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三題噺もどき2

救いの

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくはち。

 


 毎日、毎日……。暑すぎて嫌になる…。

 なんでこんなに暑いんだよ……。

 異常気象もいいところだ……なんにでも限度というものはあるだろ。

 人間様の自動自得かもしれないが、やりすぎだ……。

 いくらなんでも、毎日こうあついと……。

「……」

 しかし、その暑さでも外には出ないといけない。

 できることなら、家に引きこもって、冷房の効いた部屋で、怠惰を味わいたいぐらいなのだけど。

 そうは問屋が卸さない、というわけで外出中。

 ……ま、正直大学生だから、さぼろうと思えば、さぼってしまえばいいんだけど。

「……」

 一応、学費を払ってもらっている身なので、家にいる方が肩身が狭い。

 し、通っている学校はまぁ、それなりに。通うこと自体は、今のところは楽しんでいけているので、苦ではないし。

 その過程が、苦しいし暑いしで、辛いだけであって。

 それを耐えてしまえば、まぁ、なんとかなるにはなる。

「……」

 ぎゅうぎゅうと、押されながらも、何とか持ちこたえた電車を降り、外を歩いている。

 アスファルトが多いところは、熱の反射かなにかで、余計に暑くなるんだっけ。なんていうんだ……何とか現象。

 だから、田舎より都会の方が最高気温が高かったりする。

 個人的には、田舎と都会というより、北と南でみて、今までは南の方が高かったのに北の方が高いって感覚に近いと思わなくもないんだが。何を言っているのか分からん……。

 朝のニュースを見て、南の方の気温と北……というよりはやっぱり都会か。国の中心のあたりの方が、気温がたかいんだなぁと思ったことがある。

「……」

 しかし、今日は異常だな……ホントに…。

 暑い上に苦しい。

 汗のかきかたが、自分でもおかしいと思う程に異常だ。

 普段こんなに汗かきではないのだが……体中の少ない水分が根こそぎ奪われていく感覚がする。

「……」

 んー。心なしか頭痛もするんだよなぁ。なんだろう。

 暑いからと思って水分補給なんかはこまめにしているつもりだったんだが……。

 あぁ、違う。

 今日は飲み物もってきてないんだった。

 朝バタついてしまって、準備している時間がなかったのだ。

「……」

 自覚すると、痛みが増していくのは何なんだろうな?

 頭痛いなぁと、思い始めたあたりから、痛みが酷くなっている。

 もともと、偏頭痛もちではあるが(とはいえそんなに酷くはない)、これはなんか、種類が違うというか……なんというか……ひたすらに痛いし、気持ちが悪くなってくるし。

「……」

 やばいなぁ……これ。

 歩いていると危険な気がする。

 痛すぎてろくに思考が回っていない気もするが、歩くのがやばいというのははなんとなくわかる。

 ……が、ここで立ち止まっても邪魔になるし、今朝寝坊したから、授業の開始時間が迫っている。さっさと行かないといけないのだ。授業に遅れるのだけは、自分の中では絶対にNGなので、それだけは避けたい。

 なぜか、遅れた瞬間に、よくわからない罪悪感のような不安感のような、そんなものに襲われてしまう。そっちの方が精神的にきつい。

「……ってもな…」

 とはいえだ。

 とはいえ、ホントに、これ以上は危険な気がするのも事実で。

 せめて水分でも手元にあればしのげたかもしれないんだが、そんなものはない。

 ―今思えば。

 朝起きた時点で、若干の違和感はあったのだ。体調というか、なんというか、何かが本調子手はないような気がしていた。それでも無視して、この暑さの中に、あの満員電車の中で来たから、悪化させたのかもしれない。

「……」

 なんとか、学校にだけは着こうと、必死に歩き。

 どうにかこうにか、校門をくぐることはできた。

 後は、近くの自販機にでも―

「――ぁ」

 そこで限界が来た―らしい。

 自分でも何がどうなっているのか全く分からない。

 突然、視界が傾いて、足から力が抜けて。

 近くを歩いていた人に当たり、それが支えになったのか、倒れこむことはなかったが。その場に崩れ落ちるようにして、ぺたりと座り込んでしまった。

「――」

 あーやばいなホントに。

 視界がおかしい。

 頭が痛い。

 冷や汗のようなものがすごい。

 立ち上がろうにも力が入らない。

「――」

 どうしよう。

 こんな所にいたら。

 邪魔になってしまう。

 こんな所に。

 それなりに人通りはあるのに。

 こんな所で。

 座り込んでいたら。

 こんなところで。

「――」

 どうしよう。

 どうにかしないと。

 また。

 どうしよう。

 どうしよう。どうしよう。

 どうしようどうしようどうしようどうしよう―――



「――だいじょうぶですか!?」

「――――っ!?」

 はたと我に返り、混乱がとまる。

 吐き気と頭痛のせいで呼びこされたものが、ぐるぐると渦巻いていたものが。

 その声によって。

 救われた。

 痛みと吐き気は治まらないけど。

 よくない思考は止まった。

「――ぁ…?」

「大丈夫?」

 許される限りの緩慢な動きで、うつむいていた顔を上げる。

 最初に気づいたのは、柑橘系の柔らかな香り。何だろう……蜜柑っぽい。甘い、あの可愛らしい橙色の果実のような香り。こういうのってゆずとかが多そうなのに。

「――」

 次に目に入ったのは、不安にゆがんだような顔。心底心配しているのだと言うように、苦しそうに覗きこんでくる彼女の顔。慰めるように、気遣うように、そろりとこちらをうかがう彼女。

「……これ、少し濡らしてあるので」

「……ぁ、ありがとうございます」

 そろりと、差し出されたのは、蜜柑の柄の入ったハンカチ。

 蜜柑すきなのかなぁなんてことを考える。

 掌に受けたそれは、ジワリと熱を奪い、冷やしていく。

 それだけでも、かなり楽になった気がした。

「あと、お水も、」

「……」

 軽く会釈をしながら受け取る。

 清廉とは彼女の事を言うのだなぁ…と、頭の片隅で思いながら。

 まだ痛みはするけれど、それでも目の間に現れた彼女のことで。

 頭の中はいっぱいだった。




 お題:蜜柑・慰める・清廉

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