表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくみくんと夏  作者: 茶野森かのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

たくみくんと夏11


「あ、あなた達、何なんですか!警察呼びますよ!」


匠海を支え毅然と対応したいが、いかんせん金属バットで殴り込みに来た青年に会うのは初めてだ。心臓が恐怖で今にも壊れそうだが、匠海を前に弱音を吐いてなんていられない。自分は彼より年上だし、何より彼はここで、ずっとキヨエを守ってくれていた。


「どうぞどうぞ、警察でも何でも呼んで下さいよ!」


そう言いながら、男の一人がバットで固定電話を叩きつけた。貴子は思わず悲鳴を上げた。こんな暴力にあった事がない。


「お姉さん、僕達はこれでも被害者なんですよ」

「…え?」

「こいつさえ居なきゃ、俺達は警察に捕まる事も無かったんでね!」


言いながらテーブルを蹴り飛ばされ、貴子は悲鳴を上げて頭を抱えた。


「や、やめて下さい!これ以上店を壊さないで!」

「じゃー僕達にそれ相応の事して貰わないとー」

「な、何を」

「慰謝料頂きたいなー。まさか、こんな田舎に居ると思わなかったからさー、探すの苦労したんだよ」

「そ、そんな、彼が何したっていうんですか…!」


一人がしゃがみ、貴子と目線を合わせてくるので、貴子は怯えて身を引いた。


「ずっと仲良しだったのにさー、ばーさんの鞄ひったくった時邪魔しやがってさ」

「え、」

「あれのせいで大変だったんだよねー。金は無いわ警察に捕まるわでさー、匠海君は上手く逃げてたみたいだけどー」


思わず匠海に目を向けると、彼は心当たりがあるのか視線を逸らしたまま、何も言わない。


「だからさー、仲間裏切って一人だけ楽しようとか、ふざけんなって話じゃない?」


にこりと笑って、男は貴子の肩を押し退け、後ろの匠海に腕を伸ばす。


「ま、待って!やめて!」


貴子は咄嗟にその腕を押し退け、匠海の前に体を入れ、匠海を背に庇った。


「邪魔したって事は、匠海君、鞄取ってないんだよね?」


え、と、貴子の背後で匠海が小さく声を上げたのが聞こえたが、貴子は振り返る事なく言葉を続けた。


「匠海君のお陰で、ひったくり失敗したんでしょ?そういうの逆恨みって言うんです!うちの大事な…か、家族に手を出さないで!」


過去に何があろうが、貴子は今の匠海しか知らない。匠海はキヨエの大事な店を守ってくれている、キヨエを側で支えてくれている、それは最早家族も同然だ。


そんな貴子の背中を、匠海は呆然と見つめている。言葉では威勢よく言っているが、貴子の背中は小さく震えていた。必死に恐怖を飲み込んで、それでも貴子は、目の前の男達から目を逸らしはしない。


だが、状況は変わらない。目の前の男達が貴子の発言に怒りを覚えたのは、言うまでもない。


「お姉さーん、今の状況わかってるー?」


床にバットが振り下ろされ、響く金属音に貴子はびくりと震えたが、それでも貴子は匠海の前からどかなかった。


「あ、あなた達こそ、こんな事してどうなるか分かってるんでしょうね!」

「ハッ!あんたに何が出来るって言うんだよ!」


いよいよ自身目掛けて振りかざされるバットに、貴子は覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った。


「やめろ!」


しかし、匠海も黙って見ていられる訳がない。すかさず匠海が貴子の前に飛び出すと、貴子ははっとして顔を上げた。


「ダメ!」


ガッと鈍い音がして、貴子の前に立ち塞がった匠海が、バットを左腕で受け止めたのが分かった。貴子はその姿に、顔を青ざめさせた。匠海に怪我を負わせてしまった、自分なんかを庇ったばかりに。貴子は、どうして上手く立ち回れないんだろうと、自分を責めて悔やみ、匠海の優しさに胸が苦しくなる。

だが、バッドは再び振りかざされる。今度こそ、匠海を守らなくてはと、貴子がその体に飛びかかろうとした、その時だ。


「なんだ、お前!」


そんな声が聞こえたと思ったら、どういう訳か、後ろに居た二人の男が、次々に悲鳴を上げて倒れていった。

バットを振り上げた男が何事だと振り返ると、店の入り口に、大柄な男が立ち塞がっていた。貴子はその人物を見留めると、ホッとして表情を緩めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ