5 by幸
第三エリアは山。
学校近くの山三つ分を壁で囲った演習エリア。起伏の激しい山道が特徴の生徒たちからは人気のない場所だった。
ソウジロウたちはそのエリアの丁度真ん中あたりに設けられている山小屋、休息ポイントでしばらく休憩を行っていた。
最初のエリアからずっと動きっぱなしだったので、皆体力の消耗が現れ始めていた。
一番消耗が顕著だったのは、先ほどのエリアで囮役をやっていたサキ。本人はまだ大丈夫と言っていたが、万が一のことを考えて山小屋の床で体を冷やしながら横になってもらっている。
試験の途中休憩でエネミーから仕掛けてくることもなく、試験の評価にはほとんど響かないだろうしが、念のために見回りを二人ずつ出している。休息が多めに必要なサキ以外の四名で行っている。
ソウジロウは床で寝ているサキに語り掛ける。次の行動を話し合わなければならない。しかし、それには彼女の状態を確認しておく必要があった。
「サキ、リープは残り何分持つ」
「……全力なら十分、普通に使うなら、そうね。三十分ってところかな」
少し間があったが、彼女の事だから正確な時間を答えているだろうと、ソウジロウは判断しそこから残りの試験過程を思い返してみる。
「この後のことも考えると、試験はぎりぎりだな」
喩え、彼女がさばを読んでいたとしてもこれはかなり厳しい。戦闘や情報収集に置いて彼女の役割は多いせいだ。いつものリープしようと照らし合わせても、試験終わりにはあと数分でリープの使用限界に達してしまうという状態が想定される。その上、今回は今年度の最終試験だ。何が起こるか分からない。
ソウジロウは、むぅと少し唸ってしまう。それを見たサキは少しばつが悪そうな顔をしていた。
「……そうね」
それを見た彼は大丈夫だよと適当に煙に巻こうとする。
幸いにも他のメンバーの消耗は少ないため、彼女の消耗はチームとして今後の作戦を考えるうえで大きな痛手と言う訳でもない。いつも通りの動きができれば、今回はうまくいくような気がしていた。
さて、今後の動きについて話し合わないと。
『さっきのエネミー、動きが変だった』
そう思った矢先、外の見回りに行ったレイカが通信越しに話しかけてくる。
先ほど、山小屋に着く前。道中にエネミーとの戦闘があった。ここで迎撃になるかと思い、指示を出していたが、エネミーたちはある程度の損害を受けると途中で撤退を始めたのだ。
このことは明確に戦闘が主なレベル1、2とは違う個体が存在することを示していた。
今回はこちらが攻め込む形の試験だということが示唆される。
「多分、レベル3だろうな。今回は相手が待ち構えている状態のようだから、さっきみたいに全滅する前に逃げたんだろう」
『相手はこちらが見える位置に陣取ってる可能性が高い』
「どうして」
『今、さっきの戦闘地域当たり見てるけど、エネミーの姿がない』
「姿がない。……つまり探しに来てないってことか……探しに来ないってことは、相手はこっちの動きをある程度把握してるってことか」
『そう』
「それだと、面倒くさそうだな」
すると、ウツホがこっちに寄ってくる。そして今広げている地図を指さす。
「さっきの戦闘地域がここ。んで今あたしらがいるのがここ。そして、さっきレイカが言った通りなら今向かおうとしてる進路がこれ。このまま移動するとなると、エネミーと接敵するのは必至だ」
地図内でこの辺りを監視できる場所は三か所。いずれもソウジロウたちが通って抜けようとする山間地域の近くである。道中に山上から襲撃される可能性は高い。
「引き返しても意味なさそうだな」
さっき通ったルートを指でなぞってみるが、ここの位置がばれているため、回り込まれている可能性が高い。
『むしろ悪手』
「ここは敵陣を突破するしかないか。けど、下手したら挟み撃ちになるな」
「頭を潰せば、まあ。防げるだろうけど。くそ、めんどくせぇな」
レベル3の撃破をウツホが口にするが、相手の位置の補足は山岳地域では難しい。木々により視界がふさがれやすい上に高低差がある。意地汚い教官たちだとウツホは舌打ちをする。
『敵の頭なんてエリア内探しても見つかる保証ない』
「だよな、相手だって移動するはずだし。さて、どうしたものか」
どうにか案を絞り出そうと考えてみるが、思い浮かばない。設定した休憩時間のギリギリまで、代わる代わるのメンバーで作戦を考えていった。
しかし、その後レベル3を叩く以外の具体的な作戦はチーム内では出てこなかった。ぶっつけ本番で行くしかないかと、メンバーは覚悟を決めた。
休憩を終え、一同は山道を警戒しながら再びエリアの出口を目指す。日の差しにくい山道は昼間のはずなのに、水分を含み時折水音を立てるほど。そしてぬかるむ山道の両方には登りと降りの急な斜面が存在していた。低木が少ないため、背の低いエネミーが潜伏している可能性が低いのが救いではある。
山道を歩き始める前に偵察を行ったものの、エネミーの位置などをきちんと把握する前に接敵してしまい、単独での戦闘は避けるようにしていたためもあるが、逃走する羽目になった。いずれも敵が待ち伏せていた可能性が高い。まだ監視されているということが分かっているだけ幾分ましだと思うことにする。
「このまま、たまにある襲撃をかわしつつ、エリアを出られるなら良いんだけどな」
ソウジロウはボヤキながら、周囲を見渡す。エネミーたちはどこにいるのだろうか。
足元が緩いため、せっかく休憩を取ったのに体力が消耗する。その上、敵を常に警戒しないといけない状況は全員の神経を徐々に削っていた。
嫌だなと思いつつ、再び進行方向を見る。
すると、山道のそびえる斜面側から異様な音がした。
敵襲かと思い、槍を構えてそちらに体を向けるが、そこにいたのはエネミーの姿ではいない。どういうことだと思ったが、音はだんだん近づいてくる。
エネミーの音でなかったため、少し反応が遅れたが何が起きたかすぐに理解した。
岩だ。岩がこちらに向かって来ている。
「みんな、下がって……っ!!」
マモルは咄嗟にそう言うと、山の斜面に向かってリープを発動。全員を守る形で障壁が現れた。
ゴッと障壁と岩がぶつかる音が障壁内に響く。厚さ数ミリしかない障壁ではあるが、転がり落ちてくる岩たちをしっかりと受け止め、はじいていた。警戒状態にして常にリープが発動できる状態になってもらっていたおかげだ。
しばらくするとそれは止まった。マモルは一度障壁を解除する。
「おい、趣味悪すぎんだろ。殺す気かよ」
ウツホが悪態をつくが、試験だから続けるしかない。
「これくらいどうにかしろってことなのかも」
さすがにこの危険な攻撃手段にはサキも苦笑いを浮かべる。他のチームはどう対処したんだろうかという疑問が彼女の脳裏によぎるが、今は目の前に集中しないといけないと思い、その思考は捨てる。
「皆、走るぞ」
ソウジロウは声をかけ、岩が落ちてこない間にその場を駆け抜けようとする。
しかし、その様子を見ていたのか、エネミーたちはすぐに攻撃を再開した。
「展開!」
マモルは再び障壁を出す。障壁と岩の衝突による、衝撃が空気からビリビリと伝わってくる。
「くそ、間髪入れずに」
「逃げる暇も与えないって感じね」
「これは、本格的にレベル3を見つけるために行動しなくちゃな」
ソウジロウの手には冷や汗がにじみ始めていた。
岩による襲撃が落ち着くまでしばらくその場に待機する。マモルの集中状態も高いため、障壁は十分に機能を果たしてた。
そして、しばらくすると攻撃が再び止んだ。マモルはリープを少しでも温存しようと障壁を解除しようとしたが、サキがそれを制止する。何か違和感に気付いたようだった。
「待って、この音」
山の斜面を見てサキは目を見開く。
エネミーが山肌を駆け下りてきていたのだ。レベル1とレベル2の混成、木々の間から見えるだけでおよそ十体はいる。
そして、その後ろには先ほどと同じく岩が転げ落ちてきていた。
普通なら転がる岩に巻き込まれそうではあるが、エイリアン特有の相互認識があり、互いの位置や連携をリアルタイムでやり取りしているため、次にどう動けばいいかどう通れば安全かを把握しているようだ。
エネミーたちは速度を落とさずそのまま、斜面を駆け下りる。
「総員、迎撃態勢!」
障壁を盾に全員、それぞれの武器を構える。この状況での戦闘は不利だが、逃げ場のないこの状況ではなんとかして攻撃が弱まるまで持ちこたえなくてはならない。
始めの一体がマモルの障壁とぶつかりはじき出され、エネミーたちとの戦闘が開始する。
エネミーは障壁の存在に気付くと山道の方に回り込み始めた。エネミーの後方にある岩は進路方向を変えられないため、そのまま障壁と衝突する。大きな衝撃が伝わってくるが、障壁が展開されていない部分からエネミーが攻めてくるため迎撃に努めなければならない。
「せいやっ!」
ソウジロウはエネミーの首を穂先で突き、そのまま薙ぎ払う。エネミーは山の斜面を転がり落ちていった。
結果的にエネミーの数は今まで演習でも迎撃したことのある数だったため、守りを固めて撃破していけばどうにかなる。
しかし、このままでは時間経過とともにマモルの集中力が切れて、障壁の強度が弱まるだろう。その場合、落石を避けながら戦わなければならなくなる。
何か策をこうじなければならないと思った時、ふと思いつく。
「サキ、上の方見てきてくれないか。もしかしたらレベル3がいるかも」
「分かったわ」
サキはすぐにリープを発動させ、戦線を離脱。再度偵察に向かう。
いくら頭がいいレベル3とはいえど、長距離間での命令の伝達はうまくできないはずだ。その上、自分たちの事は認識を共有していても、敵である人間の動向まで知っているわけではない。つまり、比較的近距離で状況を見ていることが想定される。
もしこの仮説があっているなら、サキの足でそうかからない所にレベル3はいるはずだ。
「マモル、悪いがもう少し待ってくれ」
「…………分かった……っ!」
また障壁と岩がぶつかった。勢いよく転がってくる岩と正面からぶつからないといけない状況。いくらリープによって守られているとはいえ、怖くないはずがない。その上、臆病な性格が災いして、感じる恐怖は相当なものだろう。
しかし、自分がやらなければ、喩え試験でもチームのメンバーが大なり小なり怪我をする羽目になる。もしそうなれば、試験は途中で中止。全員見事落第になってしまう可能性が高い。
それは嫌だ。気持ちだけがマモル自身を支えていた。
「くっ」
重い手ごたえが体に伝わってくる。全身に響く感覚。それを感じる度に彼女は体を振るわせる。
これは障壁自体がマモルの精神と完全にリンクしているため起こる現象である。これにより、自分の障壁の強度や耐久度を常に知ることができるものだ。しかし、状況によっては彼女自身の不安を掻き立てる性質なのだ。今はどちらかと言うと、後者の要素になっている。
だが、自分にできることをやらなくてはと、奥歯を噛み締めながら意識を障壁へ集中させる。
自らの障壁の耐久度を削られては自分で戻し、削られては自分で戻しのいたちごっこの状態だ。徐々に彼女の精神を確実に消耗させていく。
ソウジロウはマモルが障壁の展開を維持できるように、彼女にエネミーが近づかないように、他よりも多くエネミーの数を減らしていた。接近戦における攻撃力が高いサキを偵察に向かわせたため、さっきよりも戦闘は厳しいものになっているが、それでも踏みしめた足の位置は戦闘開始からほとんど後方に下がっていない。
山道はエネミーでふさがり、斜面から常にエネミーと岩がやってくる。背にしたのは落ちたら怪我をせずに助かることは不可能な急斜面。
つまりは退路なし。だが、苦しいからと言って考えなしに逃げるような、うかつなことはこの状況でできない。
消耗が激しいが、リープによる強化はそれを後押ししてくれる。
まだまだ、戦えるんだ。
「おおおおおおお!!」
ソウジロウは一歩踏み込み、エネミーの神経核を破壊した。
それから、数分後。
『見つけた!』
背水状態の中、サキから通信が入る。
「レベル3か!」
『そう! この山の上の方。意外と近いとこにいてくれて助かったわ』
「距離は」
『そこから斜面駆けあがって、三百くらい。まっすぐ登ったら結構すぐよ』
いや、それリープ使ったからだろとソウジロウは内心思うが突っ込まない。この窮地から脱する吉報。テンションが上がらないはずがない。
「倒せるか」
『無理かも。周りを他のエネミーでがっちり囲ってる。もし突っ込んで倒せたとしても、そっちに戻れないと思うわ』
「了解、何とかしてそっちに向かう。合流して倒そう」
「ちょっと待て、この状況で露骨にエネミーに向かって行っても数で押し負けるだけだぞ」
通信を聞いていたウツホがすぐに反論する。このメンバーでは可能だと考えたが、試験を確実に合格するには早計な判断と思ったのだろう。
ソウジロウは時間が惜しいと思っていたので、そのまま突き通そうとしたが、そこにレイカが口を挟む。
「それじゃ、相手を分断すればいい」
唐突な発言ではあったが、すぐにその目的が分かる。
「当たる数を減らすってことか?」
「そう」
レイカはそう言うと、こちらに振り向いて特定の人物を指さす。
「それにはあなたの力が必要」
レイカが指差したは、マモルだった。唐突な指名に彼女は素っ頓狂な声で驚いた。
「……え、私!?」
数分後
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ソウジロウは山の斜面の中、槍でエネミーと対峙していた。
自分の背後、正確には進路方向にいるマモルの援護である。
ソウジロウとマモルの二人はレベル3のエネミーがいる場所に向かって突き進んでいる状態である。斜面からは先ほどと同じく大量のエネミーが岩と共に駆け下りてきており、盾として展開している障壁のない場所に回り込んで襲って来ていた。迫ってくるソウジロウたちにすべての攻撃を集中させようとしている。
しかし、全部の個体を相手しているわけではないため、戦闘はさきほどより激しくない。
後方からの援護射撃があるため、回り込まれて戦闘になる前に大方は手負い、もしくは機能を停止している。後方へ敵の注意がほぼ言っていないため、半ば蹂躙の状態である。これならば余裕をもって、たどり着くことができるだろう。
二人がレベル3を目指してアタックをしている一方で、現在エネミーの群れに向かってサキが奇襲を仕掛けていた。先ほどよりもエネミーたちの動きが悪く、後方の援護射撃にも対応できてない所を見るとうまく機能しているようだった。
しかし、あくまでサキの役割は奇襲を仕掛けることだけなので、戦闘がメインではない。そのため、もうすぐ離脱してしまう。奇襲が終わってしばらくすれば、態勢を立て直されかねない。だから、いち早くもエネミーたちが構えている場所に到達しなければならない。
この作戦は言ってしまえば、ごり押しだ。
しかし、完全な無策でもない。
通信で障壁を展開しろとウツホからの指示が飛んでくる。すると、マモルは自分たちの全周囲に障壁を展開。同時に迫っていたエネミーの体を両断しつつ、二人を守るようにドーム型になっている。
その直後、ぽんぽんぽんと背後からのウツホによる援護射撃の音が聞こえる。その直後辺りにグレネード弾が落ち爆ぜた。
敵や周りの岩、木が砕かれ吹き飛ばされる。普通なら味方が巻き込まれてしまうため使うことは憚れるが、防御系統のリープ保持者であるマモルがいればそれも可能であった。
爆発が終わるとまた二人は駆けだす。さっきまで動いていたエネミーたちは完全に機能停止してない個体もあるが、周りにいたのはほぼ全滅。
それに戸惑ったのか敵の進行が手ぬるくになったため、二人は一気に距離を詰める。
「見えた!」
他のエネミーよりも背丈があるため、すぐにレベル3の姿が捉えられる。
周りの様子を見ると、レベル3の周辺にいるのは三体のエネミーのみ。奇襲や援護射撃によってうまく分断できたようである。
逃げられる前に決着をつける。
「うおぉぉぉ!」
障壁解除と共に、ソウジロウは一気にエネミーたちの前に出る。
「ふん!」
まずは一突き。
正面にいたエネミーの口から後頭部にかけて槍が貫く。
「せや!」
槍を引き抜き、襲い掛かって来ていたエネミーを払う。
もう一体のエネミーはそれを見てソウジロウに襲い掛かった。
しかし、エネミーの攻撃はソウジロウに届くことはない。
マモルの障壁が展開されていた。障壁に跳ね返されたエネミーは態勢を崩し、地面に転がる。
エネミーは次の行動に移ろうとすぐに立ち上がろうとしたが、そこに至近距離から銃弾が撃ち込まれた。
エネミーは頭部を破壊されてしまったため、機能を停止。起き上がろうとした体は再び地面に転がる。
マモルはそれを確認すると、前へ駆け出した。
奥の方にいたレベル3が戦闘しているエネミーを囮に逃げようとしていたのだ。
ソウジロウはもう一体のエネミー、レベル2と対峙していてこちらの対処に出れない。ここは私がやらないと、彼女はそう自分を鼓舞し地面を蹴る。絶対倒してやる。
「逃がさない!」
バトルライフルから銃弾を吐き出させながらレベル3を追う。
こいつが逃げれば、また他のエネミーを束ねてしまう。そればけは許してはいけない。
幸い脚が遅い、近づいてねらって撃てば十分に倒せる。
マモルは走る速度を上げて一気に距離を詰めようとする。
しかし、レベル3はくるりとこちらを向き一直線に走ってきた。追いかけてくる敵であるマモルから逃げられないと思っての決死の判断だろうか。
だがそれはエネミーにとって自らの破滅を招く行為。特殊な火器で武装した人の前に単独で躍り出た場合、彼らに勝機はほぼないのだ。
だからよく狙って、彼らの神経核を撃ち抜いてしまえば、レベル3は必ず倒すことができる。だが、マモルはレベル3の突然の行動に驚いてしまい、銃身が上がった。弾はレベル3に当たることなく空を穿つ。
エネミーの接近を許してしまった。
「マモル!」
ソウジロウが声を上げるが、遅い。
レベル3の筋肉質で太った腕がマモルに向かって振るわれた。
咄嗟に障壁を展開するものの強度が低かったせいかレベル3の腕に割られてしまった。砕けた障壁の中、勢いそのままの腕がマモルに当たる。
マモルの体は地面を転がる。
体全体にまとっているスーツが衝撃をある程度吸収してくれたが、胸を打ってしまい一瞬呼吸ができなくなる。
マモルはせき込みながら、また立ち上がろうとするがそこにレベル3が走って迫っていた。
逃げることもできず、彼女は体を竦める。
レベル3はそれに気を止めることはなく、剛腕を振り下ろす。対処ができない。これで負傷者が出たということになって、試験終了になってしまうのか。
マモルは短く悲鳴を上げた。どうにかして、この状況を自分の中で紛らわせたかった。
しかし、試験終了の指示は出ない。
なぜ?
マモルは目を開け状況を確認する。
レベル3の腕、肘から先がない。マモルに襲い掛かったものの、攻撃手段がなくなっていることに気が付かず腕を振るったため、レベル3はバランスを崩して転がっていたのだ。
何が起こったか分からないレベル3は自分の腕を切断された腕を見ていた。その隙をマモルは見逃さない。好機をつかむんだ。
マモルはリープを発動。
その瞬間、レベル3の頭部が神経核を割るように障壁で両断された。
切られた頭はフレームと神経核をむき出しにして落ち、エネミーの体はそのまま機能を停止する。
レベル3の撃破。これでエネミーたちの連携行動は止まるはずだ。
「あ、……やった」
少し遅れて撃破したという実感がマモルの中に生まれる。そして、安堵したせいか体の力が抜ける。
「レベル3を撃破。あとは全力で逃げるぞ!」
レベル2を倒し終えたソウジロウは、他のメンバーに通信を送るとマモルを起こす。
「大丈夫か?」
マモルはソウジロウにしがみつきつつ、立ち上がる。
ソウジロウが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「う、うん、……大丈夫」
マモルが震える声で応答すると、ソウジロウは二ッと笑う。
「やったじゃん」
「う、うん!」
自分がソウジロウの役に立ったという充実感が、心の底から湧いてきた。
どうしよう、すごくうれしい。
そう思っていると、近くの高所にいたのかサキが地面に着地した。二人を見る目は少しあきれているようだった。
「ほら、にやついてないで二人ともさっさと準備をする!」