神からの贈り物
迷宮。それは神が創りし娯楽の箱庭。人類への試練でもありそれを乗り越えたものには到底人類が手に入れられないような物品、技術、知識などの報奨が与えられる。そのため、迷宮は人類にとって魅力的な贈り物でもあった。
そして、今日もまたどこかで人類は神からの贈り物を求め迷宮の試練へと挑んでいく。
迷宮、黄金の宝物殿。その名の通りこの迷宮を攻略したものには巨万の富が与えられるとされている。事実、その富を求め人が集まり、いつしか迷宮の周りには街が出来上がっていた。このように迷宮を中心として出来た街は迷宮都市と呼ばれ、この世界の多くの都市が迷宮と共にあった。
黄金の宝物殿と共にある都市、アイレア・イッラもその一つ。
都市の中央に据えられている馬車一台が優に通れるような大きな迷宮の入口には通行証がなければ開かない大きな扉が設置されており、誰でも簡単に迷宮に潜ることが出来ないようになっている。
ただ、通行証発行はそこまで難しいものではない。試験を受け探索家組合に所属し、申請すれば発行してもらえる程度のもの。この程度のことが出来ないようでは怪物の蠢く迷宮に挑んでも死にに行くだけという単純な線引でもあった。
今、迷宮の前には装備の整った数人の男女が通行証を手に扉の前に立っている。
「行くぞ、野郎ども」
先頭に立つのは金属製の軽鎧に身を包んだ少しばかり品性が欠ける短髪の青年。彼は後ろに立つ似たような面持ちの軽重鎧装備とローブ装備の青年達と一人だけ軽装でいる盗賊のまだ幼さが残る赤髪を肩で揃えた少女に声をかける、と同時に青年達は各自、扉に通行証を押し当てた。
ジャリジャリジャリと地面を削りながら両開きの扉が開くと暗い洞窟が口を開き、探索者を誘うように奥へと等間隔で蝋燭が淡い光で通路を灯している。蝋燭の炎に惹かれる蛾のように迷宮に誘われる探索者達。彼らはどんな物語を主に観せてくれるのだろうか。