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1話 初冠(ういこうぶり、成人の日)
その男、在原業平は、若くして成人し、
奈良の都、春日の里の領地へ、狩りにやってきた。
そこで、はっとするような女の姉妹が住んでいるのを、目にした。
思いもよらず、こんなところにこんな人が、と男は動揺した。
そして、狩衣の裾を切り、歌を書いて贈った。
その衣には、色柄の乱れ模様がついていた。
春日野の 美しい人たち
狩衣の 乱れ模様のように
私は 心が乱れ どうにもなりません
一人前の男のように、堂々とやった。
この男は、
みちのくの 衣の 乱れ模様のように
誰かが 私の心を乱す
それは あなたのせい
という恋の名歌を知っており、その気持ちをふまえて、
さっと自分の歌を詠んだのだ。
昔の人は、これほどみやびに、こころのやり取りをしたものさ。
*
(*以下は、原文の和歌を掲載。一部、漢字を当てたり、仮名づかいを改めています。)
春日野の 若むらさきの 摺りごろも
忍ぶの乱れ 限り知られず
みちのくの 忍ぶもみ摺り
誰ゆえに 乱れ染めにし
我ならなくに