新たな仲間と旅立ち
少し離れたところで寂しさと嫉妬と喜びと複雑に混ざりあった瞳で我らを見るリトスの耳元で女神が囁く。
「ライバルは更に強敵になったぞ」
そう囁く女神にリトスは首を横に振った。
「ライバルとかじゃないですよ。あたしは二人共大好きですから。ちょっとだけ、そう想える相手がいるのが羨ましかっただけです」
晴れやかな笑顔で女神に笑いかけるリトスに女神は寂しげに笑う。
「そんな、そなたらが私は羨ましい」
「それなら、女神様も一緒に行きましょうよ」
名案だと言わんばかりに弾んだ声を出すリトスに我は神の立場を教えた。
『リトス、それは出来ない。神々は直接地上に関与することは許されないんだ』
「そんなぁ」
しょんぼりと肩を落とすリトスと女神。我とて良くしてくれたこの幼い女神の希望を叶えてやりたいが、それは出来ない。何か案はないかと皆で考えていると妙案を思いついたのかコキネリが口を開いた。
「神の造物であるわたしとクーの目と耳は創造主とも繋がています。ですので、女神もご自身の目と耳になるものをお造りになられてはどうですか?」
「それは名案だ」
即、コキネリの案を採用した女神は棚から銀色の砂を取り出すと自身の手の甲をつねり、無理やり流した涙を一滴、砂に垂らした。瞬く間に砂は兎の形になって固まり、兎の口に女神が口づけをすると銀色の砂の塊だった兎にさわり心地の良さそうな薄水色の体毛が生える。
「目を覚ませ」
女神が指で軽く小突くと閉じていた兎の目が開き、銀色の瞳が顕になる。
「おはようですぅ、私」
目を覚ました子兎が女神に挨拶を返すと「うむ、上出来」と女神は満足げに頷いた。女神は作り上げた造物に自我では無く自身の精神を分け与えたようだ。
「そなたの名前はルナだ。地上に出れぬ私に代わってその身で感じたことを伝えて欲しい」
「了解ですぅ」
そう言い、ルナと名付けられた子兎はピョンと女神の手から飛び降りると、髪色が銀髪ではなく薄水色と頭に兎の耳がある以外は女神と瓜二つの少女の姿になった。
「これからよろしく頼む」
「了解なのですぅ」
晴れやかに笑い応える少女、ルナを大歓迎するリトスとコキネリの女性陣に対して、我は胃などないのに胃痛がしてきた。
「これから世話になる選別だ」
女神が我に手を翳すと頭部、胸部、腕、足に銀色の追加装甲が付けられ、槍にも柄の部分になにかの魔術が掘られた。
「これでルナも守ってほしい。あやつは食う寝る遊ぶしか出来ぬからな」
あぁぁぁ、胃痛の元はこれだったのか。リトスは大丈夫として、コキネリとルナのこの先のことが思いやられる。それでも任されたのだから応えねば。
『承知いたしました』
恭しく一礼する我に女神は満足げに「頼んだぞ」と笑って応えた。
転移陣で迷宮の入口に戻った我らを待っていたのは大勢の探索家たちとピリアの姿だった。その中には子供達を探しに行った晩に出会った顔ぶれもある。
「お前さん達も無事で何よりだ。頼まれた子供はちゃんと教会に送り届けてきたぞ」
子供達を託した角刈りの男性が安堵の笑みを浮かべながら我らに歩み寄ってくる。
「で、攻略は出来たのか?」
単刀直入に本題に入ってくるのは好感が持てる。リトスが男性に左腕にはめた腕輪を掲げてみせた。
「おぉ」
感嘆の声が男性の口から漏れる。リトスの腕輪には迷宮の名が刻まれた宝石が二つ輝いていたからだ。一つは黄金の宝物殿、もう一つはこの迷宮、銀月の書庫。
「ほお、この迷宮の名は銀月の書庫って言うんだな。で、中はどうだった?」
先輩攻略者に助言を乞う男性探検家にリトスは真剣な面持ちで答える。
「毒消しと火起こしだけは絶対に切らしちゃだめ。後、防毒マスクがあれば攻略できるかもしれないわ」
「そうなのか助言ありがとう」
そう言うと男性はリトスに一礼して仲間のもとに戻っていった。
「あぁは言ったけど、クリューソスのおかげなんだけどね」
『そうか?』
最下層の迷宮主も皆で頑張ったと我は思うんだがな。あぁ、そう言えば女神に伝え忘れていたことがあった。
『ルナ、銀月の女神に伝えて欲しい事がある』
我が頼むと「なぁに?」と気の抜けた声でルナが返事をする。
『十層の階層主、アレの弾力は人族が破るにはありすぎます。攻略させるつもりがあるならもう少し弱体化しないと攻略者が現れなくなります』
我の言葉にルナが耳を立てて驚く。
「そうだな。そなたの半分の力も人族はないのだからな。改良しておこう」
我の助言に耳を貸してくれた女神に感謝だ。まあ、人族の中には我より強いものなど結構いるのでそのうち次の攻略者が現れるだろう。迷宮とは創造主と挑戦者の知恵比べ。神々はそれもまた一つの楽しみにしているのだから。
探索者の人垣の中から我らを発見したピリアが手を振り我とリトスの名を呼びながら駆け寄ってくる。
「二人共無事で何よりです。所でそこのお二人は?」
人の姿になったコキネリと初めて見るルナをピリアは不思議そうに見つめた後、我の肩の上にコキネリがいないことを不審に思った彼女は我に尋ねた。
「クリューソスさん、コキネリちゃんは?」
聞かれるのは当然だ。ルナの隣に立っているのが金色のテントウムシだったとは誰が想像できようか。
『あぁ、そこの金髪褐色の少女がコキネリだ』
驚き目を丸くするピリアに初めて会った時と同じ様に
「コキネリって言います。宜しくねピリアさん」
と変わらぬ声でピリアに話しかけた。驚きながらも全く同じ声にコキネリの無事が確認できて安堵するピリア。コキネリの事が分かると次に気になるのは水色の髪の幼女。
ピリアが視線をルナの方に向けるとその肩を抱きながらリトスが紹介を始めた。
「この子はルナ。両親と一緒に迷宮に来たんだけどはぐれちゃったのをあたし達が保護したの。残念ながら両親は見つからなかったから親戚のところまで送り届けるつもりよ」
予め聞かれた時に作っておいたルナの紹介文をリトスは淀みなく言い終える。それを信じたピリアはルナを不憫に思ったのか優しく頭を撫で励ましの言葉を送った。
「大変だったのね、ルナちゃん。でも、これからは大丈夫よ貴女にはリトスやクリューソスさんやコキネリちゃんもいますからね」
ピリアの言葉にルナとコキネリが首肯する。
「出発前にピリアに会えて良かった。……行ってくるねピリア」
ぎゅっとピリアに抱きつくリトスをピリアも抱きしめ返す。
「行ってらっしゃい。たまには教会にも顔を見せてね」
うんと頷き返すとリトスは身体をピリアから離し背を向け振り歩き始めた。その背を追う我らに「みなさんも気をつけて」とピリアの気遣いの言葉が送られた。
「次はどこの迷宮に行こうか?」
先頭を歩くリトスが我らに問う。
『我、今は等級一番下だから高難易度は入れないぞ』
「あ、そうだった。それにコキネリの探索家登録もしないとね」
「それより、ルナはお腹が空いたのですぅ」
「わたしもお腹すいた〜」
「それじゃあ、まずは街で腹ごしらえだね」
賛成とコキネリとルナが元気に手を挙げ、話し合いでもないただ賑やかな会話を交わしながら我らは一番近い街へ足を進めた。
これは冒険の始まり。
これからどんな冒険が我らを待ち受けているのか?
いずれその時が来たら皆皆様、我らの冒険をご笑覧あれ。
−おしまい−
ここまでお読みいただきありがとうございます(*´∀`*)
物語ってどうしても最初にイメージした通りに進むことって少ないですが、出来上がったものには満足してます。
おまけで初期プロット載せて起きますので現在との違いを楽しんでくださいませ。
メッキ仕立ての宝物庫番
迷宮とは神が戯れに地上に作りだした人類に試練を与える遊技場であり、最奥にまで到達し、宝物庫の番人を打倒したものには宝物庫にある、人知を超えた宝物をいくつか持って帰ることが許されている。
最下層の守護者(名無し)
迷宮の宝物庫の扉を守っている。倒すと宝物庫の扉が開く。一度倒されると暫くは復活しない。いない間はどんなにやっても扉は開かない。復活するのは大体1日から2日くらい。
金色のリビングアーマー:クリューソス.
迷宮の最奥にある宝物庫の真の番人。チート級宝物、全ての願いをかなえる金のテントウムシの守護者。一人称我。基本強そうに見えないし、そういう風に見えないように軽い調子で喋っている。金色なのはメッキで本来は七色に輝く地上にある物質ではけして傷つけることの出来ない神の金属で作られている。
金のテントウムシ:コキネリ.
どんな願いもかなえられるチート級の宝物。ただし、自身たちに関係する願いは叶えることが出来ない。
盗賊の少女:リトス.
ある攻略パーティに雇われ最下層まで来たが、裏切られ宝物庫で刺され、取り残される。鑑定眼(物の良い悪いが分かる。大成した商人のほとんどが持っている神からの贈り物)を生かした盗賊家業をしているが、稼いだお金は孤児院に入れている。
最初の攻略者:クウァエレ
リトスの高祖父。迷宮黄金の宝物殿の初の攻略者。
迷宮最下層に攻略組のPTが来る。宝物庫番のクリューソスが出迎えるがあっさり無視され、宝物庫の宝に群がる。
宝に群がる攻略組を余所にクリューは刺された少女を発見する。刺されて倒れていたのは攻略組に雇われた盗賊の少女。
少女は契約金を払いたくない欲にかられた攻略組に抹殺されそうになってた所をクリュー達に救われる。
救ったのと引き換えにクリュー達は少女に迷宮の外に一緒に出るように願うようたのみ、無事迷宮から脱出する。
迷宮から少女のすむ孤児院にいくとシスターらが温かく受け入れてくれる。
年下この孤児院からの冒険者になった少年少女のPTがまだ戻らないことを言われる。
迎えに少年たちが向かった迷宮に行くと、物々しい装備の国軍の兵士が迷宮入口を封鎖していた。
話を聞くと狂暴なモンスターが出現したとのことで上級冒険者が調査に向かっているから入らないようにと言われる。
話を聞いている間に上級冒険者が命からがら迷宮から脱出してくる。その冒険者は盗賊少女を指したPTだった。国軍の兵士が迷宮内に少年少女の冒険者がいなかったか確認すると見捨ててきたと答える。
見捨ててきたことに怒る国軍の兵士の脇を潜り抜けてクリュー達は迷宮に潜る。コネキリの能力で最短で少女たちの元に到着し、間一髪で救出が間に合う。
救出した少女たちを迷宮の外にコネキリの力で送り届けると、迷宮に沸いた狂暴なモンスターを倒しに迷宮のさらに奥に潜る。
最下層の狂暴モンスターと激闘の末討伐に成功する。
この迷宮には宝物庫はなかったが、代わりにコキネリにどんな願いをかなえてもらえる権利をリトスは得る。
リトスが願いを考えているとクリューとコキネリが透けていく、もといた迷宮に強制送還されそうになる。リトスは考えた末、願いをクリューソスとコキネリと旅がしたいという。
クリューソスらの権能は人に近づくほど減退していく。
感情の喜怒哀楽を得ることで4割減、プラス嗅覚味覚獲得で2割減、睡眠食欲性欲で3割減、人の姿をとるですべての権能が失われる。
クリューソスは感情のみなので権能は6割保持、コキネリは感情、感覚、睡眠と食欲で8割の権能を失っており、ほぼ至宝としての機能を失っている。現状は上位魔法が使えて、ちょっとした願いを叶える(ご家庭通販程度)くらいの権能しか残っていない。