弟子のために
拉致事件が勃発しているとはいざ知らないニーナはとある場所に足を運んでいた。
その都市最大の建造物、そして一番偉い方がおわす王城だ。
王城ともなれば大きな書庫なんかあるだろう。それで魔術関連の書物を借りよう。
という算段だ。
しかしここでまた問題が発生した。
「なッ…?!」
門兵が焦りと恐怖に掌握される。
すぐさま怒号が飛び交う。
「ニーナが来たぞおおおおおおおおおおおおお!!橋を上げ陛下にすぐお伝えするのだ!すぐさま戦闘準備に入れ!!」
ガアアアアアッと音を出しながら吊り橋を上げられ。
ガシャガシャと音を立てて駆け寄る騎士団。
城内に響き渡る大勢の人の怒号。
「貴様!何しにここに来た!要件を言え!」
汗を流し臨戦態勢を整えた騎士団長が問いただす。
陛下の前で顔がパンパンになるまでマウントを取られぼこぼこに殴られた忌まわしき過去のせいで結構なへっぴり腰だが。
「いやー、まさかここまで警戒されるとはね…ショック大きいなあ」
「貴様がそれほどの事をしたのだろうが!」
実は、家強奪事件以外にもニーナは事件を起こしていた。
ギルド加入したその日の出来事だ。
イールが買い出しに行ってる間ニーナは今回のように王城へと足を運んでいた。
内容は『クリスタルになったからお金頂戴』だった。
当然陛下は却下、そこでまた喧嘩勃発。
「クリスタルになったら国から支援してもらえるんでしょ!なんでよいいじゃん!」
「それは国によって違うと説明したじゃろうが!わしの国じゃ実績ある人限定だから加入しただけじゃダメなの!もう3回は言ったじゃん!」
国側の規定により支援はできない。
そう説明されても折れない、引かない、諦めない。
だって今本当にお金なくて食べるものすらギリギリだからなのだ。
「そこをなんとか!頼むよ王様!」
そんな押し問答を繰り返していたその時
「ニーナ様…大変申し訳ございませんが陛下はこれより出席しなければならない会議がございますので…そのぉー大変もう上げにくいのですがお引き取り願いたいのですがぁ…」
以前ニーナにぶっ飛ばされたお付きの人だった。
またぶっ飛ばされるのが嫌なのか少し離れた位置から前回より申し訳なさそうに、そしてへっぴり腰で伝えてくる。
「ほんと大事な会議だから、本当に帰ってくれ」
「いや」
「頼むって!」
「むり」
「帰れといっとるじゃろがあああああああああああああああ!」
「うるさあああああああああい!」
その言葉の瞬間、陛下の横にいた付き人が消えた。
「またやりおったな貴様!今度こそ罪人にしてやるぞ!」
さすがに怒り心頭の陛下。
それからというもの、陛下の服を斬り裂いて脅しをかけ、再び騎士団との正面衝突。
そしてその日、ニーナは20万ゼニーを手に入れ帰宅していた(イールはこのことを知らなかった)。
「皆さん安心して、今回は陛下には用事ないから。ただ本を数冊借りに来ただけなの。だからちょっと入れてくれればいいから」
「信用ならん!今すぐ立ち去れ!さもなくば斬り捨てるぞ!」
過去に2回ぶっ飛ばされているが王への忠誠なのか、強気な騎士団長。
ここまで明らかな敵意をぶつけられて黙っているニーナではない。
が、しかし今回はまだ耐えている。
「いや本当だって!弟子が魔術覚えたいみたいだからその関連の本を借りたいだけだって!」
「ならん!というより王城にある物を貸し出し許可すると思っているのか?」
確かに、と少し腑に落ちるニーナ。
そこでとある作戦を立てた。
「そっか…それもそうか。じゃ帰ります」
「何…?あのニーナともあろうものがこんなあっさり帰るとは…」
もちろん嘘だ。
ばれなきゃ犯罪ではないのだ。
そうだ、こっそり持ち出してこっそり戻せばいいのだ。
完璧なプランと呼べるだろう。
「いっちょあれやりますか、ばれないようにしなきゃ」
向かった先は都市でも有名な巨大な時計塔、その頂上だ。
「壊さないように飛ばないとね」
そんな物騒な事を言いながらバフをかけそして大跳躍。
放物線を描くように王城側へと飛んでいく。
バレないように高度は高めで、着地目標は王城の頂上。
そして無事着地。そして感嘆の声を上げる。
「おっほ~、絶景だ、ここで晩酌したら気持ちよさそうだなー」
なんて呑気な事を言ってる場合ではない。
すぐさま書庫を探し潜入しなければ。
それから以外にすんなりと進んだ。
書庫の位置がわからなかったが隠れながら探索していたら偶然にも発見出来た。
「蔵書数すごい…というかここから探すの面倒だなあ」
愚痴をこぼしながらもてきぱきと作業を進め、よさげな本を5冊ほど頂戴した。
もちろんバレたら大変な事になる。
しかしてこんなことをしたニーナにもしっかりとした訳があったのだ。
「もうめんどくさいしこんなんでいいか」
立派な理由だった。
王城からの脱出は同じ方法で脱出をした。
ベランダから頂上に上がり、そこから跳躍でニーナの自宅へと飛んだ。
「ただいまー」
状況を知らず呑気な声で自宅へと入る。
抱えていた本を机の上に置き、イールを探す。
「イールー?よさげな本パク…借りてきたよー」
おかしいいつもならすぐ返事が返ってくるのに。
庭に出てもやはりおらず、二階の部屋を見て回ってもいなかった。
買い出しかな?と思ったが、あのドケチなイールが食材が安くなる夕方前に買い出しに行くとは思えない。
それにクラリスちゃんまでいない、デートか?
と思ったがイールにそんな根性はないはずだ。
と心の中でいろいろおかしいなとイールを罵倒しつつ考え込む。
とりあえずお昼にでもしようと台所へと向かいそれに気づいた。
その手紙を読みニーナは普段のダメ人間ではなくもう一つの顔、殺戮者の顔に変わった。
『貴様の弟子は預かった。返してほしければ隣国スランドの我が主催した大会に優勝し我を倒して見せろ、来なければ弟子の安全は保障しない。』
手紙の内容を読みすべてを把握し、そして内に怒りを燃やしているニーナ。
そして最後に差出人を見てニーナは無意識化で魔力を爆発的に高めた。
「三神、レイモンドアントリック…殺す」
そう決意し、自分で破壊してしまった家を後に王城へと向かった。
「何?!また来たのか!何用だ!」
しかしそんな兵士の言葉は今のニーナには届かない。
無言のまま俯きながら歩みを進める。
そんなニーナを見て兵士たちは。
「ヒッ?!」
その表情、当てられただけで失神してしまいそうなほど濃く暗い魔力、そして殺気。
並の相手ならばこれだけで完全に無力化を図れるほどの迫力。
そのまま王の間へと足を運ぶ。
「な?!ニーナ貴様どうやって入ってきた!今度こそ牢獄にぶちこ―」
そこまで言いかけた王はニーナを見て言葉を止めてしまう。
「陛下、これを返しておくのと隣国のスランドって国、潰すかもしれないからそれだけ」
驚愕はするものの反応出来ない。
そのまま王城の城壁を破壊しながらスランドへと向かうニーナだった。