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潜入

 日が沈むのを待ち、航空写真に写っていた場所まで移動した。


 暗がりの中、俺たちは不可視の魔術を自らにかけ、アサルトライフルを肩にかけた見張りの男たちの傍らを歩く。

 俺の死者としての特性と不可視の魔術の相性は抜群で、いかに高度な魔術師でも簡単には見破ることはできない。

 ただ、小都音は違う。

 通常の不可視だけのため、探知の魔術を使われたら一発で存在を知覚されてしまう。


 そんな状況の中、銃を持つ見張りのど真ん中を闊歩する。

 リスキーではあるが誰も気づかない。

 相手が魔術師ではない以上、警戒の必要はないのだが、それでも一応は警戒しながらどんどん進み、緑の剥げた岩肌の奥にある入り口を目指す。

 

「魔術師さん、ここにはいないようですね」

「ちょっと声、抑えろ」

「大丈夫、大丈夫〜」


 しかし、そばにいた二人の厳つい顔の見張りが小都音の声に反応した。


「おい、何か言ったか?」

「いや?」


 二人の兵士が辺りを見渡す。

 

「やば」


 小都音を制止し歩を止める。

 見えなかろうか、適当にアサルトライフルをぶっ放されたら危険だ。


「気のせいか、女の声がした気がしたんだが」

「女? ははは、お前、中から出てきたばかりだったか? まだ抜けきってないんだろ。幻聴だ、幻聴」

「ふん。そうかもな」


 中?

 幻聴……麻薬のことか?


 掴んだままの小都音の手を引き、先を促す。


「なんだか、ありそうですね」


 ボリュームを抑えた小都音の言葉に俺は静かに頷いた。


 航空写真に写っていた入り口があるとおぼしき、岩肌がむき出しの崖の麓の影になっているところに辿り着く。

 しかし、あると予想していた入り口、扉や大きな洞穴、は見当たらない。


「っていっても、写真から推測するにこの辺に入り口があるはずなんだが」

「隠しているのでしょう、きっと。ヒラケゴマ、みたいな? うーん。イフタフヤ〜シムシム〜」

「なんだ、それ?」

「アラビア語ですね。遊んでないでさっさと見つけましょう。理靖、よろしく」


 遊んでるのお前だよな?


 右手にはめていたガントレットで扉がありそうな場所を探る。

 この鉄製のガントレット――ヤールングレイプルーーは、北欧の伝承の通り魔術そのものを鷲掴みにする。


 ガントレットを通して、すぐに魔術を捉える感触を感じた。

 ビンゴだ。


「あった。取り払った途端に何が起こるかわからないから注意しろよ」

「はい。私の合図でお願いします。扉が現れるのでしょうから、侵入したと同時に扉を隠している魔術を元のとおりに戻してください。皆がこちらから目を離したタイミングで合図します」

「了解」


 魔術の除去、侵入、復元、これを瞬時におこなえば外の連中にはバレずに侵入できる。

 懸念事項としては、扉の中にいるであろう見張りがこちらに目を向けていることだが、そのときは俺たちに反応する前に氷結のルーンで凍らせてしまおう。


 頭の中であらゆる可能性をシミュレーションしながら、小都音の合図を待つ。


「今」


 合図と同時に魔術を崩さずに引き剥がす。


 案の定、扉が現れた。

 錆びた鉄製の取っ手を引き、人一人分の隙間だけ開ける。

 自分が先に中に入り、左右を見渡す。

 予想通り見張りがいた。


 見張りは訝しんだ表情を浮かべている。


 それはそうだろう。

 アサルトライフルを肩にかけたこの男は、恐らく術者ではない。

 つまり不可視状態の俺達の姿は見えていない。


 ただ、僅かにだが一人でに扉が開いたのだ。


 その見張りに、左手に持った氷結のルーンを刻んだ小石を指で弾き当てる。

 見張りは訝しんだ顔のまま凍りつく。

 その間に小都音も中に入る。

 右手だけ外に出して掴んだままでいた隠蔽の術式を元あったとおりに戻し、扉を閉める。


 凍った見張りはそのままにしておくには明らかに不自然な表情と格好になっていた。


 小都音は、開いた口を無理やり閉ざさせ、見開いた目をなんとか真面目そうに見えるようにした。

 格好も同じように無理やり直す。

 

「とりあえず、様にはなっています?」

「ああ。しばらくバレなければ十分だ」


 近くで見たら、彼の顔の異様さや体温の冷たさに気づかない訳がない。

 だが、幸いなことに、扉の近くには人はいなく、開けた空間の奥の方に数人いる程度で誰も気づくことはなかった。


 扉の内側は、外と同じ茶色の岩肌でできていた。

 かなりの広さがある。

 人工的に掘って造られたのだろう。

 天井を支える柱の代わりとして、等間隔に地面と天井とを元あった岩が残されている。


 俺たちは、入り口から近い手前の柱の一つに、奥の見張りの視界から隠れるように身を潜めた。

 

「誰も俺たちの姿は見えていなさそうだな」

「ですね。でも一応注意して、先に進みましょう」

「ああ。あいつらの持つアサルトライフルの弾速だと銃声が聞こえてからじゃ間に合わない。後ろは任せるぞ」

「はい」


 小都音が頷いて応える。


 ここへの侵入者はほとんど、もしくは全くいないのだろう。

 見張りの人数は見える範囲で4人だけだし、皆、警戒している様子はなく、アサルトライフルを肩からかけているだけだ。

 アサルトライフルを構える姿勢に入ってからでも、十分に対処できそうだ。

 

 部屋の奥に進むと、横幅2メートル程の細い通路が見えた。

 その通路は下り坂になっていて、遠くからでは陰になっているせいで、その存在に気付かなかった。

 下り坂の高さはだいたい建物の一階と同じくらいだと思う。


 もしかすると同じような通路があるかもしれない。

 そう思い、部屋全体を調べてみたが、通路は一つしかなかった。

 警戒したまま、その坂道を降りることにした。


「結構、大きな構造体になっているみたいだな。元々、鉱山だった場所を流用しているのかもしれない」

「そうですね。見張り役の兵隊の服装や銃の種類……、国軍からの横流しでしょうか?」

「って言っても、麻薬を売るくらいだ。国は関与していないだろう、表向きは」

「裏向きには、つながっているのかも」


 この細い通りには見張りがまったく居なく、周りをさほど気にせず雑談しながら進めた。

 坂道の下も特に見た目が変わることもなく、岩肌が剥き出しで、天井に等間隔に電球が吊るされており、オレンジ色に全体を照らしている。


 一つの分岐もない一本道をどんどん進んでいく。

 急なカーブがあり、そこを曲がったところの奥に扉が見えた。


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