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霧のかかったような意識の中、突然バフっと腹辺りに衝撃が走る。
「う゛っ…!?」
「クーちゃ〜ん!!あっさだよぉ!」
「爺やが呼んでるよう!」
「ネル、ミロ……その起こし方はやめてって……」
朝だ。
孤児院仕込みの騒々しい声で目が覚める。
孤児院の時もネルとミロに同じ様な起こし方をされた。
もっとも他に孤児院のチビたちを連れて突撃してこないだけマシになったのだが。
昨日は風呂から上がったあと、フリーデンが入れた紅茶を飲みながら本を読んでいたつもりだったが、初日で自分で自覚する以上に疲れが溜まっていたみたいで、途中から記憶が無い。
枕元に読みかけの本が置いてあるのできっとそのまま寝たのだろう。
ネルとミロに手を繋がれて自室の食堂まで行く。
寮ではこの手を繋ぐスタイルが定着しそうだ。
孤児院では他の子が争うように周りに引っ付いていたから余りネル達と手を繋ぐことは無かった。
食堂の扉が、自動で開く。
爺やがいる限り扉を開けることもなさそうである。
お風呂を見た事で想像していたが、食堂とまぁ豪華なもので少しばかり古く感じるが隅々まで磨き上げられており、質の良さが窺える。
真ん中にドンと存在感が凄い広いテーブルには、フリーデン達が座っていた。
「おう、おはようクラリエ!俺が入れた紅茶だぞ喜べ!」
「おはようございますご主人様、さささ!こちらへ!!」
「おはよう」
レナーテはマイペースに窓の外を見てニコニコしている。
クラックは何やら難しい顔でテーブルを見つめている。
「さすがはフリーデン様ですな、この爺や家事全般誰にも引けを取らない腕前と自負しておりますが、ポットに憑いているだけあって紅茶は勝てませんぞ」
「うん、フリーデンの紅茶は美味しいのよ」
自分のことは自分で!というシスターでさえ紅茶を入れる時だけはフリーデンに頼んでいた。
爺やが私の前に朝食を配膳する。
レナーテとクラックは食べないようだが、フリーデンは私と同じものを食べているようだ。
ネルとミロの前には切り分けられた果物がある。
基本的に精霊は食事は必要ない。魔力で事足りるので、完全な個人の趣向品のようなものだ。
孤児院では小さい子たちが優先だったので魔力があれば必要ない精霊は食べる事は無かったが、こうしてみるとそれぞれの好みが見て取れて面白い。
「クラリエ、今日から始まる授業だが私たちの誰かを連れて行ってくれ。」
クラックが話すことには、精霊同士では離れていてもお互いを認識していたら連絡を取り合うのは可能みたいだが、私とは連絡が取れなくなるのが嫌らしい。
「でもゴブレットとかポットとかお貴族様じゃないんだから学院に持っていったりなんかしないよ?変でしょ?」
「まぁ!クラリエ、忘れていらっしゃるわね?ワタクシ達別に器に縛られているのではなくってよ?授業の間だけ違う器に入る事なんてたわいも無いわぁ〜」
「な、なるほど?」
「ただ傍に付き従うには私達の気配は聡い者には勘づかれる、なので何かしらの入れ物が必要だ」
話し合いの結果、今日はレナーテが付いて来ることとなった。
「それってこれでいい?」
首から紐で提げていた指輪を出す。
神父様にお守りと渡された白いガラス玉の嵌め込まれたシンプルな指輪だ。
思わず、貰う時に「私に渡す前にシスターに渡しなよ」と言って顔を真っ赤にして怒られたが。
「まぁ!そうねぇ神父様のお祈りが込められてて私達にはとっても過ごしやすい器だわぁ」
爺やが整えた制服を着た後、指輪を右手の人差し指につけた。
「じゃあ、行ってきます。レナーテ」
「まぁ!もう時間なのねぇ、わかったわ。」
レナーテがしゅるんと指輪に入るのを確認して部屋を出た。
レナーテが入るとガラス玉はまるで宝石のような光沢ができた。
「頑張ってこいよ!」
「クーちゃん!ネルいい子にしてるね!」
「ミロは爺やの手伝いするよ!」
お留守番組に手を振って階段をおりる。
(まぁ、うふふ!クラリエを独り占めなんてミリーがいた時みたいねぇ)
レナーテが心に直接話しかけてくる。
ミリーがいた時か、懐かしいな。
ミリーはシスターの一人娘で、私と同じ歳だ。
私の親友で、孤児院の人気者で、下町の子供たちのリーダーだった。
レナーテの本と出会った時もミリーが隣にいた。
レナーテがいた本みたいな曰く付きの物が神父様の所で何も問題が起こらないことが噂で広まり、国中のあらゆる所から色んなものが集まりだしてクラック、フリーデン、ネルとミロの順に孤児院にやってきた。
ミリーの事は直接はレナーテしか知らない。クラリエ達が4歳の時にレナーテと出会い、ミリーはレナーテが来て1年5歳の時に、貴族である父親に引き取られて行ってしまった。
クラックたちはその後である。
「あ、神父様からミリーにもお守りの指輪預かってるんだ」
同じ歳で、貴族に引き取られたミリーも学院に来ているはずだと神父様に言われて持ってきていた。
ミリーのお守りはシスターがつけていた指輪で、銀のリングに緑の宝石がついている。
ミリーはどのクラスになったんだろう、早く会えるといいけど。
「お、おはようっ!クラリエ、さん??」
「ん?おはよう……サージュ…?」
3階、私の部屋に直通している階段を降りたら、その階段の前でサージュが待っていた。




