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働きたくない!

 「ししょおおおおおおおおおお!たすけてえええええええええ!」


 とある森の奥地。

 静寂を割らんばかりの叫びと地響きが轟く。

 木々はなぎ倒され、どんどん近づいてくる。


 「はぁ…」

 「しいいいいしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「まったくだらしがない…」

 「はあああやあああくううううう!」

 

 人の何倍あるかも目測では測れないその巨大な四足獣。

 彼はそれから全力で逃げていた。

 師匠と呼ばれたその女性の元に。


 雪原を想わせるような煌びやかな銀の髪を腰まで伸ばし(なび)かせる。

 誰もが見入ってしまうような透き通った肌を露わにし。

 スラリとした理想的な体系。

 丈の短くないスカートから見える太ももはどこか扇情的に見えるほど。

 紅玉のような深紅の瞳がまた幻想的だ。

 どこから見ても絶世の美女と呼んで差支えの無いその女性。

 

 「はぁ…」

 

 もう一度嘆息を漏らす。

 そしてその蒼銀の剣を抜き、構える。

 腰を落とし、目を瞑って己の波長を合わせる。

 高まった魔力を宿した必殺の一撃を放つために自分を高める。

 そして軽く息を吐き。


 「頭を下げて」


 そう告げた刹那。


 「神閃」


 その瞬間、巨大四足獣は上下に割れ、周囲一帯の木々がすべて切り倒される。

 あまりに速すぎる魔力が込められた斬撃。

 数舜遅れて突風が巻き起こり木々が舞い上がる。

 災害と呼んで差支えの無いその強大な旋風により。

 少年も上空へと打ち上げられていた。


 「ぬううおおおおおおおおわああああああああああああああああああああ!!!」

 

 絶叫と鈍い音と共に少年が落ちてくる。

 ドシャリ、という鈍い音共に少年は痛みに悶えるもすぐさま立ち上がる。


 「師匠!やりすぎです!ギルドの依頼なのにこんなめちゃくちゃしたらまた報酬減額されちゃいますよ!」

 「いやーだって、あまりに弟子が不甲斐なくてさー」


 明後日のほうを向き棘のある言葉を吐く。


 「師匠基準で考えないでください!三神と呼ばれるほどの、とんでもびっくり人間に数えられてその中でも最強を謳われてる師匠基準は、人外基準なんです!」

 「今回のクエストだって絶対僕じゃ勝てないレベルのものを勝手に受けてきて…ついてこいと言われてきたら『ギガントボア討伐』って殺す気ですか!」

 「これくらいそろそろ達成できると思ったのだけれど、まだ早かったのね…」

 「当り前じゃないですか、僕まだ『ゴールド』ですよ…ジャイアントボアは『ダイヤ』の人向けなんですから…」

 

 ギルドには階級があり『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』『ダイヤ』『アダマン』『クリスタル』の7階級存在する。

 最下級のブロンズは主に雑務。町の人の手伝いや簡単な護衛など。

 シルバーからは近隣での薬草採取など。

 ゴールドからは身の丈に合った討伐クエストが主流となっていく。

 最上位のクリスタルにもなると、国のほうから重宝され、国から様々な恩恵を受けるほどだ。

 

 「そんな事言われても、私は『冒険者』じゃないし…」

 「ならなんで毎回クエストを受けられたんですか…資格持ってないなら受けられないはずなのに…」

 「三神であるニーナ様なら~って受けさせてくれるよ?」

 「はあぁぁぁぁ…」


 ニーナ・シュレイン。

 弱冠21歳にして世界屈指の戦闘能力を持つ女性は、元は世界各地を旅する放浪者だ。

 孤児だったニーナはある時、旅をしていた老人に拾われ剣術を学びながら旅を共にした。

 だがある時、魔物に襲撃を受けている村でとある少年をかばい、その命を落としてしまう。

 その村のたった一人の少年こそ。


 「イール、ギルドに報告しに帰りますよ。」

 

 イール・ベルトン

 歳は18歳、村が壊滅してからの3年間。

 ニーナ達に救われ、共に旅をし今は冒険者としてその剣の腕を磨いている。

 住んでいた村を壊滅させられ、失意のどん底にいたがあんな惨劇は二度と起きてはいけない。

 自分が強くなって救いたい。

 そのためにニーナを師とし研鑽を積んでいる。


 「本当に自由なんですから、はぁ…」


 そう嘆息しながら王都へと向かう二人。

 イールの内心はただただ報酬がもらえるかの一点に不安感全開だった。


王都アースローン、そこに二人は住んでいる。

人口およそ15万人という大規模と呼んで差し支えない。

魔獣対策や他国からの攻撃に備えてある巨大な城壁には特殊な金属が埋め込まれているため堅牢さは抜群だ。

ドラゴンなどの襲来にも抜かりはなく、国王に仕えている魔導師団により常時空にはバリアが貼られている。

中に入るためには東西南北に設置されている検問所からしか出入りは出来ない。


ここまでの徹底された守備態勢になったのはここ数年のことだそうだ。


現国王が就任した際に『守りが薄すぎる!これじゃ民を守れない!というか私が怖い!』

という理由から大量の税金を投入しこの様な形になったそうだ。


そんな王都に帰還した二人はトボトボとギルドへと向かう。


 「それでは今回の報酬なのですがにゃ…ニーナ様やりすぎニャ…」


 そう親しげに喋るおよそ子供にしか見えない獣種の少女。

 黒髪を背中まで伸ばし、その頭頂部には猫耳が生えている。

 尻尾をユラユラと左右に遊ばせながらジト目でこちらを見つめる。


 「だから言ったでしょ師匠!」

 「プイッ」

 

 二人に責められながらもそっぽを向き聞き流す。

 なんたる心の強さか。

 

 「でもダイヤ向けのクエストを処理してもらったということでだニャ、ギルド長が今回は減額ってことで多少は支払うそうニャ」

 「ふぅ…良かったですね師匠」

 「満額じゃないのは不服ですが…まあいいでしょう」

 「それじゃこれが報酬ニャ」

 

 そう手渡された金額は悲しいほど少なかった。

 それを見た二人は愕然とする。


 「「たったの500ゼニー…」」

 「元の報酬は確か、これの200倍でしたよね…」

 「それほどの被害と言うことニャ」

 

 おそらく先ほどの一撃での被害は数千万単位の被害が出たはず。

 希少な薬草に鉱石などが取れる一帯の一部がなくなったのだから当然とはいえる。


特にニーナが斬り飛ばした薬草などは滋養強壮に使える薬草から怪我の治療や、高級な紅茶に使われるものまで多種多様だったのだ。


そういった一級品のものを日常的に食べて育っている獣達は屈強に、そして強く育つために、今回のクエスト周辺一帯の森の薬草採取などの簡単な依頼ですら『プラチナ』からの募集となっている。


 小銭を握りしめているイールがぷるぷると震えだす。

 日頃の鬱憤を晴らさんばかりにけたたましく怒りを露わにする。


 「ど…どうするんですかあああああ!ただでさえ金欠が続いてるのに、こんな小銭でどうやって生きていこうというのですか!そろそろ危機感を持ってくださいよ!というか師匠は何でギルドに加入しないんですか!クリスタル確定で支援受けられるからその日暮らしから脱却できるでしょうに!思えば毎日毎日食って飲んで寝て!食事も毎日僕がお金がかからないように考えながら作ってるし!後片付けしてくれないし!お金ないのにお酒ばっか買うし!基本働かないし!もっとちゃんとしてくださいよおおおおおおおおお!!」


 あまりの怒気に、厚顔無恥のニーナですらその勢いに負けてしまう。

 ニーナ・シュレイン、21歳にして絵にかいたようなダメ人間であった。


 そしてそんなダメ人間を叱咤し支え、見限ることをしないイール18歳。

 天性の召使いだった。 

 しかしてイールの主婦力は凄まじいものがある。

 毎食300ゼニー以下に抑えながらも、そこらの大衆料理店で出しても恥ずかしくないほどのクオリティをたたき出している。

 掃除洗濯も完璧だ。

 手際よく、そして丁寧な掃除のおかげでチリ一つない清潔な家を維持し続けている。

 

 「う…うん、ご、ごめんね?でもさ一回落ち着こう。みんな見てるから…」

 「いつもいつもそうやってはぐらかして!今日という今日はお金が稼げる真っ当な…そう!『真人間』になってもらいますからね!」

 「嫌よ!私はイール育成が忙しいの!毎日剣の稽古も付けてあげてるし!むしろ感謝してほしいぐらいだよ!」

 

 とことんダメ人間だなこの人はあああああああ!!!


 「ダメです。今この場で、ギルドに登録してもらいます。そしてお金を稼いでもらいます。それまで帰しません。」

 「イール如きがこの私を止められるとでも?」

 「いいのですか?めんどくさいからと言ってお金を僕に丸投げしているのですよ?僕が師匠を見限ったらどうやって生きていくのでしょうかねえ?」

 「うぅ…」


 もはやどちらが師でどちらが弟子か分かったものではないなと受付の猫耳少女は見ている。

 面白そうだし止めないで見てよ~♪


 「クッ…三神とまで呼ばれた私をここまで追い詰めるとは…致し方ない。登録はしよう。だが私が怠惰な生活の渇望まで折れると思わぬことだぞ!」

 「胸を張るなあああああああああああ!」


 なにはともあれ…

 ニーナ・シュレイン、ギルドへの加入およびクリスタル階級就任。

 

 そして申し訳程度の小銭を握りしめ帰路に着いたのだった。


 

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