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攻略者と女神

 我の前に広がるのは宝物殿とは似ても似つかない風景。ここはどこだ?我はどうしてここにいる?

 次々と湧いて出る疑問は眼前の奇妙な白い竜のような怪物にかき消された。


 何があってもあれだけは倒さなければいけない。その想いだけが胸の奥で燃え盛る。


 握る槍は黄金に輝き、更にその上から七色の光を纏い、我の身体も同様の輝きを放っている。


 我の放つ輝きに目を細める竜もどき。この隙を逃すまい。


 槍を構え、ガラ空きの胸部に向かって突きを放つ。光を纏った槍が竜の胴体の半分を抉り、核を消し飛ばし、背後の石壁を深く穿った。

 小さな丘ほどもある巨体が粒子となって消えていく。

 竜もどきがいた跡には人族の頭部ほどの魔石と薬液の入ったガラス瓶が転がっていた。


「やったー!」


 我の内から少女の声が響いた。

 装着を解除すると我から少女が放り出される。放り出された少女は数度たたらを踏んで立ち止まると我に向かって笑いかけた。


「凄いよ、クリューソス。あの茸竜を一撃で倒しちゃうなんて」


 凄い凄いと暫くはしゃぐ少女が視線を移すと輝く扉が出現したのを目撃する。


「宝物庫の扉が出現したよ、行こう」


 満面の笑みを浮かべ我の手を引き扉へ向かおうとする赤髪の少女。クリューソスとは我のことなのか?


 肩の上の至宝によく似た能力を殆ど感じない金色のテントウムシが悲しげに「クー、貴方は全てを……」と呟いた。



 宝物殿の床は一面銀色の輝きに包まれ、左右前方の三面の壁には天井まで埋め尽くすほどの書物が収められた本棚が並び、入口に面する壁に接する棚には様々な色の薬液が詰められた瓶が整然と並べられている。

 宝物殿の中央には絹のような滑らかな銀髪を揺らしたまだ幼い少女が上機嫌で我らの方を見つめていた。少女のように見えるがあれは女神ではないか。


 その場で跪き頭を垂れる。我を見て慌てて赤髪の少女とテントウムシも我に倣い膝を付き頭を垂れる。まだ距離があるのに女神の声は直ぐ側で話しているように鮮明に聞こえた。


「うむ、礼儀を弁えているようで何より。顔を上げ、私の元に来ることを許そう」


 女神の要望に我らは触れられるところまで歩み寄りそこで止まり、小さな女神を見下さないように跪いた。


「良くぞ、この銀月の迷宮を攻略した」


 満面の笑顔の女神が近い。


「初めての攻略者であるそなた等にこの私自ら一つ願いを叶えてやろう。何が望みだ?」


 嬉しそうに回答を待つ女神に我の答えは決まっている。


『銀月の女神に叶えていただくような願いはございません』


 我は守護者というモノ。モノには欲望など、願いなどない。感情のこもらない冷たい我の声に女神は冷水を浴びせられたかのように呆然と立ち尽くしていた。


「そなた、教会で会った時と雰囲気が違くないか?」


『女神とお会いするのはこれが初めてです』


 我の答えに女神の目に涙が浮かぶ。


「最下層で会うのを楽しみにしてると言ったではないか……」


 そんな約束をした記憶はない。彼女らが想定していた反応を返さない我に不安げな視線が集まる。


「クー、やっぱり貴方、能力と引き換えに全てを創造主にお返ししたのね」


 両目から雫を零すテントウムシの言葉に女神と赤髪の少女が目を見開いた。


「本当なのか?」


「本当なの?」


 女神と少女に詰め寄られても我には返す答えが見当たらない。


「それが本当なら、ねえ、女神様。叶えてもらえる願いはあたし達で一つ?」


「そうだ」


「じゃあ、あたし達の願いは一つよ」


 少女とテントウムシが一緒に頷くと声を合わせて女神に願った。


「「黄金の宝物殿の守護者をあたし達の知っているクリューソスに戻して」」


 女神は直ぐには答えず、目を泳がせ、モゴモゴと口を動かす。


「そのモノは兄上の、金色の太陽神の創造物。いかに同じ神であれど他の神の創造物に手を加えることは禁じられている。……私には無理だが、兄上に聞いて見るから待っておれ」


 そう言うと女神は姿を消し、暫くして戻ってきた女神の顔には笑みが浮かんでいた。


「そなたら喜べ、兄上の許可が降りたぞ。ほれ、そなたも早く兄上の元に行け」


 そう言う女神の顔も他の二人と喜びの笑みを浮かべている。女神に急かされ我の意識は創造主、金色の太陽神のもとに送られた。

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