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Leap/the first contact  作者: 海雀鳥落&幸
1/9

1 by海雀鳥落

二人でリレー方式で書いた作品です。


 群体 外来生物(エイリアン)


 この生き物について解っている事は、そう多くない。


 第一に、地球上の如何なる生物とも異なる独立した種であること。半透明な筋肉や頭部と胸部にある二つの神経節など、生物学的にはエビやカニに近いが、奴らはキチン質の殻ではなく頑強な内骨格を持っている。体表は強靭な繊維質が固まってできた鎧状の組織に覆われていて、生半可な銃弾は通さない。


 第二に、場所を問わず突然出現すること。空間にワームホールを空けて出てきていると言われているが、その原理を解明できるほど人類の科学は進んでいない。


 第三に、個体同士が互いにテレパシーで交信しあっている事。「群体」という名はこの特徴に拠る。これもワームホールと同様原理は不明だ。

 

 第四に、同種以外の動物――つまりこの世界に暮らす動くもの全てに敵意を向け、殺害、捕食しようと襲ってくること。

 

 彼等がこの星に現れて、およそ半世紀。人類は滅亡寸前――とまではいかないものの、およそ無視できない規模の被害を出していた。

 国は街のあちこちにシェルターを建て、エイリアンに対する特殊部隊を新設。人間の社会はエイリアンの出現への対応を強いられ、徐々に変わっていった。


 ――そればかりではなく、人という生物自体もまた、彼等の存在への適応を始めていた。


「要救助者はハヤミが護送しろ! 俺とマモルが殿を務める!」

 コンクリートの建築物に囲まれた無人の街で、男――ソウジロウ・ホンダが指示を出した。


「わかった」「う、うん……!」

 ハヤミと呼ばれた少女が頷き、ぐったりと死んだように動かない要救助者を背負った。


 その後ろからはエイリアンが二体。巨大なトカゲかワニのような姿をした黒い爬虫類型が建物から車道に這い出してきていた。レベル一と呼称される、いわば幼体とも言える個体だが、危険度は虎やライオンなどの猛獣に等しい。後ろに張り出した後頭部は、興奮状態を示す赤い光を放っていた。


「護送ルートは決めた通りで! レイカが援護するはずだ!」

「あいつが? ……まあいいわ、行ってくる!」


 要救助者をおぶったハヤミがぐっと体勢を屈め――ネコ科の肉食獣を思わせる俊敏な動きで走り出した。そのままぐんぐんと加速していき、車道を風の如く走り抜けていく。

 二匹のエイリアンが逃げていくハヤミを追おうとして駆け出し――次の瞬間、まるで見えない壁にぶつかったかのように停止する。

 否、実際に二匹の前には壁があった。流れ落ちる水のような透明な壁が、何もなかったはずの中空に出現して二匹を食い止めていたのだ。


「……ごめん、ソウちゃん。もうちょっと奥に出せば首を落とせたね」

「いや、よくやった。それより仕留めるぞ!」


 ソウジロウが担いでいた大身槍を水平に構え、壁越しにエイリアンに正対した。

 マモルもその横で手にしたバトルライフルの安全装置を外し、銃口を真っ直ぐ眼前の一体に合わせる。

 エイリアンを一撃で殺すためには、頭か胸にある神経節を狙うのが定石とされる。頭を潰せば感覚器官が死に、胸を潰せば手足の動きが停止する。姿勢の低いレベル一は初手で胸を狙うのは難しく、正面から倒すには兜のような頭蓋骨をどうにかする必要があった。


「行くぞ、マモル!」「うん!」

 ソウジロウの身体がぼんやりと赤い光を放ち、それが腕を通じて槍に伝わる。

 それを見たマモルがエイリアンの前に出現していた壁を消失させ、阻むものがなくなった二匹が同時にこちらに向かってくる。


「ふんっ!」

 ソウジロウが(つぎ)(あし)を踏んで間合いを詰め、敵が大口を開けて襲い掛かってくるのに合わせて鋭い刺突を放つ。低い姿勢から繰り出された槍が顎下から脳天までを貫き、エイリアンがびくん、と痙攣して動きを止めた。


「せいやぁ!」

そのまま素早く槍を引き抜いて更に腰を落とし、今度は穂先を腹下に潜らせる形で二撃目。長い刃渡りを持つ穂先でもって胸部神経節を断ち切った。五秒にも満たぬ早業である。

 その横でマモルがバトルライフルを構え、残るもう一体の頭部に正面から銃弾を複数発叩き込む。対エイリアン専用に調整された七・六二ミリスチール・コア弾が頭蓋骨を貫通し、頭の中で暴れまわって内部をズタズタに破壊した。


 そして動きを止めた瞬間――先ほど見せたのと同じ透明な障壁が、今度はエイリアンの体を横切る形で出現した。胴体が鋭利な刃物で両断されたように前後に分かたれ、ドチャリとその場に崩れ落ちる。


「よし!」「やった!」


 ソウジロウとマモルが歓喜の声を上げてハイタッチをした――その瞬間、背後の横道で爆発音が響き、爆風で割れたガラスが通りに水晶の如く降り注ぐ。


「無防備に喜んでる場合か、馬鹿! 後ろにまだ一匹いたぞ!」

 ガラスの破片を踏み割りながら登場したのは、一人の少女だった。身長は平均よりもかなり小柄で、短く切り揃えられた髪は金髪に染められている。その手には六連発式のグレネードランチャーが握られていて、銃口からは薄らと煙が立ち上っていた。


「悪いな、助かった!」「あ、ありがとウツホちゃん……」

「うぜぇから黙れ。試験場の敵はこれで最後だ。さっさと戻りな!」


 吐き捨てるようにそう言って、ウツホは手にしたランチャーを軽く叩く。するとランチャーが白いフィルムのようなものに包み込まれ、小さな白いカプセルに姿を変えた。それをポケットに無造作に突っ込み、ウツホが機嫌の悪そうな顔でその場から歩き去る。


「ごめんね、私が気を抜いたから……」

「いや、俺も迂闊だった。それより戻ろう、教官が待ってる」


 二体のレベル一エイリアン――を模した訓練用ロボットをその場に置いて、二人はウツホを追う形でその場を立ち去った。


「――では、今回の演習の評価を下す」

 一列に並んだソウジロウ達の前で、無表情でそう告げた男性教官の後ろには、要救助者として用意されたマネキンが二体、無造作にその場に転がされていた。


「まず、ウツホ・モチヅキ。撃破数八。建物内の確認や救急措置、戦闘の組み立て方も卒がない。グレネードはともすれば周囲を危険に晒すが、よく注意して使えている。……が、チームメイトへの態度は改めるべきだな。禍根を残すぞ」

「ふん、知った事じゃないね」

 ウツホが反抗的な態度を隠さず言うと、教官は僅かに眉を潜めた。


「また外出禁止にするぞ。……次、サキ・ハヤミ。撃破数一〇。大きな問題はないが、負傷者を担ぐときに《リープ》を使ったのは良くない。負傷者の容態を悪化させるし、何よりお前の身体強化は三〇分でオーバーヒートだ、無駄遣いするな」

「はい!」

 ハヤミが頬を紅潮させつつ答えた。スレンダーな体型に張り付くように作られた専用のスーツは、走っている途中に流れた汗でしっとりと濡れている。


「マモル・ゲンブ。撃破数七。落ち着いて行動できてはいたが、ホンダの側から離れようとしないのは考え物だな。一人で考えて行動できて初めて一人前だぞ」

「は、はい……」


「次、レイカ・ストゥカリスカヤ」

「……」

 自分の名を呼ばれて、防寒帽と分厚いコートを身に纏った長身の少女が、無言で視線を教官に向けた。

「撃破数は四五。射撃ポイントの選定、命中率、周囲の警戒ともに見事だが、相変わらず連携に問題がある。少しは他人と協調して動こうという意欲を見せろ……聞いてるか?」

「……聞くだけは」

 レイカが無表情で返し、教官は頭痛がこらえるように頭を押さえる。


「聞くだけか。……最後に、ソウジロウ・ホンダ。撃破一〇。要救助者全員を救出し、敵を全滅させたことは見事だ」

「ありがとうございます!」

「だが、指揮官としては失格だ。俺は四月からお前たちを見てきて、毎回ここで全員に同じ事を言ってる。つまり何もチームとして成長していないってことだ。――三日後の模擬試験に合格しなきゃチームごと留年なんだが、お前らはその事解ってるんだろうな?」


 教官に呆れたように言われ、ソウジロウはがっくりと肩を落とした。


 ハッショウ国国防軍ロクジンツウ学園。

ソウジロウたちが籍を置く組織であり、対群体外来生物(エイリアン)部隊の候補生――とりわけ《リーパー》と呼ばれる特殊能力者たちの養成所である。


 《リープ》と称される超能力が新生児の一部に発現するようになったのが、エイリアン出現から五年ほど経った頃。


 彼らが交信に用いるテレパシーが空間を飛び交い、それが新生児の脳に影響を与えたのだという説もあるが、人類がこの不思議な力を宿すようになったきっかけは――エイリアンが出現した原因と同じく――今のところ謎のままだ。


 学園は四年制で、十六歳で入学する。通常の士官学校と同様学費は税金で賄われているが、その代わり卒業すれば自動的に国防軍の対群体エイリアン部隊に配属となり、二年間は除隊できない。


 ソウジロウたちは現在三年生で、もうすぐ学年末の模擬試験を控えていた。これに合格すれば晴れて実地での研修許可が下り、四年生に進級できる。しかし不合格なら学費を自腹で払ってもう一年通うか、そのまま退学するかを選ばなくてはならない。


「失敗は許されない、んだけどなぁ……」

 演習場からの帰りのトラックで溜息をつきながら、ソウジロウは車内を見回した。


「うう……今日もいっぱい失敗しちゃった」

「大丈夫だって。マモルはちゃんとやってるよ」

 落ち込むマモルを隣のサキが慰めていると、向かい側に座ったウツホが鼻を鳴らした。


「ホラー映画の前振りみたいで傑作だったぜ、そいつが敵のすぐそばで隊長とイチャついてる様はさぁ。面白いから放っておこうかと思ったよ」

「あなたね。いちいち突っかからないでもらえる?」

「そいつが失敗したのは事実だろうが! アタシらは仲良しサークルじゃないんだよ!」


 二人がぎゃあぎゃあと言い争いを始め、マモルがおろおろとハヤミとウツホの顔を交互に見比べる。レイカは我関せずといった調子で、涼しげな顔で外の風景を眺めながら板チョコレートを齧っている。そこに興奮したハヤミの怒りが飛び火した。


「あなたもあなたよ、いつもすました顔して! この際だから言うけど、あなたの装備は大掛かり過ぎて足手まといになるわ! 私たちの本来の役目は人命救助でしょ!」

 レイカが僅かに眉根を寄せ、咥えたチョコレートをパキンと折った。

「……それは勘違い。私たちは戦闘部隊であって救助隊じゃない。人命救助と敵の殲滅なら後者を優先するべき。人が一、二人死ぬより奴らを生かしておく方が危険」

「――もうッ!!」


 こうなってはもはやソウジロウには制御不能だ。

以前、同性の友人から「お前のチームは美人ばかりで羨ましいな」と言われたことがあるが、とんでもない。トラックの中は怒りが怒りを呼び、聞くに堪えない罵声が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


「……はぁ、どうしよう……」


 これがソウジロウのチームの日常である。今年の四月に編成されてから、いつもこうだ。

 これまでの演習や試験はどうにか切り抜けてきたものの、それもチームワークというより、各員の個人技量に物を言わせたパワープレイによるものだ。次の試験では通用しないかもしれない。


 否、試験のあるなしに関わらず、これは解決しなくてはならないのだ。しかし――。


「そ、ソウちゃん。何とかして……」

 マモルに頼み込まれ、ソウジロウは再び大きな溜息をついた。


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