第百九話 工房でのミーティング
ブティック・コルレオーネから出たところで、俺は見覚えのある男性三人組のパーティを見つけた。『トリケラトプス』の三人だ。
俺の姿を見つけると、彼らのリーダーのヒゲの男性が、力なく手を上げた。
「アリヒト、あの人たちは……」
「そうだな、ちょっと挨拶してくる。『同盟』の動向も知っておきたいしな」
向こうも話をしたいようで、リーダーだけがこちらにやってくる。彼は俺を見るなり、肩をすくめて苦笑した。
「どうも元気がないみたいだが、どうしたんだ?」
「俺達の自業自得ではあるんだが、あんたたちについて情報を伝えなかったら、『同盟』の幹部がクビだとか言い出してな。リーダーは大目に見てくれたんだが、まあまた汚れ仕事をやらされるのも何なんで、抜けてきたんだ」
「……そういうことか。済まない」
「いや、謝ることはない。元から男三人組だと、妙に扱いが悪かったりしてな。そういう組織だと知ってたら入ってなかったんだが」
そんな話を聞くと、彼らに出ていくように言った幹部というのが一人しか思い当たらない。
「グレイって人には一度会ったことがあるが、悪い印象しか積み上がらないのに幹部というのも不思議というか……」
「口だけは上手いやつなんだ……といっても、同盟の中でも武闘派ってわけじゃないが、俺たちよりは強いし、何より抜け目のない男だ。あんたも、くれぐれも気をつけてな」
「ああ、ありがとう。これからどうするんだ?」
「しばらくは、倒せる魔物を狩って地道にやっていく。人気のない迷宮にも挑戦してみるつもりだ。あんたが双眼鏡を買ってくれたおかげで暮らしには困らないしな」
金貨の入った袋を見せて彼は笑う。それでも彼らは怠けることなく、探索者稼業に励むと言う――そういう人たちには好感が持てる。
「ああ、そうだ……あんたに伝えておきたいことがあったんだ。今日で『同盟』のリーダーは貢献度目標を達成する。また他のパーティのリーダーが貢献度上げに励むことになるわけだが、リーダーが直接指揮して貢献度稼ぎをするのは今日で最後だ」
「そうなのか……どんなふうに活動してたのか、少し気になるな」
「あまり褒められたやり方じゃないから、あんたには見せられないな。『同盟』以外のパーティを締め出して、魔物が出てくる幾つかのポイントを集団で見張ってるだけだ。それでも安全で、一日の稼ぎの効率も七番区で最も良いんだ。あまりこんなことをしてると、『蟹』の貢献度の査定が下がるかもしれないって話もあるがな」
いくら効率がいいからと言って、同じパターンで魔物を倒し続けては良くないということだろうか。そんな文字通りの『ハメ技』で経験を稼いでも、対応できる状況が狭くなるようには思う。
「まあ、今までいた組織を悪く言うのも良くないとは分かってる。ロランドさんが安全なやり方で六番区に行くことを選んだのも、彼の経歴を考えれば気持ちは分からなくもない」
「一度、病気で七番区の最下位まで落ちたと聞いたが……」
「ああ……そこに端を発する執念みたいなものはあるだろう。俺たちからあんたにアドバイスなんてできる身分じゃないが、くれぐれも長期リタイアなんてことにならないようにな」
「ああ、肝に銘じておくよ」
最後の言葉には重みがあった。俺も彼らの無事を祈る――袖振り合うもと言うが、わずかに接点を持っただけでも、それは重要な出会いだ。
様子を見ていた皆がこちらに歩み寄ってくる――ミサキは何やら楽しそうだ。
「お兄ちゃんって、男の人同士で話してるとやたら渋い顔してますよねー」
「ミ、ミサキちゃん……それだと、アリヒトさんが普段は……」
「真剣な話をしてたから、普通に気を引き締めてたんだが。俺には似合わないか」
「ううん、そんなことないけど。後部くんって、昔から初対面の人でも上手く対応してたわよね。私の方が人見知りしちゃってたくらいだし」
「い、いや……五十嵐さんも、常に堂々としてたじゃないですか」
五十嵐さんに褒められると、転生前に褒めてもらっていたらと思う瞬間も相変わらずあるのだが、それよりも照れる方が大きい。
「…………」
「待たせたな、テレジア。そろそろお腹は空いてないか?」
「…………」
テレジアは答えず、ただ俺のスーツの裾を持ってくる。これは――俺が単独で話しに行ったので、心配してくれたということか。
「男の人たちに頼まれて、アリヒトが援護に行っちゃったらどうしよう……とか、私は別に心配してはいないんだけど、きっとそのうちそういう声もかかりそうね」
エリーティアの言い方だとそう思っていたと言ってるようなものだが――どうやら彼女もテレジアと同じ心境だったようだ。
「大丈夫、俺はパーティを離れるつもりはないし」
「後部くんくらい優秀な『後衛』の人って、他にいないものね。あまり噂が広まらないようにしないと……さっきの人たちは大丈夫そう?」
周囲に聞こえないように五十嵐さんが声を小さくしたので、俺もそれに倣った。ミサキは静かにするということか、唇に人差し指を当てている。
「彼らは俺たちのことを報告しなかったことで、『同盟』を抜けたと言ってました。だから、俺のことは伝わってないと思います」
「律儀な人たちね……それくらい、後部くんを見て思うところがあったのかしら」
「あのときのアリヒトさんを見たら、皆さん心を動かされると思います。私も、思い出すだけで胸が……」
「……スズナ、大丈夫? 治療師に見てもらったら?」
「わー、エリーさんって思った以上にピュアなんですねー」
「っ……む、胸が痛いっていうだけで、そういうのと結びつけるのもどうかと思うけど?」
ミサキとエリーティアが口論というかじゃれ合っているが、俺は大人として鼻の頭をかくことしかできない。
「男女問わず一目置かれるなんて、やっぱりリーダーとしての資質があったんじゃない」
「え、えーと……五十嵐さん、俺には適度に厳しくしてもらえるとありがたいです」
「どうして? 私は思ったことを言ってるだけなのに」
もう遠回しに褒めるとか、そういう段階は通り越してしまったのだろうか。シオンと一緒にいるマドカも何か言いたそうだが、俺が視線を向けるとなぜか恥ずかしそうに目をそらしてしまった。
「お兄ちゃんとお話がしたーい、ってみんな思ってるんですよ」
「何も遠慮なんてすることないけどな。マドカ、メリッサに連絡を取ってもらえるか。見込みでも大丈夫だから、素材のリストが見られるとありがたい」
「は、はいっ……実はそのお話もしたくて、ずっと待ってました!」
『も』ということは、他にも話があるということだろうか。しかしマドカは相変わらず生真面目で、メリッサから送られてきていた魔物素材のリストを俺に見せてくれた。
メリッサとライカートンさんも一旦解体所を出て、セレスさんたちのいる貸し工房に来てくれるようだ。魔物素材も装備の加工に使うので、一緒に打ち合わせをした方がいいだろう。
◆◇◆
宿舎から歩いて数分の距離にある貸し工房にやってくると、すでにセレスさんとシュタイナーさんは作業の準備を終えており、メリッサとライカートンさんは座ってお茶を飲んでいた。
「待ちわびたぞ、アリヒト。といっても、今工房を使えるように準備を終えたところじゃがな」
『ご主人様、お茶のカップを持ったまま立つのはお行儀が悪いですよ』
セレスさんは常に被っているフードを脱いでいる。迷宮国の出身である彼女は、相変わらず異世界らしい種族――俺が持つエルフのイメージに近かった。耳が長く、実年齢よりも若いというか幼く見える。
彼女は普段、客の前に姿を見せないと言っていた。それでも違う区まで来てくれたことに改めて感謝を覚える。
「まったく、魔石を使わずにしまっておくとは何事じゃ。お主らの……む? な、なんじゃ、その顔は。お説教をしようというのに調子が狂うぞ」
「本当にありがとうございます。セレスさんたちが来てくれたおかげで、余らせていた素材の使い道を決められそうです」
改めて礼を言うと、皆も揃って頭を下げる――セレスさんは少し照れくさそうにしつつも、シュタイナーさんの手を足場にして肩に飛び乗って座り、高さを稼いで俺たちを見下ろしてきた。
「うむ、苦しゅうないぞ……と、一回言ってみたかったのじゃ」
『ご主人様はアトベ様たちが七番区に行ってからも気にしていたからね。本当は呼んでくれたのは渡りに船だったんだよ。それに専属に指名してもらえるなんて、職人冥利に尽きるよね』
「今までの客は、わしの姿を見て侮ったり、シュタイナーを見て怯えたりしておったからの。それではこちらも気持ちよく仕事をすることができぬ……まあ、見込みのある探索者がまったくいなかったわけではないがの」
百年以上も生きているというセレスさんほどの人が、そこまで見込んでくれている。そう考えて思ったが、ルーンがほとんど持ち込まれないだろう八番区で店を開いていたのは何か理由があるのだろうか。
「すみません、一つ気になったんですが……セレスさんたちは、なぜ八番区に住んでいたんですか?」
「むう、良いところに気づいたのう……と言いたいが、特に理由はない。探索者を引退したあと、わしは住み良い場所を探して転々としていてのう。あの工房の辺りは静かで、近くの水路も綺麗で良かったというだけじゃ」
セレスさんも探索者だった――迷宮国の出身で、『翡翠の民』である彼女も、俺たちと同じように探索者になる義務を負っていたのか。気になるが、今はそれ以上突っ込んだことは聞けそうになかった。
「さて……お主らの持っている魔石じゃが。古い武具についたままにしておったりせぬか? 放置せず、利用法を考えた方が戦力は増すからの。可能な限り利用した方が良いぞ」
「はい、メリッサが魔石を合成する技能を取得してくれているので、合成も試してみたいと思ってます」
「合成はできるものとできないものがある。今の私では、一度しか合成することはできない。2つ選んで合成できるだけ……良さそうなものがあったら言って」
「わしは『魔道具作成2』を取っておらぬ。代わりに、同種の魔石を集めれば『ルーン生成』を行うことができる……と言っても、必要数は十個じゃから、なかなか集められるものではないがの」
さすがに同種の魔石が十個ということは――と思っていると、メリッサが何か袋を持ってきた。ゴロゴロと石のようなものが入っている。
「……魔物を解体してたら、幾つか魔石が見つかった」
「ありがとう、メリッサ。結構な数だな……」
「敵が魔法の類を使ってくる場合は、魔石が力の源という場合がありますからね。アトベ様方が数多く魔物を倒されたことも勿論ありますが」
ライカートンさんが袋の中の魔石のリストを見せてくれる。十個を超えているものがある――だが、即断でルーンにするのは早い。
それより何より、見つかったのは魔石だけでなく、ルーンも入っていた。見ただけでは効果が分からないが、戦力アップに繋がりそうだ。
◆今回発見された魔石とルーン◆
・烈風石 ×1 エアロウルフから発見
・換のルーン ×1 ★背反の甲蟲から発見
・弾力石 ×18 ストレイシープから発見
・雷黄玉 ×1 サンダーヘッドから発見
・闇弾石 ×12 ダークネスブリッツから発見
・響のルーン ×1 ★誘う牧神の使いから発見
「ふむ、『弾力石』と『闇弾石』は飛び道具の弾に取り付けて使用するものじゃな。こういった種類のものはルーンに圧縮することはできぬ」
「実は『魔法銃』という武器を手に入れまして、それの弾が魔石ということなので、使えるとありがたいですね」
「な、何じゃと……!? 魔法銃……『ガンスミス』という職業の者しか作れぬというが。まさか、持っている者に会うとは……」
わなわなと震えているセレスさん――感激しているというより、驚きの方が大きいようだ。俺はテーブルの上に銀のアタッシュケースを置き、中の銃をセレスさんに見せた。
「これなんですが……」
「むう……強化できぬかということじゃろうが、まだ使ったことは無いのであろう。これを強化できるような金属は容易に手に入らぬじゃろうし、今はそのままにしておくが良い。わしも強化できるよう、勉強しておくからの」
『私は金属加工専門だから、問題なく強化できると思うよ。でもご主人様の言うとおり、このままで完成されているから、強化に必要な素材が見つかるまでは無改造がいいんじゃないかな』
「ええ、将来的に強化できそうなら助かります」
まずは試し撃ちをしてからだが、『弾力石』なら数が多いので試すには持ってこいだろう。次回の探索で最初に使うことになりそうだ。
「では、魔物素材からの武具作成について話をさせてもらおうかの」
「はい、お願いします。メリッサ、解体はどれくらい進んでる?」
「大物は明日まではかかるけど、どう解体するかの目処は立ってる。使えそうな素材を提案する」
「『背反の甲蟲』は途中で外皮を外した形跡がありますが、それでも最も大きな甲殻が残っていますから、大盾の材料に使えますよ」
テレジアは円盾を使うが、現状では大盾を使うメンバーはいない。しかし用途が限られるのであれば、大盾を作ってストックしておくのもいいかもしれない――パーティに盾使いが入ってくれたら、その時に装備してもらうという手もある。
盾使いといえばセラフィナさんだが、彼女が俺のパーティに入ってくれるというのは難しいだろう。ギルドセイバーの任務もあるのだから。
「強い魔物でも、一部しか武具に転用できないっていうのはよくあることね……アリヒト、メリッサが切り落とした『背反の甲蟲』の角はどうするの?」
「ああ、何かに使えるといいが……しかし、戦闘中だと硬い部位でも切り落とせたってのはちょっと不思議だな」
「この角は、おそらく戦闘中でなければ斬れない部位ですね。魔物は倒したあとに、身体の組成が変質することがあるんです。それで加工できなくなってしまうんですが、斬り落としておいた角だけは、加工できる状態をとどめていました」
ライカートンさんが説明してくれるが、魔物の性質には謎が多い。加工できる部分は一部ということで、どう使うかを決めるとしよう。
◆◇◆
パーティ全員で検討し、各素材をどうするかが決まった。
◆エアロウルフの素材◆
・『スズナ』の『トネリコの弓』 → 『牙』を使用して『攻撃力上昇』を付加 『+1』に強化
・『スズナ』の『シルク・シャーマンズクロース+2』 → 『毛皮』を使用して『速度上昇』を付加 『+3』に強化
・『シオン』の『ハウンド・レザーベスト+1』 → 『毛皮』を使用して『速度上昇』を付加 『+2』に強化
◆グランドモールの素材◆
・『頭殻』を使用して両手槌『★ハンマーヘッド』を製作
・『爪×2』を使用して『モール・ナックル』を製作
◆★背反の装蟲の素材◆
・『テレジア』の『エルミネイト・ショートソード+3』 → 『角』を使用して『エルミネイト・レイザーソード+4』に強化
・『甲殻』を使用して『★鏡甲の大盾』を製作
◆ストレイシープの素材◆
・『キョウカ』の『ライトスティール・レディアーマー+3』 → 『羊毛』を使用して『少しのブレス耐性』を付加 『+4』に強化
・『ミサキ』の『バットレザー・マント+1』 → 『羊毛』を使用して『少しのブレス耐性』を付加 『+2』に強化
・『マドカ』の『コットン・ターバン』 → 『羊毛』を使用して『少しのブレス耐性』を付加 『+1』に強化
◆サンダーヘッドの素材◆
・『キョウカ』の『エルミネイト・クロススピア』 → 『雷角』を使用して『雷攻撃強化』を付加 『+1』に強化
・『メリッサ』の『デニム・オーバーオール』 → 『羊毛』を使用して『中程度の雷耐性』を付加 『+1』に強化
◆ダークネスブリッツの素材◆
・『エリーティア』の『ユニコーンリボン+1』 → 『羊毛』を使用して『暗闇耐性1』を付加 『+2』に強化
・『アリヒト』の『エルミネイト・マウント・ブーツ+2』 → 『羊毛』を使用して『暗闇耐性1』を付加 『+3』に強化
◆★誘う牧神の使い◆
・『アリヒト』の『ハードオックスメイル+2』 → 『黒毛』を使用して『中程度の闇耐性』を付加 『+3』に強化
・『エリーティア』の『ハイミスリル・ナイトメイル+4』 → 『黒毛』を使用して『中程度の闇耐性』を付加 『+5』に強化
・『曲がり角』から『★牧神の角笛』を製作
・『爪』から『不惑のチャーム』を製作
素材はどの武具を強化できるかがある程度制限されるので、一つの武具を集中的に強化したりということはできない。そのため、できるところで強化するというスタンスを取ることにした。加工すると何が作れるか決まっている素材については、用途が決まっていなくても作ってもらっておく。
羊系の魔物については、俺のスーツにも素材を分配してもらうことになっている。大量の羊毛が必要になるが、皆からも許可をもらった。
「七番区の時点で、これほど装備が充実しておるのか……お主ら、また『箱』を見つけたのじゃな?」
「はい、運良く『名前つき』の魔物を倒すことができたんです」
『きっとアトベ様のパーティには、幸運の星の下に生まれたような人がいるんだね……いや、運だけでもないんだろうな。普段どうやって探索してるのか気になっちゃうね』
見るからに重厚な甲冑姿のシュタイナーさんだが、口調は少年のように弾んでいる。『中の人』などいないと言われそうだが、実は結構若いのだろうか。
「魔物素材の加工ですから、私たちも共同で作業をさせていただきます。強化する装備を本日使用される予定はありますか?」
「いや、今のところはまだ決めていません」
『作業にある程度時間がかかるから、準備ができたら装備を預けてくれるかな』
実際に強化した装備を使うのは数日後くらいになるだろうか――と考えていると、セレスさんが指を1つ立てていた。
「明日じゃ」
「えっ……あ、明日ですか?」
「今晩中に全ての作業を終えて納品してみせよう。なに、技能を使うのじゃから、魔力さえどうにかすれば難しい話ではない。そうじゃの、シュタイナー」
『可能な限り、マナポーションがぶ飲みは避けた方がいいんだけどね。ポーションは便利だけど、あまり使っていると副作用があるみたいだよ』
「そんな安物は使わぬ……と言いたいところじゃが、ポーションの質を問わず副作用はあるらしいからのう。悪いことばかりでもないようじゃが、試す気にはなれぬな」
代わりに俺がセレスさんに『アシストチャージ』を使い、ポーションで回復すれば――と考えて、栄養ドリンクの飲み過ぎでハイになっていた頃を思い出す。俺にとって栄養ドリンクは間違いなくポーションだった。
「後部くん、どうしたの?」
「あ、い、いや何でも……いえ、ちょっと昔のことを思い出してました」
「あっ……も、もしかして、あの時のこと……」
そういえば五十嵐さんが栄養ドリンクをくれたこともあったと思い出す。同僚に話したら、美人課長に栄養ドリンクを貰うなんて、と何故か羨ましがられた――彼はどんな想像の翼をはためかせていたのだろう。
「……アリヒト、テレジアのスーツも作っておく。『空から来る死』の革で作ったレザースーツ。デザインはそんなに変えないけど、性能はかなり上がると思う」
「ああ、頼む。『ライトシェード・スキニー・スーツ』を裏地に使えば、『迷彩石』を使ったときに透ける問題は解決できると思うよ」
「私もそう思う。でも、私の中にはなかった発想。アリヒトの想像力には感心した」
試してみなければ上手くいくか分からないが、期待しておきたい。しかし、最初に『光学迷彩』を試すときは念のために宿舎内にしておきたいところだ。
「あとは魔石とルーンの使いみちじゃな。これもまた長丁場になりそうじゃ」
昔使っていた装備についている魔石、倉庫に眠らせていた魔石とルーン――そして、今回手に入ったばかりのもの。
武具と魔石の組み合わせは数多い。合成という選択も増えたが、ひとまず全ての石を誰かの装備につける方向で考えたい――毎回の付け外しは大変なので、安定した魔石は変えないというのが良いだろう。
「属性系の魔石は一人で幾つも装備できると選択肢が増えていいけど、全員が一つずつ属性攻撃ができた方がいいというのもあるし、悩みどころね」
エリーティアも剣を変えることができるのなら、魔石をつけることができるのだが――彼女の剣技で弱点属性を突いたら、相当な威力が出るのは間違いない。
「特殊攻撃の魔石は、今のところ合成できないのね。属性同士も、相性がいいものしか合成できない……」
「一度合成したら元に戻せないですから、悩みますよねー。ダブリで手に入ったものだけ合成したいですけど」
「『烈風石』と『爆裂石』は、何か合成すると凄そうじゃないか?」
「『生命石』は、体力が増えるんですね……2つありますから、合成してアリヒトさんに装備してもらえたら……」
スズナが心配してくれるのは有り難いが、体力を上げるべきメンバーは基本的に前衛だろう。合成もいいが、最前衛のエリーティアと五十嵐さんに使ってもらえると良いと思う。
「アリヒトお兄さん、装備に使えなかった部分の素材はご指示通り買い取りに出しました。査定はこれくらいになってます」
マドカが出してきた報告には、金貨5300枚と表示されていた。使える部分を使って残りがこれというのは、御の字というか何というか――そのうち気がついたら、家を買う資金も溜まってるんじゃないだろうか。
現在までの金貨の総計を確認すると28354枚だった。銀貨と銅貨を金貨に換算すると、約三万枚。装備の強化が最優先だが、使えるところで有効に使っていきたい。