写真
まだ日が落ち切らない頃に、ようやく目的地から数キロ離れた村に到着した。
徒歩になった所為で、無駄に時間がかかってしまった。
昨日とは打って変わって木造のボロい宿に部屋を取る。
寂れた寒村のため、他に宿泊できるようなところはなかったのだ。
飲み屋になっている一階には何人かの客がいたが、二階には俺たち以外の客はいないようだ。
「ボロいが手入れが行き届いている……なんてことはないか」
「なんだか雰囲気のあるお部屋ですね」
「雰囲気があるっていうのは、悪い意味でだよな?」
小都音はなぜか楽しげだ。
小都音の趣味趣向はよくわからないが、この部屋が不健康そうだということはわかる。
床や壁にはシミができていて縁にはカビのような白だったり黒だったりするものが生えている。
壁際の椅子を退かしてみると、床に穴まで開いていた。
「まあ、泊まるわけでもない。妥協するしかないな」
ここで夜を待ち、目的の施設に潜入するのだ。
まずは暖炉に火をつけ、その前に椅子を引き寄せて湿った服をかける。
朽ちそうな脚のテーブルを部屋の中央に移動させ、その上に地図を広げた。
「私達がいる場所がここ」
ペンで赤くマークをつける。
「で、山脈の麓、ここに入り口があるはず」
「間違いないか?」
「写真と一致してますから」
そう言って、モノクロの写真を3枚、地図の上の置く。
1枚は、航空写真。明確に入り口は写っていないが、剥き出しの岩肌の影になった場所に米粒ほどの大きさの人間の出入りが伺える。
何台かのジープも写っていた。
恐らく、奥まったところに出入りする穴があるのだろう。
2枚目は、その拡大写真。
最後の一枚は、秘密結社のリーダー。
今回のターゲットだ。
年のいった老人だ。
杖を握る手の甲には入れ墨が入っていた。
「近代的な兵器が目立つな。組織を潰すんなら俺達より軍を動かしたほうがいいんじゃないのか?」
「いえいえ。今ある情報だけですとそうなるんですけど、この中はシャングリラに繋がっているそうですよ」
「シャングリラ? それってヒマラヤ山脈の西にあるっていう桃源郷のことか? まったく方向が逆なんだが」
「魔術的に繋がっているとか。ワープするんです、きっと」
何か目が輝いている。
時折、暗くなる古い電球がそう錯覚させたのかもしれないが。
「いや、麻薬も絡んでいるんだろ?だったら何かの比喩だ。例えば、麻薬畑とか。そう考えるのが普通だ」
「ふふ、私たちに普通なんて言葉、似合いませんよ」
楽しそうに言う。
「それよりも、今回の仕事は銃器を相手にすることが多そうですね。どうします?」
「逆に言えば、あまり魔術に長けてはいなさそうだ。不可視の魔術を使えば中には簡単に侵入できる」
「そうですね。ただ、中の状況や造りはまったく不明。入ってから臨機応変に対応するしかないですね」
「だな。あとは列車で仕留め損ねたあの男。精通しているとはいえないが、魔術をかじっている」
攻撃にこそ刀を用いているが、防御や人払いなどには魔術を使っていた。
……そういえば、あの男の手の甲に彫られていたものと、写真の男の入れ墨は同じか……?
写真の方はそこまで鮮明ではないから、はっきりしないが。
なんだったかな。
このデザイン、昔どこかで見たことがあるような気がする。
まあ、今は考えても仕方ないか。
「魔術を使える敵が何人いるのか……。少ないといいのですけれど」
「そう願う。銃器が多いなら、飛び道具を使う俺の方が戦いやすい。小都音は守りを頼む」
「刀ですとリーチが短いですものね。多少、残念ですけど」
そういうと、小都音が俺の背にまわり込み、耳のそばに顔を近づけてくる。
「代わりに今は攻めさせて」
顔を向けると唇が重なり、舌が滑り込んできた。
思わず、小都音の頭を抱きしめると唇が離れ、俺の腕からするりと抜け出す。
そのまましゃがみ込み……。
俺は痺れるような感覚にただ身を任せた。




