第二百三十九話 戦士の咆哮/思わぬ再会
◆◇◆
セラフィナとセレス、シオンとミサキの四人もまた他のメンバーと分断され、独自にアリヒトたちとの合流を目指していた――しかし。
「あれは……なぜ、このような場所に……っ!」
遠目にも間違えようのない、この迷宮にいるはずのない魔物の姿を見たセラフィナは、驚きを言葉にせずにはいられなかった。
◆遭遇した魔物◆
・★三面の呪われし泥巨人再 レベル13 水吸収 雷吸収 ドロップ:???
四人が進む前方に、巨大な泥の巨人の姿が見える。以前よりも一回り大きくなったそれは、足元にいる誰かに拳を振り下ろしていた。
「うぉぉぉっ……!!」
◆現在の状況◆
・『★三面の呪われし泥巨人再』が『マッドフィスト』を発動
・『ソウガ』が『ハウンドステップ』を発動 →『マッドフィスト』を回避
戦斧を持って攻撃を仕掛けようとするソウガだが、『泥巨人』の拳で狙われて回避を余儀なくされる。横っ飛びに跳ねて避けても、『泥巨人』は執拗にソウガに拳を繰り出し続ける。
「ソウガさん、闇雲に仕掛けるのは……っ」
「分かってんよ……だが悠長にやってるヒマはねえっ!」
◆現在の状況◆
・『ソウガ』が『野生の本能』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』の隙を看破
・『ソウガ』が『アクスドライブ』を発動
「もらったっ……!」
「――待ちなっ!」
カトリーヌの制止を振り切ってソウガが戦斧を捻り込みながら『泥巨人』の弱点に突き立てる――しかし。
◆現在の状況◆
・『★三面の呪われし泥巨人再』が『装甲破棄』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』が破損した装甲を破棄 耐久力回復
・『★三面の呪われし泥巨人再』が『リビングマッド』を発動 →『ソウガ』が『拘束』
「うぁぁぁっ……!!」
泥でできた巨人の身体に取り込むのではなく、その場に相手を留める攻撃――ソウガの足元から泥が這い上がり、全身の自由を奪う。
◆現在の状況◆
・『★三面の呪われし泥巨人再』が『呪殺の釘打ち』を発動
「マジ……かよ……」
弱点を攻撃したはずだったが、それで有効打が得られなくても致死的なミスではない。ソウガのその考えを塗り潰すように、『泥巨人』は自ら生み出した魔力の塊である釘を、ソウガに打ち込もうとする。
「――はぁぁぁっ!!」
◆現在の状況◆
・『セラフィナ』が『オーラシールド』『シールドパリィ』を発動 →『呪殺の釘打ち』を無効化
間一髪で割り込んだセラフィナが、魔力で覆われた大盾で釘を弾く。そのまま『泥巨人』に体当たりを仕掛け、体勢を崩す――そして。
「――ミサキ殿、相手に『道化師の鬼札』を! セレス殿、赤い仮面を狙ってください!」
「えっ、私……あっ、じゃあ行きまーすっ……!」
「全く緊張感がないのう……それもお主の良さじゃろうが……っ!」
「ワオォーンッ!」
◆現在の状況◆
・『ミサキ』が『ジョーカーオブフレイム』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』に怒り状態を付与 炎属性弱点を付与
・『セレス』が『ファイアテキスト』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』に命中 弱点特効
・『シオン』が『ソニックスナップ』を発動 →攻撃回数を8倍に増幅
・『シオン』が『ヒートクロー』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』に八段命中 弱点特効 弱点属性変化 防御力低下 クリティカル
「ちょ、すご……シオンちゃんの攻撃、爆発してるみたいなんですけどっ……!」
シオンは一回り身体が大きくなっており、今まで覚えていなかった技能を使えるようになっている――狼のしなやかな筋肉と肉球の弾力を利用し、腕を振動させて放つ一撃は、一瞬で多段の打撃を重ねる。
『泥巨人』の胸に埋め込まれた三つの仮面のうち、赤い仮面が炎属性の攻撃を立て続けに打ち込まれて破壊される――セラフィナは残りの仮面の状態を見て、次にどの攻撃が必要かを判断する。
「水属性……っ、セレス殿、水属性の攻撃は……っ」
「っ……わしが今覚えている技能では……っ!」
「――それなら私が……!」
◆現在の状況◆
・『ルチア』が『海獣の歌』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』に命中 弱点特効 弱点属性変化 防御力低下
ソウガと共にいた白夜旅団のメンバーは二人――そのうちの一人が歌うと、海獣を象った水の塊が『泥巨人』に向けて飛ぶ。
「そういうことか……っ、それならあたしも……!」
◆現在の状況◆
・『カトリーヌ』が『エレメントタロット』を発動 →選ばれたカード:『タワー』 雷撃が八回発生
・『★三面の呪われし泥巨人再』に八段命中 弱点特効 弱点属性変化 防御力低下
「――ソウガ、しっかりおしっ!」
「好き勝手やりやがって……くっそがぁぁぁぁ!!」
◆現在の状況◆
・『ソウガ』が『オーバーブラッド』を発動 →『ソウガ』の周囲の地形効果が『炎気』に変化 『リビングマッド』による『拘束』解除
・『ソウガ』が『達磨落とし』を発動 →『★三面の呪われし泥巨人再』の部位破壊 素材をドロップ
・『★三面の呪われし泥巨人再』を1体討伐
ソウガは自力で泥による拘束を解くと、渾身の力を込めて戦斧を振り抜く――すると『泥巨人』の足が吹き飛び、そのまま再生することなく胴体は地面に落下し、やがて動きを止めた。
「がはぁっ……も、もう動けねえ……やたら身体が重い……」
「ソウガさん、何だかおじさんになっちゃいましたし、痩せちゃってますしね……」
「あんたも魔法で攻撃しとけばよかったのかもしれないね。若返ったら今より生意気だろうけど」
「こ、このくそ婆……」
「今はあんたと変わらないくらいじゃないかい? って、それは言い過ぎかね……それにしても、魔物にしてやられたとはいえ複雑な気分だね。あんたたちはその子と護衛犬だけかい? 見た目が変わったのは」
「ふぇ……? あの人って、さっき会ったときはおばあちゃんだったような……?」
ミサキが見たカトリーヌよりも、今のカトリーヌは一回り若返っており、髪の色が白髪からブラウンになっていた。そしてルチアも若返り、子供と言っていい容姿に変わっている。
セラフィナたちの側は、セラフィナとセレスの外見に変わりはなく、シオンは一回り大きくなって目の鋭さが増し、ミサキは少しだけ大人びた姿に変わっていた。ちょうど二十代半ばといった姿である。
「そこのあんただけ姿が変わったんだね。盾持ちのあんたは『天秤』を攻撃しなかったと見たけど、そこのところはどうだい?」
カトリーヌの質問に、セラフィナは情報を共有すべきか少し逡巡するが、この場では自分がリーダーシップを取るべきだと判断して決断する。
「おっしゃるとおり、私はあの『天秤』には攻撃をしていません。セレス殿は魔法で攻撃をして、ミサキ殿は金属のカードを投擲して攻撃しています」
「じゃあそのセレスさんとやらも若返ってそうなもんだけどな。俺は見ての通りオッサンと化してる。『天秤』を物理で殴ると歳を取らされて、魔法だと若返るってこったろ?」
「それにしては衰えるのが早いのう……ただ加齢させられたというだけではなさそうじゃな」
「あ、あの……ソウガさんが失礼なことを言ったら、怒っていただいて構いません。『とやら』だなんて」
「ルチア、おめーはどっちの味方なんだ……はぁ、まあ気をつけるが。この状況であんたらに喧嘩を売ったら、それこそ自殺行為だからな」
「たまには落ち着いて考えられるじゃないか、感心したよ。良い子はママのオッパイでも吸うかい?」
「ぐっ……今のアンタがそれ言うとシャレになんねえよ」
生き生きとしたカトリーヌに押され、ソウガは戦斧を地面に突き立てて座り込む。
「……あたしはヨハンとは知り合って長いけど、『旅団』に入ったのはつい最近でね。ルウリィの件も聞いたよ、それに対してヨハンがどんな選択をしたのかも」
「ルウリィ殿を助けようという考えは、本当にヨハンには全くなかったのですか? それでエリーティア殿が旅団を抜けるようなことは、望む方向とは違ったのではないですか」
セラフィナの問いにソウガが反応するが、何も言わずに項垂れる。ルチアは黙って彼女たちのやりとりを見つめていた。
「あたしもヨハンが考えてること全てを知ってるわけじゃない。『色銘武器』を集めているのは強い集団を作るためで、『猿侯』と戦うことを避けたのはこれ以上戦力を削がれることを避けたから……そういう判断を探索者が迫られるのは、そう珍しくもない」
「それを今更責める気はありません。ただ、私たちはルウリィ殿を旅団から穏便に移籍させたい」
「あの子は……ヨハンはおそらく、神戦での報奨としてそれを求めるならば受諾する、そういう意思表示をするだろうね。秘神と契約したパーティが二つ出会わなければ神戦は起こらない。そしてヨハンには、この五番区に留まらなければならない理由がもう……一つ……」
◆現在の状況◆
・『カトリーヌ』の『ダウジングセンス』が発動
カトリーヌがある方向に向き直る――その先に、小さな動物のような姿が見える。
「……あたしの占いも捨てたもんじゃないね。ソウガ、ルチア、お目当ての相手を見つけたよ」
「あ、あれって……めちゃくちゃ強いウサギさんじゃないですか……!?」
「何じゃと……っ、ミサキ、あれを知っておるのか?」
◆遭遇した魔物◆
・★彷徨う嵐の鬼兎 レベル15 ドロップ:???
「この迷宮で、あの魔物……ストラダと同じ個体がいるとしたら、この距離でも既に……っ」
「今なんて言った? ストラダと言ったのか?」
「驚いたね……まさか、ずっと見つけられなかった相手と、五番区に来たばかりの子たちが先に出会ってたなんて。これだから探索者は面白いね」
「えっ、あっ……あ、あの小さいウサギが、団長が探してた相手なんですか?」
「くそ……あいつを捕らえるにはアニエスとリンファがいねえと……っ、暴れられたら死人が出てもおかしくねえぞ……!」
ソウガは慌てて斧を構えるが、セラフィナが手を上げて制する。ミサキも落ち着いており、セレスはどういうことか、と二人の顔を交互に見る。
「似た個体でなく、『同じ』……ということがありうるのか分かりませんが。私たちとストラダは、敵同士ではありません」
「あ、あの角って持ってなくても大丈夫です? ウサギさん、私たちがお兄ちゃんのパーティの一員だって分かってくれてます……?」
「なんと……あの魔物と友好関係を結んだということか。それならば、おそらく……」
ウサギの姿をしたストラダはピョンピョンと跳ねていたが、セラフィナたちの姿を見ると一目散に走ってくる――そして。
◆現在の状況◆
・『★彷徨う嵐の鬼兎』が『★流浪のストラダ』に形態変化
「人間の姿に……ところどころモコモコしていて、普通に可愛いんですが……」
「……久しぶりだな。前は逃げられちまったが、今はこいつらがいるから寄ってきたってことかよ」
「魔物が人間とほぼ変わらない姿になれるとはね……迷宮じゃ何があってもおかしくないけど、さすがのあたしも驚いてるよ」
兎の時の毛皮の色と同じく、ストラダの身体はところどころ桃色の毛で覆われている。それでもほぼ裸身と同じで、ソウガはルチアに睨まれて視線を逸らす。
「女に見えても魔物だぜ、そいつは……」
「魔物は魔物でも『神獣』なんだろう? でも、あたしたちの所には来てくれなそうだね」
「……外に連れ出すだけでも一苦労ですが。まず、私達が脱出できるかどうかですし」
旅団の三人のやりとりに構わず、ストラダはセラフィナに近づくと、彼女の頬に長い耳を触れさせる――セラフィナはしばらく耐えていたが、くすぐったさに耐えきれず耳に触れ、それでも離すことはできずに手を離す。
すると今度はストラダはシオンの上に乗り、もふもふとした毛皮を撫でている。その姿を見て、ソウガは空いた口が塞がらずにいた。
「懐いてやがる……こっちは膝から崩れ落ちそうだぜ。なんなんだこいつらは……」
「こういうときは、素直に感嘆するべきでしょう。私は彼女たちと特に因縁もありませんし」
「そうさねえ……毒気を抜かれるっていうのはこのことだね」
呆れ半分、感心半分で見ている白夜旅団の面々をちらりと見たあと、ストラダはそれほど興味がないというように、今度はミサキの近くにやってきて兎の耳で触り始める。
「よーしよしよし……ってしてていいんですかね私。この子めっちゃ強いっていうか、気が変わったらと思うと気が気じゃないんですけど」
「レベル15の『名前つき』じゃからのう……よく戦って生き残れたのう」
思わぬ相手と遭遇したセラフィナたちが再び行動を開始するまでは、もうしばらく時間がかかりそうだった。
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