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私はあなたの娘だから。

 ローレアとのいざこざが終わり、今日は飲みまくるぞ!

 っと意気込み、うきうき気分でニーナ達は歩いていた。

 

 その頃屈辱を味わされたローレア。

 ローレアはあんなんだが、実のところかなり優秀な魔術師だった。

 『同調』という自己開発の魔法。対象とリンクさせたい五感のみをリンクさせ情報を共有することが可能だ。

 リンク条件は『お互いの了承』。

 リンク先はレイモンド。視覚と聴覚をリンクさせ先ほどのやり取りをすべて見ていたのだ。

 

 「申し訳ございませんレイモンド様…不甲斐なき私を罰してください…」

 『大丈夫だローレア。気にするな。して、ローレアから見たニーナ・シュレインの印象はどうだった?』


 太くそして重たい声が響く。

 これも通信するための魔法の一種だろう。


 「はい、とにかく我儘(わがまま)でやりたくないことは徹底してそのことから逃げるような性格だと思われます。レイモンド様が直々に出向いても知らぬ存ぜぬ、嫌だなどと言って逃げると思われます。」

 『ふむ…一緒にいた少年については何かわかるかね?』

 「はぁ…強そうには見えませんでしたの。『師匠』って呼んでましたけどもあんなダメ人間の下に人が付くとは思えませんわ…」

 『ふむふむ、なるほど。今回はご苦労であった。帰還してゆっくり休んでくれたまへ』

 

 ふむ…と少し考え込む、そしてニヤリと笑みを浮かべる。

 あの少年…使えるな。

 

 そんなやり取りがあるとも知らず、ニーナ達にまた面倒ごとが舞い込んでいた。


 「い、いや!来ないで!」

 「グルォォォォォォォ!!」

 

 草をかき分ける音と共に少女らしき人の悲鳴。

 それと共に獣の唸り声が聞こえる。

 この辺一帯は魔獣も生息し、かなり手ごわい相手が多い。

 そんな中少女一人で足を運ぶとも思えない。

 集落や村なども一つとて存在しないはずだ。


 「イール、止まって」

 

 二人は足を止めその場に立ち尽くす。

 何やらニーナの気配が変わった、ピリピリ張り付くような緊張感がその場に生まれる。

 右手を前に突き出しニーナが覚えている数少ない魔術を行使する。


 ニーナが行使した風魔術『エリアサークル』は基礎的な索敵魔法だ。

 術者が魔力を送り続ける間、どんどん索敵範囲が広がっていく。クリスタル階級の魔術師の4倍近い魔力量を誇るニーナには打ってつけだ。

  

 ニーナが何故魔法での攻撃を一切しないかというと純粋に使えないからである。

 性格に言えば使えるのだが威力がとても残念になってしまう。

 攻撃用魔術は『エリアサークル』などの補助魔法とは違い、魔力を練り上げ術式を通して発動するもの。その魔力を練り上げるというセンスが致命的に皆無だったニーナ。

 きっと性格のガサツで適当な所がそこにも影響してしまっているのか…


 逆に魔力を流せば流すほど効果が上昇する、補助系、索敵系などとは相性抜群だ。

 魔力量『だけ』は常軌を逸しているためだ。

 

 「師匠…?何をしているんですか?」

 「ここから北東で女の子が魔獣に襲われている。助けに行くよ」

 「本当ですか?!急いで助けに行ってあげないと!」

 

 魔物に襲われる。

 過去の経験上この二人は死んでも許容できないでき事、助ける以外の選択肢など元から持ち合わせていなかった。

 ニーナは唯一の家族の父親を失い。

 イールは村のすべてを失っている。


 「そう。だからイール、悪いけど置いてくよ、助け出したら空に魔法打ち上げるからそれを目安にして追いかけてきて」

 「わかりました」


 普段のたるんでいる表情とは一変、引き締まった表情に変わる。

 普段ダメで我儘で自由すぎるけど、こういった優しい一面があるからなー師匠は…

 あの優しさも僕を救ってくれたあの方譲りなのかな?なんてね…

 優しい笑みを浮かべながらイールも駆け出す。


 「嫌…いやッ!こっち来ないで!」

  

 その少女は今にも魔獣の手によりその命を積まれようとしていた。

 裸足で山を駆け一心不乱に逃げたのだろう。

 膝から下は切り傷まみれで目も当てられない惨状だ。

 そして何度も転んだであろう傷が全身にあった。

 

 「もういや…誰か助けてッ…」

 

 懇願するかのように、その場にいるのは自分とこの化け物だけなのに

 祈らずにはいられない。

 産まれてからこの人生、不幸な事しか起きなかった…

 もう嫌だ…いっそこのまま楽になったほうが…

 そんな考えがよぎった瞬間。


 「間に合ええええええええええ!!」

 

 音を置き去りにする超加速。

 それと同時に振り下ろされる死。

 間に合わせる!二度と私の前では人を殺させない!

 私の父がそうしたように、私もそれを貫き通す!


 血のつながりのない、自分を救い上げた父のことが脳裏に浮かびあがる。

 今と全く同じ状況、イールを守るためにあの人は死んだ。

 同じことになるかもしれない、いや…私はあの人を、父を超えた!

 必ず救う!

 

 そして迷いなく、躊躇なく、その振り下ろされる死の間に飛び込む。

 上段から振り下ろされる鋭いかぎ爪。

 それを左腕で受け止める。

 残る右手で左の腰の剣を抜き、受け止めた相手の極太の右腕を斬り飛ばす。

 腕を斬り飛ばされよろめく、およそ3mは超えるであろう巨体。

 その隙を見逃さない、眼前まで跳躍、目にも止まらぬ速度の斬撃。

 空に舞い上がる魔獣の首。

 そのまま重力に従い魔獣は倒れ伏した。

 鮮血に彩られるニーナの美しい銀髪。

 左腕からとめどなく流れる血など気にも留めず、スッと感傷に浸る。

 

 今度は守れたよ…師匠…

 

 剣を収め、空を見上げる。

 その数刻の時、世界の時がゆっくりに感じていた。


 ―私はあなたの意志を継ぎ、あなたを超え、幼き命を救えました。ありがとうお父さん-


 そんなことを心の中で呟く。

 イールを救った時とまったく同じ状況。

 しかし今度は成し遂げることが出来た。


 「おっとそうだった、大丈夫?」

 

 急展開すぎて頭が真っ白になっている少女。 

 歳はおよそ13から15程度だろうか。

 背丈はニーナより少し低めだ。

 その桜色の髪は見る人を引き込んでしまうような美しさを放ち背中でひとまとめにされている。

 瞳は宝石のような綺麗な琥珀色をしている。

 そして頭頂部から生えるその狐耳は綺麗な容姿と相まって愛嬌を生んでいる。


 「あらら、これは痛いね…ちょっと待っててね、治療アイテム持ってる私の仲間がもう少ししたら来るからね」

 

 ニコニコと安心させるために振舞う。

 普段のダメ人間ぶりから豹変、どこに出しても恥じない立派な大人の女性のようだ。


 「あの、その…助けていただきありがとうございました。どうお礼をすればよいのやら…」

 「いいよそんなこと。私の信念に基づいてやりたくてやったことだから」

 

 ニーナはその少女の相貌を見て察する。

 汚れまみれのボロボロの服。

 今回の件とは別でついたのであろう痣などの跡。

 そして今だ人に対して警戒心、恐れを感じているあたり。


 「(この子は奴隷として売られたんだ…)」


 奴隷制。

 いまだにそんな悪行が残っている国はそう多くはないはず。

 そしてこの辺の近隣諸国全てが奴隷制を廃しているのに関わらず、少なくない人々が奴隷として扱われる。

 悪徳貴族たちの娯楽。メイドなどとは違い賃金を渡さなくても当然のように働き人件費が浮く。

 そういった様々な理由から裏で奴隷を買う連中が多数存在していた。

 以前ニーナが潰した貴族の一人には、年端も行かない子供を買い付け武器を持たせる。

 そして子供同士で殺し合いをさせ酒を片手にゲラゲラと笑いながら鑑賞していたクズもいる。

 しかし結構な大貴族を一時の感情に任せて潰してしまい大変な問題が起きたので、陛下に泣きついて何とかしてもらったのは内緒の話。

 

 「私のダメ弟子が来るまで少しお話でもしようか」

 

 普段とは打って変わり優しい笑みを浮かべる。

 少し離れた位置に腰を下ろし簡単な会話で危険がないことをわかってもらうと自己紹介から入る。


 「えと…その…すみません。私はクラリスと言います。4歳から奴隷にさせられていました…今は15です」

 「クラリスちゃんか、よろしくね。私はニーナ。ニーナ・シュレインって言うの。」


 出来るだけ満面の笑みを浮かべながら自己紹介をし、警戒を解いてもらおうと努力する。

 しかし帰ってきた反応は想像しなかった反応だった。


 「ニーナ様ですか?!あ、すみません興奮してしまって。以前、友人たちの住む森でドラゴンが現れた時それをお救いになられたのがニーナ様だと聞き及んでおります!」

 

 世界って以外と狭いものだなあ…

 でもあれは本気で思い出したくない過去なんだよな…

 と思いつつもキラキラした目で期待のまなざしを向けられては嘘はつけない。


 「あー…それ私の父だと思うよ。4年前のアースドラゴンの件じゃないかな?」

 「その通りでございます!」


 ピンと耳と尻尾を立てて興奮を露わにする。

 

 「あの時かあ…」


 と少し過去を懐かしむように語りだす。

 襲われている集落を遠目で発見したニーナの父。

 ニーナと共に駆け付け皆の物を助け出すことは出来た。

 しかしニーナにとっては苦い思い出だ。

 

 「ニーナよ、そろそろあの程度のドラゴンならば討ち果たせるであろう、戦うのだ」

 「え」

 「え、ではない。己の力を信じあのドラゴンを討ち果たして見せよ」

 「無理無理無理無理!アースドラゴンって竜種の中でもかなりの強さだよ?!師匠行ってよ!」

 「ええい!甘えるでないわ!」


 と蹴り飛ばされアースドラゴンと戦わされた。

 そんな苦い思い出が…


 「そのようなことが…」 

 「そそ、だから救ったのは私の父。強引に戦わされたけど結局泣きついてたしね私」


 そんな苦笑をしながら楽しそうに話す二人。

 少しは打ち解けられたかな?

 まあ苦い思い出を掘り起こす羽目になったのは少し心に響くな…

 なんて話をしていた時。

 ようやく、ぜぇぜぇと息を切らしながらイールがやってくる。

 

 「遅いよイール。毎日稽古つけてあげてるのになんて体たらくなの」

 「師匠ハァハァ基準でかんがえ…ハァハァ…ないで…」 

 「まったく…こっちは終わってるよ。紹介するね、こいつは私の弟子のイール。戦闘技術はかなり頼りにならないけど、家事全般、特に料理の腕はめちゃくちゃいいやつだ」

 「あんたがやらないから嫌々やってるだけでしょうが!!」

 「そしてこちら、クラリスちゃん。辛い思いしてる子だから。あまりそこには触れないで上げて。」

 「そう…だったのですか…っていうか!二人ともひどい怪我じゃないですか!」

 

 その傷の深さを見て慌てふためくイール。

 急いでカバンの中から治療道具一式を取り出し治療にあたる。


 「これはひどい…かなり痛むでしょう。歩くのもギリギリなほど傷が…」

 

 ニーナも大概、左腕に深い傷を負っているが気づいているのか無視しているのか…

 魔獣の一撃を生身で受け、その左腕からはとめどなく血が流れている。

 皮は裂け、肉は抉れ、骨まで達しているのではないかという深さだが…

 イールは即座にクラリスの傷だらけの足の治療に入る。

 

 「へー、イールは私が怪我してもなんとも思わないんだ―」

 「師匠は人外だと思ってるので、その程度大丈夫でしょ?」

 

 イラッ


 「いて!何するんですか師匠!いきなり後頭部引っぱたかないでくださいよ!」

 「べっつにぃ~」


 そんな師弟のやり取りを見ていたクラリスが不意に笑みをこぼす。


 「フフッ、お二人はとても仲がよろしいのですね、お付き合いされてたりするのですか?」

 「「それはない」」


 同時に否定が入り、キョトンとしてしまうがそれもまた面白かったのがクスクスと笑いだす。

 先ほどまで恐怖に支配され、ニーナにすら怯えていた少女が笑ってくれたことが嬉しかった。

 本質は人と接することが好きなおとなしい子なんだろう。

 そんないい子なのに奴隷にするなんて…可哀そうに、奴隷買うような貴族共全員潰してやろうかな…なんて物騒な事を考えているニーナを無視するイール。

 

 「それより急いで治療しますね」


 そそくさと治療に入るイール。


 「クラリスちゃん、その…家族とかは…?」

 「ええと…私の家族は全員奴隷として売られて…。父と母は貴族様にいい様に使われて死にました…」


 やばい。地雷踏んだかも…


 「そっか…ごめんね嫌な事思い出させて…」


 きっと私やイールなんかよりも辛い人生を経験してきたんだろう。

 私達な不幸中の幸いだったのだろう。

 しかしこの子は…

 心の中に棘が刺さったようなチクチクとした痛みが走る。

 きっとイールも同じ気持ちのはずだ。

 私とイールを救ってくれた父ならどうするだろうか…

 答えは一つしかないよね!


 「ねえクラリスちゃん。こんなこと言うのも少し酷かもしれないんだけどさ。良かったら私とイールが住んでいる、えとこの言い方ちょっとやだな…まあ仕方ない。私達のおうちに来ない?怪我もひどいし、その細い手足見るとたぶんろくに食事できてないよね?」


 そう提案を告げるニーナ。

 その意見にイールも。


 「そうですよ!これじゃあまりに不憫です…僕の美味しい手料理を是非ごちそうしたいです!師匠が珍しく仕事してお金も稼いだし豪勢なフルコースを味合わせてあげますよ!」

 「珍しくは余計だぞダメ弟子」

 「何を言いますか!」

 「こっちのセリフだ!」


 そんな師弟の喧嘩が勃発する中、クラリスは涙を流した。

 幼少時から奴隷としてあちこちに売られ、殴られ、いたぶられ。

 嬉しい。

 でもどうしてそこまで私に良くしてくれるのかがわからない…


 「お二人は…お二人はどうしてこのようなみすぼらしい私なんぞをお助けしてくれるのですか?私は獣種の中で希少な狐の血を受け継いでいるとは言え奴隷です。その…言い方が悪いですが助けていただく理由がわからないのです。」


 意を決して、人の善意を汚すことを理解した上での覚悟の発言。

 それは二人も理解した。

 だからこそ、こちらも腹を割って本音で語らねばなるまい。

 

 「私とイールは二人とも孤児だったんだ。私はどこか山の中に捨てられていたらしくてね。その時父に拾われ剣を教わり、まあアースドラゴンと未熟者を戦わせるとんでもないアホだったけど…そんな生活をしてたさい、あなたの友と同じく魔物に襲われている集落がありました。そこに住んでいた者達は力及ばずほぼ全員が亡り救えなかった。だけど父が、その命を捨ててまで助けたたった一人の生き残り。それがイールです。」


 そこまで告げるとイールはばつが悪そうに俯いてしまう。

 そんなイールの頭に手を置き乱雑ながらも励ますように、気にするなと言わんばかりの笑みと視線を向けながら続ける。


 「そして命尽きる直前まで、一切の後悔なく、満足した満面の笑みを浮かべながら逝ったんです。その最後を見て、もちろん父だと思っていたから悲しかったけど、とてもカッコいい人だ。そう感じた。その意思、その生き様を私が引き継がないと、たった一人の家族として私が受け継ぎたいと思ったから、そう決めたから。」


 この人達もたくさんの物を失ってきたんだ…

 それなのに私だけが不幸だなんてふざけた考えをもってしまっていたことに対して自己嫌悪と共に、嬉しさや疑問やら様々な感情が渦巻いてぐしゃぐしゃになってしまう。

 そんな自分でも自分がどうしたいかわからなくなるほど混乱しているクラリスになおも続ける。

 

 

 「そんな父が命を懸けて守ったこいつは、私の家族と同じです。今回は助けたのが私か私の父か、その程度の違いしかないの。だから、もし嫌じゃなければね?私とイールと一緒に暮らしてくれないかな?」


 赤面し、恥ずかしながら手を指し伸ばす。

 しかし、そこには嘘偽りのない、真意が読み取れる。

 そう感じたクラリス。

 しかし善意に甘えていいのかわからない。

 決して疑っているわけではない。

 でも…でも…!

 

 「クラリスさん、自分はこのダメ人間の世話するの一人じゃ大変なんですよ、だから。その一緒に、手伝ってほしいかなって」

 

 頬をポリポリと掻きながら不慣れなことを一生懸命にこなそうと努力を見せる。

 そんな二人から差し伸ばされた救いの光を。

 どうして無下に出来ようか…

 

 「あり…ありがどう…ございまず…!」

 

 ぐちゃぐちゃの顔でギリギリ分かるほど嗚咽まみれの言葉で二人に抱き着くクラリス。

 一体この小さな体でどれほどの不幸と辛さを抱えていたのかとやるせない気持ちになりながらも

 二人はそっとその背中に手を伸ばし優しく撫でで上げるのだった。

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