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最愛のパートナー 死者と生者の記憶を巡る旅  作者: はせ
第1章 名も知らないパートナー
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紛い物

紛い物



 今の日本で追われる側を身を隠すために好都合な場所というのは限られている。


 一時的に顔を変えエントランスで鍵を受け取りレジャーホテルの一室で腰を落ちつけた。




 さっそく宝石を取り出し覗き込む。

 しかし、取り返した宝石は偽物だった。

 知識のルーンが見せた宝石の記憶は以前と全く異なっていた。




「やられました……」


 これは月代(つきしろ)の未来予知が外れたということをも意味している。



 外れる?

 月代の予知が?

 ありえない。



 何度かの仕事の中でも月代がタロットを使った未来予知で失敗したことなんて見たことがない。


 まして、生前の記憶の中のこいつはその力で俺たちを導いたんだ。


 もしも――もしも、月代がもう名前も忘れてしまったあいつならの話だが。



 他の可能性を考える。


「そうだな。例えば、あのバンに乗っていた奴らの別の奴が本物を持っていた、というのはどうだ?」


 口唇に指を当てるようにして考える。


「その可能性はありますね。ですが、不思議です」


 真剣な眼差しでこちらを見る。


「普通、そんなこと(、、、、、)しないですよね。もしも本物と偽物を用意したのなら、二手に別れて別々に逃げるのがセオリー。どちらも同じバンで運んでは意味がありません」


「それは、確かにそうなるが、バンから降りた後に二手に分かれるつもりだったということもありえる」


 それでも普通は初めから二手に分かれると思うが。


 そのバンを襲われたら、結局2つとも一緒に失ってしまう。


 初めから二手に別れて逃げれば、どちらかが襲われても2分の1の確率で本物を持ち帰ることができる。


「まさか、私の力を知っている?」


「どういう意味だ?」


「いえ。もしも、私の未来予知が百発百中であることを知っているのならですよ。私たちが本物の方を間違いなく追うことができることを相手が知っているのなら。二手に別れても意味がない……という結論が得られます」


「つまり、それなら同じバンで本物と偽物、2つの宝石を運び、襲われても奪われる確率は2分の1。ということか」


 襲われる確率は100%だが、奪われる確率は50%という計算になる。


「ええ。ですがそうなると」


「情報が漏れている?」


 月代が頷いて返す。


「恐らく、本物はあのバンの中の死体が持っているのでしょう。すでに回収されたと思いますが……」


 なるほど、運が悪かったか。 


 月代(つきしろ)も誰が本物の宝石を持っているかまでは予知しなかったのだろう。


「情報が漏れていると考えるとホテルでの襲撃も納得がいく」


「ですね」


 着いてその日の内に襲撃。


 扉の結界がきれいに解体されていたのも使う魔法の術式を知っていればこそだ。


「そうなると、やりにくくもなるし、リスクも増える。どうだ、この(けん)手を引くってのは?」


「いえ、それはダメです」


 即答された。


 月代が首を小さく横に振る。


「どうして?」


「あれは……、絶対に、必要なんです」


 その口調に哀愁の響きを感じた。


 細い腕が腰にまわる。

 胸に体温が伝わってくる。




 どうしたっていうんだ。

 なにかが引っ掛る。




 俺は、今はただ、あいつに似る月代(こいつ)を、いとおしく思えばいいのだろうか……。




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