にゃがれぼし
「むぅぅ」
飾り付けたクリスマスツリーを見上げた少女は、不満気に頬を膨らませる。
きらきらと光る色とりどりのイルミネーションも、ふわふわで真っ白なわた、つるしたサンタさんも、おかーさんと作った小っちゃで真っ赤な靴下飾りもごーかく。
不満は一つ。ツリーの上で一番目立っている位置に飾り付けたお星様が物足りない。
ちょこんとかわいいのは良いけど、もっとこうキラキラしていてパーッとしていた方がカッコイイ!
作り物のお星様じゃなくて、本物のお星様を乗せてみたい。
心のメモの捕まえたい物の欄に、ツリーに飾るお星様が書き込まれた瞬間だった。
名案を思い立った少女は部屋へと駆け戻って、準備を始める。
お星様を捕まえようとしたのはこれで二回目で、前は失敗だった。
今年の七夕に、長い虫取り網をもっておうちの屋根から、天の川のお星様をすくおうとしたが届かなかった。
虫取り網では長さがちょっと足りないみたいだと理解したので、今回はあぷろーちをかえてみた。
まだ読めない漢字が多くて意味が分からないとこは多いけど、いろいろ教えてくれる図鑑では、お空のお星様が、流れ星になって地球に降りてくる場所は、大きな穴、クレーターというらしい。
つまりクレーターは流れ星のおうち。
ならお庭に作った鳥の巣箱と一緒。
クレーターを作って、お星様が流れ星になって来るのを待てば良い。
宝探し用の愛用スコップを片手に、お庭に飛び出た少女は、好奇心の塊な少女用におとーさんが作ってくれた花壇の一角に一生懸命に穴を掘る。
来年の春までお休みしている花壇には、今は何のお花も植わってないから丁度良い。
図鑑で見たお星様のクレーターはものすごく大きいけど、少女が欲しいのはツリーの上に飾るお星様用のクレーターだから小さめでいい。
「うん……ん~」
お風呂で使う洗面器がすっぽり入るくらいのクレーターを作った少女は、完成した瞬間は満足げに頷いたが、すぐに首をかしげて、ぺたぺたと掘ったばかりのクレーターを触ってみる。
冬の土は冷たくて、しかもじめっとしていて気持ちよくない。
これじゃお星様が来てくれない。
少し考えてから少女は、一度お部屋にもどって、レジャー用の防水シートや小さなクッション、それと冬にだけ使える揉むと暖かくなる魔法の袋を持ってくる。
持ってきたそれら秘密道具を並べたり敷いたりして、頭を悩ませながらクレーターを作っていく。
暖かくてふわふわしたクレーターならお星様も流れ星になってきてくれるはずだ。
あれこれ弄りながらも、お日様が沈む前に、ふわふわあったかクレーターを完成させた少女は、最後の仕上げに取りかかる。
お庭の物置から金属のバケツを持ってきて、クレーターの縁に立てかけ、そこにつっかえ棒をかます。
この専用バケツとつっかえ棒こそ、田舎のおじーちゃん直伝『雀取り改』
少女にとって手に入れる=捕獲。
ふわふわあったかクレーターを餌に、お星様が流れ星になって中に入ったら、つっかえ棒が降りてきて捕まえる事が出来る必殺の罠だ。
「かんせーい!」
土だらけの手でバンザイをしていると、おうちからおかーさんが夕ご飯の時間だよと、少女を呼ぶ声が聞こえてきた。
ハントはコンキとニンタイだとおじーちゃんが言っていた。意味はよく分からないけど、待てば良いと覚えていた少女は明日の朝になってから見に来れば良いと考え、おかーさんに大きな声で返事をしておうちへと戻った。
翌朝おうちで一番早起きした少女が、お庭のクレーターに戻ってみると、つっかえ棒が外れてバケツが降りている。
バケツに耳を当ててみると、みぃみぃと小さな鳴き声が聞こえてきたので、わくわくしながらバケツをそっとずらしてみる。
クッションの上では、夜空のように真っ黒な毛色で、背中に流れ星のような白い線が入った小さなにゃんこがごろごろしていた。
少女は、この世界の秘密をまた一つ見つけた。
お星様が流れ星になって降りてくると、にゃんこになるのだと。
夜のお空のような毛色と、お星様の模様がその証だ。
『にゃがれぼし』
あばれるにゃんこはツリーに飾りつけることが出来無かったが、少女はそう名付けた。
にゃがれぼしがお空に戻ってまたお星様になるその日まで、少女の一の子分として連れ回される事になるのは、また別のお話……