桃源郷
通路を走る。
背後が騒がしい。
追手が迫っているのだ。
「桃源郷って、つまり大麻畑かなにかのことですよね、きっと」
「まあ、それが一番可能性があるが……」
桃源郷は4世紀のトウエンメイの作品が元ネタだ。
それがフィクションなのか、ノンフィクションなのかは昔のことで不明となっている。
確か何百年も前、一度目の死を経験する前に、何かの巻物で読んだことがあったような気がする。
小都音が兵隊から聞き出した「桃源郷」なるものは、本物の桃源郷なのか、それとも単なる比喩なのかはわからない。
この道は桃源郷に続くらしいが、そもそもこの施設はなんなんだ。
随分と奥に来た。
この手の施設は通常、監視カメラや赤外線探知機が設置されている。
けれど、そういったものが見当たらない。
魔術に頼っているのか?
また扉だーー悪魔の絵が彫られている。
写真の老人や刀の男の手の甲にあった入れ墨と同じデザインだ。
「この図柄、やっぱりどこかで見た気がするが……」
「そうなんですか?」
「なんだったかな……」
「答えは、きっとこの中にありますよ。この扉に魔術はかかっています?」
「ああ。どいてろ。引き剥がす」
右手のガントレットで扉の魔術に手をかける。
いつものように引き剥がしてその機能を止めてさえしまえば迎撃用だろうと結界だろうと障害にならない。
いつもの要領で魔術を引き剥がし、重たい扉を押し開ける。
目を見開く。
眼前に、緑豊かな木々と色鮮やかな花々が広がり、暖かな太陽の日差しが降り注いだのだ。
「理靖、ここに別荘を建てましょう」
小都音が目を輝かせて馬鹿なことをつぶやいた。




