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Leap/the first contact  作者: 海雀鳥落&幸
9/9

エピローグ by幸

 あのエイリアンの襲撃から数日。

 諸々の始末は着いていないが、学校はいつもの風景を取り戻しつつある。

 さすがは対エイリアンの専門部隊を育成する学校。対応が早い。

 ソウジロウは座学の授業中、結露で白くなった窓を見てから再び前の黒板を見る。

 教官がいつも通り、中等教育における国史のあまり面白くない授業をしている。少し板書が進んだので、ノートにそれを書き写す。

 教室の中で目立って怪我をしているのは、彼のチームメイト以外は誰もいない。試験時は怪我をしない程度の安全はやはり確保されていたようだ。試験後、怪我をして戻って来たソウジロウたちを見た同級は騒然としていた。エイリアンとの戦闘の激しさの跡を初めて目の当たりにしたような状態。

 つまり、実戦を経験したものがいないことを示していた。いや、それ以前の問題としてエイリアンをきちんと見たことがある人間がいるかも怪しい状態だ。興味本位でどんな感じだったかや何体倒しただの、まるでゲームをやった後の感想を聞くような軽い感じ。

 あまりにもひどい、同級の意識によって本当にこんな状態で皆実践に立てるのだろうかと少し心配になるレベル。

 しかし、そのようなマイナスな考えをソウジロウは捨てる。

 まだ学生の身分であるのにも関わらず戦闘に立ったというのが異例なのだ。

 それも、今まで確認されたことのない個体との接触など、そうそうあることではない。彼らの反応の方が正しいのだと自分に言って聞かせる。

 気を紛らわせるために、教室を見渡し、同じことを経験した仲間の姿を見る。

 マモルはいつも通り、真面目に授業を受けている。

 だが、片腕は戦闘の傷跡をしっかりと残しており、アームスリングで吊られていた。あまり動かしていないためか、見える腕の肌は白く血の気がない。治療のため、しばらく演習の授業には出れないそうだ。しかし、それについて彼女は特に気にするそぶりもなく、いつも通りに過ごしている。

 彼女の事だからもう少し慌てると思ったのだが、存外そうでもなかったようである。

 こっちに気付いたのか、顔をこちらに向け少し微笑んで見せ、また授業に戻る。思った以上にいつも通りの彼女の姿に少し面を喰らった。

 ソウジロウは視線を動かす。

 ウツホは頭を机に突っ伏し、眠っている。その状態の下には、教科書やノートの類はない。不真面目で異様ではあるのだが、皆慣れてしまったのかその姿に突っ込むものはいない。教官ともども。まあ、彼女の事だから誰かに後で板書を見せてもらうつもりなのだろう。

 先日の戦闘での目立った負傷がないため、彼女の態度素行以外目立ったところはなかったが、戦闘の翌日から彼女自身何か考えるそぶりをよく見せるようになった。何か悩んでいるのだろうかと思うが、彼女のことだ、下手に聞いたら何を言われるか分からないため、外しておくことにする。

 その隣に鎮座するのはレイカ。少し前まで真面目に授業を受けていたのだろうが、退屈過ぎて少し船をこぎ始めている。身長が高いため、あと少しで教官に注意されるんだろうなと内心思う。

 こちらは特に変わった素振りはなく、気になる点もない。

 また視線を動かしてサキの席を見る。

 しかし、そこに彼女の姿はない。

 リープの過剰使用による後遺症があり、現在は入院中。体に力が入らない状態が続いており、生活に不自由が出ているための措置だ。時間経過とともに体がきちんと回復すれば、すぐに退院はできると言われている。

 襲撃の後、治療のため国立病院に向かっている途中で急に倒れたため周りを騒然とさせた。しかし本人はいたって平静にしていたので、彼女自身覚悟していたことなのだろうと分かる。リープの過剰使用について教官からこっぴどく怒られていたが、彼女はそれを真摯に受けていた。

 彼女にまたそんな役割をさせてしまったという、後悔がまた積もっていく。しかし、口にするとまた怒らせてしまうんじゃないかと思い、今度何かお菓子でも送るかと算段を付け始める。

 板書がまた進んだ。ソウジロウは再び前を向き、ノートに視線を落とす。



 試験はなんとか合格にはなった。エイリアン襲撃までの間にすでに合格点を超えていたため、そこから判断してくれたのだろう。エイリアン襲撃時に行われる特別措置と考えるのが妥当。

 よって来年度から見事メンバー全員四年になることができる。

 しかし、彼ら五人全員にはそれぞれの課題がすぐに設定された。この同級の中で誰よりも早く。

 その一方で留年が決まったものもいないため、他の同級は進級に対して浮かれている。このまま、エイリアンの襲撃の際居合わせて戦闘を経験せずに卒業してしまったら、初陣でソウジロウたちよりもひどいショックを受けることになるだろう。

 ソウジロウたちはまた始まるいつも通りの生活を享受しつつも、卒業後の自分に思いを馳せる。

 誰よりも早く、戦いを経験した彼らは新たな道に歩みを進め始めた。


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