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黄金の宝物庫番

 一面金色に彩られた黄金の宝物殿の最深部にはこことは似つかわしくないパリ、ポリと言う揚げ菓子をかじる軽い咀嚼音が響く。

 音はこれまた宝物殿とは趣の異なる黒革の長椅子に透明な板を片手に腰掛ける黄金の騎士鎧の隣に座る、手のひらに収まる程度に大きい“黄金のテントウムシ”から発せられていた。


「あら、探索者なんていつぶりかしら……パリポリ」


 器用に薄く切られた根菜や芋を揚げた菓子を前脚で掴み口に運びながら喋るテントウムシの口からは鈴の音のような澄んだ少女の声が流れる。


『半年、いや一年ぶりか……』


 透明な板から視線を外し、金色のテントウムシもとい、この黄金の宝物殿の至宝に視線を向ける。


「そっか。昔は毎日ひっきりなしに人が来てたんだけどね」


 淋しげに視線を落とし、菓子を掴む手が止まる至宝に掛ける言葉が見つからず思わず口を噤んでしまった。




 迷宮の誕生とともに我らは創造された。至宝はどんな願いも叶えるという、まさに至宝と呼べる存在だった。我はその至宝を悪しき者から守る守護者として創られた存在。

 どんな願いもかなうと、その噂に迷宮が出来た当時は多くの探索者が押し寄せてきていたが、なかなか我らのいる最下層の宝物殿へ至るものは現れなかった。

 それでも我らは待ち続け、やっと攻略者が現れたのは我らが創られてから200年が過ぎた頃だった。

 最初の攻略者は溌剌とした人族の赤髪の青年。なんと彼はたった一人でこの黄金の宝物殿を攻略した。それに我らの主はたいそう喜び、主自ら彼の願いを1つ叶えるとまで言われた。そんな彼の望みは至宝とその守護者である我と共に探索に出ると言うものだった。

 最初、主は至宝と守護者が迷宮を空けるなどと渋ったものの、一度言った手前翻すのもと最終的には彼の望みを受け入れた。こうして我らは迷宮の外へと出ることとなった。


 彼は主が我らに与えてくれなかった様々なものを与えてくれた。その一つが名前だった。至宝にコキネリ、守護者の我にはクリューソスと。

 彼が与えてくれた感情《喜怒哀楽》、感覚《痛覚、嗅覚、味覚》、欲求《食欲、睡眠欲》は我らの虚無だったものに心を温もりを与えてくれた。しかし、我らは神に創られしもの。人に近づくほどその能力は失われていく。感情を感覚を得たことで我は能力の半分をコキネリに至っては九割を失った。

 一割しか能力を持たない至宝はもう至宝とは呼べない。こうして至宝は失われた。

 それが何だというのだ。能力があろうがなかろうが関係ない。我はどんな時でも至宝の、コキネリの守護者。


 彼と共に様々な冒険を行った。そのどれもが忘れられない思い出になり、生まれてきて初めて楽しいと思った。

 しかし、それも長くは続かなかった。彼が人生の幕を下ろすのと同時に我らは迷宮へと戻された。これは最初から定められていたこと。彼の死とともに彼の願いは消失したのだから。

 彼が最後に残した「いつか俺の子孫が来たらまた一緒に冒険に出よう」という言葉を胸に刻みながら今日も我らは迷宮の最下層でその日を待ち続けている。

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