メカナイズド・ハート 10話
※本作ではたびたび人種、宗教に対して侮辱的な表現や内容が含まれますが作者はその一切を非難します。
※本作にはたびたび様々な固有名詞がでできますが、それらは全て架空のものです。
「まったく、グズどもめ。本当にお前らはもと軍人なのか?」
後ろからグチグチと嫌味を言われる。
エミーと共に過ごした幸せなまどろみ時間、そしてその余韻も破壊されお世辞にも気分は良くない。
軍人が早く起きず、命令にもすぐに反応しない自分に非があることは明らかだ。
その事実が余計にルーカスを不愉快にさせる。
「はあああ。まったく・・・。」
ライアンのクソデカため息が響き渡る。
エミー、ルーカス、軍曹の三人は無言だ。
この場の最高階級のライアンに逆らう奴はいない。
彼も私人では軽口叩ける良い人なのだが、こういうところを直せばもっと他者から好かれるだろうに。
そう、余計なお節介を頭の中で焼いていると隊舎の出口見える。
その先にはたくさんのフル装備の歩兵が視界いっぱいに集まっていた。
「「わああ。」」
「おどろいたか?お前ら二人はここにいる第289軍団第1師団第5歩兵旅団第2大隊第3中隊300人を待たせたんだ。次同じことをしたらおいていくぞ。二人ともわかったな?」
「「ハッ。」」
彼は呪文のように目の前の集団の所属を唱えると、軽く忠告した。
エミーとルーカスの返事はいつもどうり「ハッ。」だ。
これ以外はありえない、あるとしても「了解。」だ。
「失礼、ルックウッド大尉殿ですか?」
「君は?」
「この中隊の指揮官を務めているエリーコ・センテーノ・リャバドル中尉です。本来は大隊指揮官の大尉が来るはずでしたが旅団司令部に呼び出されたため代役として私がきました。」
「なるほど、よろしく。」
やや筋肉質の180cm近い男性が自分より10㎝以上小柄のライアンにへこへこと頭を下げながら丁寧な言葉づかいをする。
まさしく軍隊の光景といったところだろうか?
「それで大尉どの、少しばかりお話することがありまして。奥へよろしいでしょうか?」
エリーコ中尉は建てられていたテントを示す。
「ああ、かまわないよ。」
彼が歩兵部隊の前を通ると、エリーコ中尉の部下であろう少尉が歩兵全員に命令する。
「中隊整列!!大尉殿に敬礼!!」
「はは、壮観だな。マドリードの近衛隊でもこれほどではないだろう。」
「ありがとうございます。」
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「それで、話とは?」
「まずはこちらです。」
そういって中尉は書類が難なく入りそうな大きめの封筒をわたしてくる。
差出人は誰か?
差出人欄には何も書いていない。
「05:00に開封せよとのことです。」
ライアンが席に座った後、中尉も座りながら言う。
「お前ももらったのか?」
「はい。大隊長は検討がついたみたいで。」
彼は自分のザックの中から同じ封筒、少し薄い物を取り出し彼に示す。
「なるほど。」
「わかったのですか?」
「ああ。それなりにはな。」
中尉に対して大きな顔をして彼は講釈をたれ始める。
「簡単なことだよ、俺達下っ端士官にわざわざ丁寧に封筒を用意してるんだ、何か大きい事をやるんだろうよ。例えば大規模反攻とかなあ?」
そう手を左右に開き肩をすくめながら、足をほっぽりだす。
「これだけのためにわざわざ、テントを敷いて中隊全員をここまで連れてきたわけではないだろう?」
「ええ。我々第3中隊含め第5歩兵旅団はユヴカ8に上陸して敵陸戦部隊を撃破しに向かいます。貴方の隊にはその支援をしていただきます。」
その言葉にライアンはギョッとする。
ユヴカ8に敵陸戦部隊が強襲したのは聞いているが、自分達が投入されるとは思ってもみなかったのだ。
「俺たちみたいな傭兵部隊は占領地の軍政がメインだと思っていたが・・・、どういうつもりなんだ上は?」
「先ほどの封筒の中に答えがあるかと。」
「あると良いな、隊は05:00集結だな?」
「そうですね。時間厳守でお願いします。」
まったく、傭兵部隊だって子供の集団ではないんだ。そんな心配は無用だろう。
そうライアンは思ったが、2人ほど心当たりがあり考えを改めた。
中隊の名誉のためにも2人には特に目を向けておこう。
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オーライオーライ
オーライオーライ
作業員達が慌ただしく動き回るドック内を数百人を乗せたバス数台が爆走する。
音こそ静かだがその迫力は下手な怪獣映画を上回るガオ〜。
「ヒェえ〜!!」
「気をつけろバカ野郎!!」
「うるせえ玉なしが!!」
また作業員が轢かれそうになった。
怒号を浴びせ合いながら燃料車やクレーン車と作業員の集団、将校の乗った車の隙間を縫いながら進んでいく。
その迫力ある集団の中に不幸にも彼、本作の主人公ルーカス・マクワイヤーがいる。
「暑い、吐きそう。」
「大丈夫?」
彼はエミーの様子を見て心配していた。
高々60シート程度しかない観光客向けのバスに100人以上の図体がでかく汗臭い野郎どもが乗っていて、しかも全員がライフルと数十キロのボディープレート、日用品や数日分の糧食の入ったビニール袋も肩に担いでいる。
「むぎゅ〜。」
見れば僅かにいる女性兵士も潰されそうだ。
彼女の不平不満は時折り口から出るが心配してくれる紳士的な人はいないらしく、エミーを羨ましそうに見ている。
おそらく彼女達を不快にさせているのは野郎どもの話している内容にも一因があることを紳士であるルーカスは認める。
「あの女のアソコの具合は最高だぜ!!」
「あの女性病持っているらしぜ!!!」
「冗談キツいぜ、あの女はキツくなかったけどなあ。ワッハッハ。」
「おいおい、俺のクラッカーを勝手に食べるんじゃない。」
ボリボリ
「食べるなって言ってるだろ!!耳聞こえないのか?この障がい者野郎!!」
「うるせえキチガイ!!てめえ玉蹴り上げて野郎か!!」
「うるせえ!!この腐れババア犯すぞ!!」
どうやら女性も混じっているようだ。
だがどちらにせよ品位は絶望的であり、教会の方々がもし近くにいたら顔を真っ赤にして怒っていただろう。
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ちっぽけな船が見えてくる。スループだろう、戦闘艦艇の中でも最小クラスのものも一つで全長が長くても70m程度しかない。
そんな船が6隻とその後ろに貨物船が6隻。
腐っても戦闘艇であるスループはカラーコーンかアイスクリームのコーンのような先が細く尖ったキツい傾斜のかかった船。
非常にスレンダーで冷徹な印象を与える。
例えるならエミーの裸体のような・・・。
それに対して貨物船はシンプルだ細長い円柱形の居住ブロックの周りに四角い貨物コンテナが入る貨物ブロックが4つ付いている。
その貨物コンテナの隙間からこれまた円柱形のドッキング用と居住ブロックを兼ねたものが上下左右に伸びている。
非常に不恰好でなんとも形容し難い歪な形状のゴツゴツとした船だ。
目的地に着いたようでバスは停車した。
そして車内からワッと人が溢れ出してくる。
エミーとルーカスも人の群れの中にいる。
「急げ急げ馬鹿野郎ども!!」
歩兵中隊の指揮官であるエリーコ中尉が大きく声で部下の歩兵達に怒鳴り散らす。
兵士達は普段キャリーバッグなどを入れておく車体側面の荷物入れから次々と陸戦用の装備、例えば重機関銃や軽機関銃、対戦車ミサイルに軽迫撃砲などを取り出しては船に乗せていく。
隣にスッとライアンが現れる。
「よう、乗り心地はどうだった?」
「最悪だったよ。ソッチはどうしたんだい?バスの中では見なかったけど。」
「そうか、大変だったな。俺たちはエリーコ中尉と車で気楽に来たのさ。」
どうやら士官用の専用車で来たらしい。
ルーカスは全くもって羨ましいと思う。
「いやあ、すまんすまんエミーもお前も士官だから呼ぶべきだったな。すまんすまん。」
まったく彼は上官であることを盾に自分とエミーをいじめてきているのではないか?
そうルーカスは思ってしまう。
単にライアンが忘れっぽいだけかもしれないが。
「ところでエミーはどこだ?」
「あれっ!?さっきまで一緒にいたのにどこかに行ったんだ?」
「エミーならさっき見たぞ。」
ライアンとルーカスがエミーが見当たらないことを話していると、後ろからベルに話しかけられる。
すごく距離が近い。そして彼女の口周りから酒の匂いがする。
「本当か?あと酒臭い。」
「本当本当、エリーコ中尉がお酒出してくれたからね。」
どうも彼らはエミーとルーカスがミンチにされそうなくらい圧迫されていた間にノンビリと座るスペースのある車に乗り、軽食やアルコール類も楽しんでいたようだ。
だが、そんなことはどうでも良い。
「それでエミーは今どこに?」
ルーカスは聞く。
「あっちの方に歩いて行ったよ。ゲーゲー吐いてるんじゃない?顔色悪そうだったし。」
「わかった、ありがとう。」
ルーカスはその言葉を聞くと即座にベルが指し示したバスの影に向かってエミュを助けるために走って行った。
「エミー、大丈夫か?」
「う、ん。ちょっと来ないで。うっ・・・。」
続いてビチャビチャと液体か何かがアスファルトを打つ音が聞こえる。嘔吐したのだろう。
しかし、嫌悪感はない。ルーカスの中では嫌悪感より心配に思う気持ちが上回るのだ。
「・・・。」
「オホッオホッ。ううう・・・、ウッ。」
再び嘔吐の波が来たようだ。
「キッツい、うっ・・・。はあ、はあ。」
その苦しそうな声にいてもたってもいられず、彼女の頼みを無視してエミーのもとに向かう。
視界に入るのは若干涙目になって口元を汚した彼女の姿。
「やっ・・。」
彼女の驚きと、取り繕うような動作と表情を無視して優しく抱きしめる。
ルーカスは彼女の背中を優しくさする。さらに口に水を含むとそのままエミーの口の中に注ぎ込む。
「良くなった?」
「うん。」
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ルーカスは足元に転がっている小石を排水穴に蹴飛ばして遊ぶ。暇で暇で仕方がないためだ。
「あいつらおせえな、遊んでいるのか?」
「そうでもないと思うがね?」
「ああそうだなオッサン・・・、って艦隊司令!?」
ルーカス近くに立っていたオッサンに声をかけられ張り合いのない返答をした際にオッサンのジャケットの襟からはみ出す軍服を見る。
軍服の襟章には艦隊司令のパッチが付いているのだ。艦隊司令といえば上官の大隊長の上の軍団長クラスよりも上だ。ライアンは慌てて姿勢を正し頬に力を込めて表情を厳しくする。止めにかっちりと敬礼をすれば完璧だ。
オッサンの後ろで隠れているベルは口元を押さえてなんとか噴き出すのを堪えようとしている。
「まあ及第点かな。」
オッサンいや、艦隊司令はそう呟くと彼も敬礼を返す。上位者のため敬礼はゆったりとした落ち着いた形だ。
「彼らのことを待ってあげなさい。彼らが来たら出発しよう。」
「ハッ。」
「・・・。」
「・・・。」
気まずい。そうライアンとベルは思った。
するとエミーとルーカスが現れた。
「来たようだな。」
こちらが声をかける前に艦隊司令が声を発する。
眠い
眠すぎる
あと10話目達成おめでとう自分!!




