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第百三十五話 砂蜥蜴/真銀の砂

 まず、『サンドシザーズ』からのドロップ品として見つかっていた『腕輪のようなもの』を鑑定してみることにする――これはマドカの『鑑定術1』でも問題なく成功した。


 ◆★デザートローズ◆


 ・宝石『砂漠の薔薇』が組み込まれている。

 ・『特効:砂地の魔物』該当する魔物に対して与える打撃が増加し、敵からの被害は軽減される。

 ・装備中は『サンド』系統の特殊攻撃が使用できる。

 ・『物理防御』が少し向上する。

 ・『魔法防御』が少し向上する。

 ・『敏捷性』が少し向上する。


 装飾品で、これほど高性能なものは珍しい――『落陽の浜辺』で戦う前に欲しかった能力がついているが、それはご愛嬌というやつだ。今後も砂地は出てくるだろうし、ついていて損をする能力ではない。


「はー、よく見たらこれ、薔薇の形になってる石なんですね。砂の塊みたいに見えましたけど、払ってみたらキラキラしてます」

「砂漠の薔薇っていうくらいだから、砂地で取れるものなのかしらね。こんな形のものが自然にできるなんて、凄いわよね……これは、軽装しかできない人が身につけた方がいいのかしら」


 誰が装備しても恩恵が得られるものなので、迷うところではある。前衛のメンバーが装備して、ダメージを少しでも軽減するか――と考えていると。


「…………」

「ん? テレジア、どうした?」

「触ってみたいんじゃない? 何か思うところがあるとか」


 俺もエリーティアと同じように感じたので、テレジアにブレスレットを渡してみる――すると。


「っ……テ、テレジアさんの柄が……!」


 テレジアの装備している『ハイドアンドシーク』と『カメレオンのブーツ』が反応して、

砂のような色になる――これは保護色というやつだろうか。


「『デザートローズ』に触れたから、砂の色になったのかしら……」

「テレジアさんの装備だと、そういうことになるんでしょうか。それともテレジアさんだから……どちらでしょう」


 エリーティアとスズナが首をひねっているが、『光学迷彩』の場合は風景に溶け込むので、テレジアが元から保護色に変わる能力を持っている可能性がある。しばらくするとテレジアは元の色に戻った。


「宝石に反応しているとしたら、色以外に変化があるかもしれぬ。アリヒト、テレジアの技能を見てみてはどうじゃ?」

「は、はい。ええと……」


 俺はライセンスを操作して、テレジアの技能を表示する――すると。


 ◆隷属者の技能開示◆


 Sモードチェンジ:サンドクラッド 砂の力によって恩恵を得る。発動中は魔力を消費する。特殊装備によって発動可能


「Sモード……チェンジ?」

「むっ……本当にそう書いてあるのか? その『S』というのは、装備に応じて使えるようになる中でも特別な技能を指す。探し求めても、なかなか見つかるものではない」


 『S』が『スペシャル』のような意味合いであるとするなら、『モードチェンジ:サンドクラッド』という技能ということか。


 どんな効果があるのかは抽象的で、戦闘中に発動してみないと分からない。しかし機会を見て使ってみる価値はありそうだ。


「そういうことなら、テレジアさんが装備するのが良さそうね」

「ええ、技能の効果は一度検証してみたいところですね」


 みんなの意見も一致しているので、『デザートローズ』はテレジアに使ってもらうことにする。手首につけるものだと彼女自身もわかっているのか、左の手首に通した。


「…………」

「ああ、よく似合ってるぞ。技能はまた今度試してみような」


 テレジアはじっと俺を見ている――そして他のメンバーのほうを見やる。何か、気を使っているようにも見える仕草だ。


「キョウカお姉さんにはお侍さんアーマーがあるので、遠慮しなくても大丈夫ですよー」

「っ……あ、あのね。私の鎧は壊れちゃったけど、修復すればまだ使えるから」


 例え強い装備でも、呪われていたら使うことはできない。『緋の帝剣』の強さと、それに伴うリスクを見ている以上はそう考えるのが必然だ。


 しかし『カースブレード』の技能が無ければ、俺たちは勝ってこられなかった。このいかにも不穏な気配のする装備も、場合によっては生かせる場面があるかもしれない――と思いはするが、見ているだけで背中に冷や汗が流れるほどに、ただ置かれているだけでも悪寒を感じる。


「さて……次はいよいよじゃのう。アリヒト、くれぐれも気をつけてな」


 マドカは鑑定のために『葬送者』の残した装備に近づくことすらできなかった――『恐怖』の状態になってしまったので、五十嵐さんの『ブレイブミスト』で解除してもらった。


 俺も『ブレイブミスト』が無ければ平然と近づくことはできそうにない。触れないように手をかざしてマドカに手配してもらった中級鑑定の巻物を使うと、ライセンスに鑑定結果が表示された。


 ◆★夜叉蟹の甲冑◆

 ・付近にいる敵味方に『恐怖』の状態異常を付与する。

 ・何かの呪いをかけられている。

 ・秘められた力がある。


 やはり、装備しなければ詳細が判明しないということか。このままでは置物にすらならないような効果までついている。


「これは下手な番犬より効果があるかもしれぬな……解呪さえできれば使いようもあるかもしれぬが」

「そうですね……他の装備もこの分だと呪われてるんでしょうか」

「それは鑑定してみぬと分からぬな、魔物とは不可思議なものじゃからのう。というより、全身がそのまま装備と判定されるというのも稀に見るケースじゃ」


 セレスさんの言う通り、残りの三つも鑑定してみることにする――すると。


 ◆★仁王の兜◆

 ・『頭部状態防御』頭部の関係する状態異常を防ぐ。

 ・何かの呪いをかけられている。

 ・秘められた力がある。


 ◆★闘鬼の小手◆

 ・『特効:斬属性』斬属性に弱い敵に対して打撃が上昇する。

 ・『装備重量』の限界を増大させる。

 ・『物理防御』を少し強化する。

 ・『効果:駄目押し』部位破壊が成功したとき、打撃を付加する。

 ・一定以上体力が減少したとき『闘気』状態になる。


 ◆★般若の脛当て◆

 ・『特効:人型』人型の敵に対して打撃が上昇する。

 ・『素早さ』が強化される。

 ・『魔法防御』が少し強化される。

 ・『間接防御』が少し強化される。

 ・『八艘飛び』の技能が発動可能になる。 

 ・味方を強化する技能の性能が向上する。


 兜を鑑定したときは、やはり全て呪われているのかと思った――しかし腕と足の防具に関しては、『呪いをかけられている』という表示が見当たらない。


「まさか全身が『星つき』の装備だなんて……あの強さも理解できるわね」


 エリーティアが感嘆する。この装備全てが能力を強化していたのなら、人型の魔物はレベルと同時に装備を注意して見ておく必要がある。


(この般若の脛当て……支援技能の強化がついてる。だが、誰が装備しても強そうな性能だし、迷うところだな)


 俺はすでに、支援技能を強化できるブーツを装備している。他の足装備が充実していない人につけてもらうのもいいかもしれない――と思ったのだが。


「この『小手』は、戦士系の方とメリッサさんが装備できます。『脛当て』はエリーティアさん、キョウカお姉さんと、アリヒトお兄さんだけが装備できます」

「それなら、脛当てはアリヒトが使うのがいいでしょうね。男性向けの意匠デザインのようだし」


 デザインより性能を重視した方がと思いはするが、女性陣にとっては重要な問題のようだ。もちろん俺も多少は気にするが。


「上だけ戦乙女ヴァルキリーっていう雰囲気の装備なのに、足元だけ戦国武者っていうのもバランスが悪いしね。基本的には、調和の取れる装備がいいわね」

「なるほど……俺もスーツに武者装備っていうのは新しい試みですが、戦力強化のためにはやむなしですかね」

「お主らの世界で、激しいぶつかり合いのある競技で使う『レガース』という防具があるじゃろう。あれのように加工しても良いぞ。元のブーツとの武具合成も、この組み合わせなら可能じゃろう」

『同じ効果がついていると、合成できたときに効果が強くなることがあるよ。もしそれで無限に強くできると誰でも無敵になっちゃうから、それはできないんだけどね。例えば打撃が強くなる効果が重複していたら、強い方の効果をベースに少し強化されるんだ』


 合成できる組み合わせ自体が限られていて、何でも合成はできない。シュタイナーさんは現役時代よりレベルが下がっているのだが、下がるときに失う技能を選ぶことができるので、レベル5で取得した『装備合成2』の技能を今も持っているということだった。


「じゃあ、この脛当てと俺のブーツを合成してもらっていいですか」

『あ、そうだ。今在庫を切らしてるから、合成用のつなぎになる金属を仕入れてこないと……なかなか出回らなくて大変なんだ』

「確実に出てくるかは分からぬが、『錆びた金属塊』を鋳溶かせば手に入るかもしれぬ。アリヒト、試してみても良いか? 他に用途も無いはずじゃからの」

「はい、よろしくお願いします」


 貸し工房には、シュタイナーさんが運んできたものだという小さな炉のようなものが置かれている。魔道具ということなら、時間をかけて準備をしなくても、金属の精錬ができるということか――みんなも興味深そうに見守っている。


「では始めるぞ。『迷宮の神がもたらす炎の炉よ、セレス・ミストラルが汝に祈りを捧げる』……」


 炉の中に『錆びた金属塊』を入れ、呼びかけるように詠唱を行う――かなり魔力を使うのか、セレスさんの額に汗がにじむ。それをシュタイナーさんがハンカチで拭き、助手として傍らで見守っていた。 


 しかし一つ、二つと炉に入れても、目的の金属は得られなかった――『エルミナ鉄』も使いどころはあるのだろうが、今は外れの扱いだ。


「く……思うようにはいかぬか……シュタイナー、最後の一つを……」

『はい、ご主人様。みんなも祈っていて、一つでも出てきてくれれば……』


 最後の一つを炉に入れ、セレスさんが呪文を唱える――全員が祈ってくれているので、俺も目を閉じて『当たり』が引けるようにと祈った――すると。


 ◆抽出された金属◆


 ・『エルミナ鉄』×4

 ・『グロウゴールド』×1

 ・『真銀の砂』×1


「ふぅ……六つも使って駄目じゃったら、魔除けの儀式でも受けに行っておったところじゃ」

「セレスさん、この『真銀の砂』が合成に使う材料なんですか?」

「うむ、砂といっても金属の微細なかけらの集まりじゃな。これを合成の際に用いると、装備品同士の能力を親和させることができるのじゃ」


 テレジアの『トリプルスティール』で『サンドシザーズ』からドロップ品を奪取できたが、そうでなければ『錆びた金属塊』を入手できる確率はどれくらいなのだろう――こういうことがあるから、強敵を倒すときはテレジアの士気解放を確実に使っていきたい。


「『グロウゴールド』を使って強化すると『光属性強化1』『光属性耐性1』のいずれかがつくが、キョウカのサークレットが破損したときに直すためにも使える。現状では取っておいても問題ないかもしれぬな」

「そうですね……巨大蟹の素材で装備に使えるものが取れたら、また何に使うか考えたいと思います。『真銀の砂』がものすごく貴重なら、すぐ使うのは勿体無い気もするんですが……」

「気持ちはわかるが、『般若の脛当て』を倉庫に寝かせておく手はないと思うぞ。この装備は味方を強化するお主にはよく合っておる。わしとしては任せてもらいたいがの」

「後部くんが『八艘飛び』って、どんなことになるのか分からないけど、身軽に動けるのはいいと思うわ。みんなはどう思う?」


 五十嵐さんが意見を求める――みんな同意してくれているが、ミサキが遠慮がちに手を上げた。


「お兄ちゃんが後ろにいると、私たちって強くなるじゃないですか。その効果も上がるんだったら、えっと……一回ごとに、ドキドキする感じも強くなっちゃいません……?」

「っ……そ、それは……みんなを強くしてくれてるから、『信頼度』が上がりやすいんじゃない?」

「パーティの中では、治癒師ヒーラーや前衛で敵の攻撃を受け止めるメンバーの信頼度が上がりやすい。彼らは直接的に、仲間を守るために技能を使うからじゃな。アリヒトは皆の統率役で支援もしておるようじゃから、特に信頼度が上がりやすいじゃろうな」

「…………」


 テレジアがセレスさんに同意するようにこちらを見てくる。俺は『後衛』なので、仲間がいなければ何もできない。そのためにパーティメンバーの信頼度が上がりやすいのではと思っているが、他の支援職と比べてもやはり特殊なのだろうか。


「信頼度とはすなわち、好意じゃからな。誤解を恐れずに言うと、それは高い方が相手を信頼できるに決まっておる。信頼度が高いことで困難を切り抜けられる場面もあるのじゃから、可能な限り信頼を深めた方が良いと思うがの」

「あっ、思ったより真面目な返し。そういう言い方をされると、私だけがよこしまなことを考えてるみたいじゃないですかー。お兄ちゃんが後ろにいる安心感ってすごいんですよ、寝てるときでもお兄ちゃんが気になってつい目が覚めちゃいますからね」

「っ……ミ、ミサキちゃん、夜中に目が覚めるようなら今度から一緒に寝てあげましょうか。睡眠不足はお肌の大敵だから」

「……アリヒトさん、すみません、皆で内緒みたいにして……でも、アリヒトさんにはこれからも、ゆっくり眠って疲れを取って欲しいですから……」

「あ、ああ、かなりよく寝られてるけど。みんな、どうした? 顔が真っ赤だぞ」


 精錬するときに炉に火を入れたが、そこまで室内は暑くはない。テレジアもあまり赤くなってはいないが、俺の視線を受けるとつい、と目を逸らしてしまう。


(また、俺の技能が寝てる間に……? いや、最近は何もないよな。俺が深く寝過ぎなのか……いや、まさかな……)


 メリッサとマドカまで俺から目をそらすので、さすがに気になってしまう。セレスさんはそんな俺たちを見てにやにやとしていたが、何か思いついたようにシュタイナーさんを見やった。


「八番区に戻る前に、宿を借りるというのも良いかものう。工房の簡易ベッドは固いから、そろそろ柔らかいベッドで寝たいものじゃ」

『そうだね、ご主人様。アトベ様たちのお邪魔をしないようにするから、いいかな?』

「ええ、大丈夫ですよ。じゃあみんな、ここからは自由行動にしようか」

「「「はい」」」

「はーい」

「…………」


 みんなそれぞれの返事をして、席を立つ。やはりテレジアは俺と一緒についていきたそうだ――だが、皆と離れてばかりいるのも気になったのか、宿舎に帰るみんなと一緒に歩いていった。


「……健気じゃのう、テレジアは。お主も硬いことばかり考えず、常に傍に置いても良いのではないか」

「毎日、一日中一緒に行動してますからね。たまにはテレジアの自由にするのも、必要なことじゃないかと思ってます」

「それは一理あるがの。あの娘は、お主と一緒にいるのが一番安心するのではないか」

『みんなそうだけど、我慢してるんだよね。お休みの日はアトベ様の取り合いになっちゃったりして』


 そこまでではないのではないかと思うが、工房を出る前にメリッサとマドカがこちらに手を振る姿を見ると何とも言えなくなる。


「このパーティの未来はアリヒトの甲斐性にかかっておるのう。と、あまり虐めても意地が悪いかな。ではシュタイナー、作業に入ろうか」

『かしこまりだよ、ご主人様』


(……セレスさんの口調が一瞬、雰囲気が変わったような……もしかして、いつもの口調は演技なのかな)


 威厳を出すために演技をしているとしたら、シュタイナーさんも正体不明の甲冑というイメージを作っているようだし、この二人は似たもの同士なのかもしれない。


 俺は挨拶をして、貸し工房を後にする。久しぶりの単独行動だ――あまりぶらつかず、必要な用件を済ませることにしよう。


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