組織 ———双葉台研究都市———
路地には瓦礫が散乱している。
そのサイズは大小様々だが、一つだけはっきりとしていることがある。
この瓦礫は、路地の両側のビルの外壁が壊されてできたものだ。
そして外壁の崩れる音以外立てずに完璧に壁を破壊できる奴を俺は一人しか知らない。
しかも、周囲には灰色の粉が舞っている。粉を武器にこんなことができる奴とも合致する
と、思っていれば粉の中から人影が。
「アーァ、メンドくせェなスパイ粛清ってのも。ヘンな能力使いやがって、処理するコッチも手間かかるっつーのによォ」
あーあってのはこっちも言いたいぜ
「ア?おう、久しぶりっすね佐久間先輩」
「……久しぶりだな、土垣」
本当に、コイツにだけは会いたくなかった。
それに、久しぶりっつても隣の部屋からよくチョッカイかけてくるからつい最近も会ったンだけどな
「あ、そういえばウチの上層部から伝言預かってんですよー。なんか知らんけど先輩が重要保護対象レベルEに指定されたらしいっスよー」
何を言っているんだ、コイツは?
「そもそも、上層部ってなんだよ。そっちの中学とは何ら関係もないはずだが……?」
「もっと関係の深いトコロなんですがねー」
だから、どこだよ?
「あと、ウチの組織にも入っとけって、総理直々のご指名ですよー」
「は?総理って、内閣総理大臣を略して総理、で合ってるよな?」
「それ以外にありましたっけ?」
てか何でいきなり政府の大要人が出てくんだ?
「そうそう、もうすぐウチの本部が完成するんで、案内しますよ」
組織の方を言っているのか?
今度は、こっちが気になり始めた。
と思ってる間にスタスタと歩き出したので、俺は慌てて後を追った。
それにしても、瓦礫の上は歩きにくいな。
と、途中で土垣にやられたと思しき死体があったので一瞬手を合わせておいた。
「あと100mも行けば出入り口があるはずなんですが……」
そう言って歩く土垣がようやく足を止めたのは、路地が集合したそんなには広くないが広場のような場所(と言ってもビルに囲まれているから景色最悪だし誰も来なそうなトコロだ)
で、土垣がその横の柱に近寄って下から1mくらいのところに手をかけるとパカッと開いた。
中に入っているのはレトロな柱に全く似合わない電子機器のようだ。
そこにカードキーのようなものを通すと…
ビ〜〜 ビ〜〜 ビ〜〜
ゴゴゴゴ
警報音とともに広場の中心部が開き、簡易エレベーターが現れた。
そのエレベーターに乗り込み、20〜30m降下すると、急制動してコンクリートの部屋に出た。
そこは確かに隠れ家であればよく分かるが、本部にしては少し簡素…というか、物が無い。
ほとんどがコンクリートで、一面にだけ穴が開き、そこから伸びたレールの上に2、3人乗りの小さなケーブルカーのようなもがある。
あとあるのはスピーカーと、圧力計のような物だけだ。
「…本部にしては小さくないか?」
「まさか、こんなところだとでも思っていたのですか?」
お前はそう言うけどなぁ、ともう一度辺りを見回してみる。すると、頭の中に微妙な違和感を感じた。
この違和感はすぐに正体がわかった。
土垣は組織と言った。組織を構成するには10人以上の人数は必要だろう。
だが、この場所には入れて5人ほどだ。政府直属の組織にしては規模が小さすぎる。
「このケーブルカーみたいなヤツで行くのか?」
すると土垣はあからさまに不快な顔をした。
「ケーブルカー?このリニアレールをそんな前時代的な乗り物と間違えないでほしいものですねー」
そうか、ケーブルカーってのは前時代的な乗り物なのか…(そういや、最近は山でも見かけないな) …って問題はそこではなく‼︎
「リニアで移動するっつーことは、そこ、かなり広いのか?」
「ええ、面積はこのNT市の約2.7倍。世界の最新技術の結晶、幻の双葉台研究都市ですよ」
双葉台研究都市といえばこのNT市の前身。元々双葉台研究所が開いたはずの街でありながら、地図上にはNTとしか書かれておらず、さらにはそのNT市にさえなも知らぬ研究所ばかりで双葉台研究所は無くなっていた。つまり双葉台研究都市は事実上消滅したはずだったのだが。
「まさか、研究所ごと地下に移転していたとはな」
よく考えれば、街はまるで碁盤の目のように切れ込みがあり、危険を示す赤と黒のラインで区切られていた。
あれは、もしもの際にビルをこの地下へ緊急回収するためのものだったのだ。
「何をしているのですか、早く行きますよー」
見れば土垣はすでにリニアレールへと乗り込んでいる。
まぁ、仕方ない。ここまで来れば行くしかなさそうだな、双葉台へ。