知らない・見えない恐怖
私の家は貧乏だった。学校にも行かせてもらえないくらいに。大金持ちになる夢を見て、そのまま大人になった。しかし現実は厳しく、職を探し回り、ようやく見つけたのがこの施設の清掃員である。
白衣を着た施設の連中は、話す言葉が違うから何を言っているのかほとんど分からないが、その時だけは、私の国の言語を使って説明をした。
「この部屋、入るな。あの箱、絶対に開けるな。」
理由を聞いても、蔑むような目をして答えてはくれなかった。
――そんなに秘密なものってなんだろうなあ。
最初はその程度にしか思っていなかった。
問題が起きたのは、働き始めて1年が経過する頃だった。施設の男たちの私に対するいじめが悪化していた。ストレスを発散するために、固いもの――例えば瓶や灰皿を投げられることが頻発し、体はあざだらけになった。
――逃げたい。
私は本気でそう思った。でも、学校にも通っていなかった私を雇ってくれる場所をもう一度探すのは、目に見えて大変である。
――そうだ、あの箱、あの箱の中身を盗んで金にすれば。
あの箱――施設の人たちが最も大切に扱っている箱である。その中身はよっぽど貴重なものに違いない。
私はその日を夢見て、辛いいじめを耐え抜いた。
そして、その時はやってきた。1年以上働いているため、ある程度の信頼があるらしく、掃除の日は施設の鍵を全て渡してくれるようになったのだ。どうやって逃げ出すかも考えてある。
掃除を装って部屋に侵入するのは簡単なことだった。
プロペラマークの付いたドアを開けると、例の箱がある。
――開け方だって、こっそり見ていたのだから。
私は手際よく箱を開けた。
中には青白く光る小さな石が入っていた。
――これは・・・間違いない、高く売れる。
私はそれを握りしめ、急いで逃げ出した。
森の中を走っていると、施設のある方から、けたたましいサイレン音が聞こえてきた。
――へへへ、ざまあみろ。
慌てる連中の顔が浮かび、なんとも気持ちがよかった。
その日、1年以上働いて溜めた金を使って飛行機に乗った。
――この国じゃない。もっと豊かな国に行って、これを売れば・・・おっと。
一瞬めまいがしてしまい、危うく大切な石を落としてしまうところだった。
――はは、興奮しすぎたな。しばらく休もう。
もう、今までのように、辛い思いはしない。大金持ちの夢を、この手で掴んだのだから。