スペツィエル
キィィィィ
自動運転のリニアレールは無事、本部へと辿り着いた。
外に出ても空は見えない。見えるのは物騒な兵装ビルが氷柱のように天井にくっついている姿だけだ。
本部は、青っぽい装甲に分厚く覆われたドーム状(競技場をでっかくしたような形)の建物で、隣にB棟(こちらは普通の建物のような形で大部分がガラス張り)、反対側に双葉台研究所〈第一棟(本館)〉が建てられている。
先ほどのリニアレールは中央の本部へと直結していた。
「ところでここ、何の本部なんだ?」
「つい先日までは無人だったんですがね。先週末のロシアによる侵攻は覚えているでしょう?その後、政府は極秘で自衛隊を解体。即日でJSSDF(戦略自衛隊)を設立してこちらへと籍を移させたんです。ですからここは戦自の本部、日本国最後の砦であり要でもあるところだ。ま、こんなとこ関係者以外存在自体知っていないからな。」
まぁ、実際俺も今まで知らなかったしな。
しかし戦略自衛隊か、こんな物騒な組織に入れっつーのかよ。
「ちなみに俺は特殊能力攻撃部隊『スペツィエル』を率いている」
スペツィエル ドイツ語で『特殊』を表す言葉だ。確かに常人にとって能力者は特殊な存在だろうがな
「スペツィエルは力押しで勝ち目がないとき …そうだな、相手が能力者などであった場合に少人数・短時間で対象を沈黙させることが目的だ。この部隊は俺を含め5人、まぁ先輩を入れれば6人になるのですが、全員がレベル9以上で構成されています。とはいえ、攻撃重視で守りが薄かった分、先輩の何でもかんでも攻撃を無効にしてくれる能力はありがたいっスよー」
「あぁ、そうだな……」
つか、5人全員レベル9以上はエグいって。俺、レベル4なんだけど……
しかしスペツィエルの部隊章があしらわれた高級そうなドアの前に来て、中からその高級感とは正反対の罵声が飛んできた時、余念は吹っ飛んだ。
その声は、聞き馴染みがあった。
恐る恐る土垣にもらったカードキーでドアを開けた途端、俺の体に大男が飛んできた。
で、その大男を放った主は……
「あれぇ?なんで佐久間がここにいるのよ。関係ないでしょ」
やっぱりだ。5人いるレベル10の中の7位、花菱琴音だ。
「レベルEだ。これで意味は通じるだろ?」
土垣のこの言葉に、琴音はハッと反応した。
「……まさか、こいつの能力はただの結界じゃないってこと?」
「あぁ、こんな科学真っ只中のところで言っても信頼度は最低だが、先輩の能力には魔術的な要素が含まれているようだぜぃ。よく考えればおかしくはねぇか?俺らレベル10の攻撃をたかがレベル6程度の能力で防ぎ切ることができるハズがない。となれば、科学的な能力測定で観測できないようないわゆる原動的な力が働いているとしか考えられない。」
「確かに… でも、仮にコイツが魔術を扱えたところで、レベルE指定はないんじゃない?」
「そうとも限らないぜぃ。俺が通じているのは英正教式魔術だけだが、そこの連中はあくまで文字や霊装、魔術陣など術式的な道具の補助で使える魔術がほとんどだ。つまり補助なしでここまでのことができるってことは」
「生まれつきの、才能?」
はぁ、言ってることがよく分からない。
「ま、俺はレベルEの確保と編入を報告してくるぜぃ。他のとこに取られないうちにな」
「他のとこ?」
「あぁ、俺たちのような特殊能力攻撃隊はスペツィエルを含め、3つある。これが皮肉に、仲がいいわけじゃないんだ」
なるほど。(こんな組織がゴロゴロしてんのかよ)
「そういえば新型AIの作戦車搭載案、通った?」
「まだ起動実験すら行っていない状況だからな。ま、F-49の配備が最優先だから当面は無理だな」
「あっそ。あ、凉は茫至と防御の作戦立てといて。ただ守るだけじゃ、攻撃には超足手まといだから」
出た、防御能力差別!
ま、今日はいろんな情報が入りすぎたな。ってか、このまま寮に帰れるのだろうか