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鉛弾

 氷漬けの男の首から流れる血は空気に触れることなく、酸素不足の色のまま、じわじわと氷をどす黒く染めていく。


「うーん。ここから先、姿は隠せないようですね。場にそういう魔術が施されているようです。気付きました? この模様」


 言われて壁に手を当て指を滑らせると、複雑な模様や文字が彫られていることに気づいた。

 オレンジ色の電球の光では、岩肌の色と近く、薄く掘られたこの模様や文字を見つけることは難しい。


「こういうのがあるのか。けど、この手の魔術だと俺らだけでなく相手にも同じ条件だ、あくまで予想だが。まあいい。さっき、蛇の使い魔を通して、誰かと連絡を取っていた。どうせ、俺達のことはもう知れ渡っているさ」


 いやあああ!


 背後の十字路で女の悲鳴が響く。

 血だらけの刀の男を見た誰かが、悲鳴を上げたのだろう。


「これで完全に騒ぎになりましたね。隠れても仕方ないですし、この先は堂々と行きましょうか」


 小都音は楽しそうに笑みを浮かべ、扉に手をかける。

 

「待て待て、いいから後ろにいろ。俺のほうが死ににくいんだから」

「そう?」

「そうだろ」


 現世の俺は半分死んでいるようなものだから、ちゃんと生きている小都音より死に対しては強い。


 小都音を後ろに促し、俺は扉を押した。

 十字架とか成仏的なものを抜かしてだが。


「来たぞ! 撃て撃て撃て! ここで食い止めろ!」


 扉を半分ほど開けたところで、怒声と銃弾が飛んできて、腹とこめかみに銃弾を食らう。


 いきなりか!


 通路の先は十字路になっていて、その陰に隠れた十人くらいのアサルトライフルを構えた奴らが薬莢を撒き散らしながら乱射してくる。


「魔術の次はまた銃かよ! 小都音、入ってくるな!」


 小都音もすぐに陰に隠れる。


「大丈夫ですか? 弾は銀?」

「いや問題ない。鉛だ」


 体に食らった銃弾は普通の鉛玉だ。

 死者は銀に弱いのだ。


 だが、体はぐちゃぐちゃになっていくが、成仏しそうになる感覚はない。


 銃声が止む。

 すでに耳が落ちているので実際に銃声が聞こえるわけではないが、新しく体に銃弾が入ってくる感覚はなくなった。


「大丈夫ですか?」


 大丈夫だ、と念話で返す。


「原型とどめてます?」

「原型は……いや、まあ、待っていろ」


 体の何が無事なのかを確認してみると、右手だけは生き残っていた。

 着けていたガントレットで守られていたのだ。


 敵の人数は多いが、片手が残っていれば十分だ。

 いっぺんに片付けるには、さっきと同じ霧雨と氷結の組み合わせがいい。

 右手で2つのルーンを発動させる。


 目をやられているせいで、どうなっているのか把握できないが、少しずつ体が再生し、耳が再生したあたりで、低い悲鳴やうめき声が聞こえてきた。

 それも次第に聞こえなくなる。

 肌寒い空気だけが漂っている。

 

「終わりました? 入りますよ。理靖、ああ、ぐちゃぐちゃ。目、見えてませんよね? 一応、説明しますと、みんなちゃんとシャーベットになってますよ」


 そうか、よかった。

 とりあえずは片付いたようだ。


 まったく……さっきの奴らのほうがまだマシだ。

 下手な魔術よりも、銃による一斉射撃のほうが、確かに魔術師相手には効果的だ。

 俺でなかったら本当に死んでいる。

 

 ぐちゃぐちゃになった体を30分ほど時間をかけて再生させる。

 再生させると言っても、勝手に修復されていくだけなのだが。


 再生している間、小都音は辺りを探っていた。

 口や肺が再生したところで、小都音との会話を念話から口頭に切り替える。


「この先、3つの道に枝分かれしていました。どうしたら良いと思います?」


「敵に聞くのが一番だか俺が凍らせた奴らの中に、まだ魂が抜けていないのはいないか調べてくれ」


「はい。あ、ひとつ、お借りしますね」


 俺のポケットをまさぐり、ルーンを刻んだ小石を取り出す。


「あ、この人、まだ死にきっていない。彼に聞きましょう」


 持っていったのは情報を読み取る類のルーンだ。

 それを使い、相手の脳内の情報を読み取る。

 通常の状態の人間では難しいが、眠っていたり、死にかけていたりすれば、意外と簡単に頭の中を探れるのだ。


「ふむふむ。右と正面の通路は関係なし……。

 左に進むと桃源郷?

 それはなんですか?

 あらダンマリ?

 私の刀は魂だって斬れるんですよ?

 あら、怯えちゃって。

 あなたもあまり詳しくないんですね。

 そういえば、魔術師じゃなければ化学者でもないですものね。

 ああ、ただの兵隊なんですね。

 でもありがとう、教えてくれて」


 優しさのか怖いのかどっちつかずの言葉を織り交ぜながら情報を抜き出している。


「あまり恐喝するなよ。俺達が悪党みたいだろ」


「でもいくつか聞き出せましたよ」


 小都音が振り返る。


「あ、ほとんど治りましたね」


「ああ。少し時間がかかったが。銃弾で服がぼろぼろだ」


 血肉を細かく刻まれたせいでいつも以上に再生に時間がかかってしまったが、肉体の方は完全に元に戻った。

 たまに疑問に思うが、俺の体はいったいどういう仕組みで動いているんだか。

 

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