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Leap/the first contact  作者: 海雀鳥落&幸
6/9

6 by海雀鳥落

「最後はここか」


 ソウジロウたちの前に広がっていたのは、ちょうどこの間の演習で使ったような市街地だった。

 街並みは一階建てから二階建ての家屋が主だが、ちらほら五階建てを超えるマンションの姿も見える。


「あれ、学校か病院かしら」


 町の中心部に見える、白いコンクリート造りの建物を指さしながらハヤミが言った。

 看板や標識の類はないので正確な所は不明だが、確かにそう見える。


「市街地だとこれまで以上に奇襲に気を付ける必要が出てくるわ。どうするの?」

「周りはコンクリートの建物ばかりだ、敵を全滅させるのは現実的じゃない。

 進路を確保しつつ前進して、ゴールへの到達を第一に考えよう。

 レイカも別れずに皆についてきてくれ。……三脚なしだと、マシンガンは使えないかな?」

「撃てる。射撃精度は格段に落ちるけど」


「よし、じゃあ一塊で動こう。ウツホ、先頭を任せていいかな?」

「アタシが先頭?」

 ウツホが不満げに首を傾げる。


「市街だと遭遇戦が多くなる。君のグレネードランチャーは敵を一撃で倒せる。

 だから君が一番斥候向きだ」

 ソウジロウが言うと、ウツホは仏頂面で手にしたランチャーに視線をやった。


「ふぅん。ま、いいさ。あんまり働かないのも評価に響くし、やってやる。

 ……おいレイカ、残弾まだあるか?」

「残り二割ほど」

「今取り換えちまえ。〝容量〟を開けときたい」


 ウツホが足元にカプセルを落としてパチンと指を鳴らすと、レイカが背負っているのと同じバックパック型弾倉がもう一つ現れた。

 レイカが素早く機関銃から給弾ベルトを外し、新しい弾倉に背負い替えてベルトを繋ぎ直す。

 そして古い弾倉から七・六二ミリの弾帯を引っ張り出し、マモルに投げ渡した。


「あげる」

「え……?」

「ベルトをバラせばその銃でも使える」

「あ、あの」

「弾薬は大事。無くなったら死ぬ」

「え、あ、ありがとう……」


 混乱した様子で礼を言うマモルに背を向け、レイカは次にソウジロウに向き直った。

「このまま歩き通すならもう一度小休止をしたい。さすがに疲れた」

「そうだな。この辺は見通しもいいし、五分くらいなら休めるはずだ」

 ベルトリンクからチマチマと弾を外すマモルを横目に見ながら、レイカは座り込んで取り出したチョコレートを齧り始めた。


「隊長、ハヤミ。そこの家の上に上るから手伝いな」

「家に? どうしてだ?」

「使いたくなかったけど……こないだ大前はたいて買ったんだ」


 ウツホが弾帯から一発の弾を抜き出し、通常の榴弾との区別のために黒く塗られたそれをハヤミの前でちらつかせた。


「四〇ミリランチャー対応の偵察(リコン)カメラだ。空砲のカートリッジを使って撃ち出す。

 中にカメラが仕込んであって、パラシュートでゆっくり落下しながら上空からの映像を七分間タブレットに送信する。撃つ位置が高いほど広範囲を見られる」

 バックパックから取り出したノート大のタブレットを操作した後、ウツホがリボルバー式の薬室にカメラを押し込んだ。


「そんなもの、よく手に入ったわね。……そういえばあんたの家、金持ちだっけ。お父さんが政治家で、奥さんが女優――」


 ハヤミが何の気なしに口にすると、ウツホはじろりと彼女を睨みつけた。

「自腹だよ。次同じ事を言ったら歯をへし折るぞ、露出魔のナイフ女」


「は? 何キレてるのよ」

「ふん」


 ウツホはそれ以上語らず、ランチャーを構えながら慎重に家のドアを開けて中に入り込んだ。

 エイリアンが室内に潜む事例はそう多くないが、ゼロではない。

 仕掛けているのが人間である以上、考え得る可能性は全て疑った方がいいだろう。


 入念に室内を全て確かめた後、ハヤミのヴァイブロ・ナイフで構造物の一部を切り取り、二人は二階建ての家屋の屋根の上に出た。


「隊長、撃ち上げていいのか?」

「ああ。しかし、本当にいいのか? 高いんだろ、それ?」

「そこで躊躇ってんじゃねぇよ、命令ははっきりさせろ! ……撃つぜ!」


 ウツホがランチャーを上向きに構えて引き金を引くと、ぽん、という軽い発射音と共にカメラが空高く撃ち上げられ、上空でパラシュートを開いてゆっくりと降下を始める。


「レベル三が一体。その護衛にレベル二が三体。それ以外にもレベル一と二が市街のあちこちに散開してる。見つかったら囲もうとしてくる、無策で突っ切るのは厳しそうだ」

「レベル三の居場所はどこなの?」

「あの学校だか病院だかの屋上。……狙撃できないかな」


「近くに都合のいいマンションもある、不可能じゃない。

 ……でも、移動中に見つかったら、連中動き出すよ」

 ソウジロウは少し考えてから、口を開いた。


「上手く事が運べば最大の障害を取り除ける。駄目でも頑丈な建物に籠城すれば負けはしない。

 多分、大丈夫だ。……皆は、どう思う?」



「――この建物だ。ここの屋上から曲射でレベル三を直接狙える」

 ウツホのナビゲートに従い、一行は休憩を終えて歩き出した。


「……納得がいかない」

 珍しく不満を顔に出すレイカの背には、弾倉ではなく物資が詰まったバックパックがあった。

 彼女の愛用する速射機関銃とその弾倉は、白いカプセルに収められてレイカの手の中に納まっていた。

 建物に上る時の負担を考えて、ソウジロウがウツホに仕舞わせたのだ。現在レイカが背負っているのは、ウツホがそれまで収納していた物資である。


 陣形もハヤミとソウジロウを先頭に起き、他三人がその後ろにつく形に変えていた。

 隠密行動をする上では、銃火器を持ったレイカ、マモル、ウツホは逆に邪魔となるからだ。


「あんた、素手でも《リープ》で攻撃できるじゃない」

「丸腰は丸腰。……個人防衛火器(PDW)の携行も視野に入れるべきかしら」

「ますます大荷物になるんじゃ……大丈夫だよ、レイカさん。私とウツホさんでどうにかできるから」


 時々タブレットを確認して敵のいないルートを選びながら、五人は名状しがたい不気味さを放つコンクリート・ジャングルの間を進んでいった。


「映像が切れた……時間切れ、か」

 タブレットの画面を眺めながら、ソウジロウが苦々しげな表情で呟く。


「ウツホ、偵察カメラはあと何発ある?」

「あと二発。そんな安物じゃないんだよ。……右にレベル二!」

 ウツホが咄嗟に叫んだ瞬間、《リープ》を発動したハヤミが敵に躍りかかり、ヴァイブロ・ナイフで首を切り飛ばした。


「建物の陰にいたんだわ。テレパシーで病院の連中に知らせたかも」

「リコンで確認しよう。ウツホ、もう一発頼む!」

「ああ、もう! 後で金出せよ!」


 ウツホがぼやきながら病院の方角にカメラを発射した。

 十数秒後にタブレットに再び映像が映し出される。


「……何だ、どうなってる?」

 しかし画面を覗いていたソウジロウの口から出たのは、戦慄でも安堵でもなく、困惑の声だった。

 画面上に映し出された黒い敵影のほとんどは、ソウジロウ達の方ではなく――病院から見てその反対側、まったく見当違いの方角に集まっていたからだ。


 ソウジロウが皆にその事を伝えると、全員が困惑したような反応を返した。


「別の場所に集合してる? どういう事よ?」

「一旦戦力を集めてからぶつける気とか……?」

「奴らは『一旦集める』なんて真似はしない。

 ――重要なのは、今敵のほとんどは病院に集まっているという事実。今がチャンス」


 レイカがリアリスティックな意見を述べると、ソウジロウもそれに頷いた。

「確かに好都合なのには変わりがないし、計画通りに行こうと思う。……どうかな?」

 


 建物の上に登るまでの道中、敵とはほとんど出くわさなかった。

 いてもレベル一や二が数体、明らかに統率がとれていない動きでうろついているだけ。

 その上こちらを視認し、あまつさえ発砲音を響かせても、増援がやってくる気配すらなかった。


「……一体何なんだ。何で敵の本隊は動かない」

「ろ、ロボットの不具合とか?」

「話が上手すぎる。最後の最後に致命的な罠があるのかもしれない……とにかく、陣地構築に移ろう。ウツホ、レイカに銃を渡してくれ」

「ふん。ほらよ」


 ウツホがぱちんと指を鳴らし、機関銃を解放した。

 レイカが無表情のまま、長年会っていない親友と再会した時のような勢いで解放された速射機関銃に飛びつき、弾倉を背負って動作を確かめる。


「……やっと戻ってきてくれた。我が親友よ」

「やっぱお前頭おかしいよ」


 ウツホが呆れたように呟くが、レイカはどこ吹く風で屋上の隅に三脚を立て、そこに機関銃を据え付けた。反対側の隅にはライフルとグレネードランチャーを手にしたマモルとウツホが控え、何かあればすぐ障壁を展開できるように構えている。


「タイミングを合わせて一斉射撃しよう。レベル三を――」

「待て、アタシが先だ。弾速の差も考慮に入れな」

「……解った。マモル、レイカの二人は屋上での爆風を確認次第、射撃を開始しろ。

 レベル三を最優先だ。いいな?」


「了解」

「解った」

「へいよ……そら、くたばりな!」


 ウツホが銃口を斜め上に向け、六連続でグレネード弾を発射した。

 レベル三は屋上のソウジロウたちには気づいていないらしく、屋上に立って見当違いの方向を見つめている。


 次の瞬間、的を過たず屋上に落ちた六発のグレネードが炸裂し、屋上にあったものを爆炎と破片が薙ぎ払った。次いでレイカとマモルが――比率で言えばほとんどレイカ一人が撃ったようなものだが――銃弾で屋上の生き残りを掃討し、作戦は完了した。


「よし、司令塔を潰した。これで後はゴールまで直行――」


 ソウジロウが指示を出そうとしたその時、腰から提げた通信機から電子音が鳴り響いた。


「……えっ?」


 全員を見回すが、誰も無線を送っている様子はない。つまり――教官からの通信だ。

 試験中に教官から通信が飛んでくる理由など、ソウジロウには一つしか思いつかない。


(試験、中止……まさか、失格か!?)


 ぶわ、と全身の毛穴から汗が噴き出す。


 何を失敗した?


 敵を残したまま次のフィールドに進んだのが駄目だった? 

 否、全滅させる必要はないと確かに説明された。


 グレネードで攻撃した屋上に生存者がいて、民間人を攻撃した扱いになってしまった?

 否、これも事前説明で否定されている。今回の試験ではフィールドに民間人はいない。


(まさか――)


 あるいは、そもそも事前説明自体が間違っていたのでは?

 教官たちだけに知らされている評価基準があって、自分たちは知らないうちにそれに引っかかっていたのかもしれない。ネガティブな考えが次々と頭に浮かび、冷や汗がつぅ、と頬を伝う。


 ソウジロウは震える手で通信機を掴み、恐る恐る受信ボタンを押した。


「こちら、ホンダです」

『落ち着いて聞け。……試験を中止する。直ちに厳戒態勢に移行し、誘導に従って避難しろ。

 本物の群体エイリアンが、今お前たちがいる市街地に出現した。これは訓練ではない』

「え――」

『繰り返すぞ。本物のエイリアンが、今、そこにいる。

 厳戒態勢に移行し、教官の誘導に従って避難しろ。

 ――いいか、これは、訓練ではない!』


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