第十八話 臨時パーティ
(――当たれっ!)
◆現在の状況◆
・アリヒトの『ブレイズショット』が発動 →『ドクヤリバチ』に命中
・『ドクヤリバチ』が燃焼
「――ジィッ!」
距離が遠すぎる――命中はしたが手応えが薄い。あと一撃追い打ちをしなければ、ハチの攻撃を妨害できない……!
「――ッ!」
テレジアは左方に滞空していたドクヤリバチが攻撃態勢に入る瞬間、交錯するようにしてショートソードで切り払った。
◆現在の状況◆
・アリヒトの『支援防御1』が発動 →対象:テレジア
・ドクヤリバチの攻撃が『テレジア』に命中 ノーダメージ
・テレジアの攻撃が『ドクヤリバチ』に命中 支援ダメージ10
・『ドクヤリバチ』を一体討伐
ハチの毒針も支援防御で防ぎきれば、毒を浴びる危険はない。しかし、まだ燃えながら空中を滞空している、右方のドクヤリバチがいる――!
「くっ……!」
(剣士の弱点か……距離がある空中の敵に攻撃が届かない。それなら……!)
「――五十嵐さんっ!」
「ええ……っ、くらいなさいっ!」
俺以外にも、遠隔攻撃はできる――剣と魔法の両方を使うヴァルキリーにならば。
◆現在の状況◆
・キョウカが『サンダーボルト』を発動 → 『ドクヤリバチ』に命中
・『ドクヤリバチ』を一体討伐
燃焼で弱っていたハチは、スズナに毒針を撃ち込もうとしたところで五十嵐さんの放った雷撃に射抜かれ、ビリビリと火花を放って地面に落ちた。
(……何とか凌げたか。だが……単独向きと聞いてはいたが、これほどだなんて)
エリーティアは剣を納め、スズナに近づいていく。しかし自分の落ち度を分かっているのか、声をかけることができずにいた。
五十嵐さんとテレジアは、俺が来るまで待っていた。まず俺は座り込んでいるスズナに手を貸す。
「大丈夫か? 怪我はしてないか」
「は、はい……大丈夫です。私、やっぱり足を引っ張ってしまって……」
「っ……そんなことないわ。スズナはここまで私と一緒に来てくれた。あんなに頑張って、ワタダマも倒してくれたじゃない」
リヴァルさんが言っていたが、レベル差があると経験値の取得量が下がるという話だった。「ほとんど経験値が入らない」という話だったから、ゼロではないのだろうが。
つまり、スズナに経験値を効率良く取らせるためには、手段は一つだけだ。
「……そうか。戦闘ではパーティを解除して、エリーティアが敵を誘導して、スズナに止めを刺させてたんだな」
「そう……でも、ワタダマ狩りをしている人は他にもいるから、なかなか獲物が回ってこなくて……」
「それで狩場を求めて二階に来たのか。少しというか、かなり危なかったように見えたが……あんなリスクのある狩りを続けるつもりか? 一階で粘るべきじゃないのか」
「私は……ここで時間を使いすぎるわけにはいかない。スズナを早く私と同じレベル8にして、戻らないと……」
「戻る? 戻るって……違ってたら悪いが、『白夜旅団』にか?」
エリーティアはわずかに目を見開き、俺を見る。何故知っているのか――そう言いたそうだったが、口には出さなかった。
「……私は旅団には戻らないわ。彼らは私の仲間を見捨てた。あの迷宮の底で、今も私の親友が待っているのよ。彼女を一人にしておいたら、心のない亜人になってしまう」
「探索者を捕縛するような魔物がいるっていうのか? ギルドや、他のパーティに助けを求めるわけにはいかないのか」
「あなたもじきに分かるわ。探索者として生きるうちに、いずれ自分が生きることだけで精一杯になっていく。でも、それは悪いことじゃない……誰も死にたくて、探索をしているんじゃない。名声が、自由が欲しいから探索をするのよ」
スズナはそこまでの事情をまだ聞いていなかったようだが、落ち着いた表情で耳を傾けている。
ドクヤリバチに狙われた時は怯えていたが、彼女は彼女で、ただ怖がっているだけというわけではない。迷宮で何かを求め、探そうとする意志が、その瞳に宿っていた。
「……すみません、さっきは大きな豚のばけものを見て、足がすくんでしまって。本当は、この弓で援護しないといけなかったのに」
巫女といえば神社、神社といえば破魔矢――というような理由なのか分からないが、スズナは弓を装備していた。白い服に赤いスカートを穿いており、黒く長い髪はリボンで一つにまとめられていて、異世界の装いだというのに和風巫女のようないでたちだ。
「それと、さっき迷宮に入るところを見たんだが、もう一人はどうしたんだ?」
質問すると、エリーティアとスズナの表情が曇る。どうやら、まずいことが起きてしまったようだ。
「……彼女は……その、宝箱を開けるのに失敗して……」
「あの子……ミサキちゃんは、『ギャンブラー』っていう職を選んだらしくて。運がいいはずだからと言って、魔物が落としていった箱を開けたんです。そうしたら、姿が消えてしまって……」
「宝箱……あれだけ魔物を狩っても一つも出てこなかったけど、そんなものがあるの?」
五十嵐さんの言うとおり、俺たちはドロップ品こそ見つけたが、宝箱なんて影も形も見ていない。
「ひとつの階層で、出現する宝箱の数は限られているの。強い魔物ほど宝箱を落としやすいのだけど、ワタダマやハチでは百匹倒しても落とさないことがあるわ。だから、本当にミサキは運が良いのだと思うけど……罠を外せるのは盗賊に類する職だけだと、ちゃんと伝えていたら……」
エリーティアは探索者としての経験は豊富なようだが、初心者たちを率いて上手く指導していくというのは難しかったようだ。
「罠で転移すると、どこに飛ばされるんだ?」
「『階層内転移』の罠でしょうから、この階のどこかにいるわ。早く探して合流しないと」
「ええ、そうね。後部くん、どうする? この子たちと一緒に探す?」
「できればそうしたいですが……エリーティア、この階層に他のパーティは居たか? 居てくれたら、彼らにも助けを頼みたいんだが」
リヴァルさんを呼びに行くには時間がかかりすぎる。こんな時こそ、貢献度がマイナスになるといっても、ミサキに帰還の巻物を持っていてもらいたかった。
魔物に襲われ、逃げるのに失敗すれば、おそらく命はない。『ギャンブラー』の戦闘力次第だが、レベル1ではワタダマの攻撃すら熾烈なものになるのだから。ファングオークに遭遇していないことを祈るしかない。
「……気のせいかもしれないけど、ここに来てすぐ、誰かに見られているような気がしたの。他のパーティの視界に、ぎりぎり入っていたのかもしれないわ」
「それって……二階層に来る人を監視している誰かがいたってこと? そんなこと、何のために……」
五十嵐さんは疑問を口にする。俺は、きのう夕食を摂った酒場で聞こえてきた話を思い出していた。
男の三人組。エリーティアが八番区に来ていることを知って、何かを企んでいる様子だった。
「……他のパーティに協力してもらうのは難しそうか。だが、手分けをして魔物の集団に遭っても対処が難しい。エリーティア、今だけでいい。俺たちとパーティを組んでくれ」
レベル8――今の俺達からすると雲の上の探索者。
必死で後衛を育てようとしていたのは、自分のいた集団が、大事な仲間を見捨てたから。それを彼女は助けようと、新たなパーティを作ろうとしていたのだ。
だが、今のままでは危なっかしすぎる。スズナはエリーティアの事情を聞いても、パーティを抜ける気はない――止めを刺す時に反撃を受けるリスクが、成長するまでずっと続くことになってしまう。
「……今はまだいい、とも既に言えない。ドクヤリバチの経験値を取らせようとしても、スズナが反撃を受ける可能性がある。ワタダマならまだしも、毒針は危険すぎる。可能ならスズナは同じレベル帯の人と組むべきだ」
「それは……私が、スズナと組む資格がないっていうこと?」
「そうは言ってない。俺は、できるならエリーティアの目的にも協力したいと思ってる。だがスズナを育てるなら、俺達のパーティに入ってもらって、エリーティアは同じレベルになるまでは、ソロのままで同行してくれた方がいい」
「……そうよね。どんな事情があるにせよ、親友を助けたいっていう人を放っておけないわ。同時に転生してきたスズナさんのことも心配だし」
「……お二人とも……」
スズナが瞳を潤ませ、手巾で目元を抑える。エリーティアはどんな顔をしていいのか分からないという様子だったが――もう一度、改めて俺の顔を見る。
「……あなたがすごい後衛なのか、気になってはいたの。でも、ありえないって可能性を打ち消してた。あなたが協力してくれたら、スズナのレベルを安全に上げられるかもしれない……そう思っていたのに、気づかないふりをしていた」
「俺も、あまり自分の職について広めるつもりはないんでね。俺と組むなら、できれば秘密にしてもらいたい。エリーティアが前衛として抱えてる問題っていうのは、後衛を守ることに向いてないっていう以外に、何かあるのか?」
「……パーティを組まなければ、私の位置が離れていれば問題はないわ。もし私が逃げてと言ったら、私を残して逃げて。それだけはお願い……スズナに『脱出の巻物』を渡してあるから、それを使って」
エリーティアはそう言うと、右手を差し出してきた。俺が握り返すと、ずっと張り詰めた顔をしていた彼女がふっと笑う。
「お手並みを拝見するわ、ミスター・アリヒト。小手を外すのは時間がかかるから、このままで失礼するわね」
「あ、ああ……よろしく」
「私は単体戦力として立ち回るけれど、協力してくれるあなたには十二分に報いるわ。パーティでなくても指示は聞くし、手に入れたものも貴方にあげる。生活費が足りなくなったら、私に言って」
「今のところは大丈夫だ。俺はヒモ体質じゃないしな」
エリーティアは楽しそうに笑う。それが、彼女の素の表情なのだろう。思い詰めていて、刃のように神経を尖らせていたのなら、あまり良い精神状態とは言えない――スズナのためにもここで会うことができてよかった。
エリーティアは五十嵐さん、テレジアとも握手をする。そして、スズナがおずおずと俺の前までやってきた。
「あ、あの……アリヒトさん、よろしくお願いします。改めまして、白宮珠洲菜です」
「ああ、俺は後部有人。こちらは五十嵐鏡花さんで、彼女はリザードマンのテレジアっていうんだ」
「よろしくね。仲間が増えて嬉しいわ」
「…………」
五十嵐さんが優しく微笑みかけると、スズナは安心したように微笑む。テレジアはちょっと迫力があるので慣れるのに時間がかかりそうだが、それでもスズナは握手をして、律儀に挨拶をしていた。
◆現在のパーティ◆
1:アリヒト ※◆$□ レベル2
2:キョウカ ヴァルキリー レベル1
3:スズナ 巫女 レベル1
4:テレジア ローグ レベル3 傭兵
ゲスト1:エリーティア




