第六話
ユナンの父親に力を送っていた宝殊の顔が歪んだ。
妻や子どもたちは必死に祈った。
ダイキも隣で力を送る。
しばらくして力を送るのを止めた宝殊は息を切らせて、倒れそうになった。
ダイキが支える。
「宝殊?」
セジが聞く。
「もう…大丈夫ですよ…」
その言葉で妻と子どもたちの涙腺はいっきに緩んだ。
「ユナン、宝殊様たちにお茶を…」
少しして落ち着いた妻がユナンに言った。
ユナンからお茶を受け取った宝殊とダイキはゆっくりと飲み、少し休んでから帰っていった。
2日後の朝。
お経を上げる時間になっても本堂に来なかった。
ソナが呼びに行く。
しかし、部屋に宝殊の姿はなかった。
「宝殊様がいないの!」
ダイキとイレイリが慌てて庭を探したが、庭にもいなかった。
「イレイリ、探しに行くぞ!」
ダイキとイレイリは探しに行った。
「ダイキさん、どうしたんですか?」
村の人たちが焦っているダイキに聞いた。
ダイキは事情を説明した。
「それは、大変じゃ!
わしらも探そう」
村の男たちが捜索に加わってくれた。
しかし、村のどこを探してもいなかった。
『ダイキ』
ダイキは宝殊の声を感じた。
それは、山の中からだった。
ダイキは村の人たちと一緒に山に入った。
その後、イレイリも加わった。
「宝殊様!」
「宝殊様!」
山道はいくら探してもいなかった。
「宝殊様!」
「ダイキ」
微かに宝殊の声が聞こえた。
辺りを見渡すと崖の下に宝殊の姿があった。
「宝殊様!
今、行きます」
ダイキは慎重にでも素早く崖を降りた。
「宝殊様、大丈夫ですか?
お怪我は?」
「大丈夫よ」
ダイキは心からほっとした。
その後、イレイリと村の人たちによって縄で引き上げられた。
宝殊の手にはしっかりと草が握られていた。
山を降りるとセジの姿があった。
「宝殊、無事じゃったか…」
「セジさん、これ」
宝殊はセジに草を渡した。
「この薬草、どうやって?」
その草はどうやらかなり珍しい薬草だった。
「力を感じたんです」
「宝殊様!」
ソナがやってきた。
そしていきなり宝殊の頬を平手打ちした。
「何を考えてるんですか?
心配したんですよ!
宝殊様に何かあったらどうするんですか?
誰かを助けることもできないんですよ!」
ソナは興奮していた。
宝殊が丁寧に土下座した。
「ご心配をおかけしました」
「宝殊様、頭を上げてくださいっ」
ダイキやイレイリ、村の人たちは困った。
しかし、宝殊はなかなか頭を上げようとしなかった。
「申し訳ございません。
申し訳ございません」
正気を取り戻したソナが何度も宝殊に謝る。
宝殊は自分が悪いのだと、優しくソナを許したが、ソナは自分自身を許せなかった。
その夜。
「ダイキ、私を叩いて」
鞭を手渡す。
それが、ソナのけじめの付け方だった。
ダイキは気が引けたが、ソナに従った。
自分がソナだったら同じことをしただろうからだ。
ダイキは座るソナの背中を打った。
いつもより力をいれる気になれなかったが、それでも十分な痛みだろう。
しかし、ソナは声を上げずに必死で耐えた。
ソナが自分を許したのは、服の上からではわからないが、おそらく、背中がみみず腫れで埋め尽くされたであろう頃だった。