!」
中隊長は両側の扉に群がるバカタレを引っ張ってひっぺがすとドアノブに小さな鍵を突っ込んで開ける。
「まったくどうしてこんなにバカの集まりなのか。」
中隊長は両側の扉を開けると扉に貼り付けられた少女を片手で軽く掴んで剥がす。ポイッと少女は放り出され、くるくると回転していく。
「ほらな、ドローンで弾薬倉庫が壊されてる。」
中隊長は腰に手を当てて仁王立ちする。外は漂うホコリ、薄く地面に積もるホコリ、無数の直立するビルと倉庫に囲まれた灰色世界に一点の赤色が混じっている。
「綺麗・・・。」
少女、マリア・リタ・マクワイヤー・エンシーナスは美しさすら感じさせる赤と黒を楽しんだ。
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彼は背の高いおよそ21階建てのビルの屋上にいる。右隣のビルも左隣のビルも、手前にある背の低いビルも斜め後ろにある中くらいの高さのビルも、全て1階から屋上まで無人。そんな彼のいる場所からは工場排水の流れる大きな用水路の向こう、焼け野原となった戦場を見ることができる。
戦場にはいくつもの骸が転がっている。人の形をしたものだけで数千、粉々にされてしまった者はその数倍いるだろう。それを彼は黙って見てはいられなかった。彼の目元は涙で濡れ、度々目を瞬くことでなんとか涙の流れを止めようとしていた。
「なんてことだ、このネタを急いで本社に・・・。」
彼は目から溢れ出す涙と動揺と悲しみを押しつぶして小さな、なんとか軍の目を盗んで持ち込めた携帯端末を手で横向きに構えて地上の惨状を写す。
これがどれだけ意味のある写真となるか分からない、下手にこの写真が上がると本社も不味い立場になる。極左はこれ幸いとばかりに政府の非道を非難してテロを起こし、極右はこれを口実にメディアと調査員たちへの規制を強めるよう求めるだろう。落ち着いていた国内の分離独立運動や植民地の離脱を招くかもしれない。
この一枚のデジタル写真、短い電子情報でそこまでの混乱が発生し、多くの命が発生したらどうするのか?
彼はその考えに答えを出せない。しかし、わかっていることはひとつだけ、我々メディアは人々に情報を伝えなくてはならないのだ。
かろうじて決意を固めた彼は再び脇を締めて、数枚追加で写真を撮る。
「嫌な光景だ。」
彼は最後にそう一言漏らすとその場を兵士たちに見つからないように静かに撤収した。
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どうにかならないのか?いやどうにもならない。そう心の中で繰り返し自問自答しつつ彼は操縦レバーを前に押し込む。
前に押し込めばそれだけ機械が大きく音を立てて脚部を持ち上げて少し前に送り、その足を下ろす。
交互に脚部が地面に対して押し込まれると次の足を持ち上げるために脚部と腰部の機械が動き先程おろした足に重量をかける。
グググッ
安定化装置がぜんご左右に倒れる兆候があれば、即座に信号を送り機体を安定させるための適切な手段をとる。
重量を機体が移し終わると、余った足を持ち上げる。機械が大胆かつ正確にパイロットの要望通りの速度で前に繰り出す。
ズズンッ
次の足が繰り出される。この機械による人間の歩行を模倣した複数の脚部による移動方法は数々の大失敗や多数の死者を伴う大事故によって、それなりの完成度にまで昇華された。その完成度は多少の障害物によって影響を受けなくなった。
例えば道路上に転がる骸はいくら踏んでも安定した走行を期待できる。
グンッ グンッ グンッ
次第に脚部が振り下ろされる音が大きくなっていく。指定された速度、時速30キロから加速していないにも関わらず音が大きくなり、振動はパイロットのケツを揺らし続ける。
「この一帯に散らばる骸はなんだ、俺たちは用水路のこっち側には弾ぶち込んでないのに。」
機体のパイロット、ルーカスはそう呟く。どうにかして彼は振動を無視しようとするが、好奇心を抑えられずわかっているのに腰部スカート装甲の裏に添えつけられた小型のカメラからの映像をサブモニターに映す。
「ふッ・・・。」
その映像に気分を悪くしたルーカスはスクリーンに映る映像をまた切り替える。
「ふ〜〜。」
なんとかくだらないことを忘れ、喉元まで込み上がる産地直送の吐瀉物を深呼吸で抑え込む。
どうしようもない疲れが身体中にドッと押し寄せる。見たくもないものを見てしまった自分の好奇心をルーカスは呪いつつスクリーンと無線機に現れる友軍部隊の動きに気を張る。
再び影がスクリーンに映る。
「「ドローン!!ドローン接近!!」」
ルーカスと足元の歩兵が絶叫するのはほぼ同じタイミングだった。
装甲車の中と上に乗っかった兵士たちは手にもっと荷物を抱えて慌ててぴょんぴょん飛び降りていく。
彼らは転がり落ちるように周辺に散らばり、各々の銃を構える。対ドローン用のネットガンや使い捨て対空散弾アタッチメントを装備した兵は全体の2割程度でジャマー装備はなく、ヘルメットではなくキャップをかぶっている論外な兵士もいる。
「撃て!!撃つんだ!!撃たないと死ぬぞ!!!」
イケメンな歩兵部隊の隊長さんが爽やかな顔に見合わない大声で怒鳴ると、そのまま発砲する。
ババババッ
それを察していたかのように近くの建物の、通りに少し張り出したベランダから窓ガラスをぶち壊しながら銃弾が放たれる。
素早く隠れ場所を見つけることが出来なかった兵士は死ぬほど撃ち込まれて文字通り即死した。
「クッソ!!」
ルーカスは怒鳴ると右腕部に懸架された120mm砲をぶっ放す。砲の発射音より先に砲弾が窓に直撃する、その直後に着弾音と発射音が混ざって聞こえる。
窓は即座に沈黙させたが、ドローンは隙をついて近くに停車し、後退しようとする装甲車に直撃する。2両のうち被弾した1両はバンと揺れる車両の前方が一旦爆発の勢いで押し下がりサスペンションで上に跳ね上がるの噴煙は車両の前方にあるエンジンルームから溢れ出し、エンジン真上の鉄板から火がチロチロと溢れ出す。炎と煙に体を包まれながら3、4人かの兵士が飛び出して地面に体を擦り付けてぐるぐると体を回転させる。
なんとか火を消そうとしているのだろう。結局救護兵が助けに入る前に上空から手りゅう弾が転がってきて近くで爆発、彼らを揺らす。
「早く隠れて!!私の影で良いから!!」
「りょうかいっ!!」
事態を重く見た最上級者のエミーは独自の、教本に反する命令をする。余裕のない声色でエミーと装甲車の車長が短い通信を交わした後無事な方の装甲車はブルッと揺れ、少しの煙を発すると履帯をキュルキュルと回しながらエミー機の背後に起用に近づく。
教本では200トン近い鉄の塊であるポッドが自分のくるぶし少し上程度の車高しか持たない重さ25トン程度の装甲車をペシャンコにしてしまいかねないため、許可されていない。
全ての兵士たちは周囲を見回し第二撃に備える。残りの装甲車は一台、30mm機関砲で武装した装甲車だが至近距離建物の影から接近するドローンにそんなものが当たるわけもなく、接近に気づくことすらこんなんだろう。
「きたあ!!」
兵士の一人がルーカス機、エミー機の背後から現れてエミー機の背後に隠れた装甲車を狙って飛んでくる。危機的状況だがエミーは安心する。
エミーは背後を映すタブレットをガムテープでくっつけただけのサブスクリーンで背後を見る。カスみたいな設置位置のせいで自機のスラスターコーンが視界に被り、視界の上半分が見えない。おまけに映像が途切れ途切れだ。ATGMを何度も叩きつけられた後、メインカメラの修理を優先したせいでサブカメラが放置されていたのだろう。
しかし彼女のそれなりに優れた、鷹の目とまではいかない目が僅かに入り込んだドローンの影に素早く反応。彼女の脳から神経系、指先へと素早く指令が送られ指先の筋肉が震えた。
カチッ
バシュ
パンッ
彼女は指先にかかったボタンを押し込むと、軽いカチッとした音の直後に散弾銃のような何かが時をおかずに爆発する音がする。
アクティブ防護システムを強引に手動でコントロールし発射したのだ。エミー機に搭載されたアクティブ防護システムは散弾銃に近いものだ。
理論上は可能ではあるが難易度の高い行為を成功させたあたり、エミーもなかなかの腕前だ。
パチパチパチ
見ていたルーカスも、その凄技に思わず拍手をしてしまった。しかし、問題は解決していない。未だに敵のドローンの発射地点は特定できていない。
「偵察ドローン上げます。」
「急いで!!」
「ハッ。」
歩兵部隊のイケメン指揮官、名前を忘れた。が、敵を探すためにドローンを上げてくれるらしい。小型のドローンは30分程度しか飛行を継続できないため使い捨てが基本、使いどきを気をつけなければならない。
「どうだ!?何か見えたか?」
「いえ、真っ暗なため視界がいまいち・・・、」
どうもドローンオペレーターは視界の確保に難儀しているらしい。
「ルーカス、照明弾を!!」
「了解!!」
ルーカスエミーの命令を受けて背後の追加装備、煙幕がしこたま詰め込まれたランチャーからいくつか入っていた照明弾を打ち上げる。
照明弾のおかげで一瞬であたりは明るくなり、コロニー生まれのルーカスには目に悪い。
「おおお〜、よく見えます。」
「特定急げよ。」
特定するために忙しなくブブブブブッと音を立てて上空を旋回するドローンをルーカスは見上げる。
ちょうど20話に入りました。ここまで努力してこれたのもひとえに読者の皆さまのおかげです。ありがとうございました。今後も頑張って行くのでぜひ読んでやってください。まだまだ続きます。




