7 by幸
ソウジロウたち五人は警報の鳴りやまない演習場の中を走っていた。
いつどこで起こるか分からない群体エイリアンたちによる襲撃。まさか自分たちの学校、それも昇級試験の日に現れるなんて思ってもみなかった。いや、完全に忘れていた。彼らと対峙するのは卒業後だとどこかで思っていた。
「くそ、何だってこんな時に!」
ウツホがボヤく。せっかく、あと少しで試験がうまくいくと思っていた彼女にとってこの状態は許しがたいものであった。しかし、今は非常時一言言った後彼女は黙って走り続けている。
エイリアンを模したエネミーたちがエリアの所々で停止している。今警報を鳴らしてるのは、このエネミーの本物たち。
きちんと装備は持っているけれども、ソウジロウたちは実際の接敵を支持されていない現状、自分たちはまだ戦力として数えられているわけではないということを実感せざるを得ない。
「おい、こっちだ。こっち!」
すると、教官が言っていたポイントで手を上げ、待っていた。
他の生徒はいない。試験中のソウジロウたちの誘導のためにこの教官はここまで来たのだろう。
これで何とかなる。
ソウジロウたちはそう思った。
しかし、その安堵を否定するかのように、突然教官の体があらぬ方向に弾かれた。
弾かれた教官は、近くの建物の壁に全身を強く打ち付ける。壁に一瞬張り付いた可能様に見えたが、その後体は地面へと崩れ落ちる。糸が切れた操り人形のように教官はピクリとも動かなかった。
一瞬の出来事に声を上げることができなかった。ここにいる誰一人。
防衛本能がここから早く立ち去れと強く命令してくる。しかし、この状況退いていいのか、正しい判断をすることができない。みな同じことを思っているようで、ここにいる誰もが走り出そうとはしなかった。
「……何なのよ、アレ」
少しかすれた震える声でサキは言う。目を大きく見開き、拳をぎゅっと握りしめていた。
メンバー全員の視界に映っているのは見たことのない、知らないものだ。驚きを通り越して、何とも言えない感情が腹の底に渦巻く。
ソウジロウは視界の先にあるものをじっと見つめた。
群体エイリアンが一体のみ、さっきまで教官が立っていた位置に立っている。
その巨躯、三メートルを超えている。上半身はレベル3と同じで、筋肉質な肉体に丸太のように太い腕、頭はどの個体も共通の固い外殻に覆われたもの。しかし、頭の発光部位の光は弱く、異様な雰囲気を出している。特徴的なのは下半身。足がレベル3のものではなかった。その足は長く、筋肉質に富んだまるで人間のような足。さっきの速さはこの足が生んだものだと一瞬で判断がつく。そして長い尾の存在。直立二足の体型でないため残ってしまったものなのだろう。だが、その尾は鞭のようにしなりを利かせゆらゆらと揺れている。あれはきっと、あの個体の攻撃手段の一つでもあるのだろうと悟る。
見たことも聞いたこともない異質な個体の姿に一同は困惑する。しかし、そのような悠長なことをエイリアンは許さなかった。
エイリアンがこちらを視認。次の獲物を見つけたと思ったのか、口をガバリと開け異様に白い歯をこちらに見せた。まるで笑っているように見える。エイリアンの目が狙いを定めたのが分かる。
背筋が冷たくなる感覚を受けるが、ソウジロウは臆せず迷わず叫んだ。
「総員、迎撃態勢!」
その声に弾かれるように皆、各々の武器を構えようとするがエイリアンはすでにソウジロウの間合いに入っていた。一瞬の接近、武器を構える暇も与えてくれない尋常ではない加速だった。
「なっ」
ソウジロウは反射的に自分のリープを発動し、そしてエイリアンの迫りくる拳を両腕でガードする。正面からならどうにか止められるかと思ったが、エイリアンの力は想像以上に重い。衝撃がスーツを通して全身に駆け抜けていく。リープがなければ骨にひびが入っていたかもしれない。
体を浮かされないものの、拳の威力を殺すことはできずソウジロウは地面に転がる。
「ソウちゃん!」
マモルが声を上げるが、今はそんなことをしている暇ではない。
エイリアンは転がったソウジロウに追撃を加えようとしていた。今の状態で、ガードはできない。その上、いくら防護スーツを着ているからと言って、まともに喰らえば内臓破裂は免れない。
万事休すかと思った矢先、エイリアンに銃弾が浴びせられる。味方からの援護射撃だ。
しかし、銃弾は一発もエイリアンに当たった様子はない。一体どういう反応速度だと、ソウジロウは視界の端で捉えたエイリアンの動きを見る。
いったん距離を取ったエイリアンは、狙いを切り替えた。
次に狙われたのはマモルだった。ソウジロウが狙われた際に何一つ武装を手にしなかったため弱いものとして見られたのだろう。獣の狩りなら上等の手段である。
マモルは自分が狙われたのに気付くとリープで障壁を出すが、強度は十分ではなかった。動揺した精神状態が作る壁は、飴ガラスのように砕け散る。その破片の中から襲い掛かってくる拳はマモルを宙に舞わせた。生身の人間がトラックに突っ込まれた後のような、圧倒的力量差を目の前で見せられている感じ。
宙を舞ったマモルの体は、地面と激突。気を失ったのか、すぐに動こうとはしなった。
「マモル!」
サキが持っていたハンドガンをナイフに持ち替え、マモルに追撃がいかないように攻撃を仕掛ける。エイリアンはそれを察知したのか、体をそらして回避。そして着地の隙を狙って、尾でサキの足を取ろうとした。
だが、サキは無理矢理飛び上がり、体をひねって滞空時間を稼いで回避。着地のタイミングをずらしてから、距離を取った。
今の動きからすると、スピードと技量はサキとほぼ同格の戦闘能力を持ったエイリアンだと判断できる。通常のエイリアンならこのような行動は不可能だ。
あの個体は、状況に応じて自ら判断するという群体エイリアン独特の不可能な能力を持っていることになる。その上、あの異様な身体能力。きっと、あの見たことのない足がそれを発揮させているのだろう。
ソウジロウは槍を構えながら、一瞬静止したエイリアンを睨む。体が震えようとしたが、大きく息を吐いてそれを諫める。いかに相手がトンデモであれ、この状況で戦わずに逃げるという選択肢は彼の中に生まれなかった。
「ふっ」
息を一気に吐き、リープで強化した槍撃をエイリアンに接近して放つ。槍による変化する間合いを見切れず、エイリアンの頭部を掠めた。うまくいくとは思っていなかったが、まさか掠める程度しか傷を与えられないほどの反射能力とは。ソウジロウは相手との差に愕然とする。
エイリアンは若干崩れた体勢から、腕を振るいソウジロウの槍を取ろうとするが、ソウジロウは突いた槍を引き、距離を取る。
だとしても、武器まで取られるほど遅れを取るつもりもない。それだけは、ソウジロウのプライドが許さなかった。
「隊長、かわせ!」
ソウジロウはエイリアンからさらに距離を取った。
すると、ウツホの声と共にエイリアンに向かって弾丸が再び浴びせられる。この音はレイカの機関銃だ。当たれば確実に相手を屠る火力があるが、エイリアンはウツホの声に反応してしまっており、弾痕が残る壁の先にエイリアンの肉片は存在しない。
エイリアンはさらに狙いを変え、次は機関銃を放ったレイカの方を狙う。援護射撃の火力を忌避したいのだろう。
レイカは距離を保とうと後退しつつエイリアンを狙って撃つが、穿たれたのはその影のみ。
すぐにエイリアンは自身の間合いを詰め、拳の届く先に彼女の脳天を捉えていた。防護スーツを着ていても必死の一撃が振り下ろされる。
レイカは回避行動をとろうとするが、間に合わない。拳が迫ってくる。
(デタラメすぎる)
思わず目を閉じ、次に来る衝撃に備える。だが、その運命は来ない。その瞬間彼女の体は大きく後退し、拳の落ちる場所からそらされたからだ。
いつの間にか、彼女の背後に移動したサキが彼女のバックパックから機関銃に延びる弾帯を引っ張っていた。レイカは何が起きたか分かっていない様子だが、サキはそのまま引っ張り彼女を無理やり後退させていた。
レイカを退避させると、サキはエイリアンへの攻撃に転じる。
それを見て同時にソウジロウは挟み撃ちになる形でエイリアンに槍で殴打を計る。
エイリアンの右と左の両方からの攻撃。
さすがにこの一撃はかわせまいと思った。しかし、その状況下エイリアンは高速で身をひるがえしつつ尾を使いソウジロウの足を捕まえる。そして、体を振るいサキに向かって投げつけた。
「!!」
サキは咄嗟に握っていたナイフを捨て、ソウジロウを受け止める。
ナイフを持ったままだと、ソウジロウの体を切断しかねなかった。
しかし、それはエイリアンへ攻撃の的を与えていることになってしまっている。
二人に向かってエイリアンの拳が入る。
攻撃を直接受けたのがリープを使っているソウジロウのため、双方大けがにならずに済んだが、地面にたたきつけられているため二人はすぐに動けない。危機的状態が続く。
演習でもやったことのない動きをしていることもあり、体も頭も状況に付いて行けていない。しかし、この状況はどうにかして好転させねばならなかった。
今の状況が続けば間違いなく、全員つぶれてしまう。リープの使用時間もそうだが、眼前のエイリアンの攻撃は何度も喰らっていいものではない。確実に体へダメージを与えている。
体の強度さえ上げることのできる、ソウジロウでさえすでに手足がしびれていた。
一方、エイリアンにはダメージらしきものは入っていない。余裕そのものの状態のように見える。少し開いた口から見える歯のせいだろうか。
にやけてんじゃねぇよと、心底で怒りがわいてくる。しかし、相手の余裕は理解できた。ソウジロウたちでは奴を倒すことができない。その確信があのエイリアンにはあるのだ。
何か策を考えないと。時間が欲しい。
しかし、こちらの気も知らないでエイリアンはこちらに追い打ちを仕掛けようと踏み込み始めていた。これで仕留めにかかるつもりだ。
その行動に対する判断をする暇もない。
だがその時、エイリアンに対して不意の攻撃が入る。
「ぐぅっ」
マモルが起き上がり、エイリアンに向かってバトルライフルに火を噴かせていた。しかし、銃身がぶれており弾がばらけている。
予測不可能な弾道に反応したエイリアンはソウジロウたちから距離を取った。
最後の一撃を邪魔されて憤ったのか、攻撃をマモルに仕掛けようとするが、何かを察知したかのようなそぶりを見せる。
何だと、思ったがエイリアンはすぐ跳躍をして後退を始めた。
マモルはそれを追うように銃身を動かすがかすりもしない。
さらにエイリアンは距離を広げる。そして、その距離は段々と遠くなっていき、ついには姿が消してしまった。
マモルはそれを追おうとするが、上手くライフルを保持できていないため、落としてしまい追撃はできなくなった。腕に激痛が走ったのか、うめきながらその場にうずくまる。
「マモル!」
立ち上がったサキがマモルの元へと駆け寄っていく。
その様子を見て、戦闘が終わったのだ分かる。
「助かったのか?」
ソウジロウは口の中に、溜まった血を吐き捨てつつ辺りを見渡す。一瞬の悪夢から覚めた気分だった。
なぜ、撤退したんだ。
それに逃げる前のあの行動。しかし、見たことないあの個体に対して明確な答えを持ち合わせているはずもない。
それ以前に群体で行動するエイリアンが単独での襲撃は異例だ。いったい、何が起こっていたんだ。
ソウジロウはエイリアンが逃げた方向を睨む。
エイリアンが逃げた方向、そこにさっきまでの絵はなく、ただの演習場の風景が広がっていた。
エイリアンに襲撃された後、一同は倒れた教官を連れてエリア内にある休息ポイントにいた。都市部エリアの中でも見通しの良い場所にあるため、見張りを外に出さずに窓から外を監視している。
あのエイリアンの他に群体エイリアンがいると思ったが、こちらには影も形もない。
群体エイリアンに見えるのは、試験用に放たれていたエネミーたちだけだ。本当に、あの一体だけが来たのかと改めて実感する。
ひとまず安心できるかと思ったが、どうにも落ち着かなかった。
「これで良いだろう」
ウツホが教官の脇から立ち上がりこちらに来る。教官の応急手当をしていたのでその報告だろう。
教官は生きていた。
応急処置のためスーツを脱がしたときに見た、衝撃を殺しきれずに砕けてしまった腕は青黒くはれ上がっていた。意識はないが、治療中に痛みで多少顔をしかめて反応していた。どうやら命に別状はなさそうである。しかし、頭を強く打っている可能性もあるため、早く医者に見せないといけない状態ではある。
ざっくりとウツホから報告を得たので、ウツホを休ませる。一緒に応急手当をしていたサキも、腰を落ち着け始めていた。
「ソウちゃん、大丈夫?」
マモルがソウジロウの元にやってくる。彼女の右腕はベルトで首から吊るされていた。彼女の腕も教官の腕と同じように折れており、使えない状態になっていた。銃を持った通常の戦闘はしばらく彼女にできない。
「大丈夫だよ。マモル、腕は」
「ごめんなさい、これが精いっぱい」
吊るされた右腕、その指がかすかに動く。さっきライフルを無理に使ったせいなのかはわからないが、確実に普通の骨折よりも状態は酷い。
リープはおそらく使えるだろうが、いつもと違うコンディションで使った際の彼女の実力は壊滅的なので、戦力として考えることはできなかった。
「分かった。見ててくれ、ちょっと通信してくる」
ソウジロウはマモルに窓の外の見張りを変わらせて、今いる部屋を出ていく。
「こちらホンダ、学校本部、応答願います」
緊急時のチャンネルはきちんと機能しているようで、すぐに誰かが応答した。
『こちら、本部。ホンダ、無事だったか。……ヨコオ教官とは合流できたか』
「はい。合流はしました。しかし、――」
『しかし?』
「エイリアンと接触、教官殿は重傷を負われています」
『何だと』
「先ほど、応急手当はしました。今のところ命に別状はないかと」
『分かった。しかし、何故そんなことに。通常装備は身に着けていたはずだろう』
「それは――――」
ソウジロウは先ほどあった事柄をすべて話す。応答に出た教官は一回驚いて見せたが、ソウジロウが説明を終えるまで黙って聞いていた。
『なるほど、今までに見たことがない、群体エイリアン』
「はい」
『……あり得ない話ではないのだが、まさか本当に存在するとは』
教官は唸る。新たなる脅威と言うのはやはりいくら経験が多い人だからといえども、黙らせてしまうほどの衝撃なのだ。
「移動した方が良いでしょうか」
『……むぅ、悩ましいが、下手に動くとかえって危険だと判断する。その場に留まれ』
「はい」
『こちらで救助要員の編成して送る。それが来るまで待つのだ』
「了解です」
『何かあれば再度、連絡してこい』
「ありがとうございます」
ソウジロウは通信が切れるのを待ってから、部屋に戻る。
すると、中で大きな音がした。
エイリアンでも入ってきたのかと思って、勢いよく部屋の中に入ってみるとそのような姿はなかった。代わりに、レイカがサキの胸倉をつかみ壁に押し付けていた。身長差のため、サキの体はわずかに宙に浮いている。
「お前のせいで、お前のせいで…………」
レイカが何かぼそぼそと言っているが、ここからは聞き取れなかった。
「おい、レイカ止めろ!」
「うるさいっ! 黙ってろ……」
一体何が。ソウジロウはレイカの手元にあるものがないのに気付く。いつも演習時などに手放さず持っている機関銃だ。
視線を動かしてみると、少し離れたところに機関銃は置かれていた。
いつもと違う状態なようだが、よく分からない。しかし、今は先にあれを止めさせないといけない。
そう思った矢先、
「レイカ、手ぇ放せ!」
ウツホが間に入り無理矢理、レイカを引きはがす。
サキは呼吸ができていなかったようで、解放されるとその場に座り込んでせき込む。レイカは落ち着きを失っており、隙さえあらば彼女に襲い掛かりそうだったのでウツホが必死に抑えていた。
「大丈夫か、サキ」
ソウジロウはサキの方に駆け寄り、彼女を支える。
「てめぇ、何やってんだよ」
ウツホが彼女に問いただす。
いつもはここまで感情をあらわにしない、レイカが激情的に動きあまつさえ、人に手を出した様子に一同驚きが隠せない。
ウツホの問いに対してレイカは激情のまま言葉を連ねていく。
「お前のせいで、配給機構が壊れた。もう、撃てない。こんなんじゃ、戦えない」
もう一度機関銃の方に目を向けると、確か給弾機構の金属パーツが本来とは違う形になってしまっている。あの状態では薬室に弾を送れない。壊れた部分が銃身であれば換えもあっただろうが、現状これを直す方法はここにはない。彼女の機関銃はただの鉄塊に成り下がっていた。
「戦えないんじゃ、私はあいつらを倒せない。殺せない。私はあいつらを殺すために、学校に入った。次、エイリアンが目の前に現れたら私が殺してやるって。そう思って毎日、訓練してきた。…………なのに、なのに、お前は!」
静かであるが、はっきりと怒気が感じられる声。今までに見たことがないレイカの姿だった。
レイカの言葉の反応し、
「け、けど、ワザとではないんだし、――」
マモルが言うが、
「ワザとじゃないからってこんなこと、許さない。私の目的を邪魔するのなんて、絶対……!」
レイカは冷ややかに告げる。怒りの灯った眼差しに刺され、マモルはそれに怯え言葉を紡ぐのをやめた。
しかし、言葉を紡ぎ始める者がいた、サキだ。
「……あなたね、さっきから聞いてれば好き勝手に言いたい放題……」
サキはゆっくり立ち上がり、レイカと対峙するように彼女を見据えた。先ほどいきなり、胸倉を掴まれたのにも関わらず物怖じしない。
「確かに、私はあなたの武器を壊した。けど、だから何なのよ」
「!…………お前!」
挑発的なサキの発言に対して、レイカが怒気をあらわにして、サキに掴みかかろうとする。しかし、ウツホに抑えられているので、手はサキの目の前で空を切った。サキはそれに対して臆せず悠然と立っている。
「こんな言い方好きじゃないけど、あえて言うわ。あなた、自分の立場分かってるの? あの状況、私が引っ張らなかったらあなた死んでたわ。それでも良かったの?」
レイカとは違い、落ち着きの払った声。サキはレイカの反応を見る。
「……」
レイカは何も言わないが、火の宿った目でサキを睨んだ。
それを見るとサキの瞳から色が消えた。そして何かを決意したかのように、彼女に告げる。
「そう……やっぱりあなたの事、気に入らないわ。自分の命より武器が大事だなんて。……いくらエイリアンを倒すのが目的だからと言ってね、自分の命を粗末にするやつ。……必要ないわ。いつもはこんな危険な状況にならなかったからわからなかったけど。今回はっきりしてよかった。あなたの事、二度と信用しない。ここから先、あなたと一緒に戦っていたら仲間の命が何個あっても足りないわね」
サキはそれだけ言うと、くるりと体の向きを変えソウジロウに外の様子を見てくるとだけ言ってその場を立ち去った。
ソウジロウは声を掛けようと思ったが、何を言ったらいいのかが分からず少し出した手を彷徨わせる。
レイカはしばらく怒りに震えていたが、サキの姿が完全に見えなくなると少し落ち着いたようで、自分の機関銃の傍に戻っていった。
空気が重い。
サキは部屋に戻ってこずに、どこかに行っているようだった。
ウツホはレイカの傍で、何か話しているようだがここからでは聞き取れない。
マモルは気まずそうに、ずっと外を見ていた。
どうしたら良いんだろう。
ソウジロウは考えを巡らせるが、正解と思えるものが何も出てこない。
つくづく自分はリーダー失格だなと思い知らされる。
しかし、何か行動しないとまたサキに怒られるかもなと思い、頭を回し始めていると、
「何、あれ?」
マモルが何かを見つけた様で、ソウジロウもそちらに向かった。
視界に何か、このエリアには本来ないものが近づいていた。
はっきりとは見えていない。しかし、その正体は確実に分かった。
「全員、伏せろ!」
ソウジロウは迷わず声を上げ、状況が分かっていないマモルを押し倒しながら、床に突っ伏す。
その刹那、ソウジロウとマモルの至近距離にある窓から衝撃がやってきた。あのまま立っていたら、今頃は大きく宙を舞っていたはずだ。あらゆる破片が飛び散り、それが辺りに振り落ちる。
ソウジロウは衝撃の跡を視線で追った。
そうであってくれるなと思ったが、予想は的中した。
一度見たら忘れることのない、脅威の姿がそこにはあった。
ほこりが舞い煙のように立ち込める中、ゆっくりと起き上がる巨躯。奇襲を仕掛けたものの、手ごたえがなかったためか首をかしげて辺りを見渡し始めていた。
間違いない。さっきのエイリアンだ。
先ほど教官とのやり取りで決まったこの個体の呼称を用いるなら、
「…………レベルX」
絶望がそこに立っていた。