メカナイズド・ハート 183話
「短い間だったがご苦労だった。」
「いえ、こちらこそ少佐どののために働けて光栄でした。ありがとうございます。」
ルーカスは、街中の少し寂れたカフェで1人の女性と会う。初めて会った時よりもだいぶ落ち着き、悪く言えば少し老けたようにも見える。もはや少女ではなく女性となった彼女、ファナ整備兵は僅かばかり涙を目元に見せながらも、ルーカスに感謝の言葉を返す。
「そうか、しかし俺は良い仕事相手ではなかっただろう?機体を毎回酷使してばかりで。」
「いえいえ、我々は無事に帰ってきていただければそれで良いんです。」
恋人のパイロットを戦闘で失った過去を持つだけあり、その説得力はかなり強い。
彼女と個人的に話すことは、初めて会った彼女がまだすさんでいた時に少し話したきりでそれ以降は、基本的に業務上の会話ばかりだった。ある意味、毎回ドタバタと死んだ部下たちよりも彼女の方が戦友と言えるかもしれない。ルーカスは弾丸に降られ、彼女は期限におわれていた。
「お会いできてよかった。武運長久を願っているよ。」
「こちらこそよかったです。短い間でしたが、ありがとうございました。」
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ルーカスは灰色のコロニーを訪れる。
アリの行列のようになった観光客と一般人が作る検問場までの列の中に、仲間入りしてひらひらと無理やりはためかせられているスペイン王国旗の下で検査を受けてコロニーに入る。
「ん~ん、やっぱり地に足が付くと気持ちがいいね。」
隣には愛しの恋人エミーがいる。
彼女は長旅で凍った体を伸ばしながら、ルーカスに話しかける。
「そうだな。」
「何その反応、帰ってこれてうれしくないの?」
「うれしいけど、なんかねえ?」
そっけない反応をしたルーカスに、からかい気味に脇をエイエイとつついてくるエミーに困ったような反応を返す。久しぶりに会ったエミーだが、初めて会った時と変わらない可愛さと元気いっぱいだ。
「おいおい、英雄さんのご帰還かい?」
ルーカスとエミーに声をかけてくる男がいる。
おんぼろ軽トラにタクシーの看板を掲げるアラフォー越えの男が、窓から上半身だけを突き出して声をかけてくる。
「ああ、ちょうどいいところなんだ。俺のアパートまで走らせてくれ。」
「任せやがれ。」
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「ああ、そういえばボートンさんから預かった手紙があるんだ。」
「ボートンさん?」
「ルーカスも知っている人だよ。」
自分のアパートに戻る最中にエミーから一枚の手紙を渡される。
開いてみれば、見慣れた文字が見える。
セルゲイが書くロシア語筆記体のくるくる文字の影響を受けた独特な英語の手紙だ。
なるほど、ボートンとはセルゲイの新しい偽名だったのか。ルーカスはそう納得しつつ紙を開く。
短く端的で、彼の書きそうな文章だと感じた。
内容は、長年の会社への忠誠と貢献への感謝から始まりルーカスの才能を惜しむような文章だ。
一通り目を通したのち、軽トラの荷台から手だけを出して手紙をビリビリと引き裂き、軽トラの加速で生まれる抵抗の風に任せて放り捨てる。
「なんて?」
「まだ俺に殺しをやって欲しいらしい。人間を止めて彼らみたいにカーボンヒューマンになることも誘われたよ。」
「いいの?カーボンヒューマンになれたら寿命を無視できるよ?」
そう聞くにエミーに愚問だと返す。
「俺はもう疲れたよ。あとは君と一緒にいたいだけだ。」
ルーカスの愛の告白にエミーは抱擁とキスで答える。




