第一話
宝正が死んで1ヶ月が経った。
「ダイキ、ソナ、イレイリ、クナン、この子を治せるか?」
そう4人に医者のセジが見せたのはぐったりとしている幼い男の子だった。
4人は頷き合い、布団の上に寝かせた男の子を囲んだ。
右手を男の子に当てる。
同時に金色の淡い光が男の子を包んだ。
しかし、少しして4人は力を送るのをやめた。
ダイキがソナを見つめると、ソナは悲しそうに首をふった。
「俺たちには無理です」
ダイキの悲しい宣言にセジは項垂れた。
「お兄ちゃんたち4人でもできないのに、誰なら治せるの?」
ここに来たばかりのサキが、イナンに聞いた。
ここはお寺を改造して、家族のいない子たちを受け入れ、子どもたち中心で生活している。
そして、方術や自然を操る術を鍛練している。
「宝正様も死んじゃったしね…」
イナンが寂しそうに答えた。
その夜、イレイリが屋敷の警戒にあたっていると、気配を感じた。
「この気配は…」
イレイリが見つめる先には、イレイリより少し年上の女性とイレイリより年下の男の子が歩いていた。
「宝殊様!」
宝殊と呼ばれた女性がイレイリに微笑んだ。
彼女は目が見えない様子で、男の子に連れられていた。
「おい、みんな起きろ!
宝殊様のお帰りだ!」
イレイリは屋敷に向かって、叫んだ。
「皆を起こすでない」
宝殊は優しい口調でイレイリに注意した。
「宝殊様!」
イレイリの反対側の警戒にあたっていたソナが宝殊に駆け寄った。
ソナは涙を流しており、宝殊の足元に座り込んだ。
「よくぞ、ご無事で…」
「ソナ」
宝殊はソナの頭を撫でた。
少し泣き止んだソナは宝殊を玄関に案内した。
玄関では、既にダイキとクナンを中心に子どもたちが床に座りお辞儀していた。
ソナたちも地面に座り頭を下げた。
「お帰りなさいませ、宝殊様。
都でのお勤め、ご苦労様でした」
「お帰りなさいませ、宝殊様」
ダイキの言葉に続いて皆が声を合わせて言った。
「ただいま戻りました。
ダイキ、ソナ、イレイリ、クナン、よく家を守ってくれました。
ありがとう」
「しかし、宝正様が…」
ダイキは頭を下げたまま、声を震わせた。
「人は必ず死ぬものです。
皆が見守るなかで亡くなったのなら、おじいさまは嬉しかったことでしょう」
宝殊はそう言うと、サキがいる方に顔を向けた。
「新しい子がいるみたいですね?」
クナンはサキを呼び、サキは宝殊の前に立ってお辞儀した。
「サキです。
よろしくお願いします」
宝殊は緊張しているサキを優しく抱き締めたのだった。
その後、宝殊が寝所に入ると、ダイキが宝殊と一緒に帰ってきた男の子の頭を撫でた。
「でかしたぞ、リョウユウ」
リョウユウは元気いっぱい返事をしたのだった。