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入れ墨

 ホテルで一泊した翌日の朝、俺たちはすぐに駅へと向かった。

 今は、麻薬の製錬所があるという地区へ列車で移動している最中だ。


 結局のところ、上海にいる以上、どこにいても敵地にほかならないのだ。

 出来る限り時間をかけずに目的を達成し、帰国すべきなのだ。



 地方に近づくに連れ、乗客はまばらになっていく。

 向かう先は人の少ない山奥であるためだろう。

 残っている乗客はカメラマン風の男くらいだ。


 ゴトンゴトンという規則的な音と振動が眠気を誘う。

 窓の外を見ても、木々しか見えない。


 それから何駅か過ぎた頃だった。


 小都音が座席の背もたれに顔を半分隠して辺りを伺う。


「理靖、人が消えました」

「何?」


 その言葉に俺は体を跳ねらせるように立ち上がった。

 辺りを見渡す。

 確かに人は少なかったが、それでも周りの座席に何人かはいた。

 だが今は一人もいない。


 よく見ると、扉で隔たれた前後の車両には人の姿が確認できた。

 皆、他の車両に移ったのか?

 なぜ?


 刹那、後ろの車両の扉が開く音がした。

 同時に背後からヒュンと空気を切り裂く風切り音。

 とっさに振り返る。

 銀色のナイフが矢のように飛んでくる。

 思わず、小都音の頭を押さえつけてその場に伏せる。

 ナイフが後ろの壁に突き立った。

 飛んできた後ろの車両の入り口に、黒いスーツを着た男が一人。

 手には長くて、反りの大きな刀が握られている。

 どことなく小都音の刀に似ていた。


「あら、私と同じ、平安の頃の刀ですね。骨董品? 模倣品? どちらにせよ趣味が合いそうです」


 刀を持つ手の甲には入れ墨が彫られていた。

 ドラゴンに似た猛獣に乗った悪魔の姿だ。

 悪魔の右手には毒蛇。

 あのデザイン、どこかで見たことがあるような気がする。


 男がゆっくりと口を開いた。


「これ以上、この先には進めさせるわけにはいかない」


 鋭い眼光で、刀を正眼に構える。


「我らの秘宝を盗んだ盗賊め、何度、邪魔をする気だ」


 怒りによるものなのか、刀を握る手が震えている。


 ……なんの話だ?

 盗んだといったか?

 過去形は? いや聞き間違いだろうか。


「なんだ、いきなり? この先に何かあるのか?」


 立ち上がり、俺は細く長い目の男を睨んだ。



 座席の背もたれから穴に入ったウサギのように顔を半分出し、小都音は男に顔を向けた。


「秘宝? よくわかりませんがあなた方の野望は打ち砕かさせていただきます。それともアヘンの二の舞いをご希望?」


 小都音は、適当に煽り、そして声を潜める。


「とりあえず、あの男はここで倒してしまいましょう。逃げられて向かう先に行かれると厄介かも」

「だな」


 目の前の敵に集中する。


 ルーンを刻んだ小石と拳銃の位置を確認する。

 拳銃を使った実践はこれが初めてだが、とりあえず、引き金を引けば脅しくらいにはなる。

 運が良ければそのまま倒れてくれるだろう。

 

「お手伝いしましょうか?」

「いや、いい」


 小都音の申し出を断り、一歩前に出る。


「ではおまかせします」


 小都音は座席に隠れたままだ。

 小都音が怪我を負うとは思えないが、なにが起こるかわからない。

 激しい運動も良くないらしいし、リスクは最小限に抑えたい。


 間合いを見ながら、男に問う。


「ところで情報が早いな。どうやって俺たちを見つけだしたんだ?」

「…………」


 答えはなかった。

 代わりに男は刀を妙な体勢に構える。

 獣のようなポーズだ。

 武術の型かなにかなのだろう。

 いずれにせよ、刀を用いるのなら、必ず間合いを詰めてくる。

 

 それなら、間合い詰めにきたところにカウンターを食らわせてやる。

 拳銃とルーンならリーチはこちらのほうが長い。


 来るタイミングを見計らう。


 列車がカーブに入ったところで、男が一足飛びにこちらの懐目掛けて飛び込んでくる。

 胴への薙ぎ払い、喰らえば真っ二つだ。

 右手で腰の拳銃を掴み、そのまま飛んでくる男目掛けて引き金を引く。

 オートマティックで全発、打ち出す。

 照準は合わせていない。

 一発くらい当たればラッキーだ。


 男は袖で顔と首を隠す。

 何発か男の体に当たる。

 だが男の勢いは止まらない。


「防弾?」


 左手の氷結のルーンを眼前に放る。

 男が刀を振る寸前、氷の壁ができ、軌道が逸れて、刀は氷を砕いただけで終わった。


 その間に拳銃を放して、もう片方の手に握ったルーンをコインのように指で弾き出す。

 男は先ほどと同じように袖で防ぐが、ルーンが触れたそばから左腕を袖ごと凍らせた。


「ぐ、ここは引くが、あのときの恨みは近いうちに晴らさせてもらう!」


 男は列車の窓ガラスを破って飛び降りた。


「恨み?」


 ぱちぱちと手を叩く音。


「さすが。でも逃げられちゃいましたね」

「ルーンの侵食が腕で止まっていた。普通なら全身を凍りつかせるのに」

「きっと、対抗魔術でも編み込んでいるんでしょうね」


 小都音が扉を確認する。


「この形式……陰陽? 人払いですね」

 

 割れた窓から強い風が入る


「とりあえず、別の車両に移ろう」

「ええ」


 その時だ。

 

 ガコと大きな音が目の前でしたかと思うと、隣の車両がみるみるうちに、遠ざかっていく。

 後ろを見ると、同じように小さくなっていった。


 ドォン!


 爆発音がして、自分たちのいる車両に火がついた。


「あの野郎!」


 爆弾を仕掛けていたのか!?


「理靖、飛び降りましょう。幸い下は川です!」

「くそ」

 

 さっきの男が割った窓から飛び降りる。


 その後、びしょ濡れのまま、徒歩で人里離れた町へと向かう羽目になった。


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