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最愛のパートナー 死者と生者の記憶を巡る旅  作者: はせ
第1章 名も知らないパートナー
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チャリオット

チャリオット



「検問を突破された! A高速道路に入った」


 無線から響く。


 場所は近い。

 きっと月代(つきしろ)には未来予知で分かっていたのだろう。


「捕まってください」


 いい終わる前に急カーブ。

 ごんっ、と(したた)かに頭をぶつけた。


 ヘッドレスト強くつかまる。

 インターに入り、高速道路にのる。


「ここからは信号も何もありません。いきますよ!」


「いくって、何する気だ!?」


 すでにメーターを振り切って200km/hを超えている。

 月代が人差し指と中指に挟んだカードを見せる。


チャリット(戦車のタロット)?」


「魔術の重ね掛け、やりますよ」


「お、おう」


 意味を汲み取り(エオー)のルーンを車体に刻んだ。




 お互い愛馬と共に戦乱を駆け抜けた記憶が頭をよぎる。


 懐かしさに血が騒ぐ。




***




 前を走っていたパトカーの赤色灯が高速に過ぎ去っていく。

 体にかかるGが半端じゃない。


「ナンバー、* **―**。あれだな」


 100メートル先に黒のバンを捉える。


「どうする?」


「体当たりします」


「なに!?」


 どんどんバンに近づいていく。


 90メートル。


 バンの天井から2人の男が顔を出す。

 手に何か持っている。


 あれは……魔術杖。


「気をつけろ、来るぞ」


「ええ。任せて下さい」


 80メートル。


 チカッ、と小さな複数の光り。


「来る、避けろ!」


「言われなくても」


 急ハンドルを切りすぐに戻す。

 タイヤが鋭く鳴く。


 右サイドミラーが弾け飛んだ。


「あぶなっ」


 サイドミラーの高さはもちろん頭部と同じ高さだ。


 あの威力ならフロントガラスを突き破る。


 70、60、50メートル。


 バンとの距離が縮む。

 距離が近付くにつれ、魔弾が撃ち出される間隔も短くなっていく。

 車の前半分はズタズタだ。


「ち、これ以上は近付かせてくれませんね」


「だな。障壁は軽々破ってくるし」


「仕方ありません」


 そう言った月代(つきしろ)は、いきなり刀を抜いてすでにヒビだらけのフロントガラスを切り取った。


「ハンドル、任せます」


「え!? って、ちょっ」


 月代がボンネットの上に立つ。


 うそだろ! ハンドル!


「時速何キロだと思ってんだ!」


 計測不能だ、ばかやろう!


 ハンドルに手を伸ばして急いで後部座席から運転席に身を滑らせる。


「私が弾きます。真っ直ぐ突っ込んでください」


 撃ってくる(、、、、、)魔法は全部(、、、、、)刀で斬る伏せる(、、、、、、、)から安心して(、、、、、)突っ込めってか(、、、、、、、)


 本当、こいつといるとスリリングだ。


「了解」


 魔術で加速しているバン目がけてアクセルを踏む。


 40、30、20メートル。


 居合抜きの姿勢から、縦横無尽に刀が走る。


 炎、氷、電撃なんでもかんでもあますことなく斬っていく。


「なんなんだ、あの女!」


 迫るバンから苛立たし気な怒鳴り声。


 10、0メートル。


 ドン、とバンに衝突。


 衝撃でバンの天井から体を出していた男達が車外に放り出される。


 ごろごろと転がりながら後ろに遠ざかる。


 あれは肉の(かたまり)確定、だな。


 こっちの女はぶつかる直前にバンの天井に飛び乗った。

 天井から中に入るのが見えた。


 ハンドルを操作し、バンの横に車をつける。


 覗いてみるが、バンの窓は内側からどす黒い赤に染まってよく見えない。


 運転席の男と目があった。


 恐怖に引きつった顔。

 異色の瞳。

 彫りの深い目。

 日本人ではない。

 欧州の人間だと直観的に悟った。


 俺は指をピストルの形にして、弾く用に手を動かして、氷結のルーンを打ち出した。


 バンの運転手は一瞬で氷づけ。

 バンの後ろ扉が開いて、中にいた月代が道路に飛び出す。

 この速度にもかかわらず、きれいに着地。

 靴底の鉄板が火花を散らす。

 一体、どういう身体能力をしているのだろうか。


 ハンドルを操作する運転手がいなくなったバンは、横転して縁石に乗り上げてそのまま下に落ちていった。


 ドォオン


 爆発音が響く。

 黒い煙とオレンジの炎があがる。


 俺はパトカーを止めて外に出た。

 

 月代が歩いてくる。

 何かを持った右手を上に掲げる。


 あれは……あの紫の宝石だな。


 月代の方へ歩もうとして、


「忘れてた」


 降りたパトカーに振り返る。


 車内カメラやレコーダが色々付いてることだろう。


 パトカーを松明(たいまつ)のルーンで燃やしてから、俺は月代の方へと向かっていった。


「おつかれさま」


「ええ。なんとか取り返せましたね」


 腰に手を回されて、視線を落とす。

 目を閉じた凛とした顔がそこにある。


 背伸びして近付くくちびるに、軽いキスを交す。


「さあ、早くここから逃げましょう」


「ああ、そうするか」


 遠くに聞こえていたヘリの音が近づいてくる。


 俺たちは不可視の魔術を施してその場を(あと)にした。



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