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侵入計画

侵入計画


 エーゲ海の南に浮ぶ島。


 アテネを経由して航空機は無事に島の空港に到着した。


 タラップを降りる。

 雨がざあーっとシャワーのように叩きつける。


 歓迎されていないのだ。


 小都音(ことね)の未来予知により400メートル先からのVSS(狙撃銃)による狙撃があることはわかっていた。


 9×39mm徹甲弾を事前に展開したルーンとソロモンの大鍵の複合障壁が容易くいなす。


 2撃目はない。


「焦りすぎです。誘われなくてもこちらから参りますのに。ねえ、理靖(りせい)


「そうだな、小都音(ことね)。あの紫水晶は元は俺たちの持ち物だ。さあ、早く返してもらいにいこう」




***




 スーツケースを受け取りタクシーを拾って空港を出る。


 雨雲の向こうに青い空が広がっていた。


 街に近づくと、窓から差し込む強い日差しに思わず目を細めた。


 

 島はいくつかのエリアに分かれている。


 砂浜が広がりホテルが並ぶリゾートや、中世の外観を今も残した旧市街などだ。


 旧市街地には700年ほど前に騎士団によって建てられ増築を重ねた城塞が今も残されている。

 城塞はは城であり都市でもあった。

 そのため今では城塞都市と呼ばれている。

 そしてそれこそが俺たちの目指すところだ。


 用意したホテルはそこから離れたリゾート地である。

 まずはホテルに行き、体制を整ることにした。


 海に面していない奥まった所にあるホテルでチェックインを済ませる。

 ガラスばりのモダンなホテルとは異なり、元は白地だったはずが風化によりくすんだ灰色になったホテルだ。

 手続きを終え階段をのぼって部屋に入った。


 俺と小都音(ことね)はいつものように隠しカメラやマイクがないか、機械的なものから魔術的なものまでひととおり確認し終えたあとで、本題に入る。


 テーブルの上に島と中世都市の地図を広げる。


 さて、島の旧市街の中世都市には、切り出した石で造られた建物が立ち並ぶ。

 城塞は宮廷のような城とは異なり防御構造を取っている。

 特に島の城塞は海からの侵略に対する造りになっている。


「ボートで海から入り込む方が難しいな。海岸線沿いの城壁の広さと高さ、見張り台も多い」


「むしろすでにこの島に入れていますからね。陸地から城門をくぐる方が容易いでしょう。観光客に紛れてまずは中世都市に入ってしまいましょう」


「ああ。だが、そもそもどこに水晶があるかだな。目星は?」


「今はまだなんとも。物理的にだけでなく魔術的にも堅牢ですから。私では外から中のことは読み取れません」


「そうか……」


 それなら俺の魔術でも困難だろう。

 だが中に入ってしまえば別かもしれない。


「まずは都市に入ってそこからは貴方の探索のルーンでダウジングしていきましょう」


「簡単に門をくぐらせてくれるかな」


「どうでしょう。歓迎して下さっていれば、ですね。ただ白昼堂々とは来ないでしょう。まだ日は高いですし、これから行ってみましょうか?」


 小都音(ことね)が立ち上がり、部屋の隅に置いていたスーツケースを手に取り床に広げた。


 入っているものは衣類や薬などの日用品……そして、それらを退かして二重底の板を外すと。


「これは……」


「覚えていらっしゃいますか? あなたのですよ」


 鉄製のガントレット――ヤールングレイプル――が納められていた。


 1度目の転生を終えたあとに手にした舶来品だ。

 古く傷も目立つが、良く磨かれている。

 手に取った際にその重さが懐かしかった。


 右手にはめて(こぶし)を開け閉めすると鉄の擦れる音がする。

 不思議としっくりくる。

 使い方も……大丈夫、覚えている。


「久しぶりだな、相棒」


 数世紀振りに再開した己の武器にそう言った。




***




 観光客の喧騒の中、中世都市の入り口を目指し俺たちは石畳(いしだたみ)の上を歩く。

 都市丸ごと要塞として(そび)え立つ城塞の門を見上げる。


「残念ながら、表立って正面突破というのは不可能なようですね。歴史が教えるところによれば多民族や帝国からの侵略を2世紀に渡って退けたそうです。……鉄壁ですね」


 門の入り口の何もない空中に手を伸ばす。

 ぴりっ、という電気の走るような感覚。

 さらに手をそっと押し付けると、ジジジっという感覚と反発する力を感じる。


「結界か……」


 観光客は自由に外と内とを行き来できるらしい。

 魔力を持った者のみを排除するのだろうか。


「どこか忍び込める場所は……」


 目にはそこかしこと張り巡らされた結界が映っている。

 術式は不明。歴史から考えて3つの神話を重ね合わせた複合術式なのだろう。

 忍び込むのは無理か……。


「門の上にあるあれ、あの紋章。魔女払いに似た……」


「あれがある限り、俺たちは観光客に紛れて中に入ることもできそうにないな」


 なるほど。あれを破壊する術はあるが、白昼堂々やるわけにもいかない。


 まるで俺たちに入ってくるなと言わんばかりに、時折、門の内から外へと強い風が吹く。

 ホテルに戻り、観光客が海辺で群青色の海に映る月と星とを楽しみながら(うたげ)に花を咲かせる夜を待つとしよう。




***



 

 夜が来るまで時間はたくさんある。

 ソファに座り、シャワーを浴びに行った小都音(ことね)を待つ。


 さて、どう攻めようか。


 魔女払いを破壊し、内部をサーチ。

 普通に考えて、重要なものは外から最も遠い城塞の中央にあると予想できる。

 

 小都音(ことね)は刀を使った極近接戦闘型だ。

 それに対して俺はルーンを使った近距離戦闘向きだ。


 相手が何を使ってくるかは不明だがこれまでのことを振り返ると銃と魔弾による遠距離攻撃があることは間違いない。

 

 城塞は元は騎士団のものだ。

 それなら西洋の剣も考えられる。


 それならば近距離攻撃もあるだろう。


 剣と刀……小都音(ことね)に任せて問題ないとは思うが不安もよぎる。




 頬を伝った汗が手に落ちる。


 思えば、からっとした空気ではあるが、ホテルの部屋の中も暑い。


 エアコンのスイッチを入れようとテーブルの上のリモコンに手を伸ばす。


「おまたせしました……」


 色っぽい声。


 影に覆われたかと思った途端、小都音(ことね)が前からかぶさってきた。


 俺を映す大きな目、黒い瞳、はらりと垂れる黒髪、吸い付くような白い肌、どれもが魅惑の塊だ。


 白の中の桃色が誘うように扉をひらく。

 吸い寄せられるように唇を重ねる。

 たわわの果実に手を伸ばす……。

 体をずらしてソファに横になる。


 愉しもう、夜が来るまで。



 


 

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