援軍 〜後方のバラン〜
「魚雷命中!全弾誘爆!音響が不鮮明です」
「大鯨、迅鯨!全速潜航急げ!」
エンジン音を拾いにくい魚雷爆発音に紛れ包囲網を脱する作戦だ。
「音響魚雷発射!キロには悪いが、もう少し耳を塞いでもらうぞ!」
「両艦、第一次包囲網突破!反転します」
雷撃戦はひとまず終結。全員がひとまず胸を撫で下ろした。
「ソビエツキー中央部に高エネルギー反応!敵砲、発射態勢に入りました!」
白く光る艦体の中央に光が集中する。
光の粒は渦を巻き、集約される。
「目標集約物、判明しました!プラズマを分解して巨大なエネルギーを作り出しています!」
「全艦散開!照準を集中させるな。プラズマ中心に光学砲をぶち込め!」
プラズマを貫くことでエネルギーの増大を阻止しようとしたのだ。
しかし…
「ダメです!こちらの砲撃では歯が立ちません!」
「目標、エネルギー圧縮!巨大エネルギー、来ます!」
「最大戦速!回頭!」
直後、2秒前まで金剛がいた位置の海水が蒸発した。
「なんて奴だ……あんな物一撃でも喰らってみろ、ひとたまりもないぞ」
しかし全艦がソビエツキーの周りを回ったため、180度曲がり切った金剛と榛名が激突してしまった。
しかも運悪く、同方向を向いていた砲身が絡みすぐには動けそうもなかった。
そしてソビエツキーは容赦なくそこを狙う。
「まずい!早く離れろ!」
「無理です!両艦全速力で後退しています!」
ギリリ•••と砲身が擦れて火花をあげた。
そしてそこにエネルギーが放たれた…
聖ジョージの聖域を発動。魔術防御
ギィィィィ
弾かれたエネルギーは大きな閃光を放ち消滅した。
しかし問題は魔術防御で金剛たちを守った艦…
「イギリス海軍超弩級戦艦センチュリオン⁉︎なぜここに」
「この艦は日本の技術提供によって完成させたからな。借りは返すぜ」
「聖ジョージ……イギリス清教必要悪の教会固有の対魔術防御結界か」
「ということは向こうには術者が…?」
「聞いたことはある。こちらの火炎系能力レベル10をはるかに凌駕する聖火が必要悪の教会の最大術者として存在する、と」
背後から近づく大きく、しかし細い影
「まさかこの僕が、聖火ごときの術者だと思うなよ。ま、それはさておき問題はルシフェルだ。どう考えたって最上級天使にこの程度の科学艦隊や術者が太刀打ちできるはずがない。何か切り札でもあれば…」
「必要悪の教会⁉︎いつからこの艦に?」
「ついさっきだ。しっかし、あの様子じゃいつやられてもおかしくない。聖ジョージの聖域もいつまで保つか不安だし、僕が足止めできるのはせいぜい2時間かそこらだ。バチカンに『グレゴリオの聖歌隊』を召集しても間に合わないだろう」
「グレゴリオの聖歌隊•••3333人にも及ぶ修道士達をバチカンという世界最高の霊地に建てられた聖堂に集め、 聖呪を集積することにより魔術の威力を激増させて放つことで、 天上より何千何百にも束ねられた赤き火花が融合した強大な紅蓮の神槍が振り落ち貫いたモノを破壊し尽くすというローマ正教の最大級霊装か」
「3333人⁉︎そりゃ、時間もかかりますね」
「ちなみに前回の発動時は133時間、つまり5日以上かかったらしい。しかも今回使用するとなれば、こちらから必要悪の教会に話を通し、イギリス清教の総意として決定してからバチカンに要請。そんでもってローマ正教141人の枢機卿の審査を通した後ローマ教皇の許可も取らないといけない。少なく見積もって7日だな」
「間に合うわけねぇだろ。こっちはいつ防御が突破されるかもわからんってのによ」
「聖ジョージの聖域はもって20時間、僕の術式で2時間程度だ」
「ちょっと待て、お前は必要悪の教会の最大術者なんだろ?それが2時間だけなんて…」
しかし、ハァ とため息をついたのは必要悪の教会の方だった。
「僕の魔術は攻撃魔術。その攻撃も最上級天使に通用するわけがないだろう。いくら神の右席といえど、な」
「神の右席?あぁ、世界最強の四大術者のことか。でも1人は不在という話だが?」
「あぁ、前方のスフィナル・左方のマティル・後方のバランは確認されているが、一番重要な『右』がいない。ローマ正教の見解では、そいつが神と同等の術力をもった『神の如き者』すなわちミカエルでありルシフェルに対抗し得る唯一の術者だそうだ」
「神の右席のあと二人は来ないのか?」
「マティルがやったさ。魔女狩りの王で攻撃しても効果なし。返り討ちに遭って治療中だよ。スフィナルは腰抜かして霊装管理をしている」
ま、僕はそんな無謀なことしないけどね。とバランが言ったところで第二射が聖ジョージの聖域に直撃した。
「まずいな…今にも崩れそうだ。奴はルシフェルの模擬形態、つまり無理やりリンクさせているだけとはいえ 光学砲のエネルギーの2、30倍は必要だな」
「待てよ?そのくらいのエネルギーで良いなら、大和で作れる!バラン、希望が見えてきたぞ。もう間も無く建造が完了する頃だろうから、あと少し妨害してくれ!」
「なら、この艦隊を借りるぞ!全艦リンク!術陣形成」
「僕の術式は聖火ではない。
世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ
それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり
それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり
その名は炎、その役は剣
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ
MTWOTFFTOIIGOIIOF
IIBOLAIIAOE
IIMHAIIBOD
IINFIIMS
ICRMMBGP
邪悪を罰し、闇を焼き殺せ!火葬神殿!」
艦隊から放たれた光は無数の十字架となりソビエツキーを収容するように神殿を形成する。
そして十字架の交差した部分から炎の剣が突き出し、360°全方位からソビエツキーを焼き尽くす。
しかし数十秒後、神殿はパリン と軽い音を立てて崩れた。
「まだまだぁ!火葬神殿、大型文字札!」
今度はソビエツキーを貫通し巨大な十字架が海上に立った。
この十字架はソビエツキーから半径200mの海水を蒸発させた。
そして子の炎の十字架は函館からも目視できた。
「これが火葬神殿!
空よ、炎に染まれ
地よ、灰塵に帰せ
水よ、大気へ散れ
それは我が神に与えられし唯一の炎剣なり
その十字教の象徴、十字架に魅せられし炎の光は自ら形造り
それは十字の神を裏切りし者に、その代償となる
それは天罰を与える極道の手段
炎は信徒の憎しみと化し、剣を振り上げる
その名は炎、その役は剣
顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ
地に堕ちた者に天罰を!天上に昇りし者に祝福を!」
巨大な神殿が再構築され、十字の形となった炎の剣は大気圏外から飛来
ソビエツキー中央に突き刺さった。
そして術式が終了した時、ソビエツキーの艦体は真っ二つに引き裂かれていた。