拉致監禁?!
クラリスが住人になってからおよそ2週間が経過した。
怪我のほうも軽い跡が残っている程度で、二人とも完治したと言っていいほどだ。
一週間でクラリスの傷は治ってはないものの、歩き回る程度なら支障はないほど回復した。
歩けるようになってからは街の案内や、娯楽施設などを紹介し遊び回っていた。
奴隷として自由がなかったクラリスに気を使っての配慮、という名目で金入ったから遊びたいだけ感満載のニーナの提案である。
ちなみにイールからの許可は下りている。
クラリス用のベッドなどの家具類一式は既に購入済みで、落ち着いた内装の部屋になっている。
ベッドに机と椅子。タンスが一つに花瓶が一つ。
質素とも言えるほど物は少ない。
金銭的負担をかけたくないクラリスの配慮だ。
気にしなくていいと二人に散々言われたが、頑としてこれで大丈夫と言い続けていた。
そんな生活がはや2週間過ぎたころ、クラリスの以外な才能が発揮されていた。
ニーナとイールの稽古を眺めていた時だ。
「あたりが弱いしキレがない。もっと鋭く速く強く。」
「そんなこと言われても…ハァハァ…もう腕上がらないですよ…」
イールがダウン、ニーナは呼吸が乱れることもなくいたって平然としていた。
そんな時クラリスは疑問に思う。
「お二人は魔術をお使いにはならないのですか?」
ニーナの魔法適正が皆無なのを知らないクラリスなら当然の疑問だ。
イール自身も魔法は使えない。
「あー私は無理、魔力練ろうとしても雑すぎてまともに発動しないんだよね…」
まるで本人の性格を反映したかのように魔術がダメなニーナ。
「なるほど…イール様はお使いには?」
「使ったことがないですね…そもそも師匠が魔術を使えないので。あとは純粋に使える人が身近にいないので教わることも出来ないので試したことがないですね」
イールは基本ニーナに教わった技術しか持ち合わせていない。
そのニーナも魔力量に物を言わせた索敵魔術にエンチャントぐらいしか扱えない。
適正というところでかなりの差が出るのが魔術。
日常生活に役立つものから、攻撃魔術に各属性。探索の助けになる自然魔法やエンチャント魔術。会得の難しい高難度魔術になると混沌魔法や対極の神聖魔法と呼ばれる魔法まである。
「私が少し扱えるので練習してみますか?」
「へー、クラリスちゃん魔術行使できるんだ。なんか以外だね」
「攻撃とかは全然なんですけどね…エンチャントと自然魔術ならある程度扱えます」
「おー、自然魔術って結構マイナーだけど便利な魔法だし試してもいいんじゃない?」
自然魔術は主に戦闘はせず、採取などを主に活動している人々が扱う魔術だ。
目的の薬草採取などの助けをする『サークレット』という魔術が重宝されている。
範囲内に対象の物があれば性格な位置、数などもわかる。
少し高度な魔術になれば植物の成長を促す魔術、その逆も出来たりもする。
「それじゃ一つお見せしますね、『ジャック』」
「え?!」
驚愕するニーナ、それもそのはず。
自然魔術で習得がかなり難しいとされている『ジャック』の魔術。
蔓などの植物を操る魔法だ。
会得が難しい割には実は、あまり実用性のない魔術だ。
「すごいね、それ結構難しい魔術だったはずだよね」
「クラリスさん、魔術の才能あったんですねー、凡夫が自分だけっていう疎外感半端ないです…」
「い、いえ、私もこれぐらいしか出来ないうえにあんまり役に立ちませんから…」
萎える凡夫、イール。
何やら不適な笑みを浮かべているニーナ。
どうやらまた、自分が楽するための悪だくみを思いついたようだ。
「一応初級の攻撃魔法も扱えますので、イール様が宜しければお教えしますよ!」
今までお世話になりっぱなしだったことへの恩返しになると思ったのか凄い勢いで息巻いている。
そんなに考えなくてもイールの家事全般の手伝い、買い出し等してくれるだけで大いに助かっているのに…とむしろ申し訳ない気持ちになるイール。
それから剣の稽古は一度終わり、魔術の訓練に入った。
一方その頃暇しているニーナ、たまには気を使い魔術の訓練の助けになる物を探しに出かけていた。
「魔術の訓練って何するんだろ…意気揚々と出たはいいけどうーむ…」
そこでハッと思いつく。
一発解決できる場所があるじゃん!っと
一方その頃、魔術訓練に励むイールとクラリス。
「魔力を練るってどんな感じなんですかね…」
「そうですねー、なんかこう…自分の中で魔力を集めて、うーん…練り練りするイメージですかね?」
人差し指を立てながら、自分でも気づいていたのだろう。
何言ってるのだろうかと。
少し赤面しながら半笑いで教えるのがへたくそなりに頑張って伝えようとする。
「(あ。可愛い。)」
率直な感想だった。
「もう一度やってみますね!」
「頑張りましょう!」
意識を集中し目を瞑って己の魔力を集める。
「(まずは魔力を集めて維持、それからこう練り練りするイメージで…)」
「イール様いい感じですよ!」
イールは想像以上に器用だった。
2回目の挑戦にして魔力を練ることに成功した。
ニーナよりちょっとまし程度だが初めてなのだからこんなものだろう。
「やりましたよクラリスさん!ありがとうございます!」
「おめでとうございます!これからもしっかり鍛錬しましょう!」
大喜びのお二人様。
いや、まだ玄関で靴履いたのと同じ段階ですからね?
それにしてもイールの魔術の才能はそこそこあるようだ。
筋がいい人でも一日中やって何とか出来るようになる、それをたった2回でこなしたのだ。
決して剣の才能がないわけでもないのだが、教えてがニーナなので仕方のない部分も正直ある。
ニーナは自分が特別最強クラスに強いとは思っていないのだ。
もちろんギルドに加入している中ではトップクラスの自覚はあるのだろうが、世界的な面で見たら『上には上がいるでしょ』と考えている。
なので教えるとき、基本自分基準で考える節があるためそれに振り回されるイールは大変な思いをしていた。
そのせいでイールは剣の腕より実際の腕がムキムキになりつつある。
いやまあ実際大切なことです。
「よーし!もう一回やってみるぞ!」
「いいですね!次は実際に魔術放ってみましょう!」
なんて可愛らしい和気あいあいとした雰囲気は一瞬にしてぶち壊された。
「オーッホッホ!魔力練るので精一杯だなんてお笑い種ですわね!」
どこからともなく現れたそいつは、黒い人。
ではローレアだった。
「な?!なんであなたがここに?!」
当然の疑問を持ちつつ驚愕する。
クラリスは何が何だかわからずキョトンとしている。
「我が主、レイモンド様の命によりあなたを拉致しに来ましてよ!」
「「えええええええええええええええええええ?!」」
再びの驚愕。
というか拉致する相手に、『今から拉致するぞ!』って伝えるのはいかがなものか。
やはり頭がちょっとアレな方のようだ。
「というより前回にはいなかった方がおりますわね、どうしたものでしょう」
物の数秒、悩んだ末に出した答えを出した。
「ま、戦えるようには見えませんし、こちらのお嬢さんも拉致していきますわね」
「「え」」
「それじゃあ行きますわよ、『転移』」
その場からスッと消えた3人達であった。