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第百二十七話 紅の華

 セラフィナさんの防御を起点とした連携――その指示を出す寸前に、五十嵐さんが破損した鎧に手を当てるのが見えた。


(五十嵐さん、何を……っ、そういうことか……!)


「テレジアさん、お願いっ!」


 五十嵐さんが声を張る――テレジアはセラフィナさんから続く、連携の『二段目』を入れるために、剣を携えて駆ける。


「スズナ、『言霊』を取得してくれ!」

「はいっ!」


 迷いない返事――新たな技能を取得するというスズナの意思に応えて、彼女の持つライセンスが光を放つ。


「――邪悪なる者を打ち払う神字よ、その力をここに宿し給え!」


 ◆現在の状況◆


 ・『スズナ』が『言霊』を発動 →『アリヒト』の武器に神聖属性を付加


 構えた黒いスリングに、白い文字が浮き上がる。


 今の物理無効状態の巨大蟹には、神聖属性が効果的だと睨んだ――『ゴーストシザーズ』の名前つきであり、『ファントム』と名の付く技を使うのだから。


 吉と出るか、凶と出るか。『魔法攻撃しか通じない状態』で大きな打撃を与えれば実体化するという読みが外れれば、即死攻撃に頼らずに戦うしかない。


(今まで主力にしてこなかった魔法系の攻撃で、脅威になる威力を出せるか……やるしかない……!)


「『支援連携チェインサポート』……『防御起点連携ディフェンスライン』!」

「っ……!!」


 ◆現在の状況◆


 ・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・スタン』

 ・『テレジア』が『アズールスラッシュ』を発動 →『★無慈悲なる断頭台』に命中 弱点攻撃 ノックバック小 魔力燃焼 連携技二段目


 テレジアは指示が無くとも弱点を狙いに行った――一度『支援統制』を使った後なら、どこが効果的なのかは各人が把握している。


 青い炎に包まれ、巨大蟹が燃え上がる――行動停止状態からさらに怯んで、ノックバックが発生して後ろに下がる。


 三段目を入れるために、五十嵐さんは既に間合いを詰めている。そこで俺は、彼女が何をしようとしていたのかをようやく悟った。


「――『魔装転換エーテリアル・フォーム』!」


 ◆現在の状況◆


 ・『キョウカ』が『装備転換』を発動

 ・『キョウカ』の武器が『アンビバレンツ』に変更

 ・『キョウカ』の鎧が『エーテリアル』状態に変化 →性能回復 速度上昇 魔法防御上昇


「へ、変身っ……変身ですよ、お兄ちゃんっ!」


 五十嵐さんもそんなふうに効果が出るとは思っていなかったと思うが、魔力で壊れた部分の装備が補われ、さらに背中の部分に羽根のようなものが追加されている。


 ダメージを受けた分だけ威力を増す、双頭の槍。それを振るって繰り出されるのは、彼女がいずれの槍を使っても繰り出せる、魔法属性を持つ攻撃だった。


「――迸りなさい……っ、『ライトニングレイジ』!」


 ◆現在の状況◆


 ・『キョウカ』が『ライトニングレイジ』を発動 →『★無慈悲なる断頭台』に命中 弱点攻撃 感電付与 連携技三段目

 ・『ライトニングレイジ』の追加攻撃 →『★無慈悲なる断頭台』に3段命中 弱点攻撃

 ・『支援攻撃2』が5回発生 →『★無慈悲なる断頭台』がスタン 弱点攻撃 スタン継続

 ・連携技『シールド・アズール・レイジ』 →『★無慈悲なる断頭台』のスタン延長 弱点攻撃 感電継続


 青い炎に包まれた巨大蟹。五十嵐さんは奥の奥まで踏み込み、その口を狙って槍を突き込んだ――稲妻が炸裂するが、周囲に敵がいないため、拡散するはずの追撃が全て巨大蟹を標的として、さらに威力が跳ね上がる。


(これでいけるか……エリーティアにさらに重ねてもらうか……!)


 五十嵐さんの『戦霊』を使えば瞬間的な打撃は上がるが、『支援連携1』では三人の連携までしかつなげることができない――ただ手数を増やすよりは、ここは連携での最大打点を狙いたかった。


 そして全員が、その結果を見届ける。巨大蟹が透けていることで見えていた、向こう側の景色が見えなくなる――。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる断頭台』が実体化 → 魔法無効 状態異常解除


 青い炎に包まれ、さらにスタンしていた巨大蟹は、ついに実体化する。


「……グワラララララ……!!」


 まだ体力は十分に残っている――そう主張するように、巨大蟹は壊れた爪と鎌を振り上げる――しかし。


「――今だ、ミサキ、メリッサ!」

「メリッサさん、お願いしますっ……! 士気解放、『フォーチュンロール』!」


 ◆現在の状況◆


 ・『ミサキ』が『フォーチュンロール』を発動 →次の行動が確実に成功


 メリッサはどこにいるのか――少なくとも、巨大蟹の正面側にはいない。


 しかしセラフィナさんの視線が、メリッサの位置を教えてくれた。彼女はずっと待ち続けていたのだ――『待ち伏せ』の技能を取得し、発動して。


「――仕留める……っ!」


 ◆現在の状況◆


 ・『メリッサ』の攻撃 →『待ち伏せ』の効果が発動 『★無慈悲なる断頭台』に命中

 クリティカル


 空中から辛うじて、巨大蟹の背後に回っていたメリッサが禍々しい形状の大鎌――フォビドゥーン・サイスを振るうところが見えた。


 時間が止まったようだった。即死効果が発動するのか否か、祈るような瞬間が過ぎ、そして――。


 ◆現在の状況◆


 ・『フォビドゥーン・サイス』の特殊効果が発動

 ・『★無慈悲なる断頭台』に一撃死の効果

 ・『★無慈悲なる断頭台』を1体討伐


「――グワ……ラララ……ラ……」


 あれほどの猛威を振るった巨大蟹が、沈む――地響きのような音を立てて、その長い足が力を無くし、巨大な胴体が崩れ落ちる。


「やった……っ、やりましたよ、お兄ちゃんっ!」


 ミサキの喜ぶ声が聞こえる――五十嵐さんとテレジアが、こちらを振り返って見上げる。


 だが、俺と何人かは気がついていた。


 認めたくはなかった――この作戦を成功させてなお、戦いが続くなんていうことは。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる断頭台』が『リーンカーネイト』を発動

 ・『★無慈悲なる断頭台』が『★無慈悲なる葬送者』に転生


 『それ』は、動かなくなった巨大蟹の前方に、召喚されるようにして姿を現した。


 蟹の甲殻を纏った、巨大蟹の化身のような存在。大きさは比較にならないほど小さくなったというのに――その強さはおそらく巨大蟹を上回っていると感じられる。


 ◆遭遇した魔物◆


 ・★無慈悲なる葬送者 レベル9 ドロップ:???


「ア、アリヒトさんっ……あれは……」

「――来るぞっ!」


 猶予を与えず、奴は動き出していた。腕を覆う甲殻の外側に備えた刃を閃かせ、最も近くにいたテレジアを狙う。


「――ッ!!」

「させないっ……!」

「エリーティアッ!」


 ◆現在の状況◆


 ・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『エリーティア』

 ・『★無慈悲なる葬送者』の攻撃 →『エリーティア』が防御


 反応できないテレジアを庇い、エリーティアが剣で攻撃を受ける。体格はそれほど変わらないのに、エリーティアは後ろに押される――そして。


 『切り返し』で反撃を試みただろう、その一瞬前に、敵は違う側の腕を閃かせていた。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる葬送者』が『ファントムブレード』を発動 →『エリーティア』に命中


「――うぁっ……!?」


 エリーティアよりも早く、敵が二撃目を繰り出した――それは、仲間の誰も奴の動きに追随できないことを意味していた。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる葬送者』が『エクスキューション』を発動 →『キョウカ』が回避


「っ……速い……!」


 敵は腕の一振りで、離れた相手まで斬撃を届かせる――ただ空を切ったように見えるが、射程は見た目よりも遥かに長い。


 五十嵐さんがかわすことができたのは、『ブリンクステップ』の効果によるものだ――それでも使うのが一瞬遅れれば捕まっていただろう。


 次に狙われると分かっていても、テレジアは引かずに剣と盾を構える。しかし、エリーティアを超える速さを持つあの魔物に、彼女が対応しきれないことは分かっていた。


「――アリアドネ、頼むっ!」

「……!!」


 ◆現在の状況◆


 ・『アリヒト』が『機神アリアドネ』に一時支援要請 →対象:『テレジア』

 ・『機神アリアドネ』が『ガードアーム』を発動

 ・『★無慈悲なる葬送者』が『ファントムブレード』を発動

 ・『テレジア』に命中 →ダメージ0


 アリアドネが要請に応じてくれる――しかし、『ガードアーム』に受けられたことを確認しても、敵は止まることがなかった。


 ◆現在の状況◆


 ・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『テレジア』

 ・『★無慈悲なる葬送者』の攻撃 →『テレジア』に命中


「っ……!!」


 薙ぎ払うような一撃を盾で受けきれず、テレジアの身体が浮き上がり、飛ばされ――砂浜を、転がっていく。


 叫ぶことも、地上に降りて救いに行くことさえできない。取り乱せば、命を落とす者が出ると分かっているから。


「――これ以上は……っ!」


 ◆現在の状況◆


 ・『アリヒト』が『支援防御1』を発動 →対象:『セラフィナ』

 ・『セラフィナ』が『プロヴォーク』を発動 →『★無慈悲なる葬送者』の『セラフィナ』に対する敵対度が上昇

 ・『セラフィナ』が『不動の呼吸』を発動

 ・『鏡甲の大盾』の特殊効果が発動 →『セラフィナ』の魔法防御力が大きく上昇

 ・『★無慈悲なる葬送者』が『ファントムブレード』を発動 →『セラフィナ』に命中

 ・『★無慈悲なる葬送者』が『ファントムブレード』を発動 →『セラフィナ』に命中


 敵の攻撃間隔があまりに早く、『ガードアーム』が再度の要請に応じない。セラフィナさんでも一撃の威力をゼロにすることはできず、しかし彼女は『不動の呼吸』の効果で、一歩もその場から下がろうとしない。


「――駄目です、セラフィナさんっ!」


 スズナが叫ぶ――彼女も、俺たち全員も理解していた。セラフィナさんが命をかけてでも、時間を稼ごうとしていることを。


「ここからは一歩も引かぬ……引いてなるものか……っ!」

「――スズナ、『皆中』だ! あの技能なら奴に当てられる!」

「はいっ……!」


 ◆現在の状況◆


 ・『スズナ』が『皆中』を発動 →2本連続で必中

 ・『アリヒト』が『支援攻撃2』を発動 →支援内容:『フォースシュート・スタン』

 ・『スズナ』が『ストームアロー』を発動 →『★無慈悲なる葬送者』に命中


(スタンも、速度低下も入らない……だが……!)


 セラフィナさんに連続で攻撃を仕掛けていた敵が、スズナの攻撃を警戒して一度距離を取る――しかしまだ長射程の斬撃『エクスキューション』の範囲内に入っている。


 ――メンバーの中で、最もレベルが低いメリッサも。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる葬送者』が『エクスキューション』を発動


 振り返ることすらなく、蟹の甲殻を身に着けた魔人は、後方に右手を振り抜いた。


 メリッサとシオンには、それを避ける手段がない。即死攻撃を成功させたあと、俺は彼女たちに離脱するよう指示を出すべきだった――狙われてしまう前に。


 全ての音が聞こえなくなる。その攻撃に割り込む手段などない――エリーティアが追随できない相手を、俺たちが速度で上回ることはできない。


 だが、いつだってそうだった。


 エリーティアは他の誰よりも速く――いつも俺たちの窮地を、その剣で救ってくれた。


「――はぁぁぁっ!」


 ◆現在の状況◆


 ・『エリーティア』が『レッドアイ』を発動 →全能力上昇 魔力、体力減少開始

 ・『エリーティア』が『スラッシュリッパー』を発動 →『★無慈悲なる葬送者』に命中 行動をキャンセル


 赤い残影が走り、敵が吹き飛ぶ――横から斬りつけられたのだと、辛うじて状況から想像できる。


「エリーティアさんっ……!」


 エリーティアの目は紅色に染まり、全身から赤いオーラのようなものが立ち上っている――『ベルセルク』だけを使ったときとは全く違う。


「仲間を、二度と奪われるわけにはいかない……紅の華となって散りなさい」


 魔人の装甲が抉れている――それでも奴は戦意を失うことなく立ち上がる。


(――マスター、エリーティアがあの状態を維持できる時間は長くはない)


 ムラクモの声が聞こえる。彼女の言う通り、一秒でも早く決着をつけなくてはならない。


 ◆現在の状況◆


 ・『★無慈悲なる葬送者』が『クリエイトゴーレム』を発動

 ・『サンドシザーズ』16体が召喚


 魔人が両手を広げる。そして砂浜のあちこちで作り出される『サンドシザーズ』を見て、俺は悟った。敵もまた、俺たちと考えることは同じ――決して敗れるつもりはないのだと。


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